【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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33話 治療、ただし羞恥

 翌日。

 布団の上でごろごろする生活が、まだ続いていた。

 異世界に転移して、魔物と戦って、命を削って、ギルドで寝込んで──その末に辿り着いたのが「合法ゴロゴロ」なの、なんか間違ってない?

 

 身体は相変わらず重くてしんどい。

 外は街が落ち着いてきたらしいのに、俺だけずっと二階の個室で、世界から取り残されてる。

 

 暇、というか、暇を埋める体力も気力もない。

 だから結局、俺は同じことを始める。

 

(ステータスオープン)

 

 半透明の板が視界に浮かぶ。

 こういうの、最初はワクワクしたのにな。今はもう「体調管理表」みたいになってる。

 

【HP:50】

【MP:0】

【状態異常:魔力炉破損】

【状態異常:生命力変換による最大HP半減】

【侵食度】1

 

 うん、何も変わらない酷い表示。

 見慣れてきた自分が怖い。

 次にスクロールして、スキル関係を確認する。

 

【スキルポイント:残り 16】

 

「……あれ?」

 

 思わず声が出た。

 いや、少ない。少ない気がする。

 以前、寄生スライム付きの魔物を倒したとき、確か一体で七ポイントとか入ってたはずだ。

 森門で倒した数を考えたら、もっとあってもいいはずだが……。

 

(……倒しきれてなかった? それとも、何か減る要因がある?)

 

 よくわからない。

 考えてもわからない事は後回しだ。

 ため息をついて、別の欄を見る。

 

【回復魔法 Lv5/5(MAXボーナス:回復力UP)】

 

(回復力UP……今はMP0だから使えないが……)

 

 あの一回で、身体の中の「大事なもの」を根こそぎ持っていかれた感覚。

 思い出すだけで胃の奥が冷える。

 でも、ボーナス自体は悪くない。悪くないどころか、俺の生存率は確実に上がる。

 

 スキル一覧は相変わらず膨大で、スクロールしてもしても終わらない。

 見てるだけで目が疲れるし、頭も痛くなる。

 こんなの、元気なときでも面倒なのに、今の俺に扱える量じゃない。

 

(有効そうなやつ、メモしといた方が良いんだろうか……)

 

 結局、ステータスを閉じて、枕を抱きしめる。

 寝返りを打つだけでも「よいしょ」って声が出そうな身体の重さ。

 ──そのとき。

 

 控えめなノックが聞こえた。

 

「入るよー」

 

 返事をする前に、扉が開く。

 顔を覗かせたのは、銀髪のロングヘアに、フリルとリボンを山ほど付けた──あのエルフだ。

 

「おはよう、アウラ。今日も死にそう?」

 

 開口一番それ。

 声が軽い。テンションが軽い。言葉も軽い。

 内容だけが重い。

 

「……おはよう。人の体調聞くなら、もっとこう、あるだろ」

「あるある。『お加減いかが?』とかね。でもボク、丁寧語似合わないんだよね~。顔が可愛すぎるから」

 

 自分で言うな。

 いや、否定できないのが腹立つ。

 マルルゥは可愛い。可愛いが、性格がひどい。

 マルルゥの後ろから、もう一人入ってきた。

 ヴァンだ。両手に大きな鞄を抱えている。昨日より少し疲れた顔。

 

「材料、集まった。……思ったより大変だった」

「だよねぇ。ボクが指定したの、けっこうマニアックなやつ混ざってるし」

 

 マルルゥがけろっと言う。

 ヴァンが苦い顔になる。

 

「……お前が面倒な材料を指定するからだろ」

「でも必要なんだもん。魔力炉、壊れてるんだよ? 普通の薬草で治るわけないじゃん」

 

 普通の薬草で治らない。

 そう言われると、あらためて現実感が重くのしかかってくる。

 

(普通の怪我ではないしなぁ……)

 

 昨日まで「壊れてますね」って思ってたくせに、今、胸の奥がきゅっと縮んだ。

 治療って言葉の重さが、逆に怖い。

 ヴァンが鞄を床に置きかけて、マルルゥに視線を送る。

 

「どこに置けばいい」

「あっちの机。端に寄せてあるやつ。重いのは下ね」

 

 ここ、応接室だから机がある。ベッドを突っ込んでるせいで狭いけど。

 ヴァンが机の方へ行き、鞄を置く。ずし、と鈍い音。

 マルルゥが俺を見て、にこにこする。

 

「ねぇねぇ、体調変わんないよね?」

「……変わらない。というか、変わる要素がない」

「そっかそっか。じゃ、すぐやろっか。材料揃ったから急いで持ってきたよ。ほら、ヴァンってばね~、ボクには冷たいのに君には優しいんだよ。君が心配で心配でたまらないみたい」

「余計なこと言うな」

 

 ヴァンが即座に遮る。

 こういうやりとりを見ると、確かに昔からの知り合いなんだろうな、とわかる。

 ……そして、昔いろいろあったらしいという気配も、ついでにわかる。

 マルルゥは机の上に材料を並べ始めると、着ているドレスとは真逆の地味なエプロンを付ける。

 見たことのない草。乾いた木の皮。鉱石みたいな塊。粉。瓶。小さな秤。

 手つきがやたら慣れている。軽いノリのくせに、こういうときだけ職人みたいだ。

 マルルゥは鼻歌混じりに草をちぎり、木の皮を削り、鉱石を砕く。ゴリゴリ、ザリザリ。

 混ぜ合わせ、液体を注ぎ、また混ぜる。

 さらにマルルゥの首から下げているペンダントの石を削って、その破片を液体に入れる。

 ……これ、見てるだけで不安になるんだけど。

 

(大丈夫かこれ……? 俺、実験台じゃないよな……?)

 

 マルルゥが俺の視線に気づいて、にやっと笑った。

 

「なに? 怖い?」

「怖いっていうか……色が凄いんだけど」

「安心して。毒々しい色はだいたい効くから」

「安心できるか!」

 

 ヴァンが「……あー、俺は別の事やってくる」と立ち上がる。

 正直、ヴァンがここにいてもできることはない。

 でも、いなくなると、俺とマルルゥの二人きりになる。

 

(いや、それはそれで怖いな!?)

 

「また後で戻る。何かあったら──」

「はいはい、心配しなくていいよ。ボク、優しいからね」

「お前の『優しい』は信用できないんだよ……」

 

 ヴァンが扉を出ていく。

 扉が閉まった瞬間、部屋の空気が変わった。

 静かになったわけじゃない。マルルゥの存在感が、より濃くなっただけだ。

 俺が警戒していると、今度は別のノックが聞こえた。

 

「アウラ、起きてる──」

 

 扉が開き、ティナとカイトが顔を出した。

 ティナは部屋の中を見て、まず机の上の材料と、マルルゥの姿を見つけ──眉をひそめる。

 

「……誰?」

 

 警戒の目だ。鋭い。さすがティナ。

 カイトはカイトで、マルルゥを見た瞬間、固まった。

 

(あ、これ、顔面にやられてるな)

 

 マルルゥが即座に可愛い笑顔を作る。

 さっきまでのニヤニヤが消えて、清楚な微笑みに切り替わるのが早すぎる。

 

「やぁやぁ~。ボク、マルルゥ。エルフの魔法使い。ヴァンクロウの知り合いで、アウラの身体を見に来たんだよ」

 

 ティナが俺を見る。

 俺は頷くしかない。

 

「……ヴァンが連れてきてくれた。俺の体調を見てもらってる」

 

 カイトが一歩前に出る。

 目がきらきらしてる。いや、危険だぞカイト。可愛いかもしれんけど、そいつ男だぞ。

 

「お、おはようございます! カイトです! アウラさんの知り合いで──その、よろしくお願いします!」

「うんうん、礼儀正しい子は好きだよ。可愛いねぇ~」

 

 マルルゥがさらっと距離を詰め、カイトの頬を指でちょん、とつつく。

 カイトが赤くなる。分かりやすすぎる。

 

(やめろマルルゥ。遊ぶな)

 

 ティナの手が伸びた。

 カイトの耳を掴んで、後ろに引っ張る。

 

「痛っ! ティナ!?」

「デレデレしてんじゃないわよ」

「してないよ! 挨拶しただけだって!」

 

 マルルゥが楽しそうに見ている。

 完全に「玩具」だと思ってる顔だ。

 

「ふふ、こういうの好き。いいねぇ、青春」

「青春じゃない。事故よ」

 

 ティナが切り捨てる。

 俺は内心で拍手した。ティナ、強い。対マルルゥ戦の適性がある。

 ティナは俺の方を見て、口調を少し柔らかくする。

 

「昼までギルドの片付け依頼があるから、また後で来るわ。……変なのに絡まれたら叫びなさい」

「叫ぶのか」

「叫ぶのよ」

 

 ティナは真顔だ。

 カイトは耳を引っ張られながらも、マルルゥに向かって一生懸命頭を下げる。

 

「アウラさんのこと、お願いします!」

「うんうん、任せて~」

 

 ……マルルゥの返事が、妙に軽いのが怖い。

 ティナとカイトが出ていく。扉が閉まる。

 部屋には、俺とマルルゥだけ。

 

(やべぇ。完全に二人きりだ)

 

 マルルゥが机の方に戻りながら、ぼそっと言う。

 

「ねぇねぇ、あれくらいの子、勘違いさせるの楽しいよねぇ」

「性格悪すぎるだろ」

「褒め言葉?」

「褒めてない」

 

 マルルゥは肩をすくめ、調合を続ける。

 しばらくすると、机の上には二つの液体ができていた。

 ひとつは、毒々しい紫に近い色の液体A。

 もうひとつは、どろどろした緑色の液体B。

 

(うわぁ……)

 

 見た目が完全に「毒物」だ。

 飲んだらゲームオーバーになりそうな色してる。

 マルルゥがものすごくいい笑顔をした。

 

「さーて、完成。準備してもらおうかな~」

「……何の準備」

「まず上半身脱いで裸になってもらうよ~」

「え?」

 

 素で声が出た。

 

「な、なんで?」

「薬を塗るの。背中側。ほら早く早く」

「いや、早くじゃなくて──」

 

 マルルゥが真面目な顔になった。

 さっきまでの悪ノリじゃない。真面目な目。

 

「魔力炉、身体の深いところにあるでしょ。外から魔力を通すには、薬で“道”を作る必要がある。服が邪魔」

 

 理屈はわかる。

 わかるけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

(いや、今さら恥ずかしいとか言ってる場合じゃないんだけどさ……!)

 

 俺は渋々、上着を脱いだ。

 マルルゥが「うんうん、いい子」と言う。腹立つ。

 そして「うつ伏せになってね~」と指示され、俺はベッドの上でうつ伏せになる。

 

 次の瞬間。

 背中に、ひんやりして、べとつく液体が塗られた。

 

「ひゃっ……!」

 

 自分でもびっくりするくらい可愛い声が出た。

 恥ずかしい。

 マルルゥが何も気にせず、ペタペタ塗り広げていく。

 

「冷たいでしょう? でもすぐ熱くなるよ」

「熱くなるって何が──」

「効いてくるってこと。じっとしててねぇ」

 

 背中に塗られる感覚が、ひたすら落ち着かない。

 触れられるのが嫌というより、触れ方が雑に見えて雑じゃないのが嫌だ。

 マルルゥは楽しそうに塗っているように見えて、ちゃんと均等に塗っている。

 

 しばらくして、マルルゥがぽつっと言う。

 

「ねぇ、質問していい?」

「……嫌だって言ってもするんだろ」

「する」

 

 即答かよ。

 

「君さ。どうやって、そんな高度な魔法覚えたの?」

「……」

 

 胸の奥が一瞬、ひやっとした。

 スキルポイント。女神。あのシステム。

 それを話すわけにはいかない。話したら、俺の“異物感”が一気に増す。

 マルルゥの声は軽い。

 でも内容は鋭い。

 

「命を削るような大魔法なんて、普通の人間が使える魔法の範疇、超えてるよ」

 

 背中に塗られた薬が、じわじわ熱を持ち始める。

 それと同時に、俺の頭も熱くなる。焦りだ。

 

「ボクらエルフみたいな長寿種じゃないのに、魔法の頂きみたいな魔法を“ただの人間”が使えるとは思えないんだよねぇ」

 

 ただの人間。

 その言い方に、少しだけ引っかかる。

 マルルゥは俺をただの人間だと思ってる。

 ただ、そのおかしさの正体を、俺は説明できない。

 説明したら、もっと面倒なことになる。

 

「……使えるものは使える。俺も、なんでかはわからない」

 

 マルルゥは「ふ~ん」と鼻を鳴らした。

 含みのある返事だ。

 信じてないというより、面白がってる感じがする。

 

「ま、いいや。今は治す方が優先だし」

「……助かる」

 

 背中の熱が強くなってくる。

 じわじわ、じゃない。じりじり、だ。

 体の内側まで温まるような、変な熱。

 

「……なんか熱いんだけど」

「うん、効いてる効いてる。頃合いだねぇ」

 

 マルルゥが俺の身体を起こさせる。

 上半身裸のまま、ベッドに座る形になる。

 俺は腕で胸元を隠したくなるが、診てもらうのにそれもどうなんだと悩む。

 結局、落ち着かないまま座っていると、マルルゥが毒々しい液体Aを持ってきた。

 

「これ、飲んで」

「……これを?」

「これを」

 

 もう一度言うな。現実が確定する。

 俺は液体を見つめる。紫。どう見てもヤバい。

 しかも、さっきマルルゥが首から下げているペンダントの石を削って、入れていたのを見ている。

 

「さっき石入れてたよな?」

「入ってるよ」

「飲むのか……?」

「飲むの。ボクが身につけて魔力を同化させてる特別な石だからね。体内に入れたあと、ボクの魔力で中をいじるために必要」

 

 いじるって言い方が怖い。

 でも治療だ。治療なんだ。たぶん。

 

(……ここで飲まなかったら、治らないんだよな)

 

 俺は覚悟を決めて、一気に口をつけた。

 

「──っっ!!」

 

 酸っぱい。青臭い。苦い。えぐい。

 草を煮詰めた汁に鉱石の粉を混ぜて腐らせたみたいな味。

 喉が拒否する。胃が拒否する。全身が拒否する。

 

「おえっ……!」

 

 涙が出た。

 マルルゥが嬉しそうに笑う。

 

「いいリアクション。最高」

「お前ほんと……性格悪いな……!」

「褒め言葉だね」

 

 ちがう。

 マルルゥは俺の腹に手を当て、聞いたことのない言葉で呪文を唱える。

 途端に、腹の奥がじんわり熱くなる。

 さっきの背中の熱とは別の熱。内側から広がる感じ。

 

(うわ……これ、魔力……?)

 

 何かが流れ込んでくる感覚。

 体の中を、誰かが指でなぞっているような──いや、もっと生々しい。

 内臓を“触られてる”みたいな感覚だ。

 

「っ、気持ち悪……」

「大丈夫大丈夫。気持ち悪いのは正常」

「正常って何だよ!」

 

 熱が増す。顔が熱い。耳まで熱い。

 恥ずかしいとかじゃない。これは単純に、体内の温度が上がってる。

 マルルゥがふっと手を止めた。

 

「うーん。もっと直接、魔力送りたいなぁ」

「……直接?」

「うん。今のだと、足りない」

 

 嫌な予感がする。

 俺の中の警報が、さっきより大きく鳴る。

 

「……どうやるんだ」

「キスで体内に魔力を送りたいんだけど、いいかな?」

「やだ」

 

 即答だった。

 即答できた自分を褒めたい。

 マルルゥが「え~」と不満そうに頬を膨らませる。

 その顔が可愛いのが余計に腹立つ。

 

「でもそうじゃないと、多くの魔力送れないんだけどなー」

「別の方法は」

「あるよ。時間かける方法。すっごく時間かかるけど」

「時間かかるのは──」

 

 俺は言いかけて、止まった。

 時間がかかる=治るのが遅い。

 治るのが遅い=動けない時間が長い。

 動けない時間が長い=いろいろ面倒が増える。

 そして何より、骸骨仮面の男がまだどこかにいる。

 

(……悠長にしてる場合じゃない)

 

「もう一つは、お尻の中にボクの手をつっこn」

「キスがいいなぁ!」

 

 男とキスするのは嫌だが……マルルゥの見た目だけなら、美少女だ。

 大丈夫。見た目は美少女。問題ない。俺は耐えられる……!

 マルルゥがニヤニヤする。

 

「もっとちゃんとお願いしないと。ボク、やってあげないよ」

「お願い?」

「そうそう。ほら、言って。『お願いします』って」

「……調子に乗りやがって」

 

 こいつ本当に良い性格してやがるな。ヴァンが苦手なのも納得だ。

 腹の底で悪態をつきながら、俺は目を逸らして言った。

 

「……お願いします」

「ふひ……いいよぉ。やってあげるよ」

 

 満足そうに頷くな。

 マルルゥが近づく。顔が近い。

 銀髪がさらりと落ちる。香りがする。薬草じゃない。甘い匂い。

 心臓が変な跳ね方をした。

 

(待て待て待て、俺、何してんだ……!?)

 

 頭では治療だとわかってる。

 でも身体は別の反応をする。恥ずかしい。熱い。逃げたい。

 逃げたら治らない。

 マルルゥの唇が──触れた。

 

 その瞬間。

 

 今までとは比べものにならない量の“何か”が流れ込んできた。

 魔力。たぶん魔力。

 熱い。眩しい。息が止まりそうになる。

 

(うわっ、なにこれ……!)

 

 口から口へ、って表現が頭をよぎるだけで恥ずかしくて死にそうだ。

 でも、それ以上に驚きが勝つ。

 俺が持ってた魔力とは質が違う。濃い。重い。深い。

 長く生きたエルフの魔力ってこういう感じなのか? って思う前に──

 

 ドアがガチャリと開いた。

 

「ノノがお見舞いに来てくれたわよー……」

「アウラちゃん! 目が覚めてよかったよー……!」

 

 ティナとノノが入ってきた。

 

 そして。

 

 上半身裸の俺が、マルルゥとキスしている場面を、ばっちり見た。

 時間が止まった。

 ティナが固まる。

 ノノが固まる。

 俺も固まる。

 マルルゥだけが、目を細めて──。

 

「やぁやぁ。いいタイミング」

 

 ペロリと唇を妖艶に舐めるマルルゥ。

 

(最悪だああああああああ!!)

 

 声にならない叫びが、喉の奥で爆発した。

 ティナの目が、ゆっくり俺に向く。

 その目が言っている。

 

 ──説明しなさい。今すぐ。

 

 俺は反射で口を開こうとして、上手く声が出なかった。

 熱い。恥ずかしい。体の内側が変な感じ。

 そして何より──。

 

(違う! 違うんだ! これは治療で──!)

 

 言い訳が、言い訳に聞こえる未来しか見えない。

 ノノが、ぽつりと呟いた。

 

「……アウラちゃん、元気になったんだね……?」

 

 違う! そういう意味じゃない!!

 俺は頭を抱えたくなったが、上半身裸でやると余計に惨めだ。

 マルルゥが楽しそうに言った。

 

「安心して。治療だよ? それにアウラにキスして欲しいって、お願いされたんだ」

「……ッ!! 言ってない! いや、言ったけど、そう言う意味じゃなくて!」

 

 ティナのこめかみに、青筋が浮かんだ。

 

「治療……ねぇ?」

 

 声が低い。

 俺は全力で頷いた。

 

「ち、治療! 治療! 魔力を送る必要があって! で、こいつが──!」

「こいつ」

 

 マルルゥが笑う。

 ティナが目を細める。

 

「……説明は後でいいわ。まず、アウラ。服着なさい」

「はい……」

 

 俺はしゅんとなりながら、上着を探した。

 日常って、こういう形で戻ってくるんだな。

 

(……最悪の形で)

 

 背中の熱と、腹の熱と、恥ずかしさで、顔が真っ赤なのが自分でもわかる。

 マルルゥは「ふふふ」と笑っている。

 

(こいつ、絶対わざとやっただろ……)

 

 俺は心の中で、静かに誓った。

 

(治ったら、こいつに一回くらい、仕返ししてやる……)

 

 ……いや、無理だな。

 絶対に逆に遊ばれる。

 俺は深くため息をついた。

 

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