【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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51話 親と子

 道中は、妙に静かだった。

 静かというか……俺たちの馬車の中だけ、修行僧の集団みたいになっていた。

 

 カイトは苦悶の表情で深呼吸を続けている。

 吸って、吐いて、吸って、吐いて。

 もう“呼吸”じゃなくて“戦闘”だ。本人の顔がそう言ってる。

 

 ティナはティナで、右手に魔力を込めたまま、うんうん唸っている。

 喋ると魔力が散るのが嫌なのか、話しかけても返事はなく頷くだけ。

 その頷きに全感情が詰まっている気がする。

 

 シャロンは二人を心配そうに見て、おろおろしている。

 声をかけたら邪魔になる。でも放っておけない。

 その葛藤が、ローブ越しに透けて見えた。

 

 マルルゥは相変わらず静かで、外を見ている。

 こいつが静かな時ほど怖いものはない。

 

 サラはいつもの怖い顔で警戒し、フーバさんは朝から怒られてしょんぼりしている。

 この人、しょんぼりした姿が似合うな……。

 

 俺が窓の外をぼんやり眺めていると、サラが突然、ぴくっと反応した。

 

「……お、ちょっと待った」

 

 馬車がゆるく速度を落とす。

 サラは弓を構えて、空を見上げた。

 

「何だ?」と俺が聞く間もなく──ひゅん、と乾いた音。

 矢が飛び、空を飛ぶ鳥を撃ち落とした。

 

 落ちてきた鳥は、見たことのない姿だった。

 羽は細長く、変わった見た目。

 

「……鳥?」

「風喰い鳥だ」

 

 サラが当たり前みたいに言う。

 

「風喰い……?」

「群れで飛んで、風の流れに乗る鳥だ。肉が旨いんだぜ」

 

 さっきまでフーバさんの件でいつも以上に怖い顔をしていたサラだったのに、

 風喰い鳥を仕留めた途端、ほんの少し機嫌が良くなったように見えた。

 ほんの少しだ。顔は怖いままだが。

 

「こいつは群れで飛ぶから、もうちょい穫れるはずだ。今日の晩飯に追加しようぜ」

 

 サラがミゲルに言うと、ミゲルも頷く。

 

「いいな。群れならもっと獲れそうだな」

「任せとけよ。注意しながら進もうや」

 

 サラは風喰い鳥をフーバさんに投げ渡した。

 

「羽、むしっとけ」

「仰せのままに!」

 

 フーバさんが無心で羽をむしり始める。

 ……もう完全に作業員だ。

 俺はふと思って口を開いた。

 

「なあサラ。フーバさんの借金って……やっぱ賭け事で作ったやつなのか?」

 

 フーバさんがびくっと跳ねた。

 

「しー! こら! 変なこと言わないの! 今は平和に羽をむしらせて!」

「平和に羽をむしらせてって何だよ」

「静かに! 頼むから!」

 

 サラは怖い顔のまま、にっこり笑った。

 笑顔なのに、背筋が寒い。

 優しい笑顔じゃない。処刑の笑顔だ。

 

「おぉ。よく聞いてくれたな」

「その笑顔、いい話が出る笑顔じゃないんだけど」

「いい話だよ。ちゃんとクソボケの話だ」

 

 サラは親指でフーバさんを指した。

 

「このクソボケは依頼で稼いだ金を酔った勢いで全部使っただけじゃ飽き足らず、俺の装備まで賭けやがったんだぜ」

「さ、さーせんでした!! いやほんと、あれは魔が差したというか……」

「魔は年中差してんだよ」

 

 俺は思わず呟いた。

 

「……そこまでいくと才能だな」

「クソみてぇな才能だろ」

 

 シャロンが、恐る恐る手を挙げるような仕草をした。

 

「あの……でも、どうして……そこまでして一緒にいるんですか?」

「だよな」

 

 俺も頷く。

 普通なら見捨てる。というか俺なら見捨てる。

 借金で装備まで持ってかれたら、もう縁を切る。

 

 サラは一瞬だけ口を閉じた。

 風の音と、車輪の軋みと、フーバさんの羽むしり音だけが残る。

 それから、サラは少しだけ目を逸らして、ぶっきらぼうに言った。

 

「……まー、こんなんだけど。一応、親みたいなもんだからな」

「親?」

「え、親!?」

 

 俺とシャロンは同時に声が出た。

 フーバさんは羽をむしる手を止めて、なぜかちょっと誇らしげだ。

 

「いやぁ、サラは昔から私のことを──」

「黙って羽むしっとけや」

「仰るとおりです!」

 

 一言で黙らされた。こわい。

 

 俺は改めて聞く。

 

「どういうことだよ。親って……あんまり似てない気がするけど?」

「ねーよ。似てたら嫌だ」

 

 即答かよ。

 サラはため息をついて、淡々と話し始めた。

 淡々としているのに、声だけが少し低い。

 

「ガキの頃にな、俺の住んでた村が魔物の群れに襲われた。……ほぼ壊滅しかけてた」

「……」

 

 空気が変わる。

 

「そん時にたまたま通りかかったのが、こいつらのパーティーだ」

 

 サラは顎でフーバさんを示した。

 

「村の入口で魔物の群れにぶち当たって、普通なら引き返すだろ? でも──こいつは引き返さなかった」

「……フーバさんが?」

 

 フーバさんが気まずそうに笑った。

 

「ま、まぁ……困ってる人がいたら放っとけないっていうか……若かったし?」

「今も若いんだろ?」

「そりゃあもう!」

「……いいから羽むしっとけ」

「イエッサー!」

 

 サラは続ける。

 

「俺は助かった。……でも、俺の親は助からなかった」

「……そうか」

「あぁ」

 

 短い返事。

 でも、その“あぁ”に全部入ってる。

 シャロンが胸の前で手を握りしめた。

 

「……それで、フーバさんたちが……」

「俺を引き取ってくれたんだ。行くとこなかったからな」

 

 俺は思わず言った。

 

「……めっちゃ良い話じゃん」

「良い話で終わればな」

 

 サラの声が、少しだけ荒くなる。

 

「こいつは確かに助けてくれたし、飯も食わせてくれた。冒険者のことも教えた。……だから、俺も冒険者になった」

 

 そこでサラはフーバさんを見た。

 目は鋭いまま。でも、怒りだけじゃない。

 

「でもな、昔から賭け事癖があった。稼いだ金をパーにするのは日常。俺が管理するようになっても、目を離すと借金してでも賭ける」

「いやぁ……勝てば全部戻って来る上に増えちゃうからね」

「負けてんじゃねーか!」

 

 サラのツッコミが鋭すぎて、フーバさんが「ヒェッ」と縮む。

 

「まあ、最近は勝ってないかもしれないけど……」

「反省しろ」

「はい……」

 

 俺はフーバさんを見て、さっきまでの印象が少しだけ変わった。

 ギャンブル好きなのはどうしようもない。

 でも──それでも、サラが切れない理由は分かる気がした。

 

(捨てられないんだな。助けてもらった恩って、そう簡単に切れない)

 

 サラは小さく鼻を鳴らして、最後に言った。

 

「……だから一緒にいる。腹は立つけど、見捨てるほど嫌いじゃねえ。以上」

「照れてんのか?」

「うるせえ。次言ったらお前の尻に矢刺すぞ」

「尻の話はやめてください」

 

 シャロンが小さく笑った。

 サラは気づいてないふりをして、風喰い鳥の残りを探すように空を見上げる。

 フーバさんは羽をむしりながら、小声でぽつりと言った。

 

「……サラは強い子だよ」

「黙ってむしれ」

「はい!」

 

 ──こうして、いつもの調子に戻った。

 でも、さっきの話は、馬車の中に静かに残っていた。

 

 それからもサラは風喰い鳥を見つけては弓で落としていく。

 群れに当たったのか、数が増えていった。

 フーバさんは無心で羽をむしる。時々泣きそうな顔をしている。

 夕方近く、サラがまとめて袋に詰めた鳥を見て言った。

 

「お前らにもやるよ」

「え、いいのか?」

「おう、結構穫れたからな。肉、好きだろ」

 

 乱暴に言うけど、ちゃんと分けてくれる。

 怖いけど、優しい。

 

(……この人、ほんとに面倒見いいな。顔は怖いけど)

 

 馬車は夕方へ向かって進んでいく。

 風が冷たくなり始める頃、フーバさんはまだ羽をむしり、サラは機嫌が少し良くなり、カイトは相変わらず深呼吸をしていた。

 

 俺は窓の外を眺めながら、拳を握ってみる。

 強化魔法は出来ない。

 でも、出来ないままじゃ終わりたくない。

 

 ティナとカイトが訓練している。

 マルルゥは言わずもがな強い。

 サラとフーバさんにも、それぞれの強さがある。

 

(俺も……もっと強くならないと、何かあっても自分を守れないよなぁ)

 

 誰にも聞こえないくらい小さく息を吐く。

 

 今日の晩飯は、風喰い鳥。

 旨い肉で少しだけ気持ちが軽くなるといいんだけどな。

 馬車は静かに道を進んでいった。

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