【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
昼飯を食い終わって、結局、冒険者たちに全部奢られてしまった。
最初は断ったんだが……。
「いやいや、そこまでしなくていいって! 俺も普通に払えるし!」
そう言ったのに、向こうは向こうで引かない。
「命の恩人に奢らせてくださいよ! こっちの気が済まないっす!」
気が済まないとか言われると、こっちも変に意地張れない。
前世なら、気まずくて曖昧に笑って終わらせてた気がする。
そして後で一人で「あの時ああ言えばよかった」って後悔するまでがセット。
でも今は、目の前にティナがいて、ノノも居る。
俺は、ちゃんと頭を下げた。
「そこまで言ってもらえるなら、ありがたく頂くよ」
冒険者たちは満足そうに笑って、「それでいいっす!」とか「美人な上にかっけえ!」とか、適当なことを言いながら席に戻っていった。
(俺のどこがかっこいいんだ……)
そこまで考えて、脳内に嫌な単語が浮かび上がる。
(……桃姫だぞ?)
尻が丸出しで桃姫。
いや、もう一つの候補、スカルクイーンも大概だけど。
(どっちになっても地獄だ……)
その単語が脳内でリフレインして、危うくまた頭を抱えそうになる。冒険者たちの前でそれをやったら、余計に変な噂が立ちそうだ。
いや、もう十分変な噂になってるんだけど。
(やめよう。考えたら負けだ)
精神衛生のために、俺は思考を打ち切った。
腹は満たされた。胃は幸せだった。心も少しだけ温まっていた。
ティナとノノに左右から念のため支えられて、俺たちは白鹿亭へ向かう。
街の石畳は相変わらず硬いが、さっきより足取りは軽い。
調子に乗ると足がもつれそうになるが。
ティナが俺の顔を覗き込んでくる。
「……大丈夫そう? 顔色はさっきより良くなってる気がするけど」
「あぁ。かなり回復してると思う。飯と風呂のお陰だな」
「単純ね」
「単純で悪いか」
ティナが小さく笑う。笑ったのが分かって、少しだけ嬉しくなった。
ノノが前を歩きながら振り返って笑う。
「でもでも、元気になってきてよかったよー!」
「あぁ、ありがとう。本当に皆のお陰だな」
白鹿亭が見えてくる。
いつもの、木造の外観。看板の白い鹿の絵。玄関先に積まれた荷物。あの感じ。
──帰ってきた、って気がした。
白鹿亭の扉を開けると、女将さんがカウンターの向こうにいた。
相変わらず背筋が伸びていて、目が強い。笑うと優しいのに、怒らせると絶対怖いやつだ。
女将さんは俺を見るなり、声を掛けてきた。
「おや、アウラ」
その呼び方が、妙に嬉しい。
名前で呼ばれるって、こんなに安心するものなんだな。
「この間の騒動で大変だったことはカイトたちから聞いてるよ。……よくやったね」
女将さんの言葉は、飾り気がない。だから余計に刺さる。
俺は照れて視線を逸らした。
「あぁ、いや……たまたまうまくいっただけで……」
女将さんは鼻で笑う。
「あんたのお陰で助かったって言ってる奴らが大勢いるんだ。胸を張りな」
胸を張れ。
その言葉に、俺の中の何かが少しだけほどけた。
(胸を張るって……慣れてないんだよな)
自分の行動を誇るのが怖い。調子に乗ったら、次はもっと酷い目に遭う気がして。
前世では、ちょっとでも自分を褒めると、すぐに足元を掬われた。だから、謙虚でいることが癖になっていた。
でも──
女将さんがそう言ってくれるなら、少しぐらい、信じてもいいのかもしれない。
俺は小さく頷いた。
「……ありがとうございます」
「いいから、ちゃんと休みな」
ノノが女将さんにぺこりと頭を下げる。
「女将さん、今日はお風呂とご飯でアウラちゃん回復させてきました!」
「ふふ……頼もしいね。いい友達が居て良いじゃないか」
ティナも軽く会釈する。
「私はこれからギルドに顔出してきます。夕方頃にはカイトと戻ります」
女将さんが頷いた。
「行っておいで。夕飯は食うんだろ?」
「はい、カイトも食べます」
ノノは、じゃあ私はそろそろと切り出す。
「面白い物とか無いか市場見てくるね」
ノノは俺に向かって手を振る。
「じゃあアウラちゃん、無理しないで寝ててねー!」
「おう。ありがとな」
ティナも俺を見て、少しだけ眉を寄せる。
「……ほんとに休みなさいよ。調子乗って動いたら怒るから」
「分かってるって。俺だってまだ万全じゃない自覚はあるさ」
「だったら、ちゃんと寝てなさい」
母親か。
……いや、母親って言うと怒られそうだな。
ティナは姉御肌っぽいところもあるけど、こういう時は完全に保護者だ。
(でも、ありがたい)
誰かに心配されるのは、前世では滅多になかった。会社の上司は「大丈夫か?」って聞いてきたけど、あれは建前だ。本心では「休むなよ」って圧があった。
でも、ティナの心配は本物だ。
ノノとティナが出ていくのを見送って、俺は女将さんに声を掛けられた。
「部屋はティナが借りたままにしてるから、前と同じ部屋に行きな」
「助かります」
「いいから休んでおいで。顔に疲れが残ってるよ」
見抜かれてる。
俺は苦笑して、階段へ向かった。
ギシ、と木の階段が鳴る。手すりが少し擦れている。いつもの匂い。木と、少しだけ酒の匂い。
それと、料理の匂いが混ざっている。
部屋に辿り着くと、俺は扉を開けて中へ入った。
(……うん。ここなら安心して倒れられる)
俺は靴を脱いで、ベッドに腰を下ろして、そのまま仰向けになった。
頭の中の音が、少しずつ静かになっていく。
身体は治りつつある。痛みはもう無い。
マルルゥが治してくれたおかげだ。
でも、疲れは残っている。
戦って、走って、回復して、死にかけて、治されて、風呂入って、飯食って……。
そりゃ疲れる。
横になると、眠気が襲ってきた。
(風呂に入って、美味しいもの食べた後だ……眠くなるのも無理はない)
でも、寝る前にやることがある。
俺は目を閉じかけて、ふと、思い出した。
(……そういや、スキルについてちゃんと考えないといけないんだよな)
ここ最近、流れに流されすぎていた。
戦闘があって、騒動があって、治療があって、日常が戻ってきて。
でも、根本は何も変わってない。
俺はこの世界で、生き残らないといけない。
そして生き残るための手札は、スキルだ。
ベッドで横になったまま、俺はステータス画面を開いた。
視界の端に、いつものウィンドウが浮かぶ。半透明で、でも文字ははっきり見える。
スキルポイント:残り 16
今まで取ったスキルでも、アクロバティックみたいに明確に取って変わったものもある。
あれは本当に取ってよかった。身体の動きが根本から変わった。
だがそれでもヴァンや骸骨仮面の男には届かなかった。
剣術のスキルで剣の腕は上がっているんだろうが、ステータスの差を感じる。
根本的な身体能力で差がある以上、剣術だけでは対等には渡り合えない。
そして、魔法についてはまだ怖い。
魔力炉が壊れたのも、ディレクティオ・エリアヒールで命削ったのも、全部魔力が絡んでる。
魔法や魔力に関しては、命に関わる。ちゃんと考えたほうが良いだろう。
自分に言い聞かせて、俺はスキル一覧を眺める。
指先の感覚で、画面を下にスクロールする。ずらっと並ぶ文字。
魔法研究。魔力操作。魔力回復向上。魔力増幅。魔力吸収。魔力変換率向上……。
まだまだスクロールすると下にありそうだが、とりあえず魔法や魔力関連で目に入ったのはこの辺だ。
(攻略サイトが欲しい……)
心の底から思った。
前世なら、こういうゲーム的システムは絶対wikiがある。検証勢がいて、最適解が共有されてて、初心者はそれ見て育つ。
「序盤はこのスキル必須!」とか「このスキルは罠!」とか、そういう情報が溢れてる。
でもここは現実だ。異世界だ。wikiなんてない。
(ないものねだりしてもしょうがない。読むしかないか)
俺は一つずつ説明文を確認していく。
まずは魔力回復向上。
──魔力の回復速度が上がる。
つまりMP回復が早くなる。
「うーん……」
確かに便利だ。長期戦なら強い。でも俺、バカスカ魔法を撃つタイプじゃない。
そもそも魔法が怖い。魔力炉が壊れた時のあの感覚を思い出すだけで、背中が冷える。
(とりあえず保留)
次、魔力増幅。
──魔力を増幅し、最大MPを上昇させる。
これだ。
俺は最大MPが足りなくて、結局HPを削ってMPに変換した。
命がゴリゴリ削れる感覚。二度と味わいたくない。
(MPが足りれば、HP削らなくて済む。つまり安全)
安全こそ正義。
次、魔力吸収。
──相手の魔法を受けた際、または魔力を持つ物を攻撃した際にMP回復。
吸収って響きが強い。便利そうだけど、条件がある。
相手の魔法を受けた際って、受けたくない。魔法を受ける時点で危ない。
(回復のために殴られるのは本末転倒だろ……)
魔力を持つ物を攻撃した際、ってのは使えるかもしれないが、それも相手次第だ。
(これも保留)
次、魔力操作。
──魔力の操作技術を高め、魔法を効率よく使うことで消費MPを下げる。
消費MPが下がるのは強い。けど、これも魔法の運用が前提だ。
必要なら取るべきかもしれない。
魔法が怖いからこそ、効率よく使って負担を減らす……という考え方もある。
そして、魔法研究。
──魔法に関する理解度を高める。知力にボーナス。
消費スキルポイントは2。
(2って……アクロバティックと同じ匂いがする)
アクロバティックも、取った後に体の感覚が変わった。世界の見え方が変わった。反射神経が上がって、身体の使い方が分かるようになった。
これもそういう"急に変わる系"かもしれない。
(魔法に関する理解度……知力ボーナス……)
頭が良くなる、ってことだろうか。
でも、知力が上がったら、魔法の扱いも上手くなるんじゃないか?
そしたら、魔力炉への負担も減る?
(……分からない。でも、気になるな)
最後、魔力変換率向上。
──HPをMPに変換する際の変換率を上げる。
つまり、ディレクティオ・エリアヒールで命がゴリゴリ減ったのが緩和される、ってことだろう。
……でも。
ディレクティオ・エリアヒールは、二度と使いたくない。
マルルゥに治してもらったとはいえ、完全には治ってない。
魔力炉は治ったが、最大HPは減少したままだ。
次に使ったらもっと悪化する可能性が高い。
それでも。
また同じような場面があって、目の前で多くの人が傷ついていたら──?
その問いが、喉の奥に引っかかる。
(……やるんだろうな。俺)
やりたくない。でも、やる。
そういう自分が、怖い。
でも、だからこそ。
備えは必要だ。
俺はベッドの上で息を吐いた。
「……よし」
決めた。
魔法は怖い。怖いが、便利だし強いのは間違いない。
ステータスが上がるようなスキルを取って、ヴァンのように骸骨仮面の男と戦えるほどになるのに、どれだけのステータスが必要なのかわからない以上、魔法に頼らざるを得ない。
なけなしの16ポイント。
まずは魔力増幅を取る。
最大MPが増えれば、HPを削る場面を減らせる。単純だけど強い。直接的に命を守れる。
魔力増幅は、消費ポイント1でレベルを上げられる。
俺は迷わず、レベルを五つ上げた。
ステータス画面の情報が更新される。
【魔力増幅 Lv5/5(MAXボーナス:知力+2)】
・魔力を増幅し、最大MPを上昇させる。
「おぉ……ボーナスで知力も上がるのか」
頭が良くなるんだろうか。
……特に何も感じない。
急に賢くなったら、それはそれで怖いし。でも、数値が上がってるなら、きっと何か変わってるんだろう。
そして、ステータスのMP欄が変わっていた。
【MP:20/90】(回復中)
「おお!?」
思わず声が出た。
元のMPの最大値が30だったから、かなり増えている。
MPもさっき確認したときよりも回復して、20になっている。
(すげえ……これで少しは安心できる)
MPが90あるなら、足りないって状況は減るはずだ。
いや、魔法の消費がどれくらいかによるけど、少なくとも希望は見える。
何より、HPを削らなくて済む可能性が高くなった。
それだけで、胸の奥が少し軽くなる。
次。
魔法研究。
説明文だけ見ると地味だが、消費2ってのが引っかかる。
しかも知力にボーナスがある。アクロバティックみたいに、何か根本的な変化があるかもしれない。
(試しに、1だけ取ってみるか)
俺は指先の感覚で、ポイントを振った。
【魔法研究 Lv1/3】
・魔法に関する理解度を高める。
・知力にボーナス。
その瞬間。
──ぞわり。
頭の奥が、勝手に整理される感覚がした。
(うわ……何これ)
気持ち悪い。
知らないはずのことなのに、「理解している」感覚。
文字で説明されたわけじゃない。誰かに教わったわけでもない。
なのに、頭が勝手に「そうだ」と納得している。
(……スキルって、こういうところが怖い)
でも、そのおかげで今覚えている魔法の構造が少しだけ見える。
今までは「使い方がわかるだけ」だった。
それが「どうしてそうなるか」が分かる。
魔力がどう流れて、どう固定されて、どう作用して、効果が出るのか。
そして──どれくらいの魔力を消費するのか。
(……これ便利だな)
気持ち悪いけど。
知識が頭に流れ込むのは、やっぱり不気味だ。でも魔法を使う上で、これは必要な知識なんだろう。
俺は知力の数値を見た。
知力:5+7
「……え?」
さっきの魔力増幅で+2されてる。ということは──魔法研究Lv1で+5?
(……強すぎないか?)
とはいえ身体能力と違って、直感的な実感がない。
頭が良くなったと言われても、いまいち分からない。
でも数値が上がってるのは事実だ。
アクロバティックも、取った瞬間は「何か変わった?」って感じだった。
後から動きが変わって、反射が変わって、世界の見え方が変わった。
知力もいずれ実感が出るんだろう。
(今は、これ以上は保留だな)
スキルポイントを確認する。
残りは9ポイント。
さて、ここで前から気になっていた空間魔法だ。
スキル一覧の中で、俺の目を引いたのがこれだ。
説明文を読む。
──空間を操作する魔法。アイテムボックスやワープなど、空間に干渉する。
(絶対便利だろ)
アイテムボックスがあれば荷物問題が一気に解決する。
冒険者としては、これがあるだけで生活が変わる。
食料も保管できるし、ノノの依頼みたいな時だって多く荷物が持っていける。
そしてワープ。
今後、骸骨仮面の男みたいな強敵が現れた時、今の俺じゃ太刀打ちできない。
そこでワープだ。逃げる。生き延びる。
カッコ悪いかもしれない。情けないかもしれない。
でも、ゲームじゃないんだ。
命あっての物種って奴だな。
空間魔法の消費ポイントは3。
残り9なら、レベル3まで上げられる。
俺は迷わず、三段階上げた。
ステータス画面が更新される。
【空間魔法 Lv3/5】
・空間を操作する魔法(アイテムボックス・ワープ等)を習得する。
・レベルが上がるほど、扱える規模と精度が増す。
「……よし」
そして、習得魔法が表示された。
【習得魔法】
・アイテムボックス Lv3
・ワープ Lv3
・空間制御 Lv3
「おぉ、三つ!」
(魔法研究のおかげか……説明をいちいちタップしなくても、なんとなく分かる)
頭の中に、魔法の構造が浮かんでくる。
これが魔法研究の効果なんだろう。知識が勝手に流れ込む感覚。
やっぱり気持ち悪いけど、便利だ。
俺は一つずつ確認する。
【アイテムボックス Lv3】
・非生物を収納できる空間を生成する。
・アイテムボックス内は時間が停止している。
・レベルの上昇により、収納できる量が増える。
「やっぱアイテムボックスは便利だな」
非生物だから、生きている物は入れられないのか。
アイテムボックス内は時間が停止しているから肉とか入れても腐らないのは大きい。
多くの食材を持ち歩けるのは強い。ノノにスパイスもらっても保管できる。パンも保管できる。
つまり、食生活が豊かになる。
(俺、結局食い物のことばっか考えてないか?)
いや、いいんだ。食うことは生きること。食えなきゃ戦えない。
それに、装備も入れられる。服や下着を多く入れておけば、ハイレグアーマーで服が吹き飛んだ時でもすぐに着替えられる。
(これは……革命だ)
次。
【ワープ Lv3】
・現在地を登録しておけば、そこに戻れる。登録は上書きできる。
・登録できる地点数は、ワープのLvと同じ。
・転移する人数が増えるほど消費魔力増加。
「ワープのLvが3だから登録地点は三つって事か」
便利すぎる。
白鹿亭とかギルドを登録しておくとして……あとはいざという時の逃げ場所とか?
とはいえ現在地を登録するから、離れた場所を登録するには、まずはそこに行かなくちゃいけない。
ソーン村を登録しておくと、ノノの依頼を受けた時に便利だろうが……。
しかし、転移する人数が増えると消費魔力増加、か。
強敵から逃げる際に、皆と一緒に逃げるとなると結構なMPが必要という事か。
(90あるから大丈夫……だと思うけど)
魔法研究のお陰か、今までと違って魔法の消費MPが何となく感覚で分かる。
だが念の為にも後で試さないと怖い。
そして最後。
【空間制御 Lv3】
・空間を歪めたり、破断させる。
・歪みが戻る際や破断時に衝撃が発生し、周囲を巻き込む。
・制御を誤ると甚大な被害を出す危険有。
「……えぐ」
字面が物騒すぎる。
空間を破断って何だよ。世界のルール壊してるだろ。
(これ、使い方間違えたら味方も巻き込むやつかも……)
しかも、「制御を誤ると甚大な被害」って。
甚大な被害。
その言葉の重さが、じわじわと胸に沈んでくる。
(……使うのが怖い)
でも、強敵相手には効くかもしれない。
骸骨仮面の男みたいなのに、空間そのものを歪ませるのは、突破口になり得る。
ただし、リスクも高そうだ。
(後で、試す。安全な場所で。誰もいない場所で)
それまでは、封印だ。
スキルポイントを確認する。
スキルポイント:残り 0
「ふぅ……使い切ったな」
ベッドの上で、俺は天井を見上げた。
少しだけ、安心した。
手札が増えた。逃げ道もできた。MPも増えた。知力も上がった。
でも同時に、妙な怖さもある。
スキルを取っただけで、頭の中に知識が流れ込む。
空間を破断するとか、時間停止の収納とか、転移とか。
──俺、本当に人間なのか?
(そういや、ステータス画面の種族は人間(?)になっていたな……。もしかして本当に人間じゃなかったりして)
自嘲して、俺は小さく息を吐いた。
眠気が、また戻ってくる。
身体が「休め」と言っている。頭も疲れてる。スキルを取っただけなのに、妙に疲労感がある。
(よし、昼寝しよっと)
いろいろ試すのは、後でいいや。
ワープの登録とか、アイテムボックスの容量とか、空間制御の危険性とか。
考えたらキリがない。
それに、もし空間制御を使って失敗したら──白鹿亭ごと吹き飛ばしかねない。
(絶対に、人のいない場所で試す)
それだけは守らないと。
俺は目を閉じた。静かな部屋。廊下の足音も遠い。
白鹿亭の匂い。木と、酒と、料理の匂いが混ざった、あの匂い。
そして、胃の満足感。
(……生きてるな)
その実感が、じんわりと胸に広がる。
前世では、生きてる実感なんてなかった。
ただ働いて、ただ寝て、ただ起きて、また働いて。
誰かと笑うこともなかった。美味しいものを食べて幸せになることもなかった。
でも、今は違う。
ティナやカイトがいて、ノノ達もいる……。
風呂に入って、美味しいものを食べて、笑って、心配されて。
(こういうのが、生きるってことなんだろうな)
そして、これを守るために──俺は強くなる。
スキルを取った。手札を増やした。
次は、それを使いこなす番だ。
俺はステータス画面を消すと、目を閉じて意識を手放す。
ただ、静かで、温かい闇の中で、俺は眠った。
身体が休まる感覚。
魔力炉が、ゆっくりと回復していく感覚。
そして、心が落ち着いていく感覚。
(……ああ、これでいいんだ)
そう思いながら、俺は深い眠りの底へ沈んでいった。