【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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57話 塔のあるダンジョン

 うーん、ダンジョンに行けると思ったらワクワクして、あんまり眠れなかった。

 あと昨日の失態が定期的に脳裏をよぎって、そのたびに枕へ顔を埋めて死にたくなっていたのも大きい。

 ……駄目だ、思い出さないようにしよう。

 

 ダンジョンだ。今日はダンジョンに行くんだ。

 宝! 罠! 未知のギミック! 遺跡! ロマン!

 

 ……まあ、今日行くダンジョンは小さくて、そういうものはあまりないらしいが。

 それにしたって、ワクワクするのはしょうがないだろう。

 

 薄暗い部屋の中で上半身を起こし、眠い目をこすりながらステータス画面を開く。

 そして俺は、ため息と一緒に装備変更を選んだ。

 

 ──ハイレグアーマー。

 

 恥ずかしい。

 だが、ダメージが入るような状況になった瞬間に勝手に装着される仕様のせいで、どうせどこかでは着る羽目になる。

 

 だったら最初から着ておいた方が、まだ被害が少ない。

 いきなりビカッと光って着替えさせられるよりは、心の準備がある分だけマシだ。

 装備を切り替えると、一瞬で服装が変わる。

 何度やっても、この便利さだけは素直にすごいと思う。

 

 着替え終わった俺は、ぎこちなく肩を回した。

 朝の空気は冷えているはずなのに、鎧を着た瞬間、その寒さが気にならなくなる。

 

(見た目以外は本当に優秀なんだけどなあ……)

 

 そこが最大の問題なんだけど。

 

 荷物をまとめていると、カイトとティナが起きてきて準備を始めた。

 カイトは朝から目が輝いている。眠気なんか微塵も感じさせない顔で、剣の鞘を布で磨いていた。

 完全に遠足前の子供だな。

 いやまあ、気持ちはわかる。俺も同じようなものだし。

 

 一方ティナは、寝不足を隠そうともせず、半目のまま静かに荷物をまとめていた。

 でもちゃんと起きている。カイトが心配でしょうがなくて起きた顔だ。

 

「いってらっしゃーい……」

 

 ベッドに埋まったまま、マルルゥが片手をひらひらさせた。

 目は開いていない。口だけが動いている。

 

「お前、起きる気ゼロだな」

「ボク興味ないもん……おやすみ……」

 

 そのまま寝息に移行して、夢の世界へ旅立っていった。

 うーん、切り替えが早い。

 

 俺たちは薄暗い宿の一階へ降りる。

 まだ朝が早いせいか、宿の中は静かだった。昨日あれだけ死に満ちていた食堂も、今は不気味なくらい整っている。

 

 カウンターの奥から明かりが漏れていて、パンのいい匂いがした。

 覗くと従業員たちが慌ただしく朝食の準備をしている。昨日の死んだ目ではなく、まだ普通だ。

 

(……朝ごはんは普通に美味しそうじゃん。タルちゃんが作ってないから大丈夫なのか?)

 

 そんな疑問が浮かんだ瞬間──

 

「あら~、みんなおはよう~!」

 

 奥から現れたのは、腰に二振りの剣を下げたタルちゃんだった。

 動きやすそうな革鎧。……なのに隠しきれない筋肉量。革が伸びそうなくらいぱんぱんで、見た目の圧がすごい。

 

 しかも顔は今日も可愛い。

 このギャップで脳が混乱するの、何回目だろう。

 

「えーっと、二人はティナちゃんとアウラちゃん、だったわよね。今日はよろしくお願いね~」

 

 そう言って俺とティナの手を取り、ぶんぶんと握手をしてくる。

 勢いが強い。普通に腕がもげそうだ。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「ご迷惑にならないように気をつけます」

 

 俺とティナがそれぞれ挨拶すると、タルちゃんはふふっと笑った。

 

「そんなにかしこまらなくていいのよ~。準備がいいなら、さっそくダンジョンに向かいましょうか?」

 

「はい!」

 

 元気いっぱいに返事をするカイトと俺。

 心配そうに「うん……」と頷くティナ。

 

 タルちゃんは俺の方を見て、ぱちぱちと目を瞬いた。

 

「っていうか、あなたの鎧……とっても可愛いわね!」

「可愛くはないかと……」

「可愛いわよ~! 私もこういうの欲しいわ……着れるかしら……」

 

 タルちゃんが自分の身体を見下ろす。

 筋肉を見下ろす。

 

「……うーん、特注で作ってもらったらいけそう?」

 

(いや、タルちゃんにハイレグは……いや、似合いそうなのが逆に怖いな)

 

 俺が微妙な顔で黙っていると、タルちゃんがにっこり笑った。

 

「まぁまぁ、鎧のお話はまた後でね~。みんなのこと、ちゃんと守ってあげるから安心してちょうだい」

 

 その言い方は軽いが、妙な説得力がある。

 筋肉のせいだろうか。いや、筋肉だけではない気もする。

 

 俺たちはタルちゃんに案内されるまま宿の裏へ向かった。

 裏門のところには眠そうな顔の門番がいて、欠伸を噛み殺しながら挨拶してくる。

 

「ふぁ~……おはようございます」

「おはよう~。夜は魔物大丈夫だった? もうすぐ交代の時間だから頑張ってね~」

 

 タルちゃんが門番と一言二言交わしたあと、手を振ってそのまま森の中へ入っていく。

 地面は踏み固められていて歩きやすい。毎日この道を使っているんだろう。

 

 まだ空は暗く、タルちゃんの持つ明かりだけが頼りだ。

 歩きながらタルちゃんが振り返って言った。

 

「それにしても、ダンジョンに興味があるなんて、君たち若いのに冒険者としてわかってるわね~」

 

 カイトが勢いよく頷く。

 

「はい! やっぱり冒険者って言ったらダンジョンかなって!」

「わかる。ダンジョンって響きだけでテンション上がるよな」

 

 俺がそう言うと、タルちゃんは少し困ったように笑った。

 

「うーん……ダンジョンにもよるけど、低層は競争率高いから、その辺期待すると悲しい目に遭うかも……」

「競争率?」

「お宝を先に持ってかれるとかって事ですか?」

 

 ティナが聞き返すと、タルちゃんは頷いた。

 

「ええ、そういう事。美味しいところは大体残ってないわ。夢はあるけど、まあ大体は夢のままね」

「儚い夢ね……」

「冒険者はそれくらいでへこたれちゃ駄目よ~。夢を追いかける職業だもの」

 

 軽い調子で言うが、言ってる事は妙にそれっぽい。

 うーん、やっぱり美味しい所は早い者勝ちって訳か。

 

「ちなみに、今から行くダンジョンはね」

 

 タルちゃんが前を向いたまま続ける。

 

「小さいし、お宝もないし、ギミックも罠も何もない。ほんとに魔物が出るだけの小さいダンジョン……でも!」

 

 ぱっと明るい声になった。

 

「宿の裏にあるから、食材集めにはちょうどいいのよね~!」

 

 その瞬間、昨日の夕食の記憶が胃を叩いてきた。

 ティナも同じらしく、ほんのり顔が青くなっている。

 

 カイトが話題を変えるように尋ねる。

 

「でも、どうしてこんな所にダンジョンが?」

「んー、聞いた話だとここのダンジョン自体は小さくて、魔物も外にあんまり出てこないから、宿を建てた時も気づかずに建てちゃったみたいよ」

 

 タルちゃんは少し考える仕草をした。

 

「私も詳しくはないんだけど……ダンジョンが出来るのって色々な原因があるみたいでね」

「色々?」

「たとえば古代の遺跡がそのままダンジョン化してたり、知性のある魔物が自分の根城として作ったりね。でも一番多いのは、今から行くダンジョンみたいな魔力溜まりがある場所に自然に出来るタイプかな」

「魔力溜まり?」

 

 俺が聞き返すと、タルちゃんは頷いた。

 

「ええ。自然に魔力が集まる場所ね。最深部に“溢れてくる”みたいに魔力が湧くところがあって、そこを中心にダンジョンが形成されることがあるの」

「どうしてそんな場所があるんですか?」

「それが分からないのよ~。魔力溜まりがあっても条件が揃わないとダンジョンにはならないみたいで、どこにでもあるわけじゃない。でも、条件が揃うと不思議な事にダンジョンが出来上がる」

 

 ふぅん、と俺は小さく唸った。

 こういう“よく分からないけどそういうもの”は嫌いじゃない。むしろ好きだ。

 古代遺跡の謎とか、オーパーツとか、そういう“何だか分からないもの”には妙なロマンがある。

 

 そんな事を考えているうちに、森の奥に入口が見えた。

 岩肌が口を開けたような洞窟だ。その両脇にはトーチが立っていて、辺りを明るく照らしている。

 

 入口の前に、二人の冒険者風の男女が立っていた。

 昨日、俺たちを部屋に案内してくれた女性従業員と、配膳をしていた男性だ。

 二人とも革鎧を着て、剣を腰に差している。

 昨晩は二人とも目が死んでいたのに、今日はまだ元気そうだ。

 

「おはようございます、姐さん。今日はこの子らも一緒ですかい?」

「ええ、そうよ~」

 

 タルちゃんが振り返って俺たちの方を見る。

 

「この歳でダンジョンに興味を持つ将来有望な冒険者の子たちよ。私が守るから、今日はあなた達が先導お願いね~」

「了解です」

 

 女性が淡々と頷く。

 男性も軽く手を振った。

 

 隊列は前を二人の従業員が歩き、その後ろに俺、カイト、ティナ。最後尾にタルちゃん。

 護衛としての配置が完璧すぎて、逆に安心する。後ろにいる安心感がすごい。

 

 洞窟の中へ入ると、空気がひんやりとしている気がする。

 土と石の匂いが混じっていて、なんだか懐かしいような気もする。完全な闇ではなく、壁や天井がぼんやりと光っていて、足元が見える程度には明るい。

 

(何か不思議な感じだな。洞窟っぽいのに、全体的に明るい……何が光ってるんだろう)

 

 そう思いながら少し進むと、突然風景が変わった。

 石のタイルで出来た床。

 同じく石で整えられた壁。直角で人工的。奥の方には木製の扉まである。

 

(なんだこりゃ……?)

 

 思わず口に出しかけたのを、カイトが先に言った。

 

「これって……タルさんたちが作ったんですか?」

 

 前を歩いていた女性従業員が振り返る。

 

「いいえ。このタイルなどはダンジョンが作ったものです」

「えぇ、ダンジョンがこんな風に出来るんですか!?」

「扉は魔物が入ってこないように私たちが付けましたが、床や壁はもともとこうでした」

 

 男性の方も肩越しに補足する。

 

「人を呼ぶために、こういう形になってるとも言われてるな。人が興味を持つ形にして、奥へ誘うってわけだ」

 

 ごくり、とカイトの喉が鳴る音が聞こえた。

 

 人を呼ぶために、人の好みそうな形をしている。

 もし本当にそうだとしたら、ダンジョンって何なんだろう。

 

 歩きやすい床。人工物めいた壁。奥へ行きたくなる構造。

 言われてみれば、たしかにそんな気もする。

 

 何のためだ? 人を呼び込んで喰うためとか?

 それとも、こちらが勝手に意味を見出しているだけなのか。

 

 ……うーん、分からん。

 分からんけど面白い。

 そうして進んだ先で、視界が開けた。

 

 ──塔があった。

 

 洞窟の中に、塔。

 植物に覆われた石の塔が、どんと立っている。見上げても天井がよく分からないくらいに広い空間で、外から見た時の大きさと明らかに釣り合っていなかった。

 

「……は?」

 

 間抜けな声が出た。

 カイトも目を丸くし、ティナまで言葉を失っている。

 

 タルちゃんがくすっと笑う。

 

「びっくりしたでしょう?」

「そりゃするでしょ! 洞窟の中に塔って……」

「ダンジョンの中はね、どういう原理か分からないけど、見た目よりもずっと大きかったりするのよ~。それでもここは小さい方だけどね」

 

 外から見たらただの洞窟だった。

 なのに中には塔がある。

 意味が分からない。

 

「塔の上は少し強い魔物が出るから、今日はいかないわ。安心してね」

 

 この世界に来てから、意味の分からないものはいくらでも見てきたけど、こういう純粋に不思議で面白いものは嫌いじゃなかった。

 その時、前を歩いていた男性従業員が剣を抜いた。

 

「来るぞ」

 

 低い唸り声。

 次の瞬間、奥の暗がりから黒い影が飛び出してきた。四足の獣。背中から触手のようなものを揺らし、低く唸りながら床を蹴る。

 

「グロウルビーストよ。強くないから安心して大丈夫よ」

 

 前にいた二人の従業員が迷いなく一歩前へ出る。

 男性はロングソードを下段に構え、女性は二本の短剣を低く開いた。

 

 グロウルビーストが飛びかかった瞬間、男性の剣が閃き、女性が横から潜り込む。

 片方の喉が裂かれ、もう片方は脇腹をえぐられて床へ転がる。止めを刺すまでが滑らかで、あまりに無駄がない。

 

 昨日、普通に宿で働いていた人たちとは思えない動きだった。

 

「……普通に強くない?」

 

 思わず呟くと、タルちゃんがくすっと笑った。

 

「気になる?」

「いや、そりゃ気になるでしょ。宿の従業員って動きじゃないですよ。どう見ても慣れてる人の動きだ」

「ふふっ、この子たち宿の従業員はね~。もともと私の仲間なのよ」

「仲間?」

 

 聞き返したのはカイトだ。

 目を丸くして、倒れたグロウルビーストと従業員二人を交互に見ている。

 

「以前、ドゥル=ブルムで冒険者として活動してた頃に、一緒に組んでた子たち。私がこっちで宿をやりたいな~って言ったら、『じゃあ自分たちも行きます』って付いてきてくれたの」

 

 さらっと言うが、だいぶすごい話だな。

 

「今も冒険者なんですか?」

「ええ、引退はしていませんよ。銀級です」

 

 女性従業員が短く答える。

 

「銀級!?」

 

 カイトの声が裏返った。

 まあそうなるよな。宿で配膳してた人が普通に銀級冒険者でした、って話なんだから。

 

 男性が肩をすくめる。

 

「毎朝交代で姐さんと潜ってるんで。ダンジョンで腕を磨いて、ついでに食材を集めて、宿に戻ったらそのまま仕事って感じだな」

「大変じゃないですか……?」

「大変ではありますが、姐さんがやりたい事ですからね」

 

 女性従業員が少しだけ口元を緩めた。

 男性も当然みたいに続ける。

 

「姐さんと一緒にいれば強くなれるしな」

 

 その顔は、少し疲れていたが楽しそうだった。

 

 ……なるほど。

 朝からダンジョンで戦って食材を集め、戻ったら宿の仕事。そのうえタルちゃんの料理まであるのなら、そりゃ目も死ぬよな。

 いやむしろ、よくあの程度で済んでるな。

 

 ただ、そんな生活をしながらも、この人たちは楽しそうだった。

 強い人のそばで鍛えられて、しかもその人に心からついていっている。

 そういう空気が、言葉の端々から伝わってくる。

 やっぱりタルちゃんって、ただ筋肉がすごいだけじゃないんだろうな。

 

 そんなことを考えていると、タルちゃんがぱん、と手を叩いた。

 

 

「そうだ、カイト君も良かったら次戦ってみない?」

 

 視線の先にいたカイトが、ぴくっと背筋を伸ばす。

 どうやら、見学だけでは終わらないらしい。 

 

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