【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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13話 ふたりの分析会議

 ギルド二階の最奥。

 厚い木の扉の向こうで、ペンの走る音と紙をめくる気配がしていた。

 そこへ、軽いノックもそこそこに、がちゃりと扉が開く。

 

「よっ、ロドリスの旦那。帰ったぜ」

 

 銀髪の男が、片手を挙げながら入ってきた。

 黒の軽鎧に冒険者用のブーツ。腰には使い込まれた剣が一振り。

 

 森渡りのヴァン──ミスリル級冒険者、ヴァンクロウである。

 

「どうだった?」

 

 机の向こうで書類に目を通していたギルド長のロドリスが顔を上げた。

 その問いに、ヴァンはにやりと笑って即答した。

 

「アウラ、やっぱりめちゃくちゃ可愛い。いちゃいちゃしたい」

 

「そうじゃない!!」

 

 机が小さく鳴るほどの勢いでツッコミが飛ぶ。

 

「森の様子と、アウラという娘の力についてだ!」

 

「ああ、そっちね」

 

 ヴァンは肩をすくめ、応接用のソファにどさりと腰を下ろした。

 軽口の色は残したままだが、その瞳は先ほどより幾分か真面目になる。

 

「まず森から聞こう。キラーボアの件だ」

 

 ヴァンは片手で後頭部をぽりぽりかきながらも、簡潔に話し始めた。

 

「キラーボアが出た場所は、彼女たちの報告どおり。オーロックの森の入口から、ほんの少し入った所だ。角を叩きつけた跡も残ってた」

 

「入口付近まで……やはり本当だったか」

 

 ロドリスの眉が、わずかに寄る。

 

「本来なら、あいつらは中層より奥。入口までは来ない。来るとしたら──」

 

「何かに追われてるか、棲み処を追い出されたか、だろ?」

 

 ヴァンが言葉を継いだ。

 

「入口でうろつき続けてた様子はなさそうだった。森の奥で何かが動いてる可能性は高いな」

 

「後日の調査隊には、そちらの方角を重点的に調べさせよう」

 

「あぁ、俺も一緒に行くんだ。任せてくれよ」

 

 そこまで言ってから、ヴァンは足を組み直し、少しだけ表情を変えた。

 

「で──本命のほうだろ? アウラと、あの装備の話」

 

 ロドリスは小さく頷く。

 

「森の件も重要だが、本命はそちらだ。彼女と、その装備の調査。引き受けてくれた以上、聞かせてもらおう」

 

「了解。じゃ、順番に」

 

 ヴァンは指を一本立てた。

 

「まず剣だが、ありゃ間違いなく魔剣だ。それも、そこら辺に転がってる程度の代物じゃない」

 

「ただの魔剣ではない、ということか」

 

「ああ」

 

 さっきまでの軽さが嘘のように、声が低く落ちる。

 

「アウラがあの剣でスライムを斬った時、スライムから黒い煙のような物が吹き出て、そのまま霧みたいに消えた。普通なら、粘液なり核なりが残るものだ。それが、跡形も無しだ」

 

 ヴァンの目が細くなる。

 

「それにキラーボアの切断面、鏡みたいに綺麗だったらしいな」

 

「あぁ、そうだ」

 

「普通なら、肉も骨ももっと荒れる。かなり大きな個体だったらしいから、魔力の装甲だって大したもんだろう。俺の魔剣だってそんなに綺麗には斬れない」

 

 ヴァンは顎に手をやり、言葉を選ぶように続けた。

 

「剣が、獲物の魔力を喰ってる……。あるいは、根こそぎ壊してるんじゃないか」

 

「魔力殺しか」

 

「スライムは身体を構成する魔力が無くなれば消滅する。普通は倒したって魔力は残ってるから死骸は残る。だがそれすらも残らないってことは……」

 

 ロドリスは腕を組み、机に肘をついた。

 

「その剣は、魔力をどうにかする性質を持っている可能性が高い、ということか」

 

「俺の勘じゃ、それだけじゃ済まない。……底が見えないんだよ、あの刀身」

 

「……厄介なものを持ってきたものだな、彼女は」

 

 ロドリスが低く呟く。

 

「次に鎧だ」

 

 ヴァンの口調が、さらに真面目になる。

 

「あれもただの鎧じゃない。スライムがアウラに飛びかかった時、アウラの身体が光って、次の瞬間には着ていた服が四散して鎧が装着されてた。自動発動型の魔導具で、ほぼ間違いない」

 

「魔物に反応する魔導防具か?」

 

「そこまではまだ分からんが、危険時に自動で装備者を守るタイプだろう」

 

 ヴァンは、鎧の細部を思い返すように視線を落とした。

 

「造りも尋常じゃない。金属部分は、見たことのない金属だ。軽く叩いただけで、質の良さだけは分かる。他のパーツもこっちの国で一般流通してる素材じゃないと思う。見たことがない」

 

「……国外の品か」

 

「それも、ただの輸入品じゃないぜ」

 

 ヴァンは指を二本、ぴんと立てる。

 

「剣と鎧、髑髏の意匠がほぼ一緒だ。彫り込みも、金属の磨き方も、感触も。同じ職人が作ったセットって感じだな」

 

「セット装備、か」

 

「多分な。しかも、アウラにぴったり合ってる。肩幅も、腰のラインも、胸当ての形も、身体を測って作ったとしか思えない」

 

 ロドリスの目が細くなる。

 

「最初から、彼女専用として作られた可能性が高いわけだ」

 

「もしくは、持ち主の体に合わせて形を変える自己調整型の魔導具か、そのどっちかだ」

 

 ヴァンは小さく息を吐いた。

 

「どっちにしろ、金持ちの道楽で作れる範囲の物じゃない。素材も加工も、明らかに高位の魔導技術が入ってる。こっちの王都でも、そうそうお目にかかれないレベルだろうな」

 

「……ギルドとしては、やはり無視できんな」

 

 ロドリスは、机の端に置いてあった報告書を指先で叩いた。

 

「剣も鎧も、出所不明の高級品というわけだ。盗品や、他国のやっかい事でないといいが」

 

「少なくとも、盗品っぽくはなかったな」

 

 ヴァンは首を振る。

 

「あの子の扱い方が、自分の物って感じだった。剣にも鎧にも、変な後ろめたさが見えない。ただ、使いこなしてるとも言い難いけどな」

 

 そこまで話してから、ロドリスは話題を変える。

 

「装備は分かった。本人のほうは、どう見た?」

 

 その問いに、ヴァンは一瞬だけ黙り、ふぅと息を吐いた。

 

「……まず、一般市民じゃねぇな」

 

「やはりか」

 

「理由はいくつかある」

 

 ヴァンは指を折っていく。

 

「まず、瞳の色。この辺りの人間では見ない色だ。日焼けも全然してないし、傷も無い。剣士や冒険者なら、多少なりとも小傷は残るもんだが……あの子の身体は、妙に綺麗すぎる」

 

 ロドリスは無言で聞いている。

 

「爪の形や指先も、鍬やロープを日常的に握ってきた人間のそれじゃない。……育ちがいい。相当にな」

 

「……貴族か、それ以上か」

 

「その線が濃いと思うぜ」

 

 ヴァンは続ける。

 

「顔立ちは言うまでもない。あれは飛び抜けてるってレベルだ。街へ出りゃ美男美女なんていくらでもいるが、あそこまで整ってるのは、俺でもそうそう見ない」

 

「美貌と、手入れされた身体。それに、訳の分からん高級装備か」

 

 ヴァンが肩をすくめる。

 

「ただひとつだけ言えるのは──普通ではないってことだ」

 

「……本人は、『知り合いから譲り受けた』と言っていたな」

 

「知り合い、ねぇ……」

 

 ヴァンは肩をすくめた。

 

「その知り合いが何者かは、まったく分からない。ただ、剣と鎧がセットだと仮定すれば、制作者もしくは持ち主はひとり。そいつが、アウラに一式渡した──それだけだ」

 

「彼女自身の戦闘能力はどうだ?」

 

「正直、判断しづらいな」

 

 ヴァンは少しだけ目を細める。

 

「力を持たない娘が、強力な装備に振り回されているのか、元々素質が高い娘が、まだ装備を扱い切れていないだけなのか。今のところは判断保留だ」

 

 ロドリスはしばらく考え込み、それから息を吐いた。

 

「総合すると、『出自不明の高位装備を持った、育ちの良い娘』か」

 

「ざっくり言えば、そんなところだな」

 

「貴族の娘の家出、という線は?」

 

「なくはない。なくはないが──」

 

 ヴァンは首を捻る。

 

「あの剣と鎧の出所が分からない以上、それだけで片付けるのは危険だ。貴族どころか、他国の王族や、魔導国家の関係者って可能性もある」

 

「……やはり調べざるを得んな」

 

 ロドリスは静かに言った。

 

「何度も言うが、敵に回すつもりはない。ただ、何者なのかくらいは把握しておかねば、街の防衛を預かる身として寝覚めが悪い」

 

「その判断には賛成だ」

 

 ヴァンは即座に頷く。

 

「アウラを知らないまま見逃すほうが、よっぽど街にとって危険だぜ。少なくとも、ギルドとして接点を保っておいたほうがいい」

 

「……分かった。こちらでも、できる範囲で情報を集めてみよう」

 

 ロドリスは机の端に置かれた名簿や記録の束にちらりと目をやる。

 

「この国に入った旅人の記録、近隣諸国の貴族名簿、王都支部への照会……時間はかかるが、何もしないよりはましだろう」

 

「そこまでやってくれるなら十分だろ」

 

 ヴァンが立ち上がり、伸びをした。

 

「俺のほうでも、森の件ついでに様子を見てみるさ。あの娘、色々抱えてそうだしな」

 

「惚れた女だから、という理由ではないのか?」

 

「それも入ってる」

 

 即答だった。

 

「……自覚があるだけマシか」

 

 ロドリスが呆れ混じりに言う。

 

「まったく。女にだらしなくなければ、お前にギルド長を任せてもよかったんだがな」

 

「それは遠慮しとく。俺は森のほうが性に合ってる」

 

 そう笑ったあと、ヴァンはふと思い出したように「あ」と声を上げた。

 

「そうだ、旦那。もうひとつ」

 

「何だ」

 

 ヴァンは懐をごそごそと探り、小さく丸めた布の塊を取り出した。

 焦げたような、裂けたような、色も形もよく分からない布切れだ。

 

「これ、もらってもいいか?」

 

「……それは?」

 

「アウラがさっきまで着てた服や下着の残骸」

 

 あっけらかんと言う。

 

「鎧が出てきたときに吹き飛んだやつ。ギリギリ拾えた分だ。貴重な研究材料でな」

 

「……何の研究だ」

 

「鎧の発動条件とか、魔力干渉の仕組みとか?」

 

 平然とした顔で返ってくる。

 

 ロドリスは数秒黙り、それから深いため息を吐いた。

 

「……好きにしろ」

 

「やった」

 

 ヴァンは子どものように顔を輝かせ、布切れを大事そうにポケットへ突っ込んだ。

 

「ただし、変な趣味に使うなよ」

 

「おいおい、俺をなんだと思ってるんだよ」

 

「女好きの変態だ」

 

「正解」

 

 迷いのない即答に、ロドリスはもう一度頭を抱えた。

 

「……とにかく、報告ご苦労だった。森の調査の件は、準備が整い次第また依頼を出す。アウラとも、今後うまくやってくれ」

 

「任せとけ。森も女の子も、扱いには慣れてる」

 

「前半だけ聞くことにしよう」

 

 半眼になったギルド長を背に、ヴァンはひらひらと手を振って部屋を後にした。

 

 扉が閉まり、静けさが戻る。

 

 ロドリスは椅子の背にもたれ、オーロックの森の地図と、簡単な調査メモに視線を落とした。

 

 入口付近に記されたキラーボアの印。

 その隅に、小さく書き加えられた名前。

 

 ──アウラ。

 

「……厄介な嵐の種が増えたか」

 

 誰にともなく呟き、ギルド長はゆっくりと目を閉じた。

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