【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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55話 美味しいよね?

 1階の食堂へ降りると、さっきよりも多くの冒険者たちが席についていた。

 だがどこか、妙に落ち着いた空気が漂っている。

 皆、口数がない。

 

 静かで不気味だ。

 冒険者と言ったら、所構わず騒ぐような輩が多いというのに。

 ここの冒険者たちは、まるで死を直前にした者のように諦めた目をしている。

 

(……なんだこれ)

 

 既にミゲルたちは席についており、俺たちを見ると手招きをして隣のテーブルを勧めてくる。

 サラやフーバさんも疲れたような顔をしている。

 シエルは周りの空気の違いに、キョロキョロと辺りを見回していた。

 俺はミゲルにそっと耳打ちする。

 

「なぁ、なんでこんなに静かなんだ? 不気味なんだけど」

 

 ミゲルも小声で返してくる。

 

「ここらは魔物が多くてな。夜はここ以外じゃ野営も危険な区域だ」

「……それで?」

「タルちゃんがいるからこそ、ここは安全と言ってもいい……だが、問題はそこじゃねえ」

 

 ミゲルの顔が、露骨に暗くなる。

 

「タルちゃんの料理……あれは……」

 

 ミゲルが言葉を詰まらせる。

 

「これ以上は俺の口からは言えない。お前自身の目で確かめてくれ」

 

 そして、真剣な目で俺を見た。

 

「ただ一つ言っておく。お残しは厳禁だ」

「……は?」

「お互いの健闘を祈る」

 

 そう言うと、ミゲルは他の連中と同じように目をつぶり、祈るかのように静かに目を閉じた。

 

「待って、そんなにヤバいのか?」

 

(生きてられるのか、それ)

 

 ミゲルの話を聞いたティナとカイトは、青い顔をしている。

 

「ね、ねぇ……前回の宿が可愛いくらいの料理が出てくるってこと……?」

 

 ティナが震える声で言う。

 

「あれも……ちょっとうーんって感じでしたけど……それ以上ってどんな料理が……」

 

 カイトも顔が引きつっている。

 ミゲルたちと同じ席に着いていたシエルも、その話を聞いて顔面蒼白になっていた。

 無理もない。

 あれが可愛いレベルとなると、一体何が出てくるのだろうか。

 

(頼む……せめて食えるものであってくれ……)

 

 そう願うこと数分、先程の死んだ目をした店員以外にも、何名かの店員たちが料理を持って各テーブルに置いていく。

 全員、死んだ目をしている。

 

 店員たちの持っているトレイの上には、カラフルな色の"ナニカ"が乗っている。

 お皿は可愛らしいデザインで、きっと宿のデザイン等を決めた人と同じなんだろう。

 洒落た感じのグラス。

 前回泊まった宿とは全く逆で、皿に乗った"ナニカ"にさえ目を向けなければ本当にレストランで食べているのかと錯覚するような感じだ。

 

 死んだ目をした店員の一人が、俺たちのテーブルに来た。

 そして──

 料理らしき物が盛られた皿を置く。

 

「お待たせしました。こちら、ダンジョン産グロウルビーストのコンフィ、七色ソース添えです」

 

 皿の上には、"何か"が盛られていた。

 何かとしか言いようがない。

 表面は虹色に光るゼリー状のタレで覆われていて、その下に鈍く光る灰色の肉塊らしきものが埋まっている。

 肉、だと思う。たぶん。

 

 上からは緑と紫の草が刻まれて振りかけられているが、草なのか、それとも別の何かなのか、判別がつかない。

 所々から紫色の液体が染み出していて、皿の上で小さな水たまりを作っている。

 匂いは──甘いような、酸っぱいような、何かが腐ったような。

 三つの匂いが同時に鼻を突く。

 

(これ……本当に食えるのか……?)

 

 ミゲルと目が合う。

 無言で、ミゲルが頷く。

 フーバさんが深呼吸をした後、一口食べた。

 

「ガッ……!」

 

 声と共に、苦悶の表情を浮かべる。

 サラも隣でふーっと息を吐くと、食べて──目を見開いた後、眉間に見たことのないシワが現れた。

 握り込んだ拳はぶるぶると震え、何かに必死に堪えているようだ。

 

「ヒェッ……」

 

 思わず声が出る。

 周りの冒険者たちも、どれもこれも同じようだ。

 しかし俺たちの席から少し離れた場所に座っていた冒険者たちは、ここのことを知らなかったようで。

 

「何だこの料理……見た目やばくない?」

「ダンジョン産の魔物って、食ったことねえな」

「凄い色だけど、とりあえず一口食べてみようぜ」

 

 一人が口に入れた途端──

 

「──エンッ!!」

 

 男が椅子ごと後ろに倒れた。

 

「オ、オイ! 大丈夫か!?」

「オゴゴゴゴ……! ……こ、これ食ったことない味っていうか──」

 

 男が必死に言葉を絞り出す。

 

「食ったら駄目な味がする!! 旨いとか不味いとかのレベルじゃねえ! 身体に入れちゃいけないっていうか──あああああ何だこれまっっっっっっず!!!!」

 

 ──刹那、空気が凍った。

 いつの間にか、タルちゃんが男の背後に立っていた。

 貼り付けたような笑顔のまま。

 

「私の作ったご飯が──何だって?」

 

 声が、低い。

 可愛い声なのに、背筋が凍る。

 

「て、てんめぇ! 何だよこの料理はよぉ! くっそまずいじゃねえか! 殺す気か──」

 

 男の言葉が途切れた。

 タルちゃんが、男の頭を掴んだ。

 

「美味しいよね」

 

 そのまま、皿に顔を押し付ける。

 

「私の作った料理、美味しいよね?」

 

 ぐりぐりと押し付けていく。

 男が必死に抵抗するがメキメキと音が鳴る。

 やがて、男が動かなくなった。

 首が曲がっちゃいけない角度で曲がっている。

 

(……見なかった。俺は見なかった)

 

 周りの冒険者たちも、全員目を逸らしている。

 

 気づくと、いつの間にか席を外していたミゲルが戻ってきた。

 手には小袋を持っている。

 サラとフーバさんに、中身の種のようなものを渡す。

 自らもそれを噛み砕き、そして凄まじい勢いで料理を口に流し込んだ。

 涙を流しながら。

 サラとフーバさんも続く。

 三人とも、目に涙を浮かべて凄い形相でかき込んでいる。

 人間こんな顔が出来るんだ……。

 

 食べ終えたミゲルが俺たちのテーブルに小袋を置いた。

 

「うっぷ……な、なぁ一人銀貨1枚で、口の中が一定時間鈍くなるスパイスを売ってやるが……どうだ?」

「……買う」

 

 俺は即答した。

 ティナもカイトもシエルも、無言で銀貨を差し出している。

 必死な形相だ。

 ミゲルが頷いて、スパイスを配る。

 

 ──と、マルルゥを見ると。

 皿が空になっていた。

 

「え……いつの間に!?」

 

 マルルゥがにっこり笑う。

 棒読みで。

 

「あ~、とっても美味しかったなぁ。キミたちも、せっかくの料理が冷めないうちに食べちゃいなよ」

 

 そう言って、タルちゃんに向かって手を振る。

 

「ごちそうさまでした~」

「ぜってえお前食ってないだろ! どうやって消したんだよ料理を!」

 

 マルルゥは笑顔のまま、何も答えない。

 タルちゃんがそれを聞くと、失礼なことを言った冒険者の男から手を離し──

 

「やーん、ありがとう~! 可愛いエルフのお嬢さん」

 

 良い笑顔でマルルゥを見送る。

 タルちゃんに掴まれて皿に顔を突っ込んでいた男は、皿に顔を突っ込んだままピクリとも動かない。

 

(安らかに眠ってくれ……)

 

 しかし、この料理……何とかしないと、俺たちもあの男のようになってしまう……。

 

(食わねば……)

 

 まずは少しだけ口に入れてみることにする。

 ナイフで肉らしき部分を切ろうとすると──硬い。

 前回の宿のような硬い肉という感じではない。

 

(石みたいな硬さだ……)

 

 頑張ってナイフでギコギコすると、表面がパキッと割れて、今度は急に柔らかい層に変わる。

 表面は硬いが、中は柔らかいようだ。

 中から肉汁……違うな、何か紫色の液体が出てくるんですけど……。

 俺は覚悟を決めて、一欠片だけ口に入れた。

 

「──オァッ!!」

 

 思わず、悲鳴のような声が溢れ出た。

 怒涛の勢いで、色んな味がなだれ込んでくる。

 甘い、苦い、塩っ辛い、酸っぱい。

 五味──いや、旨味はない。

 四味が一気に襲ってくる。

 そして身体が反射で戻そうとしてくる。

 

 これは身体に入れちゃいけないと、脳がシグナルを出している。

 吐き気が込み上げる。でも吐けない。

 皿に顔を突っ込んで動かない男を見ると気合で飲み込むしかない。

 

 俺は頑張って飲み込むと、ミゲルから買ったスパイスを口に突っ込んで噛み砕く。

 口の中に広がる爽やかな爽快感によって、料理の味が凄い勢いで消し去られていく。

 今なら味を感じないまま、料理を胃へぶち込むことが出来る気がする。

 

 俺は心を無にして、料理を口へ突っ込んでいく。

 スパイスのお陰で辛うじて胃へ送ることは出来たが、身体が震える。

 冷や汗が止まらない。鼓動が早い。

 何とか皿の上を空にする頃には、意識が朦朧としていた。

 

 隣のティナとカイトを見ると、同じような状態だった。

 ティナは俺を見ると、何か話そうとするが口を開けると戻しそうになるのか、思わず手で覆って、もう一度スパイスを口に入れる。

 カイトは目を瞑りながら咀嚼を続け、何とか飲みきったあと動かなくなった。

 

(拷問かな……?)

 

 俺たちは食べ終えたのに、暫く何も出来なかった。

 口を開ければ戻しそうになるし、全ての体力を使って料理を食べたせいで動くことが出来ない。

 吐き気と倦怠感と、胃の中に残る不快感により静かに目を閉じたまま、テーブルで静かに休憩をするしかなかった。

 

 しばらくすると、タルちゃんが俺たちのテーブルに来て、空っぽになった皿を見ると喜んでくれた。

 

「あらあら~、綺麗に食べてくれて嬉しいわ! 朝からダンジョンに潜って材料集めてきた甲斐があったわ~」

 

 ダンジョンという単語が気になった俺は、質問してみる。

 

「り、料理……ごちそうさまでした。とても……個性的な味でした」

「まあ、嬉しい~」

「それで、その……ダンジョンから料理の材料を集めているってことでしたけど、近くにダンジョンがあるんですか?」

 

 タルちゃんは、にっこり笑って答えてくれる。

 

「ええ、あるわよ~。小さいダンジョンでたいしたお宝も無いから、私たち以外誰も入らないけれど、ここの裏にあるのよ~」

「裏に……?」

「倒しても倒しても魔物が生まれるから、料理に使うには持って来いのダンジョンなの!」

 

 嬉しそうに言う。

 

「それを毎朝、私たちがダンジョンに潜って素材を集めてきてるのよ~」

 

 にっこり笑う。

 

「皆の腕も上がるし、私も剣を思う存分振れるし最高よね~」

 

(毎朝ダンジョン……ちょっと気になるな)

 

「タルちゃん……は、冒険者なんですか?」

 

 俺が質問すると、タルちゃんはうふふと可愛い笑顔を浮かべる。

 

「冒険者だった、って感じよ。引退したわけじゃないけれど、今はここの宿でご飯を作ったり、お客さんの相手をしてるのが楽しいのよね~。料理を作ることに目覚めてからは、ずっと依頼を受けてないから、殆ど引退したようなものだけれど──」

 

 そう言って、力こぶを作って見せつけてくる。

 

「毎日ダンジョンには潜って剣を振るってるから、腕は鈍ってないと思うわよ~」

 

 筋肉が揺れた。

 隣の席で休憩していたサラが、タルちゃんの会話に入ってくる。

 

「腕が鈍ってるなんてまさか。前よりも腕が上がってるんじゃないですか?」

「え~、そうかしら?」

「以前会ったときよりも、身体が一回り大きいじゃないですか」

 

 タルちゃんが恥ずかしそうにはにかむ。

 

「うふふ、わかっちゃう~?」

 

 サラは俺たちに向かって説明する。

 

「タルさんは元々、ドゥル=ブルムで活動してた金級の冒険者なんだ」

「金級……!」

「俺たちも何度かお世話になったし、ドゥル=ブルムでタルさん知らない冒険者はモグリだぜ」

 

 フーバさんもタルちゃんの話に入ってくる。

 

「ほんとほんと。タルさんが居なかったら、私も今ここに居なかったと思うよ~。何度も命救ってもらったもの。ドゥル=ブルムでタルさんに叶う剣士はいないと思うよ~」

 

 タルちゃんはそう言われると、照れて顔を赤らめながら言う。

 

「んも~、上手なんだから~」

 

 そして、フーバさんの肩をバシっと叩いた。

 ──次の瞬間。

 フーバさんが、そのままテーブルに頭から突っ込んで動かなくなった。

 

(……威力やべぇ)

 

 カイトがその話を聞くと、タルちゃんに質問する。

 

「あの、僕も剣を使っているんですが……剣の腕ってどうやったら上がるんでしょうか?」

 

 タルちゃんはそう言われると、カイトをじっくり見て言う。

 

「まだ駆け出しって感じかしら。うーん、そうねぇ……お皿洗い手伝ってくれるなら、少し教えてあげても良いわよ」

 

 そう言って、ウィンクする。

 カイトの顔が明るくなる。

 

「本当ですか! お手伝いします!」

 

 そう言って、勢いよく立ち上がり、周りの席の皿を集めるのを手伝い始めた。

 タルちゃんは俺たちに言う。

 

「じゃあ暫く彼を借りるわよ~」

 

 そう言って、皿を持って厨房の方へ歩いていく。

 ティナと俺は顔を合わせる。

 未だに胃が裏返りそうな状態で、立ち上がるのがしんどい。

 

「カイトってアレ食った後でも、あんなに動けるなんて凄いな……」

 

 ティナがやれやれといった感じで答える。

 

「カイトは昔から、興味あることになると周りが見えなくなるのよ」

 

(そういうもんか……)

 

 その後、店員から水を貰ったり、口直しのスパイスを改めて口に入れたりして──何とか回復してきて、動けるようになった。

 ミゲルに言う。

 

「宿が酷いって、こういうことか……」

「まぁな」

 

 ミゲルが悪びれもせずに言う。

 

「こういうのは話しておかないほうが面白いだろ」

 

 疲れた顔で言う。

 サラも口を抑えながら言う。

 

「タルさんは料理以外のことは凄いんだけどなぁ……いやまぁ、ある意味料理も凄いんだけどよ……。うぷっ……」

 

 周りを見ると、死屍累々の山が机に突っ伏して静かに倒れている。

 

「っていうか、夕飯無しとか少なめにとかってお願い出来ないのか?」

 

 ミゲルに聞くと、首を振る。

 

「そう言うと、遠慮するなと大盛りにされるから、何も言わないのが一番良いんだよ」

 

(どうやっても地獄か、辛いな……)

 

 暫くカイトが皿を運んだり、厨房で洗い物をしているのを見て、俺たちは部屋に戻った。

 何とか動けるようにはなってきたが、まだ本調子ではない。

 気を抜くと吐きそうだ……。

 部屋に入ると、ティナはまだベッドで苦しそうにしている。

 マルルゥは、以前着ていた地味なエプロンを着て、部屋の床に座り込み何だかよく分からない草等を乳鉢でゴリゴリと潰している。

 

「何してるんだ?」

「ティナとカイトの訓練に使う薬を作ってるんだよ~」

 

(おー、ちゃんと訓練のことを考えてくれている……)

 

 ティナはそれを聞くと、ベッドに伏せながら弱々しく言う。

 

「美味しい味にして……」

 

(大分胃に来てそうだな……)

 

 そういやあれから大分経つけど、カイトはどうしてるんだろう。

 気になって1階に降りる。

 未だにグロッキーな状態の冒険者たちが大勢いるが、それらを避けてテーブルを拭いている店員が居たので、カイトについて聞くと「宿の表にタルちゃんと向かった」と言われ、外を覗いてみる事にした。

 

 宿の外のちょっとした空間で、タルちゃんが細身の剣を片手にカイトに何かを教えているのが見える。

 カイトは真剣な面持ちで素振りをすると、タルちゃんに持ち方等を指導されているようだ。

 気になるが、邪魔しちゃ悪そうな雰囲気だ。

 少し眺めて、宿に戻ることにする。

 

 ──ああいうのが、本当の「積み重ね」なんだろうな。

 

 カイトは、自分の力で強くなろうとしている。

 ティナも、マルルゥの訓練に耐えている。

 でも、俺は──スキルという便利で強力なものはあるが、全部自分の本当の力じゃない。

 与えられた力だ。

 剣も鎧も、女神から貰ったもの。

 何も自分の力で得たものじゃない。

 

(俺は……何が出来るんだろうな)

 

 この世界で何をしたいのか。

 どう生きたいのか。

 考えると、少し胸が重くなった。

 

(……そもそも、もうあんまり頑張りたくないって女神に言ったはずなんだけど)

 

 いきなり異世界に送られて、こんな姿になって無理やり破廉恥な鎧を着せられていることを考えたら割と頑張ってる方かな……。

 そんなことを考えながら俺は部屋に戻った。

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