【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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49話 魔導国家の影

 地面は抉れ、土は焦げ、ところどころにまだ煙が残っている。

 風に混ざった焦げ臭さが鼻を刺し、喉の奥に金属みたいな味が残る。

 そして何より──視線が痛い。

 

 俺は、背中から首筋にかけてじわじわ熱くなっていくのを感じていた。

 羞恥の熱だ。

 

 薄暗い街道の脇に、松明の輪が出来ている。

 その輪の中心に立っているのは、俺だ。

 そして、俺の──尻だ。

 後ろから、冒険者たちのざわめきが波みたいに押し寄せる。

 

「ふーん、えっちじゃん」

「一晩幾らで寝てくれるんだ?」

「バーカ、森渡りの女だろ。ぶっ殺されても知らんぞ」

「でもあんな格好してるんだから、ワンチャンないか?」

 

 声の一つ一つが、心臓に刺さる。

 もう自分でどこが刺されてるのか分からない。全部だ。俺の尊厳が全部だ。

 

(もう帰りたい……)

 

 心の底から、そう思った。

 その瞬間だった。

 

 そこで──パンパン、と乾いた音が鳴った。

 やけに大きく、空気を叩き潰すみたいな音。

 サラが前に出て、松明の光の中で手を叩いていた。

 表情は淡々としているのに、眼だけが鋭い。

 っていうか普通に怖いんですけど。

 

「よし、片付いたみたいだし戻ろうぜ」

 

 声が通る。

 命令でもお願いでもない、決定の声だ。

 冒険者たちが「えっ」と言って立ち止まりかける。

 だがサラは、続けて言った。

 

「見世物じゃねぇ。帰って飲み直せ」

 

 たったそれだけ。

 なのに空気が変わった。

 冒険者たちは、あからさまにサラを避けるように視線を逸らし、ぞろぞろと宿の方へ戻り始める。

 誰かが名残惜しそうにこちらを見て──サラの目に気づいて、秒速で向きを変えた。

 

(……この人、ほんとに頼もしい。怖いけど)

 

 フーバさんも、上半身裸のまま首を傾げて、ぽりぽりと頭を掻いた。

 

「うーん、アストルではこういうのが流行ってるのか~。若いって良いなぁ……」

「流行ってねえよ!」

 

 俺が叫ぶと、フーバさんは「え、そうなの?」と不思議そうにしながら、のんびり宿へ戻っていく。

 ……静かになった。

 ようやく、視線の刃が少しだけ引いた。

 代わりに残ったのは、地面の傷と、胸の奥の冷えだ。

 さっきまでの戦闘の熱が嘘みたいに、現実の重さがじわじわと戻ってくる。

 

 宿の方から、駆け足の音が近づいてきた。

 ミゲルだ。

 

「……何があったんだ?」

 

 ミゲルの声は低い。

 怒ってるというより、腹の底から警戒している感じがする。

 俺は一瞬、言葉に詰まった。

 こういうのは隠しても意味がない。

 むしろ隠すほど後で厄介になる。

 

「……マルルゥが、使い魔で監視してた奴を見つけた。で、引きずり出した。……そしたら、襲ってきた」

 

 ミゲルが目を細める。

 

「何者だ?」

「分からない。でも男と女の二人組だったな」

 

 ミゲルの視線が俺の腰の魔剣に移り、次に──鎧に落ちる。

 そこで一瞬だけ眉が動いた。

 何その格好……って顔だ。言うな。分かってる。

 ミゲルは一歩、ぐちゃぐちゃになった街道へ出て、地面を見回した。

 

「とはいえ、これはやり過ぎだろ……」

 

 確かに。

 街道は抉れ、土が盛り上がり、木の根が露出している。

 竜巻の跡がくっきりと残っていた。

 マルルゥが、きょとんとした顔で言う。

 

「あー、これだと馬車通れないか~。ちょっと待ってて」

 

 そう言って、地面に手をついた。

 次の瞬間、地面がうねった。

 ボコボコに抉れていた街道が、ゆっくりと元に戻っていく。

 まるで時間が巻き戻るみたいに、土が盛り上がり、石が元の位置に収まる。

 木の根は土の中に潜り、地面は平らになる。

 数秒後、街道は何事もなかったように綺麗になっていた。

 

(何だこれ、地形操作魔法か?)

 

 ミゲルが感心したように呟く。

 

「すげぇな、あんたの魔法」

「えへへ、そうでしょそうでしょ」

 

 マルルゥは得意げに胸を張る。

 

(……こいつ、一体どこまでできるんだ)

 

 俺は改めて、マルルゥの実力を思い知った。

 

 ティナが宿の方を振り返った。

 目の鋭さが戻っている。

 

「私たちも宿に戻りましょ。また何か現れるかわかんないし」

 

 カイトも、うんうんと頷いている。

 

「そうですね。早く戻りましょう」

 

 皆が宿に向かって歩き出す。

 だがシャロンだけが、動かない。

 シャロンは、俺の鎧をじっと見つめている。

 その目には、何か──驚きと、確信と、そして迷いが混ざっていた。

 

(何を見てるんだ? ……尻?)

 

「シャロンさん?」

 

 声をかけると、シャロンはびくっと肩を揺らし、慌てて首を振った。

 

「あ……す、すみません! ……その、いえ、何でもないです……!」

 

 そう言って、彼女は早足で歩き出す。

 その後ろ姿は、どこか心ここにあらず、という感じだった。

 

(何か言いたそうだったな)

 

 近くにマルルゥがいたから、話しかけづらかったのかもしれない。

 それとも──

 

(あの鎧を見て何かを思い出したのか?)

 

 答えは出ない。

 俺も宿へ向かって歩き出した。

 そして宿の一階に入った瞬間、声が飛んできた。

 

「ヒュー! めちゃくちゃ良い女じゃん!」

「その格好誘ってる奴だろ」

「一緒に飲もうぜ~!」

 

 さっき外に出て来なかった冒険者たちが、酒の勢いで声をかけてくる。

 俺が顔を引きつらせた、その瞬間。

 サラが、すっと間に入って笑った。

 邪悪な心の底から楽しんでいるような笑みを浮かべながら。

 

「飲みたいのか?」

 

 男たちが「えっ」と声を詰まらせる。

 

「俺が一緒に飲んでやるよ。こんな美女が同じ卓に着いてくれるなんて嬉しいだろ?」

 

 言い方は冗談っぽい。

 でも目が冗談じゃない。

 男たちは一瞬で体温が下がったみたいに黙り込んだ。

 

「なぁ、おい?」

 

 男たちは目を逸らし、声が震える。

 

「い、いえ……大丈夫です……」

「そ、そうっす……」

「今日はちょっと……」

 

 サラが肩をすくめ、俺たちを振り返る。

 

「こんな可愛い女が一緒に飲んでやるって言ってんのに断るなんて、こいつら目が腐ってんじゃねえのか」

 

(笑顔が怖すぎるやろ……)

 

 奥の方から歓声が上がる。

 見ると、フーバさんがお盆で股間を隠しながら全裸で踊っていた。

 

「……あれは酷い」

 

 サラがその方向を一瞬だけ見て、深く呆れた顔をした。

 

「……ほら、今のうちに部屋戻れ。また絡まれると面倒だぜ」

「あぁ、ありがとう。助かった」

 

 俺は心から感謝しながら、部屋に向かった。

 部屋に戻るとティナが腕を組んだまま言う。

 

「で、詳しく話して」

 

 俺は詳しく説明することにした。

 使い魔を操っていた奴らを見つけたこと。

 マルルゥが引きずり出したこと。

 男とライラという二人組だったこと。

 

 ティナは呆れ顔だが、どこか安心したように言う。

 

「狙ってた奴らを撃退できたのは良かったわ」

 

 カイトが真面目な顔で頷く。

 

「相手は、何者だったんでしょう……」

 

 マルルゥが、ベッドに腰掛けたまま足をぶらぶらさせて言った。

 

「あいつら、たぶん魔導国家の連中じゃないかな~」

「魔導国家?」

 

 俺が聞き返すと、マルルゥは得意げに説明を始めた。

 

「そうそう。まずね、男の使ってた剣が三本とも魔剣だったでしょ」

 

 俺は思い出す。

 一本目はマルルゥの魔法で消え、二本目はエンチャントの魔法で青白く光って、マルルゥの魔法に少しだけ耐えた。

 そして三本目が、ライラが取り出した髑髏の剣。

 

「で、気配を遮断する腕輪。あれも一級品。ボクの探知魔法に引っかからなかった」

 

 カイトが聞く。

 

「そんなに凄い物なんですか?」

「凄いよー。だって目視出来なかったら、もし隣りにいても気配を感じられないもん。いつ暗殺されるかわかんない。凄い代物だよ」

 

 マルルゥは、軽い口調のまま言う。

 でも内容が軽くない。

 “いつ暗殺されるかわからない”。

 その言葉が、部屋の空気を少し重くした。

 マルルゥは続ける。

 

「普通さ、魔剣なんて一本でもとんでもなく高いんだよ~。家一軒、二軒じゃ効かないくらいの値段でしょ?」

 

 ティナが目を細める。

 

「……そんな物を複数持ってるって?」

「そう、そんなの個人じゃ、ちょっと考えづらいよねぇ~」

 

 マルルゥは続ける。

 

「それに、折れた魔剣を捨てていった。愛着がない」

 

 マルルゥは、いつの間にか拾っていたらしい魔剣の残骸を取り出した。

 

(いつの間に拾ってたんだコイツ)

 

 髑髏の装飾が施された柄頭。

 鍔にも髑髏。

 見れば見るほど、趣味が悪い。

 

 俺の脳裏に、骸骨仮面の男の剣が重なる。

 似ている。だが、同じではない。

 同じ系統の匂いはするが……。

 

 マルルゥが残骸を見せながら言った。

 

「これ、アウラの魔剣に似てるよね。でもアウラの魔剣の方がずっと作りが良さそう」

 

 俺が感じた違和感と同じだ。

 ティナが低く言う。

 

「似せて作った……ってこと?」

「どうかな~、そこまではわからないけど……。でも大事なのは"作れる"ってこと」

 

 マルルゥは指を折る。

 

「ほら、あいつら言ってたでしょ。“テストが出来てない”とか、“模造品”とか。自分たちで魔剣を製造してるみたいな物言い」

 

 カイトが眉を寄せる。

 

「……そんなの個人じゃ無理ですよね?」

「そういうこと。個人じゃ考えにくいでしょ」

 

 マルルゥは、少しだけ真面目な顔になった。

 ほんの一瞬。

 でもそれだけで、こいつが「本当にそう思っている」って分かる。

 

「これらの事を考えると、魔導国家の人間なんじゃないかなって」

「魔導国家ってなんだ?」

 

 俺が聞き返すと、ティナが小さく「あー」と呟いた。

 

「名前は聞いたことあるけど、詳しくは知らないわ」

 

 カイトも頷く。

 

「僕もです。遠い国、くらいしか」

 

 マルルゥはやれやれと言った態度で肩を竦めると説明してくれる。

 

「魔導国家っていうのはね、アーティファクトとか、失われた魔法の研究をしてる国だよ」

「アーティファクト?」

「魔剣とか、男の付けてた腕輪とか、そういうの」

 

 マルルゥは続ける。

 

「結構前……百年以上前だけど、その頃は調子に乗って勢力を広めてたみたいだけど、何かやらかして本国の一部を消失させてからは大人しくしてる、って聞いた事があるよ」

 

 カイトが小さく震える。

 

「国の一部を……消失……?」

「うん。何をやらかしたのかは詳しくは知らないけど、多分あそこの国の事だから、古代の魔法とか変なアーティファクトを起動させた結果、そうなったんじゃないかなぁ~。で、懲りて大人しくしてたんだと思う」

 

(国の一部が消えるって、どんな魔法だよ)

 

 俺は背筋が寒くなる。

 そんな力を持った組織が、俺を狙ってる。

 ティナが静かに言う。

 

「でも、動き出した?」

 

 その言葉が、部屋の真ん中に落ちた。

 重い石みたいに。

 マルルゥは、いつもの笑みに戻って言った。

 

「たぶんね。アウラの剣と……その鎧を欲しがってる。能力を調べて、奪えるなら奪う。そういう目的だったんじゃないかな」

 

 俺は魔剣の柄に手を置いた。

 冷たい。

 でもその冷たさが、逆に現実を教えてくる。

 

(……髑髏の仮面の男と、今回の二人組は同じ魔導国家の人間なんだろうか?)

 

 今日の二人が逃げたのは、終わりじゃない。

 むしろ始まりだ。

 

(これで終わりじゃない。あいつら次の準備をして来る)

 

 ティナが俺を見た。

 

「アウラ。あんた、これからあの目立つローブはやめときなさい。いい?」

「……分かってる」

 

 どうせあの格好いいローブはもう戻ってこないんだ。着たくても着ることは出来ない。

 あ、思い出したら悲しくなってきた……。

 

 カイトが心配そうに言う。

 

「でも……相手が国なら、数も装備も……」

 

 マルルゥが軽く肩をすくめる。

 

「また来るなら、今度はちゃ~んと本気で潰してあげるよ」

 

 そこで、マルルゥは少しだけ真面目な顔になった。

 

「でもね」

 

 マルルゥの視線が、ティナとカイトに向く。

 

「キミたちも、もうちょっと戦えるようになった方が良いかもね」

 

 ティナが目を丸くする。

 

「え……私たち?」

「うん、キミたちも戦えるようになってくれたら、ボクの負担が減るからね」

 

 マルルゥはにこっと笑う。

 

「ティナは魔法使えるんだよね?」

「え……ええ、一応。でも初級の風魔法くらいしか……」

「十分十分~。基礎があるなら、あとは教え方次第だもん」

 

 マルルゥがカイトにも視線を向ける。

 

「カイトは剣士だよね?」

「は、はい! でもまだまだ初心者で」

「剣はボクも教えられないけど、強化魔法とか魔力の扱い方なら教えられるよ」

 

 カイトが目を輝かせる。

 

「本当ですか!?」

「うん。身体強化が出来れば、剣の威力も速度も上がるし。魔力の使い方が上手くなれば、不意打ちも防げる可能性が上がるかも~」

 

 マルルゥは指を折る。

 

「それに、ティナが中級魔法くらいまで使えるようになれば、その辺の雑魚の魔物くらいなら一掃できるようになるよ」

 

 ティナが不安そうに言う。

 

「で、でも……私なんかに教えられるの?」

「大丈夫大丈夫~。ボク、かわいい上に教えるの得意だからね」

 

 マルルゥがにっこり笑う。

 

「明日の朝から、ちょっと早起きして訓練しようか~。 馬車が出る前に、少しだけ」

 

 カイトが即答する。

 

「お願いします!」

 

 ティナも、少し迷ってから頷いた。

 

「……わかったわ。やってみる」

 

 マルルゥが嬉しそうに手を叩く。

 

「よし、じゃあ決まりね~」

 

 そして、俺に向かって言う。

 

「で、そのかわりと言っちゃなんだけど、アウラは魔法を見せてね」

「魔法?」

 

 マルルゥは嬉しそうな顔をしながら言った。

 

「そう、この間使ってた岩を粉砕する魔法とか、遠くまで移動できる魔法とかさ」

「あ~、あれか……」

 

 マルルゥに見せていいもんかどうか悩むな……ろくな事しなさそうだし。

 

「キミが魔法を見せてくれるだけで、ミスリル級であるボクが二人に魔法を教えてあげるってんだから破格だよ~。彼らが自分自身を守れるようになれるなら、キミも安心でしょ。ほらほら、どう?」

 

(うーん、まぁ二人が強くなってくれるなら、こんなに心強いことはないし良いか?)

 

「わかった。じゃあ、時間がある時にでも見せるよ」

 

 マルルゥが満足げに笑う。

 

「約束ね! じゃあ、明日の朝が楽しみだね~」

 

 ティナとカイトは、少し緊張した顔で頷いた。

 でも、その目には確かに期待の光があった。

 

(何にしても二人が傷つくのは見たくないし、強くなるに越したことはないよな)

 

 俺も魔法の練習に加えて、他のスキルで良さそうなのが無いか調べていくか……。

 




 体調不良で倒れてました-⁽ -´꒳`⁾-ペショ……
 今もまだ片目が見えづらくてしんどい。
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