【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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63話 堕落する未来

 ドゥル=ブルムの中へ入ってからもしばらく、俺たちはきょろきょろと辺りを見回しながら歩いていた。

 

 門をくぐった先に広がっていた正面区画は、やはりアストルとは何もかもが違う。

 

 門のすぐそばには、さっきミゲルたちと別れた馬車ギルドの建物があり、その周囲には馬や馬車を停めるための広い区画がいくつも並んでいる。少し離れた場所には兵士の詰め所らしい建物も見え、その近くには盾の紋章が入った建物に、武装した冒険者らしき連中が出入りしていた。

 

 たぶん、あれが盾の会の詰め所なんだろう。

 

 そのほかにも、荷を広げて中身を確認している場所や、木箱を積み直している一角なんかも見える。

 全体的に、アストルよりもずっと忙しない。街の空気そのものが、常に何かを運び、守り、動かしている感じだった。

 

 カイトもティナもシエルも、周りを見ながら感心したみたいに「へぇ……」とか「わぁ……」とか、そんな声ばかり漏らしている。

 

 何だか都会に来たお上りさんみたいで面白い。

 ……いや、俺もそうなんだけど。

 

 そんな俺たちを眺めていたマルルゥが、眠そうな目のまま首を傾げた。

 

「それでどうするの~?」

「とりあえず、冒険者ギルドだな」

 

 俺は周囲を見回しながら答える。

 

「ギルド長から預かった書簡があるし、ブルム男爵に会うにはどうすればいいかも、まずはギルドで聞いた方がいいだろ」

 

 マルルゥは「ふぅん」と気のない返事をしたあと、少しだけ目を細めた。

 

「ギルドの場所、変わってなかったら奥の方にあると思うよ」

「あれ、ドゥル=ブルム来たことあるのか?」

 

 聞くと、マルルゥは肩をすくめる。

 

「昔、ちょっとね~」

 

 それだけだった。

 

 ……流石エルフ、というべきか。

 色んな場所に行ってるんだなぁ。

 まぁ、これでもミスリル級冒険者だし、昔は今よりもっとあちこち冒険してたのかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、マルルゥの言う方角へ歩き出す。

 

 正面区画の道は広い。

 広いのに、何だか歩きやすいような歩きにくいような、不思議な感覚があった。

 

 石畳の道はアストルみたいにすっと真っ直ぐ伸びている訳じゃなく、わずかに曲がりながら先へ続いている。建物の配置もどこか不規則で、道の端には低い柵や石の仕切りみたいなものも多い。

 

「何か、不思議な作りだな」

 

 思わず口に出していた。

 

「こんな曲がった風に作ってたら不便だろ」

 

 そう言うと、マルルゥは「あ~」と声を出して、少しだけ目を細める。

 

「これは、わざとそうやって作ってあるんだよ」

「わざと?」

 

 カイトも横から食いついた。

 

「何でですか?」

 

 マルルゥは大きな欠伸を一つしてから、のんびりと答える。

 

「元々ここは、魔物だけじゃなくて、戦でも使われてた場所だからね~。つまり、門を破られて中まで入られたとしても、そのまま真っ直ぐ雪崩れ込んでこられないようにしてあるのさ」

「どういうことだ?」

「まず、門を入った先が街の中心に向かって直線で続いてない。道が少しずつ曲がってる。で、その途中にも建物や柵があって、一気に人が流れ込みにくい形になってる」

 

 マルルゥは周囲を指さしながら続ける。

 

「ほら、あの角を曲がった先も見通せないでしょ? 敵が攻めてきても、どこに何があるか分からない。しかも曲がり角ごとに弓や魔法で迎撃できる。だから、仮に門が破られても、進軍しづらいってわけ」

「へぇ……」

 

 カイトが素直に感心した声を漏らす。

 戦、か。

 

 そうだよな。魔物以外にだって、戦いはある。

 この街はそういうものにも備えて作られているってことなんだろう。

 

「っていうか、そんな危険な場所ってこと?」

 

 思わず聞くと、マルルゥは軽く手を振った。

 

「まぁ、戦の話なんてもう随分と昔の話だけどね~。その頃の名残というか、それがそのまま残ってるってだけだよ」

 

 なるほど。

 今は戦の真っ最中って訳じゃなくて、昔の構造が今も残ってるってことか。

 それなら少し安心した。

 流石に、今も人同士でばんばん戦してるような場所で、のんびり匿ってもらう訳にもいかないしな。

 けれど、言われてみれば街の作りにはちゃんと理由があるのだと分かる。

 

 まっすぐ突っ切れない道。

 見通しを区切る石壁や柵。

 通りの途中に点々と置かれた、障害物にもなりそうな荷台や木箱置き場。

 兵士の詰め所が、一定の間隔で道を睨むように置かれているのも、きっと偶然じゃない。

 

 確かにこの作りなら、もし敵が攻め込んできたとしても、一気に奥までなだれ込むのは難しそうだ。

 

「へぇ……色々と考えられてるんだなぁ」

 

 思わず感心する。

 街そのものが、ただ人が暮らすためだけじゃなく、守るための仕掛けを持っている。

 しかもそれが、今も当たり前みたいに街の一部として馴染んでいるのが凄い。

 

 それにしても、古そうな作りだ。

 石の色も少しずつ違っているし、壁の継ぎ目や建物の角には、積み重ねられてきた時間みたいなものが見える。

 新しい街じゃなく、長い時間をかけて守られながら育ってきた街なのだろう。

 

 しばらく進むと、また兵士の詰め所らしい建物があり、その先に少し小さめの門が見えてきた。

 

「また門があるけど、中に入るのか?」

 

 俺が聞くと、マルルゥは「あそこから先が多分、居住区画だね」と答えた。

 

「かなり昔だから、あんまり覚えてないけど、ここまではどっちかっていうと馬車ギルドの厩舎とか、荷下ろしする場所とか、倉庫とか、兵士の詰め所とか、そういうのが多かったでしょ」

「あー……言われてみれば」

 

 たしかに、さっきから見てきたのは生活のための店というより、物流とか防衛に関係していそうな建物ばかりだった。

 武器屋っぽく見えた建物も、実際には店というより倉庫や工房に近かったのかもしれない。

 

「普通のお店とか一般向けの宿屋なんかは、あの中だったと思うよ」

「なるほどなぁ」

 

 感心しながら、その門のところまで近づいていく。

 

 すると、そこには何人かが列を作って待っていた。

 門の脇に小さな建物があり、一人ずつ兵士に呼ばれて中へ入っているらしい。

 

「思ったより、しっかりチェックするんだな」

 

 俺が呟くと、ティナも門の方を見ながら小さく息を吐いた。

 

「入るのに結構時間がかかりそうね……」

 

 たしかに列の進みは遅い。

 とはいえ、これだけ人が多い街なら当然かもしれない。

 俺たちもその列の最後尾に並ぶことにした。

 しばらく待って、やっと順番が回ってくる。

 

 一人ずつ小さな部屋に入れられ、兵士に質問されているようだった。

 名前、どこから来たのか、何のために来たのか。冒険者ならランクや登録した場所まで確認されているらしい。

 

 やがて俺の番が来た。

 

 中にいたのは、若い兵士だった。

 二十歳前後だろうか。短い薄茶色の髪に、日焼けした肌が健康的に見える。机の上の紙をぺらぺらとめくっていたが、俺を見た瞬間にその手が少しだけ止まった。

 

 ……ローブを深く被ってるからだろうか。

 やっぱり、不審者っぽく見えるのかもしれない。

 

 案の定、兵士は少しだけ困ったような顔をして言った。

 

「申し訳ないが、フードを取って顔を見せてもらえないか?」

「わかりました」

 

 俺は素直にフードを取る。

 すると兵士は、

 

「おぉ……」

 

 と言ったまま、固まった。

 

「あの」

 

 声をかけると、兵士は慌てて我に返る。

 

「あ、ああ、すいません。では質問をさせて頂きますので、答えてもらえますか?」

 

 名前と、冒険者かどうかを聞かれたので、順に答える。

 

「アウラです。冒険者です」

「ランクは?」

「銀級です」

 

 そう答えると、兵士は少し目を丸くした。

 

「おぉ……銀級ですか。お若いのに凄いですね」

 

 それから、どこか期待したような顔になる。

 

「ちなみに……二つ名をお聞きしても?」

 

 俺は一瞬だけ言葉に詰まった。

 

 うっ。

 そこ聞くのか。

 だが、ここで黙る方が不自然だ。

 覚悟を決める。

 

「……も、桃姫です」

 

 言った。

 言ってしまった。

 兵士はぱっと顔を明るくした。

 

「桃姫ですか! 何とも可愛らしい……あ、いえ、冒険者の方にそう言うのも失礼かもしれませんが……とてもお似合いの二つ名だと思います」

 

 何か熱い視線を向けられている気がする。

 

「は、はぁ……ありがとうございます……」

 

 何とも言えず、とりあえず礼を言う。

 

 その後、どんな理由で来たのかを聞かれたので、アストルのギルド長から書簡を預かっていて、ブルム男爵に会う予定だと伝えた。

 

 すると兵士は、一瞬だけ目つきを変えた。

 

「ほう、ブルム男爵様に?」

 

 鋭くなった視線はすぐ元に戻ったが、今のは見間違いじゃない気がする。

 

「わかりました。では、あとは簡単な身体検査をさせて頂いても?」

「はい、どうぞ」

 

 兵士は遠慮がちに体の外側を確認し、それから腰に下げていた魔剣へ目を向けた。

 

「こちらの剣を見せて頂いても?」

 

 言われるままに魔剣を渡す。

 髑髏の意匠を見た瞬間、兵士は一瞬ぎょっとした顔になった。だが、すぐに鞘から抜いて刀身を確認する。

 

 鏡みたいに綺麗な刀身を見て、小さく「おぉ……」と声を漏らしたあと、慎重に鞘へ戻し、俺へ返してきた。

 

「ありがとうございます」

 

 それから何やら紙にペンを走らせて、確認を終える。

 

「はい、これで問題ありません。ありがとうございます。こちらの入門許可証をお持ち下さい。以降はこちらを見せて頂ければ、ここに並ばずとも門を出入り出来ます」

「ありがとうございます」

 

 礼を返して部屋を出ようとしたところで、兵士が遠慮がちに声を掛けてきた。

 

「あのー……」

「はい?」

 

 兵士は一瞬だけ視線を泳がせ、それから意を決したように言った。

 

「私はガストンと言います。良かったら……お時間が合う時に食事でも行きませんか?」

「はぇ?」

 

 変な声が出た。

 兵士──ガストンは顔を赤くして、慌てて続ける。

 

「あ、いえ、その……おきれいな方だなと思いまして。す、すみません! 忘れて下さい!」

 

 そして、さっきまでの仕事顔に戻ろうとしたのか、ぴしっと背筋を伸ばす。

 

「ドゥル=ブルムへようこそ」

 

 にこやかな笑顔だった。

 俺は何とも言えない顔のまま「ど、どうも……」と返して、その部屋を出る。

 ローブを被り直し、居住区画へ足を踏み入れたところで、しばらく皆を待つことにした。

 

 ……今のが、ナンパというやつか。

 以前ヴァンにも同じような事をされたが、あれは茶化されただけな気がするので違うか?

 というか、もしかして俺って見た目だけなら女神の容姿でめちゃくちゃ可愛いんだから、演技でもしてしまえば男に貢いでもらえるんじゃないか?

 そうやって堕落して生きていく未来を一瞬想像する。

 だが、最後には「金をむしり取られた」とか「騙された」とかで男に刺されて死ぬヴィジョンまで見えてきた。

 

 やめておこう。

 ……いやでも、マルルゥのおねだりじゃないが、態度や言葉遣いをちゃんとして、少し気を持たせるような真似をすれば、ある程度ころっと異性を騙せそうだな……。

 いやいやいや、しないけど。

 ……しないけど、ちょっとやってみたい気持ちは──せっかく可愛いんだし。

 いや、何を考えているんだ俺は。

 

「おまたせー」

 

 そんな危ない思考をしているうちに、マルルゥたちの受付も終わったらしい。

 マルルゥが眠そうな声でやって来る。

 

「エルフだとこういう所、ちょっと長いんだよねぇ……」

「そういうもんなのか?」

「長く生きてる分、聞かれることが多いんだよ」

 

 なるほど。

 そういう苦労もあるのか。

 そして、門をくぐってこちら側へ入った途端、また景色が変わった。

 

 正面区画の無骨な石の空気とは違う。

 こっちはもっと、人が暮らす街の匂いがする。

 

 建物は相変わらず石造りが多いが、正面区画の倉庫や商館みたいな圧迫感は薄い。代わりに、宿屋や食堂、商店らしい看板が増え、窓辺に洗濯物が干してある家や、外に植木鉢を置いた建物も見えた。

 

 通りを歩いているのも、商人や兵士だけじゃない。

 

 子供が路地で遊んでいる。

 買い物籠を提げた市民が店先で値段交渉をしている。

 荷を運ぶ職人が汗を拭いている。

 旅人らしい格好の連中が地図を広げている。

 冒険者が武器屋の前で立ち話をしている。

 そして兵士が通りを巡回している。

 色んな人間がごちゃ混ぜになって歩いている。

 

 朝の忙しさは相変わらずだが、こっちは生活のための慌ただしさだ。

 通りに漂う匂いも、荷や馬の匂いばかりじゃない。

 焼いたパン、煮込み料理、薬草、革、香辛料、色んな匂いが混ざっている。

 しかもやはり、アストルより冒険者の数が明らかに多い。

 

 比べてみると、アストルの方がずっと整っていて、どこか上品だった気がする。

 それに対して、こっちは古そうな建物も多くて、通りの空気もずっと雑多だ。

 けれど、その雑多さが嫌な感じはしない。むしろ、人がひしめいて生きている街なんだと、そんな風に思わせる活気があった。

 

 武器屋や防具屋はもちろん、冒険者向けらしい薬屋、本屋のような店、それから地図らしきものを売っている露店まで出ていた。

 カイトがそれを見て目を輝かせる。

 

「ダンジョンの中の地図ですかね? 面白そう!」

「ダンジョンには行かないわよ」

 

 ティナが即座に釘を刺した。

 

「えっ、まだ何も言ってないのに」

「顔に出てるのよ」

 

 シエルも露店を見ながら、物珍しそうにしている。

 昨夜の門前広場とはまた違う、街の中の賑わいに少し圧倒されているのかもしれない。

 

 しばらくマルルゥの案内で進んでいくと、大きな建物が見えてきた。

 マルルゥは「あったあった」と頷き、胸を張る。

 

「記憶と同じ場所だったよ~」

 

 俺たちの前にあったのは、アストルのものより明らかに大きく、立派な冒険者ギルドだった。

 

 石造りの重厚な外壁。

 広い入口。

 出入りする冒険者の数も、アストルとは比べ物にならない。

 

 入口の脇には、いくつもの依頼書が貼られた掲示板が見える。

 武装した冒険者たちが、その前で何やら相談している。

 

 ここが、ドゥル=ブルムの冒険者ギルドか。

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