【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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50話 朝の訓練

 ティナに起こされて目が覚める。

 ガタつくベッドのせいで、夢の中でも馬車に乗っていた。

 全然寝た気がしない。

 

(何が悲しくて、夢の中ですら尻が痛いという苦痛を味わわなくてはならないんだ……)

 

 寝返りを打つたびにガタガタ鳴るベッドと、薄い布団に文句を言いながら起きる。

 昨日の晩にマルルゥと訓練をすると約束していたから、今日は結構早起きだ。

 普通の服に着替えた上で、地味なローブを羽織っておく。

 腰に魔剣を差しておけば、どこからどう見ても冒険者か旅の者だろう。

 

 先に外に出ているマルルゥとカイトを追いかけて、ティナと一緒に部屋を出る。

 一階へ降りると、まだ日も昇りきってない薄暗い朝の空気が流れ込んできた。

 

 だが食堂では既に、御者と思われる男たちがパンを齧りながら地図を広げて話し合っている。

 情報の交換、危険箇所、休憩地点──ああいう地味な打ち合わせが、命を分けるんだろうな。

 

 その輪の中にミゲルの姿も見えた。

 俺たちに気づくと、軽く手を上げる。

 

「よぉ」

「おはようございます」

 

 ティナと共に挨拶すると、ミゲルが聞いてきた。

 

「よく眠れたか?」

 

(あんなベッドでよく眠れるもクソもない)

 

「ガタガタしていて寝心地が最悪だった」

 

 俺が正直に告げると、ミゲルはにやりと笑った。

 

「ここはまだ良いほうだぜ。馬車ギルドの運営してる宿は大体こんなもんだが、酷い所はもっとやべぇ」

 

 そして、楽しそうに続ける。

 

「次に泊まる宿は、もっとやべぇ方だ。楽しみにしとけよ」

「うげぇ……勘弁してくれよ」

 

 俺とティナは顔を見合わせて、げんなりした。

 

「本当にね……」

 

 ティナも朝からしんどそうな顔になる。

 ミゲルは首を傾げた。

 

「にしてもお前ら朝早いな。まだ出発まで随分あるぜ」

「ちょっと訓練するんだ」

 

 俺が言うと、ミゲルは「ほぉ」と感心したように頷く。

 

「まあなんでも良いけど、馬を驚かせたりすんなよ」

「わかってるよ」

 

 外に出ると、朝特有の澄んだ空気が肺に入った。

 気持ちよくて、思わず伸びをしてしまう。

 

(……これは気持ちいいな)

 

 薄暗い外の中に、マルルゥとカイトの姿が見える。

 マルルゥが「はい、深呼吸して~。吐いて~」と言いながら、カイトは目をつぶって立っていた。

 俺たちに気づいたマルルゥが手を振る。

 

「やぁやぁ、二人ともおはよう」

「おはよう」

 

 俺は近づいて、カイトの様子を見る。

 

「強化魔法の練習か?」

 

 マルルゥは首を振った。

 

「ううん、もっと基礎的なことだよ」

 

 そして、真面目な顔で続ける。

 

「まずは体内の魔力を感じる練習。これが出来ないと、強化魔法も何も使えないからね」

 

(なるほど……基礎か)

 

 カイトは深呼吸が終わると、俺とティナにおはようと挨拶してきたが、困った顔をしている。

 

「おはようございます……これ、難しいですね……」

 

 マルルゥがカイトのお腹と背中に手を置いて、魔力を送り込んでいるように見える。

 

「何か温かい感じがするのはわかるんですけど……これをどうやって維持したらいいのか……」

 

 カイトが困惑しながら聞くと、マルルゥは優しく答えた。

 

「まずはその温かさを意識して、常に体内の魔力を感じるようにしてみて~」

「はい……」

「消えそうになったら呼吸を戻す。焦らないで、同じところに戻ってくる感じね」

「なるほど……?」

「今日から移動中もずっと練習だよ~。ほらほら、魔力に集中、集中~」

 

 カイトの顔が「移動中もずっと……」になった。

 

(地味だけど、こういうのが一番効くんだろうな……)

 

 マルルゥがカイトに深呼吸をさせ続けると、今度はティナに向き直る。

 

「さて、次はティナの番だよ~。まずはキミの魔法を見せて。空に向かって撃ってみて」

 

 ティナは「わかったわ」と言って杖を構える。

 

「《ウィンドカッター》!」

 

 短く鋭い詠唱。

 空気がぶわっとうねり、鋭い風の刃が空に向かって飛んでいく。

 ティナが静かな声で聞いた。

 

「どう?」

 

 マルルゥは少し考えてから、にっこり笑った。

 

「うん、思ってた以上に安定してるね。キミに魔法を教えた人の腕が良いのかも~」

 

 ティナは褒められて少し困惑しつつも、素直にお礼を言う。

 

「あ、ありがとう」

 

 マルルゥは目を細め──真面目な顔になった。

 

「ただね」

 

 空気が変わる。

 

「キミは魔法を唱えた後の隙が大きい」

 

 ティナが「え……?」と戸惑う。

 

「当たらなかった場合、相手が一撃で倒れなかった場合、今のままだと死ぬと思うよ」

 

 ティナの顔が青ざめる。

 マルルゥは淡々と続けた。

 

「魔法を撃って終わりじゃない。戦況を見る。次の準備。魔力の管理。──それが大事だよ」

 

 ティナが小さく頷く。

 

「わ、わかったわ……」

「最初は難しいから、まずはウィンドカッターを連続で撃てるように練習かな~。同じ太さで三回出せるようにしよう」

 

 マルルゥが自分でも空へ向かって唱える。

 

「《ウィンドカッター》」

 

 同じ魔法のはずなのに、飛んでいく刃の数が違う。音も違う。

 複数の風の刃がまとめて空を裂いていく。

 

「すごい……」

 

 ティナがぽつりと漏らすと、マルルゥはふふーんと得意げだ。

 

「まずは魔力の量を調整して出せるようにすること。撃ったら一歩下がって、次の詠唱に入る癖をつけること。魔法を撃った後の魔力の維持も意識していこ~」

 

 マルルゥがティナに、魔力の回し方や息継ぎのタイミングを説明していく。

 ティナは真剣な顔で聞いていた。

 

(……もしかして、俺もスキルを取らなくても魔法を使えるようになったりするのか?)

 

 ウィンドカッターについて考えてみる。

 魔法研究のスキルのお陰か、消費魔力や構造の理解はなんとなく出来る。

 だが、何かが少し違う。

 

 魔力というエネルギーを使うのは一緒なのに、そこから魔法を“形”にするまでの道筋が違う気がする。

 俺が使う魔法はもっとこう……手続きが少なくて──

 色々考えていると、ティナに教え終わったマルルゥが話しかけてきた。

 

「じゃあ次はアウラ。あの魔法、また見せてよ~。ほら、以前岩を砕いてたやつ」

「ん、わかった」

 

 俺は皆から少し離れた場所の地面を対象に、空間制御を使う。

 怖いから控えめに。

 

 空気が歪む。

 見えないガラスが割れるみたいに、空間がぐにゃりと曲がる。

 そして──解除。

 

 瞬間、世界が元に戻ろうとして、弄った空間がぐしゃっと縮んだ。

 砂埃が一瞬だけ吸い込まれて、遅れて落ちた。

 一瞬だけ周りの土や草を巻き込み──次の瞬間には、何事もなかったかのように静かになる。

 地面に、小さな凹みだけが残っていた。

 

「どうだ?」

 

 振り返ると、マルルゥが難しそうな顔をして立っている。

 

「……もう一度出来る?」

 

 声が、いつもより低い。

 

「別にいいけど」

 

 同じ座標でもう一度。結果は同じだった。

 一瞬だけブラックホールが出来たかのように周りを巻き込みながら、世界が元に戻る。

 

「ほれ、どうだ?」

 

 マルルゥは、かなり困惑した顔をしていた。

 

「これって……何の魔法?」

 

 その声には、いつもの軽さがない。

 

「空間制御だ。今はあの辺の空間を対象に、少しだけ弄った」

 

 マルルゥは「えぇ……」と目を見開く。

 

「これって、もっと弄れるの?」

「できるけど……あんまり弄ると周り巻き込みそうで怖い。ここじゃ危ないと思う」

 

 マルルゥは「わかった」と返事したが、その目は真剣だった。

 

(何だ……そんなに驚くことか?)

 

 気になって、俺も聞く。

 

「なぁ、俺もさっきみたいなウィンドカッターとか、強化魔法使えるのかな?」

 

 マルルゥが驚いた顔をした。

 

「むしろそんな高度な魔法が出来るのに、初級の魔法が使えないの?」

 

 そして首を傾げる。

 

「魔力はあるから使えるはず……でもアウラの魔法ってちょっと特殊だと思うんだよね」

「特殊って?」

 

 ぶつぶつ考え始める。

 

「ボクらの魔法と違う……構成……いや構造かな……。うーん、そもそも成り立ちが違う……?」

 

 マルルゥはぶつぶつと考えに没頭すると、こっちの声が聞こえなくなる。

 カイトは目をつぶって深呼吸を続けているし、ティナは片手に魔力を込めて、散らさないように溜めている。

 

(俺も身体の強化魔法が出来たらいいんだけど……後で改めて聞いてみるか)

 

 小一時間ほど訓練して、朝食の時間になった。

 食堂へ向かうと、さっきまでの静けさが嘘みたいに人が溢れ返っていた。

 

 ローブで顔を隠していても、俺だと分かるらしい。

 声が飛んでくる。

 

「嬢ちゃん、そんなの被ってたらもったいねえだろ。もっと尻出してくれやガハハ!」

「桃尻のアウラだっけ! 覚えておくぜ!」

「今度会った時は一緒に飲もうぜ! 桃尻!」

 

「うるせえ! 誰が飲むか!」

 

 俺がキレても、冒険者たちはガハハと流していく。

 イライラと羞恥がマックスになる。

 

(とっとと……出発したい……)

 

 端の方でサラとフーバさんとシャロンの姿が見えたので、近くのテーブルに行く。

 フーバさんがサラに土下座みたいな勢いで謝っていた。

 

「すいませんでしたァ!」

「どうしたんですか?」

 

 近寄ってみると、どうやらフーバさんは昨夜の賭け事で素寒貧になったらしい。

 

「借金がある身分でよぉ、賭け事するクソボケがいるらしいんだわ」

「すいませんでしたァ!」

「おもしれえ冗談だよな。ははは、なあおい笑えよ」

「あはは……」

「何がおもしれえんだおい。ちぎるぞテメェ」

「ヒェッ」

 

(こっわ……近寄らんとこ)

 

 俺がそっと座ると、シャロンがスススと寄ってきて小声で言った。

 

「フーバさんとサラさんがずっとあんな調子で……可哀想なので、助けてあげられませんかね……」

 

 俺は首を振る。

 

「フーバさんは自業自得だ。サラは今、機嫌が悪い。関わらない方がいい。怖いもん」

「そ、そうですか……」

 

 シャロンは諦めたように頷いた。

 そうこうしていると朝食が運ばれてくる。

 石みたいに硬いパンと、ヘドロみたいな色のスープだ。

 

(何でこんな色になるんだ……)

 

 恐る恐る口に運ぶ。

 

(こんな見た目なのに味がしない……これ罰ゲームだろ)

 

 ティナが横で、スプーンを持ったまま固まっていた。

 

「……これ、飲むの?」

「……飲まなくていいんじゃないか?」

 

 カイトは渋い顔をしながらも、健気に飲んでいる。

 マルルゥはスープを見るなり、素直に言った。

 

「うわぁ……泥水だ。ボク要らない」

 

 シャロンはフードの下で震えている。

 しばらくすると、ミゲルが俺たちに声をかけてきた。

 

「ぼちぼち出発するぜ。準備して外に来てくれ」

「わかった」

 

 外に出ると、他の冒険者や御者たちも出発準備をして、順次動き出している。

 馬が鳴き、車輪が軋み、縄が締まる音がする。

 俺たちの番が来て馬車に乗り込み、出発した。

 

 ──ガタン、と揺れる。

 

(あぁ……またこれか……)

 

 遠くなっていく宿を見て、もう二度と泊まりたくないなぁと思いながら息を吐く。

 

(でも……次の宿はもっと酷いんだっけ……)

 

 ミゲルの言葉を思い出して、げんなりした。

 

 馬車の振動に揺られながら、俺は目を閉じる。

 ティナとカイトは、マルルゥに教わった訓練を続けている。

 シャロンは相変わらずフードを深く被って、何かを考え込んでいる。

 サラは相変わらず怖い顔をして周りを警戒し、フーバさんはしょんぼりしている。

 

(色々あるけど……少しずつ、前に進んでるのかな)

 

 そう思いながら、俺は道の先を見つめた。




 やっと熱が下がりました……。
 医者にも原因不明って言われるし、未だに片目が変で困る。
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