【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
焚き火の火が、ぱちぱちと静かに音を立てていた。
簡単な夕食を終え、鍋も片付けてしまうと、野営地の空気はぐっと静かになる。
森の縁に近いだけあって、虫の声と、木々が風に揺れるざわめきが、遠くから絶え間なく聞こえてきた。
「じゃあ、今夜の見張りは──」
ティナが焚き火の炎に手を当てながら、顔だけこちらに向ける。
「最初の見張り、私とカイトでいい?」
「うん!」
カイトが元気よく手を挙げる。
俺とノノも頷いた。
「じゃあ、わたしらは先にテント入ってていいのね~?」
ノノがあくびを噛み殺しながら言う。
「うん。行きと同じ二時間くらいで交代しましょう」
「よし。じゃあ、先に寝させてもらうぞ」
「おやすみ~。わたし、眠くて一瞬で眠れそう~」
焚き火から少し離れた簡易テントに戻る。
本当に言ったそばから、ノノは毛布に潜ってすぐに寝息を立てていた。
すごい。社畜時代、寝ろと言われても眠れなかった俺の神経に、見習わせてやりたい。
(さて……)
寝床に腰を下ろしたところで、ふと、さっきまで考えていたことが頭をよぎる。
スキル、ステータス、そして、残っているスキルポイント。
どんな魔物と遭遇するか分からない以上、準備できることは今のうちにしておこう。
「ステータスオープン」
いつもの言葉を心の中で念じると、視界の前に、半透明の光の板がふわりと浮かび上がった。
何度見ても、ゲームのステータス画面みたいだ。
【ステータス】
名前:アウラ
種族:人間(?)
HP:100
MP:30
筋力:5+2
敏捷:5
体力:5
器用:5
知力:5
運 :5
数字だけ見れば、きれいに「5」が並んでいる。
基準がわからないので、高いとか低いとか、さっぱり分からない。
今の俺の感覚では、筋力も敏捷も「元の世界の自分」に比べればだいぶ上がっている気がする。
でもそれは、ステータスの数字のおかげなのか、この世界の身体そのもののおかげなのか、判断がつかない。
(ま、基準値を知るには、他人のステータスでも見せてもらわない限り無理か……)
そんなことを考えながら、画面を下へスライドさせるような感覚で、スキル欄に視線を移す。
【スキル】
・社畜の根性
・残業耐性
・報連相 Lv3
・剣術 Lv5/5(MAXボーナス:筋力+2)
剣術の項目に、「MAXボーナス」の文字がある。
(なるほど、筋力の+2は、ここから来てるんだよな)
荷物運びのとき、塩袋を持ち上げた瞬間に感じた、「あれ? 軽い」という感覚。
あれは気のせいじゃなくて、筋力に+2の補正が乗っていたせいだと考えれば、辻褄は合う。
(+2であれなら、+5とか+10になったらどうなるんだろうな……)
ちょっとワクワクする反面、「調子に乗って前に出すぎて死ぬ未来」が一瞬よぎって、慌ててその想像を振り払う。
(にしても、「MAXボーナス」か……)
剣術にはそう書いてある。
ということは、他のスキルも、レベルを最大まで上げたときに何かしらのボーナスがある可能性が高い。
(とはいえ、全部が全部、そうとは限らないよな)
実際に上げてみて確認するしかない。
どちらにせよ、「MAXまで取ったスキルは、あとで必ず詳細を確認すること」と、自分の中でルールを作っておいた。
(で、残りスキルポイントが──)
【スキルポイント:残り 7】
(さて、問題はここからだ)
画面の「スキルポイント」の文字を意識すると、視界がふわりと切り替わる。
【取得可能スキル一覧】
剣術、槍術、体術、盾術。
火魔法、水魔法、風魔法、土魔法。
回復魔法、補助魔法、空間魔法──。
鍛冶、裁縫、料理、採掘、解体。
歌唱、演奏、舞踏、演技、交渉術──。
見ているだけでも頭が痛くなる程のスキル一覧。
画面をスクロールすると、どんどん続きが出て来て終りが見えない。
前にざっと眺めたときも「やたら多いな」とは思っていたが、改めて見ると本当に幅広い。
芸能系から生産系、戦闘系まで何でもありだ。
(……歌とか踊りとか鍛冶とか、面白そうではあるんだがな)
現状、そんな余裕はない。
今必要なのは、生き延びるための手段だ。
(やっぱり気になるのは──)
自然と、視線が「回復魔法」の文字に吸い寄せられた。
【回復魔法 Lv0/5】
・対象の生命力を回復し、傷や状態異常を癒す魔法
必要スキルポイント:1
脳裏に、さっきのシャドーバード戦の光景が浮かぶ。
カイトの腕をかすめた、黒い爪の軌跡。
血のにじんだ袖口。
(あのくらいの傷なら、放っておいても自然に治るんだろうが……)
問題は、もっとひどい傷を負ったときだ。
腕が斬り飛ばされたとか、腹を貫かれたとか、毒を盛られたとか。
(そのときに、「スキルポイント残してたけど、もったいないから取ってませんでした」なんて、笑えないにもほどがある)
ゲームなら、そこでセーブ&ロードの出番だ。
でもここは、ロードの効かない世界だ。
(……取っておくべきだろうな)
ほとんど迷わず、回復魔法の項目を意識する。
【回復魔法 Lv1/5】
残りスキルポイント:6
数字が変わった瞬間、頭の中にふっと何かが流れ込んできた。
剣術のときにも感じた、「知識がインストールされる」感覚だ。
今度は、「どうやって魔力を扱えば、回復の魔法になるのか」という具体的なやり方が、自然と分かる。
自分の頭の中のスペースを勝手に使われているような気もするが、便利なのは間違いない。
画面を少しスクロールすると、「習得済み魔法」という項目が追加されていた。
【習得魔法】
・ヒール Lv1
・キュア Lv1
・ブレッシング Lv1
(おお、3つもセットでついてくるのか)
お得感がすごい。
それぞれの説明をタップするみたいな意識で、詳細を確認する。
【ヒール Lv1】
・対象の怪我を小回復、および止血を行う
【キュア Lv1】
・対象の毒を一定確率で解毒
・一部の状態異常を一定確率で回復
【ブレッシング Lv1】
・対象にかかっている能力低下などの弱体効果を回復し、
一時的に全ステータスをわずかに上昇させる
ヒールが傷、キュアが毒と状態異常、ブレッシングがデバフ消し+バフか……回復魔法、思ってたより万能だな。
(とりあえず、試すならブレッシングか)
自分の身体で試す分には、多少失敗してもまだマシだ。
誰かにかけて、予想外のことになったら怖い。
(どうやって使うんだ)
そう考えた瞬間、「ああ、こうか」と分かってしまうのが、この仕組みの恐ろしいところだ。
魔力の流れ。
どこからどこへ、どういうイメージを乗せて流し込めば、「ブレッシング」という効果になるのか。
ためしに、毛布の上に座ったまま、自分の胸に手を当ててみる。
「ブレッシング」
小さく呟くと、身体の奥から、何か温かいものがふわりと湧き上がるのが分かった。
それが腕を通って、掌から外へ溢れ出るイメージをした瞬間──。
ぼうっと、淡い光が自分の身体を包んだ。
「……おお」
思わず声が漏れる。
光は、眩しいほどではない。
焚き火のオレンジよりもずっと白く、月明かりよりも少しだけ温かい色合いだ。
数秒ほど身体を包んでから、すっと消える。
(なんか、身体が軽いな)
さっきまでよりも、ほんの少しだけ、肩の力が抜けているような気がした。
寝不足の朝にカフェインが効いてきたときのような、「だるさの膜が一枚剥がれた」感覚に近い。
ステータス画面を確認してみる。
【ステータス】
筋力:5+2(+1)
敏捷:5(+1)
体力:5(+1)
器用:5(+1)
知力:5(+1)
運 :5(+1)
(おー、全部(+1)か)
(+1)っていうのは一時的なステータスアップという事で、剣術で得た+2は永続的なステータスアップという事だろう。
MPの欄も見る。
MP:27/30
(消費3、か)
ブレッシングLv1を一回使うごとに、MPを3消費。
(持続時間は……これも分かるな)
不思議なことに、「あとどれくらいで効果が切れるか」という感覚も、頭の片隅に浮かんでいた。
まるで、スマホのタイマー表示を見ているような感覚で、「残りおよそ1時間」という情報が理解できる。
(便利っちゃ便利だけど……まぁ、寝る前に使う魔法じゃなかったかな)
どうせ今から寝るのだ。
ステータスが一時間上がっても、ほとんど意味はない。
(まぁ、テスト用だしな)
そう自分に言い聞かせて、ステータス画面を閉じた。
毛布を膝までかける。
さっきまで頭の中をぐるぐる回っていた「スキル構成」だの「ポイントの使い方」だのが、少しずつ遠のいていく。
(ブレッシングで+1、剣術MAXで筋力+2……残りのスキルポイント6……回復魔法をもうちょっと上げるか、空間魔法に手を出すか、それとも──)
考え始めるとキリがない。
半分まぶたが閉じかけている頭で、「続きはまた後で」とだけ決めて、俺は意識を手放した。
◇
「アウラ。アウラ、起きて」
肩を軽く揺さぶられて、意識が浮上した。
「……ん」
目を開けると、薄暗いテントの中に、ティナの顔がぼんやりと見えた。
焚き火の光が、テントの布を透かして、かすかなオレンジ色の影を作っている。
「そろそろ交代の時間。起きられる?」
「ああ……大丈夫だ」
上半身を起こしながら、寝ぼけた頭を軽く振る。
ノノも隣で丸くなっていたが、「交代」という単語が聞こえた瞬間、ぴくっと動いた。
「んにゃ……交代? 起きる起きる……」
「寒くないように、上着はちゃんと着てきてね」
ティナにそう言われて頷きつつ、俺はふと思い出して、再びステータス画面を開いた。
【MP:30/30】
(全回復してる)
寝る前は、ブレッシング一発で27まで減っていたはずだ。
それが今は、満タンになっている。
(ってことは……大体二時間で最低3は回復するって感じか)
これは起きている状態でも二時間程で3回復するのかの検証が必要だな。
「アウラ? どうかした?」
ティナが首を傾げる。
「いや、なんでもない。ちゃんと起きた」
ステータス画面を閉じて、起きる。
ノノも目をこすりながら、もそもそとテントから這い出ていった。
夜の空気は、昼間よりもぐっと冷たそうな雰囲気だった。
幸いと言って良いのかはわからないが、ハイレグアーマーの効果で快適な俺には関係ない。
「それじゃ、あとはお願いね」
ティナが小さく背伸びをしてから、テントのほうへ向かう。
カイトも、「あとは頼みます」と頭を下げてついていった。
「あ、そうだ」
カイトの背中を見ていて、ふと、昼間の光景が頭をよぎる。
(そういえば、シャドーバードに引っかかれてたな)
掠り傷とはいえ、血は出ていた。
そのまま放っておいてもきっと治るだろうが、せっかく回復魔法を取ったのだ。
試しておくなら、今のうちだろう。
「カイト」
テントに入りかけていた背中に声をかける。
カイトがきょとんと振り返った。
「はい?」
「その、腕の傷。ちょっと見せてくれないか」
「ああ、これですか」
カイトは「あ、そういえば」と自分でも今思い出したような顔をして、袖をまくった。
血も止まっているが、まだ赤く線が残っている。
いずれは消えるだろう、という程度の傷だ。
「大したことはないですよ。本当に掠っただけですし」
本人は笑っている。
「ちょっと……試したいことがあるんだが。多分痛くないと思う」
一応、前置きだけはしておく。
カイトはきょとんとしたまま、素直に腕を差し出してきた。
「えっと……?」
俺はカイトの腕にそっと手をかざす。
さっきのブレッシングと同じように、魔力を意識する。
ただ今度は、「全身を底上げするイメージ」ではなく、「傷口に染み込ませて塞ぐイメージ」だ。
「ヒール」
小さく呟いた瞬間、手のひらの下に、やわらかな光が灯った。
「……!」
今度の光は、ブレッシングのときよりも、さらに優しい色をしていた。
淡い緑が混じった白、というか。
草原の上に朝日が差したときのような、柔らかい光。
光はカイトの腕全体を包み込み、特に傷の部分でひときわ強く輝いたかと思うと、そのまますっと消えた。
そこには──。
「……おお」
赤い線が、跡形もなく消えていた。
さっきまで掠り傷があったはずの場所の肌は、他の部分と何も変わらない。
(なるほど。ヒールってこういう感じか)
止血と小回復。
その説明通り、浅い傷なら完全に消し飛ばせるらしい。
骨が折れていたり、深く抉られていたりした場合はどうなのかは、まだ分からないが。
(これも、どこまで効くのか、どこから先は無理なのか、ちゃんと把握しておかないとな)
そう考えていた、そのとき──。
「い、今の……!」
横から、息を呑むような声が聞こえた。
はっと顔を上げると、ティナとノノがぽかんと口を開けて、こっちを見ていた。
「アウラ……今のは……回復魔法?」
ティナの声は、いつもの落ち着いた調子とは違い、わずかに震えていた。
「いや、その……」
寝起きと、さっきの集中の反動とで、頭がまだぼーっとしている。
そのせいで、口から出た言葉も、どこか間の抜けたものになった。
「回復魔法を思い出して、ちょっと掛けてみたんだが。……だめだったか?」
使ってから不安になるなよ、俺。
「だめっていうか……!」
ティナが額に手を当てた。
「何回、あんたのことでびっくりさせられれば気が済むのよ……!」
その横で、ノノが感嘆の声を上げる。
「すごーい! 回復魔法なんて、初めて見たよ!」
カイトも、自分の腕をしげしげと見つめながら、目を丸くしている。
「ぼ、僕も初めてです……。教会でお金を払えば回復してもらえるっていう話は聞いたことありますけど……まさか、目の前で……」
全員の視線が、俺に集中する。
焚き火の熱とは別に、顔が熱くなるのが分かった。
(あ、これ、軽率だったかもしれないやつだ)
寝ぼけた頭で深く考えずに使ってしまった自分を、今さらながら殴りたい。
「アウラ」
ティナが、一歩近づいてきた。
いつもの柔らかい表情は消えていて、その目は真剣そのものだ。
「あんた、自分が何をしたか分かってる?」
「え、えっと……傷を、治しただけなんだが」
なんとも言えない情けない答えしか出てこない。
「そう。傷を“魔法で”治したのよ」
ティナは、言葉に力を込めた。
「回復魔法はね、教会が独占してるの」
「独占……?」
耳慣れない単語が出てきて、思わず聞き返す。
「お布施を払えば治してもらえる、ってさっきカイトが言ってたでしょ?」
ティナが顎でカイトを示す。
カイトは「うん」と小さく頷いた。
「教会は“癒しの奇跡”を信仰の柱にしてるの。だから、回復魔法を使える人たちは、みんな教会に所属してる。回復魔法を使えるのは教会の聖女様と、その聖女様に仕える聖職者たちだけ」
そこで、じっと俺を見る。
「──普通の冒険者が、勝手に使っていい力じゃないのよ」
なるほど、そういう事か。
「教会はね、自分たちの権威にかかわることには、すごく神経質なの。『奇跡』が『誰でも使える普通の魔法』になったら、信者もお布施も減っちゃうでしょ?」
ティナの口調は冷静だが、その言葉の端々には、教会に対する若干の厳しい視線がにじんでいた。
「だから、もし教会に所属していない人間が、回復魔法を使えるって知られたら──」
ティナは、わざとそこから先を言わなかった。
でも、何が言いたいのかは、想像がついてしまう。
背筋に冷たいものが走る。
「アウラ」
ティナが、少しだけ声を落とした。
「あんた、教会に所属してるの?」
「いいや」
反射的に首をぶんぶんと振る。
「教会に行ったこともないし、回復魔法が『教会専用』なんて話も、今初めて聞いた。俺はただ、回復魔法が使えるってだけで……」
「ふぅ……」
ティナは、小さく息を吐き出した。
怒っている、というよりは、頭をフル回転させているときの顔だ。
「とにかく──」
少し考えてから、俺の目を真っ直ぐ見て言う。
「回復魔法が使えるってことは、絶対に他の人には言わないほうがいいわ。教会に目をつけられたら、面倒どころじゃ済まないもの」
(そこまで、か)
改めて事の重大さを叩きつけられ、胃のあたりがきゅっと縮む。
(回復魔法Lv1で止めておいて良かった……)
もしこれで、勢いに任せて回復魔法をLv5まで取っていたら、「せっかく取ったのにまともに使えない」という、泣くに泣けない状況になっていたところだ。
「アウラさん」
カイトが、少しおずおずとした様子で口を開いた。
「回復してくださって、ありがとうございます。傷、まったく痛くないですし、本当に助かりました。……僕、誰にも言いませんから」
その言葉は、想像以上にまっすぐで、重かった。
「僕の村でも、教会に行った人の話で、『回復してもらうのはすごく高い』って聞いてましたし……。でも、アウラさんが困るなら、絶対に内緒にしておきます」
「うんうん、わたしも!」
ノノが、力いっぱい手を上げる。
「アウラちゃんが何で回復魔法使えるのか、正直めちゃくちゃ気になるけど……教会はほんっと面倒だからね~。変に首突っ込まれても困るし、私も秘密にしておくよ」
「ノノ……」
正直、商人ギルド所属のノノが一番「ネタにして儲ける」ルートに走ってもおかしくないと思っていたのだが、そんなところでちゃんとブレーキをかけてくれるあたり、この子はこの子で信用できる。
「とにかく」
ティナがまとめるように口を開いた。
「回復魔法が使えることは、私たちだけの秘密。どうしても使わなきゃいけない状況になったら……そのときは、私が周囲のフォローをするわ」
その言葉の頼もしさに、胸の奥が少しだけ軽くなる。
「ティナ……色々教えてくれて助かった。本当にありがとう」
素直に頭を下げた。
「俺も、回復魔法に関しては、余計なことは言わないし、軽率に使わないようにする」
「そのほうがいいわね」
ティナは小さく笑った。
「本当に心臓に悪いわ。寝る前に急に『実は回復魔法使えます』って……」
「すみません……」
全力で謝るしかない。
寝ぼけ頭の自分の行動を、心の中で五回くらい殴っておいた。
「じゃあ、交代、お願いね」
最後には、いつもの調子に戻った声でそう言って、ティナはテントのほうへ歩いていった。
カイトもそれに続いて、毛布に潜り込んでいく。
野営地には、俺とノノ、それから焚き火の音と、森のざわめきだけが残った。
しばらく二人で無言のまま、夜空を見上げる。
木々の隙間から見える星は、多分、前の世界で見ていたものとは微妙に位置が違うのだろう。
でも、「星空」というやつの見え方は、どこの世界でもそう変わらないらしい。
「ねぇ、アウラちゃん」
ノノが、不意に口を開いた。
「……なんだ」
「やっぱりさ」
焚き火の光に照らされた横顔が、にやりと笑う。
「アウラちゃんって、謎が多い美女だよねぇ……」
「どこにそんな要素が詰まってるんだ」
思わず苦笑が漏れる。
「いやいやいや。見たことのない鎧と剣を持ってて、今度は回復魔法まで使えるんでしょ? これで謎じゃなかったら、逆に嘘だよ~」
「……それは否定できないな」
自分でもそう思う。
異世界転移して、女体化して、女神にハイレグアーマー渡されて、スキルが弄れる。
さらに教会が独占しているはずの回復魔法まで使える。
(ほんと、どこまで面倒ごとを積み上げれば気が済むんだ、俺の人生)
心の中で小さくため息をつきつつも、そのため息には、少しだけ苦笑いが混じっていた。
焚き火の炎が、夜風に揺れる。
遠くの森の向こうで、何かの獣の遠吠えが微かに聞こえた。
星空を見上げながら、心の中で小さく区切りをつける。
(回復魔法が使えることの面倒くささは置いといて。使えるってこと自体は、間違いなく生き延びるための武器だ)
その武器を、どう扱うか。
誰に見せ、誰に隠すか。
それを間違えないようにすることも、この世界で生きていく上での「スキル」の一つなのだろう。
「さて──見張り、ちゃんとやるか」
「うん! がんばろー!」
ノノがにかっと笑う。
俺は魔剣の柄に軽く手を添え、焚き火の向こう、夜の森をじっと見つめた。
面倒ごとの匂いは確かにするが、少しだけ心強くなった自分がいるのも、また事実だった。