【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

31 / 72
 インフルエンザにやられて投稿が遅れております( ◞‸◟ )
 身体が痛い。


31話 重い身体と、軽い安堵

 目が覚めた。

 最初に戻ってきたのは、視界ではなく匂いだった。

 乾いた木の匂いと薬草の匂い。

 それに、紙と鉄と、人の気配が混ざったような、どこか落ち着く匂い。

 

(……ここ、どこだ)

 

 ぼんやりと天井を見上げる。

 木目のある天井。古いけれど、きちんと手入れされている感じがする。

 見慣れないはずなのに、不思議と既視感があった。

 

 次に気づいたのは、自分の身体が異様に重いことだった。

 頭痛はない。吐き気もない。視界もはっきりしている。

 なのに、身体の芯だけが鉛を詰め込まれたみたいに鈍い。

 

(えーっと……何があったんだっけ?)

 

 そう思った瞬間、記憶が一気に流れ込んできた。

 

 森門。

 スライムに侵された魔物たち。

 骸骨仮面の男。

 ヴァンの血。

 そして、世界が白く染まったあの瞬間。

 身体の中から、「大事なもの」が根こそぎ持っていかれた感覚。

 

(……あの後、どうなったんだ?)

 

 ヴァンは?

 兵士や冒険者は?

 あの仮面の男は?

 ティナたちは──。

 

 疑問が次々に浮かんで、じっとしていられなくなった。

 身体を起こそうと、ベッドに手をつく。

 腕に力を入れて、上体を持ち上げようとした。

 

「っ……!」

 

 途端に全身に針で刺されたみたいな痛みが走った。

 息が止まりそうになる。

 

(な、なんだ今の……!?)

 

 反射的に力を込めるが、うまく入らない。

 腕が抜ける。

 ずるっ、とベッドの縁から滑り、俺はそのまま床に落ちた。

 

「ぐぇ……」

 

 間の抜けた声が漏れた。

 痛いというより、びっくりした。

 そして何より、ハイレグアーマーの金属部分がカン、と音を立てて床に当たったのがやけに恥ずかしい。

 

(……何やってんだ俺)

 

 床に転がったまま、天井を見上げる。

 身体が変な感じだ。まだ万全じゃない。

 そう思ったところで、扉が勢いよく開いた。

 

「──っ!? なにやってんのよ!!」

 

 聞き覚えのある声。

 ティナだ。

 床に転がっている俺を見た瞬間、ティナの目が見開かれる。

 

「……目、覚めたのね!?」

「あ、うん……」

 

 返事をする前に、ティナが駆け寄ってきて、俺の肩を掴み──そのままぎゅっと抱きしめてきた。

 

「ばか! 心配したんだから……!」

 

 ぎゅう、と力が強い。

 

「ちょ、ちょっと……息……」

「黙りなさい」

 

 ピシャリとした声。

 怒っているのに、どこか震えている。

 

(……ああ、相当心配かけたんだな)

 

 そう思った途端、胸の奥がちくりと痛んだ。

 抱きしめられたまま、俺は気まずく視線を泳がせる。

 部屋は小さな個室。何となくギルドの雰囲気がする、ソファや机が端に寄せて置かれ、俺の寝ていたベッドがポツンと置いてある。

 無理やりベッドを置いたように見える。

 ……ギルドの仮眠室かなにかか?

 

 しばらくして、ティナはようやく身体を離す。

 目の下には薄くクマ。髪も少し乱れている。

 

(……あんまり寝てないな、これ)

 

 罪悪感が、さらに積み重なる。

 

「心配かけた。ごめん」

「身体は大丈夫なの?」

「だ、大丈夫だ。ちょっと身体がだるいのと……一瞬だけ全身が痛い気がしただけで」

 

 そう言った途端、ティナは腕を組んだ。

 

「それを大丈夫って言うのやめなさい」

「はい……」

 

 ギロリと睨まれた。……でも、それどころじゃない。

 気になっていたことを、まとめて吐き出す。

 

「それで、あれからどうなったんだ。ヴァンは? 他の人は? 魔物とか骸骨仮面の男は?」

「質問多いわね」

 

 ティナは半目になった。

 

「順番に説明するから、ベッドに座りなさい」

「はい……」

 

 俺は起き上がろうとして、ふらついてしまう。

 ティナが「だから無茶するなっての」と言いながら、手を貸してベッドに座らせてくれた。

 座っただけでも、身体が重い。

 でも、さっきみたいな急な痛みはない。

 ティナが息を吐いて、少しだけ口調を落とした。

 

「あれから、一週間経ってるわよ」

「……は?」

 

 思わず声が裏返った。

 

「一週間!?」

「そう。一週間」

 

 喉が乾いて、言葉が出なかった。

 

「最初はね、怪我人の搬送と、残った魔物の掃討で街中が混乱してた。ギルドも戦場の後方拠点みたいになって、寝る暇もないくらいバタバタしてたわよ」

「……で、その間俺は?」

「倒れてた。ここで。ずっと看病されてた」

 

 ティナがさらりと言う。

 

「ギルドの応接室にベッドを運んでもらって、ここで休ませてもらってたの。あんたを狙ってるやつがいるって話もあったしね」

 

 骸骨仮面の男。俺の事を聖女だと盛大に勘違いしている、厄介な勘違い野郎。

 

「あんたに助けられたっていう冒険者たちが、交代でずっとこの部屋を護衛してくれてたのよ。私も護衛とあんたの看病も兼ねて、ここに泊まり込んでた。カイトとノノも手伝ってくれてたわ」

 

(……俺が倒れている間にそんな大事になってたのか)

 

 胸の奥が、申し訳ない気持ちと共に、少しだけ温かくなる。

 

 そして、そこでふと気づく。

 俺は自分の身体を見下ろした。

 ハイレグアーマー。

 そのまま。

 

「……え、俺、これ着たまま一週間寝てたの?」

「ええ」

「いや、普通脱がすだろ!?」

「脱がし方が分かんないんだもん」

 

 即答だった。

 

「それに、下手に触って前みたいに光ったりしても困るし。ヴァンも迂闊にいじるなって言ってた」

「……そりゃまぁ、そうか」

 

(でも、だとしたら俺、ずっとこの格好で看病されてたってことだよな……?)

 

 想像して、軽く死にたくなった。

 

「そういえば、ヴァンは無事か?」

「……あんたが、治したんでしょ」

 

 言われて、俺は視線を逸らした。

 

「……まあ、うん」

「ほんっと、馬鹿」

 

 ティナが言う。

 でも声が優しい。

 

「あれだけ人前で回復魔法を使うなって言ったのに。……でも、あんたのおかげで助かったって言う人たちがお礼言ってたわよ」

「うん……それなら、よかったのかな」

 

 ティナの眉間に皺が寄った後、盛大にため息をつかれる。

 

「ヴァンは出かけてるわよ。あんたが目覚めないから、魔法に詳しい人を連れてくるって行って、王都まで行ってる。 もうそろそろ戻ってくると思うけど」

「あー……うん。何か態々申し訳ないな」

 

 王都までの距離は知らないが、俺が倒れている間に出かけて、まだ帰ってきていないとなると、結構な距離なんだろう。

 ソーン村に行った時は、のどかで良いなと思った。

 でも、急ぎの時に車もスマホも無いとなると──やっぱり結構不便だ。

 

 俺は息を吐いて、背中をベッドに預ける。

 それにしても一週間眠ってたわりに、身体が全然回復していない気がする。

 いや、逆に寝すぎてこんな状態なのか?

 

「大人しくしてなさい。ギルド長とか、カイトにも伝えてくる。みんな気が気じゃなかったんだから」

「……分かった」

 

 ティナが扉に向かいかけて、振り返る。

 

「勝手に立とうとしたら、ぶん殴るわよ」

「物理なんだ」

「効くからね」

 

 そう言い残して出ていった。

 部屋に一人になる。

 

(……さっきの痛み、なんだったんだろ)

 

 俺は胸の前で手を握り、息を整える。

 回復魔法の反動で、身体が変になってる?

 それとも……もっと別の何かか?

 そこで、思いついた。

 

(ステータスオープン)

 

 心の中で呟くと、半透明の板が視界に浮かぶ。

 

 ──そして、数字を見て固まった。

 

【HP:50】

【MP:0】

【状態異常:魔力炉破損】

【状態異常:生命力変換による最大HP半減】

【侵食度】1

 

「……は?」

 

 声が漏れた。

 

(HP半分? しかもMPが回復していない……それに魔力炉に侵食って)

 

 寝起きの頭には情報が多すぎる。一旦冷静になろう。

 侵食という表記。

 確か魔剣の効果に侵食という能力があったはずだ。

 てっきり斬った相手に効果のあるものだと思っていたが、これって俺が何か影響を受けているって事か?

 

 目の前が少し遠のく。

 ……順番に考えていこう。

 

 思い返す。

 ディレクティオ・エリアヒールを撃った瞬間。

 自分の中から、“大事なもの”が根こそぎ持っていかれた感覚。

 

(あれ、マジで命削ってたのかよ)

 

 ぞっとする。

 文字通り、命を半分使って回復魔法を撃った。

 

(後先考えずにやった結果がこれか……)

 

 胃の奥が冷える。

 でも、次に浮かぶのは、倒れていた人たちの顔だ。

 ヴァン、兵士、冒険者。

 血溜まりとうめき声。

 

(……あのまま放ってたら、死んでた)

 

 事実だ。

 だから、俺は……。

 

「……まあ、いいか」

 

(皆が助かったなら、それでいい)

 

 そう思う自分がいる。

 それに、わからない事を色々憶測して考えてもしょうがない、とりあえず後々調べるとしよう。

 

 俺はステータス画面を閉じ、ベッドの端に座り直した。

 身体が重いのは、たぶんHPが半分だからだ。

 MPも空で、よくわからないが魔力炉というものも破損しているらしい。そりゃ、動くたび痛いのもしかたないと無理やり考えることにした。

 そうしているうちに、廊下の足音が近づいてきた。

 

 その後、扉がノックされる。

 入ってきたのは、ギルド長とカイト、そして戻ってきたティナだった。

 

「目が覚めたようだな」

 

 ギルド長はいつも通り落ち着いた声だが、目の奥には疲労が滲んでいる。

 

「アウラ。君のおかげで、多くの冒険者と兵士の命が助かった。礼を言う」

「……いや、俺は」

 

 何か言い訳っぽい言葉が出そうになって、飲み込む。

 言い訳じゃない。事実として、助けた。

 でも、褒められると、居心地が悪い。

 ギルド長は続けた。

 

「報酬の件だが、ギルドから出す。加えて、兵士の隊長が上官に君の働きを伝えたらしい。そちらからも金が出る。正式な手続きは後日になるが、必ず支払うので安心してほしい」

「……あぁ、わかった」

 

 カイトが一歩前に出て、目を潤ませながら言った。

 

「アウラさん……よかった……本当に、よかった……!」

「心配かけたな」

 

 頭をかこうとして、腕が重くて途中で止まる。

 それを見て、カイトが慌ててベッドの横に来た。

 

「無理しないでください! まだ全然治ってないんですから!」

「……すまん」

 

 怒られてるみたいで素直に返事をする。

 そりゃ一週間も起きなかったら心配もするだろう。

 皆に迷惑を掛けてしまった事に、改めて反省する。

 カイトが、空気を変えるみたいに小さく手を挙げた。

 

「あの……お腹、空いてませんか? 何か食べられそうなら、僕、すぐに……!」

「……正直、お腹より」

 

 俺は自分の身体を見下ろした。

 

「この鎧とっとと脱いで風呂に入りたい」

「でしょうね……」

 

 ティナが呆れ半分、同情半分で言った。

 

「それ一週間着っぱなしなんだから」

「俺が一番信じられない」

 

 ギルド長が咳払いをした。

 

「後で入浴の手配はしてやる。ただし、まずは立てるか確認しろ。倒れられても困る」

「ごもっともです……」

 

 俺はベッドの端に手をつき、ゆっくり足を下ろす。

 立とうとした瞬間、またあの“痛み”が来そうで、身体が一瞬こわばった。

 

(HP半分の身体、信用できねぇ……)

 

 でも、ここでうずくまってたら話が進まない。

 息を吸って、立つ。

 ぐらり、と視界が揺れたが、倒れるほどじゃない。

 

「……立てる」

「よし」

 

 ギルド長が頷いた。

 ティナが俺の肩を支えながら、ぼそっと言う。

 

「起きたら叱ってやるって思ってたけど……今は、まず休みなさい。叱るのは元気になってから」

「……優しさが怖い」

「うるさい」

 

 軽く肘が入った。

 全然痛くない優しい加減。変に落ち着く。

 俺はベッドに座り直し、息を吐いた。

 

(……日常に戻るには、まだ遠いな)

 

 でも。

(それでも、一歩ずつだ)

 

 まずは風呂だ。

 何よりも先に、風呂に入ってさっぱりしたい。

 異世界に来ても、姿が変わったとしても風呂好きな所が変わらない辺り、俺はやっぱり日本人のようだな。 

 などと考えていると、ギルド長が俺をじっと見つめた。

 

「それと」

 

 ギルド長は一拍置いた。

 

「最後に一つだけ、話しておく」

 

 空気が、少しだけ張り詰めた。

 

「君のことを聖女と呼ぶ者がいるが」

「違う」

 

 即答だった。

 

「俺、聖女じゃないから」

 

 俺が言うと、ギルド長は短く頷く。

 

「うむ……わかった。そういう事にしておく」

 

 絶対にわかっていない。

 

「聖女違うよ?」

「わかったわかった。とりあえず、君が回復魔法を使えること等については箝口令を敷いている。しかしあれだけの人数が目撃しているとなると、どこまで噂を抑えられるかはわからん」

 

 ギルド長は続けた。

 

「何かあればすぐに俺に言え。くれぐれも気をつけるように」

「わかった。色々と気を回してくれてありがとう」

「気にするな。……あとは骸骨の仮面の男については調査中だが、進展があれば必ず伝える」

「あぁ、わかった。助かる」

「まずは安静にしてゆっくり休んでほしい」

 

 そう言うと、ギルド長は部屋から出ていった。

 ティナたちも「後でまた来るから、ゆっくり寝てなさい」と言い残し、ギルド長に続く。

 

 扉が閉まり、部屋に静けさが戻る。

 

(色々あったけど……とりあえず、今は休むか)

 

 体は重くて、ステータスは散々だ。

 それでも、こうしてベッドに座って息をしている。

 まずは、生きていることに感謝するしかない。

 

 入浴の許可がおりたら、すぐに風呂に入ろう。

 あったかい湯に浸かって、重い身体をほぐそう。

 そう思っただけで、少しだけ気持ちが軽くなった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。