【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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15話 はじめての遠征準備

「それじゃ、とりあえずギルド行ってみようか」

 翌朝、白鹿亭の食堂でパンを齧りながら言うと、カイトとティナが同時に頷いた。

 

「うん。新しい剣も試してみたいし」

「ネックレスの具合も、ちょっと確かめたいしね」

 

 この二人、すっかり新装備お披露目モードだな。

 悪いことじゃない。むしろ頼もしい。

 

 食事を終え、三人でギルドへ向かう。

 朝の石畳はまだ冷たくて、空気もひんやりしている。朝市の準備をする人たちの声が、街に少しずつ色をつけていく。

 

 ギルドの扉を押すと、ちょうどカウンター前が少し騒がしかった。

 

「今貼るから、ちょっと待ってくださーい」

「こっちの板、余白まだあります?」

 

 リーネをはじめ、ギルド職員たちが新しい依頼書を壁に貼り付けているところだった。

 

「おはようございます」

 

 声をかけると、リーネが振り向いて笑顔になる。

 

「あ、皆さん。おはようございます」

 

 手には束になった依頼書。なるほど「補充タイミング」に来たらしい。

 

「ちょうど良かったですね、新しい依頼が色々入ったところですよ」

 

「いい依頼、ある?」

 

 ティナがストレートに聞く。

 こういうところは本当に分かりやすい。

 

「そうですね……」

 

 リーネは手元の依頼束をぱらぱらとめくったあと、ふっと表情を和らげた。

 

「街道沿いの村までの荷物運搬の依頼が出てます。初心者さんにはおすすめですよ」

 

「荷物運搬?」

 

 カイトが首を傾げる。

 

「はい。こちらの街道を真っ直ぐ進んだ先にある、ソーン村まで商人さんの荷物を護衛しながら運ぶお仕事です。片道三日ほどなので、往復で六日。向こうで一日休憩を取ることを考えて、七日くらいは見ておいたほうがいいですね」

 

 七日。

 今までの依頼は一日も掛かってない事を考えると、だいぶ長い。

 

「道中の危険度は?」

 

 自然と、そういう質問が出る。

 

「街道は比較的平坦で、魔物も弱い種類しか報告されていません。野盗も出たという話はありませんし──商人ギルドから定期的に頂く依頼ですから、冒険者ギルドとしても是非受けて欲しいですね」

 

 リーネは依頼書を指先で軽く叩きながら続ける。

 

「荷物の量もそれなりにありますので、報酬は初心者向けとしては高めです。何より、街を数日離れる経験をするにはちょうどいいですよ」

 

(──なるほど)

 

 完全に「レベル上げにちょうどいい」みたいな説明だ。

 だが、実際そういう依頼なのだろう。

 

「どうする?」

 

 カイトが、少し緊張した顔でこちらを見た。

 

「街を七日も離れるのは……その、ちょっと緊張するけど……」

 

「でも、いつかはやらなきゃいけないことよ」

 

 ティナが静かに言う。

 

「ずっと街の近くの依頼ばかりってわけにもいかないし。乗り越えられる最初の一歩なら、今のうちに踏んでおいたほうがいいと思う」

 

 正論だ。

 俺自身も、胸の奥が少しざわついている。

 

(七日か……)

 

 不安がないと言えば嘘になる。

 野営、寝る場所、食料、水。トラブルが起きたときに、すぐ街には戻れない距離。

 

 でも同時に──

 

(ちょっと、ワクワクもしてるんだよな)

 

 前世で言えば「初めてのちゃんとした旅行」に近い感覚かもしれない。

 日帰りじゃなく、数日単位で外に出る。自分たちの力で。

 

「アウラは?」

 

 ティナが訊いてくる。

 

「やってみたい気持ちは?」

 

「……ある」

 

 素直に答えた。

 

「不安がゼロってわけじゃないけど、ここで尻込みしてても話が進まないしな。何より、二人が乗り気なら、俺が足引っ張るのも変だろ」

 

「アウラが一緒なら心強いよ!」

 

 カイトが、ぱっと顔を明るくする。

 

「じゃあ」

 

 俺はリーネのほうへ向き直った。

 

「その荷物運搬の依頼、詳しく教えてもらえるか?」

 

「はい!」

 

 リーネが嬉しそうに頷き、依頼書を差し出してくる。

 受け取って目を通すと、内容は概ねさっき聞いた通りだ。

 

 荷物は商人ギルドで用意。

 出発は明日の朝。

 同行するのは荷馬車一台と、その御者。それを護衛しながら村まで向かう。

 村に到着した翌日は休息と荷下ろし、その翌日に同じルートで街へ戻る──といった流れ。

 

「受ける場合は、今日のうちに準備を済ませてくださいね」

 

 リーネが言う。

 

「街を離れる依頼のときは、必ず自分で用意できるものを確認しておくこと。食糧、水袋、寝具、明かり……ギルドから貸し出せるテントや毛布もありますが、数に限りがありますから、早めに押さえておいたほうがいいですよ」

 

「なるほど……」

 

(いきなりキャンプ入門コースだな)

 

 火起こし、野営、見張り。

 やることを考えれば、むしろ今までが楽すぎたのかもしれない。

 

「受けよう」

 

 気づけば、口が勝手に決めていた。

 

「俺たちにとって、いい経験になる。そうだろ?」

 

「うん!」

「異議無し」

 

 二人の即答を聞いて、俺は依頼書をリーネに返す。

 

「じゃあ、この依頼を正式に受ける」

 

「ありがとうございます。それでは、こちらにサインをお願いしますね」

 

 三人それぞれの名前を書き込み、受付は完了した。

 

「今日一日は、準備に使ってください。何か分からないことがあれば、いつでも聞きに来てくださいね」

 

「ああ、助かる」

 

 こういうとき、ちゃんと相談に乗ってくれる受付嬢の存在は本当にありがたい。

 ギルドを出るとき、カイトがわくわくと不安を半々にした顔で言った。

 

「なんか、本当に冒険に出るって感じだね」

 

「今までのも一応、冒険だけどね」

 

 ティナが笑う。

 

「でもまあ、気持ちは分かるわ。ちゃんと旅っぽいことする依頼受けるの、初めてだし」

 

 ティナも少しわくわくしている雰囲気を感じる。

 

「じゃ、準備だな」

 

 そう言うと、二人も表情を引き締める。

 

「食料と水袋、テントと毛布、マント……それから──夜の明かり」

 

「予備の油とかランタン、火打ち石、ロープも少しあったほうがいいのかな……」

 

 お互いに必要そうな物を口に出しているうちに、少しずつ「今日やるべきこと」が形になっていく。

 

(……結局、こういうのは慣れだよな)

 

 前世でキャンプ道具を揃えたことはないが、頭の中では「必要なものリスト」が勝手に並び始めていた。

 

 

 

 最初に向かったのは、ギルドの備品窓口だった。

 貸し出し用のテントや毛布、ランタンなどを管理している、いわば裏方窓口だ。

 

「三人用のテントと毛布、ランタンはありますか?」

 

 ティナが尋ねると、窓口の職員が帳面をめくる。

 

「ええと……三、四人用テントならちょうど一張り、戻ってきた所です。簡易タイプですが、街道沿いの野営なら問題ないと思います。毛布は状態が少々古いものでしたら。ランタンは沢山ありますよ」

 

「十分です」

 

 こういうのは贅沢を言っても仕方がない。

 テント一張りと毛布三つにランタン二個を借りる手続きを済ませる。

 

「返却は戻ってきた翌日までにお願いしますね。汚れはある程度こちらで落としますが、大きな破損があった場合は修繕費がかかることがあります」

 

「テント壊れるような事態にはなりたくないな……」

 

 思わず本音が漏れた。

 

 次に向かったのは、道具屋だ。

 油、予備の火打ち石、簡易な料理道具──鍋は御者が持ってくるらしいので、コップや皿だけで済ませる。

 

「食料は、どうする?」

 

 干し肉、固いパン、ドライフルーツに日持ちする野菜や果物。

 食料の棚を見ながら、カイトが言う。

 

「往復で七日、村で一日休むとして、八日分あれば安心かな……?」

 

「村で分けてもらえるだろうし、荷馬車にも積むから、最悪どうにかなるとは思うけど」

 

 ティナが腕を組む。

 

「持ちすぎても重いし、少なすぎても困るし……難しいわね」

 

「とりあえず、最低限自分たちだけで生き延びられる量は確保しておこう」

 

 俺は、棒状の干し肉を手に取る。

 

「最悪、御者と荷物と分断されたときに、何も持ってませんでしたじゃ済まないしな」

 

「縁起でもないこと言わないでよ」

 

 ティナは顔をしかめたが、言っていること自体は否定しなかった。

 

 水袋は、今使っているものに加え、予備を一つずつ。

 道中の川等で補給することも考えると、予備があるに越したことはない。

 

 あれやこれやと選んでいるうちに、背負い袋の中身がだんだん「遠出するパーティ」らしくなっていく。

 

(……こうやって形から変わっていくのは、嫌いじゃないな)

 

 荷物を背負ったときの重みが、なんとなく自分の中の覚悟とリンクする。

 そういう感覚が、少し嬉しい。

 

 

 ひと通りの買い物を終え、ギルドに荷物の一部を預けに戻ったときだった。

 

「おや」

 

 ロビーの隅で飲み物を飲んでいた銀髪の男が、こちらに気づいて手を振った。

 

「やぁアウラ、ティナ、カイト。三人で揃って荷物なんか抱えて、デートの準備かい?」

 

「どこをどう見たらそう見えるんだ」

 

 思わず即ツッコミが出る。

 

「ヴァンさん!」

 

 カイトは、相変わらず憧れの目で駆け寄っていく。

 

「今日はどうしたんですか? もう森に行く準備とかですか?」

 

「んー、それは明後日あたりからだな」

 

 ヴァンは椅子の背にもたれ、片手でカップをくるくる回す。

 

「調査隊と一緒に、オーロックの森の奥のほうまで入る予定。キラーボアが逃げてきた、元のほうを確認しにね」

 

「やっぱり、森の奥で何か起きてるの?」

 

 ティナが身を乗り出す。

 

「さぁ、そこまではまだ分からない。何も起きてないならそれに越したことはないんだけど、それはそれで本当に何もないのかを調査するのが大変なんだよなぁ」

 

 さらっと言う割に、その目はどこか鋭い。

 

「で、君たちは?」

 

 ヴァンが俺たちの背負い袋に視線を移す。

 

「その荷物の感じだと……街道沿いに数日出るってところかな?」

 

「街道の先の村まで、荷物運びの依頼を受けた」

 

 俺が答えると、ヴァンはにやりと笑った。

 

「お、いいじゃないか。初めての遠征ってやつだな」

 

「なんで分かるの?」

 

 ティナが疑いの目を向ける。

 

「荷物に過不足のある初心者感があるからねぇ。慣れてる奴は、もう少し荷物のバランスが違うんだよ」

 

「……褒めてる?」

 

「褒めてる褒めてる。最初から完璧な奴なんていないさ」

 

 ヴァンはカップを置き、指を折りながら言った。

 

「遠出するなら、とりあえず覚えときな。まず、靴と足のケアは最優先。どんなに腕が良くても、足潰したらそこで終わりだ」

 

「靴……」

 

 自分のブーツを見下ろす。

 そういえば、この世界に来た時から履いていたブーツだ。

 ハイレグアーマーと違って、普通に脱げるし、見た目も普通のブーツに見えるが

 何か特別な効果などあるんだろうか。

 履き心地はとても良いが。

 

「毎晩、足を拭いてよく乾かすこと。靴の中もな。靴擦れしたら、早めに手当てしろよ。それと、水はケチるな。ただし、飲みすぎてお腹壊すのもダメ。分かった?」

 

「……はい」

 

 妙に説得力がある。

 

「あと、日程に余裕を持つこと。急がないといけない依頼じゃないなら、陽が落ちる前にさっさと野営準備に入れ。街道沿いでも、夜道を無理に進むのはお勧めしないね」

 

「あんたが言うと重みが違うわね……」

 

 ティナがぼそりと呟いた。

 

「当たり前だろ。俺も昔、調子に乗って夜道を歩いて痛い目見たことがあるからな。経験則ってやつだ」

 

 そう言って笑うヴァンは、いつもの軽さの奥に、ちゃんとした「冒険者の顔」を持っている。

 

「お守りとして付いてってやりたいのは山々なんだけどさぁ」

 

 そこで、いつもの調子に戻ったように肩をすくめる。

 

「さっき言ったとおり、数日後からしばらく森に籠もる予定でね。タイミング最悪だわ。残念」

 

「付いてこなくていい」

 

 反射で口が動いた。

 

「えー、ひどい」

 

 ヴァンが心底残念そうな顔をする。

 

「いや、だって絶対道中でいじってくるだろ」

 

 あのハイレグ事件を思い出す。

 あのときの観察と視線は、一生忘れない自信がある。

 

「ふふ、バレてるわね」

 

 ティナがむしろ楽しそうに笑った。

 

「でも、アドバイスはありがたいわ。ちゃんと守るようにする」

 

「そうしてくれ」

 

 ヴァンは立ち上がり、軽く伸びをする。

 

「一緒に行けないのは残念だけど──気をつけて行けよ、三人とも。帰ってきたら、土産話のひとつやふたつ聞かせてくれ」

 

「……あんたのほうこそ」

 

 俺も言い返す。

 

「森の調査のほうがよっぽど危ないだろ。こっちは街道沿いだ。無茶するなよ」

 

「するさ」

 

 即答だった。

 

「でもまぁ、死なない程度にな。約束してやるよ」

 

「全然安心できないんだけど」

 

 ティナが顔をしかめると、ヴァンは肩をすくめて笑う。

 

「大丈夫大丈夫。俺、こう見えてもしぶといからさ。森で変な物見つけたら、君たちにも教えてやるよ」

 

 そう言って、ひらひらと手を振る。

 

「じゃ、俺は旦那んとこ行ってくるわ。出発前の打ち合わせってやつだ。気をつけてなー、アウラ。可愛い顔、傷つけて帰ってくるなよ」

 

「余計なお世話だ」

 

 軽く睨み返す。

 

 ヴァンは楽しそうに笑いながら、ギルド長の部屋のほうへと歩いていった。

 

(……本当に、油断ならない男だな)

 

 そう思いつつも、背中を見送る自分がいた。

 

 

 その日の午後は、白鹿亭に戻って荷造りと最終確認だ。

 背負い袋に、食料、水袋、着替え。

 テントや毛布は三人で分担して持つ。

 

「忘れ物は……ないわよね?」

 

 ティナが荷物を並べて確認する。

 

「火打ち石、よし。予備の油、よし。縄、よし。包帯と薬草も……よし」

 

「なんか、いよいよって感じだね」

 

 カイトが、部屋の中をきょろきょろ見回す。

 

 俺は腰の剣に手を置き、深く息を吐いた。

 

(街を出て、七日)

 

 不安もある。

 でもそれ以上に──

 

(……楽しみだな)

 

 隣では、ティナが新しいネックレスを指先でそっと撫でている。

 カイトは新しいショートソードの柄を、何度も確かめるように握っていた。

 

 それぞれが「自分の武器」と「これからの道」を確かめている姿が、なんだか少し頼もしい。

 

「……よし」

 

 小さく呟く。

 

「明日は、ちゃんと起きろよ、二人とも。寝坊して出発に遅れたらシャレにならないからな」

 

「アウラにだけは言われたくないんだけど」

 

 ティナがくすっと笑う。

 

「でも、そうね。今日は早めに寝ましょ」

 

「うん!」

 

 カイトも元気よく頷いた。

 

 窓の外では、夕焼けが街をゆっくりと赤く染めていく。

 この街をほんの少し離れて、また戻ってくる。

 その往復のあいだで、自分たちに何が見えて、何が変わるのか──

 

(……まぁ、考えても仕方ないか)

 

 まずは、ちゃんと出発して、ちゃんと帰ってくること。

 そこから先のことは、そのときに考えればいい。

 

 そんなふうに思いながら、俺はそっと背負い袋の紐を締め直した。

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