【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
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翌朝。
白鹿亭の部屋で、俺はベッドの上に服を並べて頭を抱えていた。
普通の服一式と──例の、アウラ特製ハイレグアーマーのどちらを着るか。
……どう考えても、前者が人として正しいんだけどな。
ここからソーン村まで三日。往復七日コース。
その間に、またスライムやら何やらに襲われたとして──
危険察知自動装着。
服、爆散。
ハイレグ、強制装備。
(……また服セット全滅は、マジで財布に悪いんだよな……)
買ったばかりで爆散した新しい服たちを思い出し、胸が痛くなる。
「……くそ」
小さく悪態をついて、俺は服を脱いだ後、ステータス画面を開いて、装備欄からハイレグアーマーを選ぶことにする。
せめて、服が犠牲にならないタイミングを自分で選ぶ。
悲しいけど、これが一番被害が少ない選択だ。
覚悟を決めて鎧を装備すると、肌にぴたりと吸い付くように馴染む感触がして、ハイレグアーマーが現れる。
(妙に着心地がいいのが腹立つんだよな……)
上からローブ代わりのマントを羽織りたい所だが
恐らくハイレグアーマーが隠れるようなものを装備すると、爆散すると思われるので何も装備出来ない。
「アウラ、支度できた?」
ドアをノックする声。ティナだ。
「ああ、入っていい」
扉が開き、ティナが入ってきて──ぴたりと動きを止めた。
「……結局、その鎧で行くんだ」
若干、呆れ七割・同情三割くらいの目だ。
「仕方なく、だ」
俺はうつむきながら呟く。
「道中でまた服吹き飛ばされるくらいなら、最初からこれで行ったほうが被害が少ない」
「理屈は分かるけど……うん、分かるけど……」
ティナは額に手を当てて、小さくため息をついた。
「念の為、替えの服は多めに持って行く方がいいわね」
「ちゃんと多めに持ってるから大丈夫……のはずだ」
そこへ、タイミングよくカイトも入ってきた。
「アウラさん、準備──」
言葉が途中で止まる。
顔が、一瞬で真っ赤になった。
「わっ、あ、その、えっと……」
視線が泳いでいる。
いや、泳ぐな。落ち着け。
「ジロジロ見ないの」
ティナの容赦ない一言が飛ぶ。
「み、見てないよ!」
「見てたでしょ!」
「見てない! 見てないけど、その、視界に入るんだって……!」
(それはまぁ……否定はできないけどさ)
俺は丸見えの尻を、両手の甲で押さえながら、咳払いをひとつ。
「……とにかく、時間だ。商人ギルドに行こう」
このまま部屋でやり取りを続けていると、俺の精神力が先に尽きる。
商人ギルドの前には、既に荷馬車が一台待機していた。
荷台には木箱や樽が積まれている途中らしい。
馬はおとなしく鼻を鳴らしており、御者台の横で一人の女性が荷物の確認をしていた。
年の頃は二十歳くらい。
明るい茶色の髪をポニーテールにまとめ、動きやすそうな服にエプロンのような腰布。
いかにも「働く商人」といった雰囲気だ。
「あのー」
カイトが恐る恐る声をかけると、彼女はぱっと顔を上げた。
「はーい、なにか──って、あっ!」
俺を見た瞬間、目を丸くしたかと思うと、一気に顔がぱぁっと明るくなる。
「君が噂の美人な新人ちゃんだね!? 変態の!」
「違う」
反射的に声が出た。
「断じて変態ではない」
……デジャヴを感じるやり取りだな。
(ギルド、情報管理どうなってんだ)
俺が心の中で頭を抱えるより早く、彼女はずいっと距離を詰めてきた。
「初めまして! ノノって言います! 二十歳、商人やってます! 今から一緒にソーン村まで行く仲間だよ!」
「アウラだ。よろしく」
とりあえず握手に応じる。
握手の力が妙に元気だ。
「私、ソーン村の出身でね。街と村を行ったり来たりして、日用品とか食料とかを運ぶ仕事してるの。今回も荷馬車いっぱい持ってくから、よろしく頼むね!」
「私はティナ。こっちはカイト」
ティナが続けて自己紹介すると、ノノは二人にも同じテンションで握手していく。
「ティナちゃんにカイトくんね、オッケー! 三人とも、よろしくー!」
と、そのノノの視線が、すぐさま俺の全身へと戻る。
「で、それよそれ!」
指がぴしっと向けられた。
「その鎧! 何そのデザイン!! えっちすぎない!?」
「言い方」
横でティナが即ツッコミを入れた。
「でも分かる……」と、小声で呟くのはやめてくれ。
「ねぇねぇどこで手に入れたの? 素材なに? 動きやすさは? 防御性能は? 魔力反応ある? どこ製? いくらだった?」
「質問が多い」
ノノは完全に目が商人のそれになっていた。
これはあれだ、新商品を見つけたときの顔だ。
「しかもさぁ、その露出の具合!」
ノノは身振り手振りを交えて語り出す。
「露出は多いのに、下品すぎず、要所はちゃんと抑えてるっていうか、守ってるのかどうかは知らないけど、とにかく目を引くのよね。ああいうの、貴族のお嬢様とか好きそうじゃない? 戦うお姫様スタイルみたいな!」
「絶対流行らせないでくれ」
心からの願いだった。
「ねぇねぇ、ちょっとスケッチさせてもらってもいい?」
ノノが腰のポーチから紙とペンを取り出し始める。
「今後似たような装備を作れないか、工房の人たちと相談してみたいの! ほら、機能性とえっちさの両立って、ある層にめちゃくちゃ刺さると思うの!」
「ある層ってどの層だよ」
言いながら一歩下がる。
「……悪いが、その話は遠慮したい」
「えー、なんでー? 絶対売れるのにー」
ノノは本気で残念そうな顔をする。
「このデザインの鎧を着たお嬢様たちが街中に増えたら、景気も良くなりそうなのに……」
(経済の前に色々終わるわ)
ティナが俺の前にすっと立った。
「ほらほら、あんまりいじらないで。アウラが困ってるでしょ」
「んー……そっかぁ。うん、分かった。今はやめとく」
あっさり引き下がった。
いい人なのか、危ない人なのか、判断に困る。
「でも、いつか気が向いたら、ぜひモデルになってね!」
「気が向かない未来しか見えない」
そんなやり取りをしているうちに、荷物の積み込みが始まった。
「じゃ、それぞれ背負い袋は自分で持ってね。残りの荷物は全部この荷台に」
ノノの指示に従い、俺たちは荷物を運び込んでいく。
木箱には「保存食」「道具」「日用品」などの印がついている。
「この箱、結構重いですね」
カイトが少しよろめきながら持ち上げると、ノノが笑いながら言った。
「それ、瓶詰めと塩の樽だからねー。ソーン村、内陸だからさ。塩は貴重品なんだよ」
なるほど。
塩の供給を担っている商人、重要人物だな。
一通り荷物を積み終えると、ノノが御者台に上がる。
「オッケー、それじゃあ出発しよっか! ソーン村まで、のんびり三日の旅だよ!」
俺たちは荷馬車の横を歩くように位置を取り、それぞれ武器や荷物の重さを確かめた。
(いよいよ、って感じだな)
街の門を抜けると、風の匂いが変わった。
土と草の匂いが、ぐっと濃くなる。
「うわぁー……」
カイトが素直な感嘆の声を漏らす。
「こうやって街を離れるの、なんか新鮮ですね」
「そうね。森の入口くらいなら何度も行ったけど、ちゃんと旅するって感じの依頼は初めてだしね」
ティナは前を見据えながら、胸元のネックレスをそっと押さえた。
街道はよく整備されていて、確かに歩きやすい。
空は青く、雲はゆっくりと流れている。風も穏やかだ。
(……こういうのだけ見てると、平和な世界なんだけどな)
そんなことを考えながら、一歩一歩を踏みしめる。
昼少し前。
日差しが傾き始めた頃、ノノが御者台から振り返った。
「そろそろお昼にしよっかー。あの大きな木のところで止まるね」
街道脇に、程よく影を作っている大きな木が一本立っている。
荷馬車をそこに寄せ、馬を繋ぎ、水を飲ませる。
「じゃ、簡単にご飯の準備しよっか」
干し肉とパン、水を用意しようとしたそのときだった。
──バサ、バサバサバサッ。
頭上から、風を叩くような音が聞こえた。
「……?」
顔を上げる。
空の一部が、影になった。
「シャドーバード!」
先に叫んだのはカイトだった。
空から急降下してくる巨大な影。
体長二、三メートルはありそうな黒い鳥──いや、鳥型の魔物か?
鋭く曲がった嘴、ギラギラと光る赤い目。翼の先端は刃物のように尖っている。
足元が一瞬、すくんだ。
(は、や──)
反応が、遅れた。
俺が剣に手を伸ばすより早く、
カイトが一歩前に出ていた。
「うわっ──!」
空から突っ込んできたシャドーバードの爪が、カイトの前に迫る。
カイトは新しいショートソードを抜き、必死にそれを受け止めた。
金属音が高く鳴り、衝撃で足が半歩後ろに下がる。
「カイト!」
ティナの声が飛ぶ。
同時に、彼女が杖を構えた。
「《ウィンドカッター》!」
短く鋭い詠唱。
空気がぶわっとうねり、目に見えるほど鋭い風の刃が生まれる。
シャドーバードが翼を広げて再び高度を取ろうとした瞬間、
その胴体を、風の刃が斜めに走り抜けた。
ズバッ。
音がした、気がした。
次の瞬間、巨大な鳥型の魔物は、空中で真っ二つになっていた。
上半身と下半身が空中でずれ、
どさっ、と鈍い音を立てて地面に落ちる。
「……っ」
喉が、ひゅっと鳴った。
ノノは素早く馬のそばに回り込み、手綱を抑えている。
馬が暴れないよう、落ち着いた声で宥めていた。
「カイト、大丈夫!?」
ティナが駆け寄る。
「う、うん……! 腕、しびれてるけど……平気……!」
カイトは息を荒げながらも、ちゃんと立っていた。
剣先はまだ微かに震えている。
(……すげぇ)
心の底から、そう思った。
さっきまで隣で「ご飯だねー」って顔してた二人が、
いきなりあの速度で動いて、あの魔物を仕留めた。
俺はというと──
(……何も、できなかったな)
ただ空を見上げて、足を止めて、剣に手を伸ばしたところで終わっていた。
心臓が、ばくばくと暴れて手が震える。
「アウラ」
ティナが振り返る。
「怪我は?」
「……ない。何もされてない」
本当に、何もされていない。
何もされてないし、何もしてない。
情けなさと、安堵と、いろんな感情がぐちゃぐちゃになって、胸の中をかき回す。
「いやぁー、びっくりしたねぇ」
ノノが荷馬車のほうから歩いてきた。
「でも助かったよ。ありがと、二人とも。シャドーバードって、ああ見えて結構やっかいなんだよね」
「そうなんですか?」
カイトが剣を収めながら尋ねる。
「群れで来なかったのはラッキーだねー。一羽だけなら、今みたいに対処できるけどさ。……それにしても、見事な魔法だったわ」
「ま、まあね」
ティナは少し照れたように杖を下ろした。
ネックレスの青い石が、光を受けてきらりと揺れる。
(うん……やっぱ、凄いな、この二人)
その事実を、素直に誇らしく思う。
同時に、胸の奥に小さな棘が刺さる感覚もあった。
(俺も、ちゃんと冒険者やらないとな)
剣も鎧も、女神から与えられたよく分からない高性能装備。
それがなかったら、俺はただ突っ立ってるだけで終わるのかもしれない。
そんなのは、嫌だった。
「でさでさ」
ノノがシャドーバードの死体を見下ろしながら、にやりと笑う。
「シャドーバードって、ちょっとクセはあるけどさ、肉は美味しいんだよねー」
「え」
鳥の死骸を見る視線が、一斉に変わる。
「捌けるの?」
「まかせなさい。田舎育ち舐めないでよ」
ノノは腰のナイフを抜くと、慣れた手つきで羽をむしり始めた。
羽がばさばさと風に舞う。
「手伝いますっ!」
カイトが慌てて近づく。
「じゃあ、こっち側押さえてて。ティナちゃんは火の準備お願いしてもいい?」
「分かったわ」
ティナは小枝を集め、火打ち石で火を起こす。
小さな炎がぱちぱちと音を立て始めた。
「アウラはどうする?」
「……火の番、してる」
正直、解体作業に参加できる気がしなかった。
血や内臓はそこまで苦手ではないが、今は別のことで頭がいっぱいだ。
それでも、焚き火の前で薪を継ぎ足しながら、時々ノノたちの様子を見る。
ノノのナイフさばきは見事だった。
余計なところを切らず、素早く、ためらいなく肉と内臓を分けていく。
「はい、こんなもんでいいかな」
骨から外した肉を、ノノが串代わりの枝に刺していく。
軽く塩をふり、香草の束をすりつけた。
「おお……本格的ですね」
「料理できる商人はモテるんだよー?」
ノノは笑いながら、串を火の上に並べた。
シャドーバードの肉が、じゅうっと音を立てて焼けていく。
鳥と獣の間みたいな、独特の香りが鼻をくすぐった。
「いい匂い……」
カイトがごくりと喉を鳴らす。
「ちょっと癖あるけど、焼きたては最高だからね。さ、いい感じに焼けたところからどうぞー」
串を一本受け取る。
慎重に息を吹きかけてから、肉にかじりついた。
「……あ」
外は香ばしく、中は意外とジューシーだ。
少し獣臭さはあるが、塩と香草のおかげでそれが良い方向に転がっている。
「うまい」
思わず、本音が漏れた。
「でしょー?」
ノノが得意げに胸を張る。
「ソーン村のほうじゃ、たまに狩人の人が獲ってきてくれるんだよね~」
「この味なら、街で屋台を出しても売れそうね」
ティナが、もぐもぐしながら言う。
「うん……! この間の串焼きより、ちょっと野性味あって美味しいかも……!」
カイトも目を輝かせていた。
焚き火の上で肉を焼きながら、四人で他愛もない話をする。
ソーン村のこと、村の祭りのこと、畑のこと。
ノノはよく喋り、よく笑う。聞いているだけで、村の風景が少し見えてくるようだった。
心臓の鼓動は、いつの間にか落ち着いていた。
……さっき、何もできなかったことは、もちろん、忘れない。
多分、夜にひとりで思い返して、また胸がざわつくんだろう。
でも今は──
新しく覚えた味と、焚き火の暖かさと、
隣で笑っている三人の声を、ただ静かに受け止めていたかった。
(次は、一歩遅れないように)
串を握る手に、少しだけ力を込める。
(ちゃんと、冒険者として身体が動くように──)
そう心の中でそっと誓いながら、俺はもう一口、シャドーバードの肉を齧った。