【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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12話 ハイレグの帰還

 森の空気が、さっきまでと違って感じられた。

 静けさというより、妙な気まずさでいっぱいだ。

 

 よりにもよって、この格好か……。

 アウラ特製ハイレグアーマー。

 改めて言葉にすると、余計に腹が立つ。

 

「……っ、あんた、どこ見てんのよ」

 

 横から、ティナの低い声が飛んだ。

 見ると、ヴァンがほとんど間合いゼロの距離まで近づいてきて、じっとこちらを見ていた。

 正確には、こちらというか──腰から下あたりを。

 

「お、おい! どこ見てるんだ!」

 

 思わず手で隠してしまう。

 

「いやいや、違う違う。誤解だよ」

 

 ヴァンは両手を軽く上げ、どこか楽しそうに笑った。

 

「俺はただ、鎧のデザインをじっくり確認してるだけでね。他意なんてないさ」

 

「どの口が言ってるのよ」

 

 ティナのこめかみがぴくぴくしている。

 その横で、カイトは顔を真っ赤にしながら、必死に上空だけを見ていた。鳥の巣でも探しているのかというレベルで、視線が空に固定されている。

 

(いや、そんなに見上げなくてもいいだろう……)

 

 心の中でツッコミを入れたところで、視界の端に、ヴァンの指先がぴくりと動いた。

 

「ほら、ここ」

 

 まるで工芸品でも鑑賞するような口調で、ヴァンが鎧の腰のあたりを指さす。

 

「この、腰骨のラインからヒップにかけてのカーブ。装甲がギリギリをトレースするように収まってるだろ? このほぼ丸出しなのに一応守ってます感──素晴らしいお尻……デザインじゃないか」

 

「やっぱ他意しかないじゃない」

 

 ティナの声が、さらに氷点下に近づく。

 

「それにこの髑髏の飾りもさ」

 

 ヴァンは肩にある、髑髏の肩当てを指でつつく仕草をして、ふっと口角を上げた。

 

「無駄に繊細な彫り込みで制作者の拘りが凄いし……この胸がこぼれそうなデザインも素晴らしい……視線のやり場に困る。えっちすぎんだろ、この意匠」

 

「困ってるのはこっちだ!!」

 

 思わず声が裏返った。

 

 顔が熱い。耳まで熱い。

 自分でも、今どれだけ赤くなっているのか想像したくないレベルだ。

 

(近い……近い……!)

 

 もと男だったとはいえ、こんな距離でじろじろ見られた経験はない。

 ティナが、ハイレグアーマーの脇にすべり込むように立ち、ヴァンと俺の間に割って入った。

 

「アンタ、じろじろ見すぎ。アウラが恥ずかしがってるの、分からないの?」

 

「ちゃんと分かってるから、控えめにしてるつもりなんだけど?」

 

「どこがよ!!」

 

 言い合いをしながらも、ヴァンはちっとも悪びれた様子がない。

 真面目な顔で言う分、余計にタチが悪かった。

 

「……とりあえず、ここで立ち話してても仕方ないだろ」

 

 俺はどうにか声を絞り出し、腰の剣をそっと撫でた。

 さっきまで勝手に抜けていたとは思えないほど、今は静かに鞘に収まっている。

 

「場所の確認も終わった。街に戻って、依頼の報告を済ませるべきだ」

 

「そうね。これ以上ここに居たって、アウラの精神が死ぬだけだわ」

 

 ティナがうんうんと頷く。

 俺は精神的な疲労でぐったりしながら、森の入口へと引き返し始めた。

 

 歩くたびに、ハイレグ部分が風を拾う。

 さっきまで「下着最高」と感動していた身体が、再び地獄に引き戻された気分だった。

 

(……この鎧、マジで一度燃やしたほうがいいんじゃないか)

 

 そんな物騒なことを考えながら、俺はひたすら地面だけを見つめて歩いた。

 

 街の輪郭が見えてくると、少しだけ安心する自分がいた。

 安全圏に近づいているという意味では、確かにそうなのだが──

 

 ……いや、今この格好で街に入る時点で安全圏じゃないな。

 むしろ精神的には戦場だ。

 

「ギルドまで一気に行くぞー」

 

 ヴァンが軽い調子で言う。

 その横顔には、妙にご機嫌な笑みが浮かんでいた。

 

「ねぇ、もしかして今ちょっと嬉しそうじゃない?」

 

 ティナが疑いの目を向ける。

 

「そんなことないさ。俺はいつだって真剣だよ」

 

「どこがよ。絶対楽しんでるでしょ」

 

「楽しんでるというより、感謝してるんだよ」

 

「……何に?」

 

「アウラのお尻にさ」

 

 爽やかな顔で言うことじゃない。

 森の魔物より、目の前のミスリル級のほうがよほど問題だと思えてきた。

 

 ギルドの扉を押した瞬間、空気が変わった。

 昨日よりも人は多い。

 昼近くで、依頼から戻ってきた冒険者や、これから出る者たちがごった返している。

 そのざわめきが──一瞬で静まった。

 

「……」

 

 視線。

 一斉に、こちらへ集まる視線。

 そして、遅れてざわざわと音が戻ってくる。

 

「おい、あれ……ヴァンクロウの隣にいるのって、例の子じゃね?」

「そうそう、あの鎧着てるじゃん。やっぱあれが良いよな」

「あれが噂の子……変態では」

「ヤッバ、何あの格好。見せつけてるってわけ?」

「やっぱエロいよなぁ、あの鎧……太ももに挟んでほしい」

「尻に挟まれて死にたい」

「俺は胸」

 

「うちのギルド、ちょっと品格って言葉を思い出したほうが良くない?」

 

 最後のはティナの小声だ。俺の耳には、やけにはっきり届いた。

 

(……帰りたい)

 

 こちらに来てから何度目か分からない「床と同化したい」願望が胸をよぎる。

 そんな中、カウンターの向こうでリーネがこちらに気づいた。

 

「アウラさ──」

 

 言いかけて、固まる。

 目が、明らかに泳いだ。

 

「アウラさん……あの……き、今日は……大胆ですね……」

 

 最後のほうは、ほとんど聞き取れないくらい小さな声だったが、しっかり届いた。

 

「……あぁ」

 

 絞り出すように答えるのがやっとだった。

 リーネは困ったように笑い、視線をさまよわせる。

 カウンター周りの冒険者たちも、好奇心と気まずさの入り混じった視線を向けてくる。

 

「とりあえず報告だけ済ませるぞ」

 

 俺はカウンターのほうへ歩いていく。

 なるべく早足で、なるべく周囲を見ないように。見たら負けだ。

 

「オーロックの森の入口付近まで行ってきた。キラーボアが出た場所もヴァンクロウに確認してもらった」

 

「は、はい。お疲れさまです!」

 

 リーネが慌てて書類を取り出す。

 

「ここにサインを……あ、いえ、今日は同行者のお名前も──」

 

「ああ、その辺りは俺がまとめておくよ」

 

 横から、ヴァンがひょいと顔を出した。

 

「調査地点の詳細や感じたことは、俺の報告書に書いてギルド長に出しておく。君たちにはキラーボアが出た場所を教えるって依頼だったろ? それはもう達成だ。後のことは任せておいてくれ」

 

「いいのか?」

 

「そのために呼ばれたんだしね」

 

 ヴァンは肩をすくめた。

 

「ロドリスの旦那にも俺から言っとく。アウラがエロい鎧を披露しましたって」

 

「その報告は不要だ」

 

「重要な情報だと思うけどなぁ」

 

 まっすぐな顔で言われると、余計に反論しづらい。

 この男、真面目なのかふざけてるのか本当に分からないな。

 

 リーネはカウンターの内側でおろおろしつつ、どうにか笑顔を作った。

 

「で、では……後の正式な報告はギルド側でまとめますので、アウラさんたちは一旦、お戻りになって大丈夫です。報酬の精算も、こちらで準備でき次第お知らせしますね」

 

「助かる」

 

 早くこの場を離れたい、という気持ちも相まって、俺はすぐに頷いた。

 

「じゃ、帰るか──」

 

 踵を返そうとしたそのとき、すぐ横に気配が寄る。

 

「……アウラ」

 

 ヴァンが、少しだけ声を落として囁いた。

 

「何だ」

 

「また今度さ、その鎧を着て一緒に依頼行こうぜ」

 

「行かない」

 

 反射で即答していた。

 ヴァンは肩を震わせて笑う。

 

「まぁまぁ、返事は今じゃなくていいさ。俺はいつでも歓迎だ。森でも街でも、エスコートするよ。君の、その──」

 

 視線が、また下のほうに落ちる。

 

「……大胆なお尻、嫌いじゃないからね」

 

「やっぱりアンタ変態でしょうが!!」

 

 ティナの怒号が、ギルド中に響き渡った。

 そのまま俺の腕を掴み、ぐいっと引っ張る。

 

「ほら、帰るわよアウラ! カイトも!」

 

「う、うんっ!」

 

 カイトが慌てて後ろにつく。

 背中で、ヴァンの笑い声と、周囲のひそひそ声が遠ざかっていく。

 

「……ほんっと、あの男、油断ならないわね」

 

 ギルドの扉を出てからも、ティナの怒りは冷めていなかった。

 

「鎧のデザインを見てるだけって、あんなに尻ガン見しといてよく言えるわよ」

 

 俺も同意しかなかった。

 あれを「純粋な観察」と言い張るのは、さすがに無理がある。

 

「でも、ヴァンさん、凄い人なんだよね……?」

 

 カイトが、複雑そうな顔で言う。

 

「それはそうよ。腕は確かだし、森のことも詳しいし、ギルドからの信頼だって厚いわ。でも女関係に関しては、あれね。信用しちゃだめ」

 

「……あれで普通なのか、ミスリル級だからアレなのか、判断に困るな」

 

 ため息が漏れる。

 

 街の喧騒が、さっきまでよりやけに眩しく見える。

 その中を、ハイレグアーマー姿で歩いている自分のほうがおかしいのは分かっているが、どうしようもない。

 

「このまま宿に戻る?」

 

 ティナがそう言ってから、ふと俺の身体を見る。

 昨日買ったばかりの服も下着も一切残っていない。

 今身についているのは、本当にこの鎧だけだ。

 

「……って思ったけど」

 

 ティナが額に手を当てる。

 

「その格好で宿に戻るのも、なかなかの度胸いるわよ。白鹿亭の男ども、全員鼻血出しそうだわ」

 

「出させたくてやってるわけじゃないんだが……」

 

「分かってるわよ。だからこそ言ってるの。服よ、服。さっきの一件で、昨日買った服も下着も一式やられたんでしょ?」

 

「……ああ」

 

 ハイレグによって消し飛んだ光景が、また脳裏をよぎる。

 店員の笑顔も一緒に蘇ってきて、胸が痛くなった。

 

「というわけで」

 

 ティナが俺の肩をぽん、と叩いた。

 

「このまま服屋に直行。昼前で時間もあるし、どうせならさっさと補充しちゃいましょ」

 

「またか」

 

「またじゃなくて当然よ。冒険者として活動するなら、替えの服と下着は何枚あっても困らないんだから」

 

 理屈としては正しい。

 財布事情を考えると頭が痛くなるが、このままハイレグ一択生活を続ける未来のほうが、よほど悪夢だ。

 

「分かった」

 

 俺は小さく頷いた。

 

「ティナ、頼めるか」

「任せなさい」

 

 若干不安を覚えつつも、ティナの後について歩き出す。

 横でカイトが、おそるおそる口を開いた。

 

「えっと……僕も、一緒に行ったほうがいいですか?」

「アンタは来なくていい」

 

 ティナがピシャリと言い放つ。

 カイトは「あ、だよね」としょんぼり肩を落とす。

 

「カイトは先に宿に戻ってて。女の買い物は長いわよ?」

 

「……分かったよ。じゃあ、白鹿亭で待ってるね!」

 

 そう言って駆け出していく背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。

 

(……ハイレグからは、まだ逃げられそうにないな)

 

 腰の鎧が、何事もなかったかのように陽光を反射している。

 

「……お願いだから、次は服を犠牲にしない方向で頑張ってくれ」

 

 誰にともなくそう呟きながら、俺はティナと並んで、昨日も訪れた服飾店のある通りへと歩いていった。

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