【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
ゲオルグの案内で、俺たちは館の中へと通された。
外観と同じで、内部も決して華美ではない。
けれど上品に整えられていて、目に入るものすべてに手が入っている感じがした。床も壁も綺麗で、古い建物のはずなのに、どこにもみすぼらしさがない。掃除だけじゃなく、日々の手入れそのものが徹底されているのだろう。
館へ入ってすぐのところには、小さな広間のような空間があった。
玄関ホールというほど大げさではないが、客を受け入れるための余裕はきちんとある。壁際には飾り棚があり、花瓶や小ぶりの置物が控えめに並べられている。その奥には左右へ続く廊下と、二階へ上がる階段が見えた。
そこで、ゲオルグがこちらへ向き直る。
「当家の決まりでして、武器をお預かりさせて頂きます」
物腰はあくまで柔らかい。
だが、断れない種類の丁寧さだった。
フレイは慣れた様子で「あいよ」と短く返し、腰から鞘ごと剣を外してすっと手渡した。
俺も慌てて魔剣を腰から外して渡す。
ゲオルグはそれを受け取り、にこりと笑った。
「お帰りの際にはお返しいたしますので、どうぞご心配なさらぬよう」
「は、はい」
魔剣を預けるのは少し不安ではあったが、ここまで来て嫌だとも言えない。
それに、ゲオルグの言い方には妙な安心感があった。
そこへ、廊下の奥から使用人らしき女性が現れた。
三十歳前後だろうか。落ち着いた色合いの、仕立ての良いワンピースに白いエプロンを重ねた姿で、派手さはないが清潔感がある。髪もきっちりとまとめられていて、歩き方まで綺麗に見えた。こちらを見ると、すぐにゲオルグへ声を掛けた。
「ゲオルグ様、お客様ですか?」
「ええ。クラウス様をお訪ねになられたお客様と、いつものフレイ殿です」
“いつものフレイ殿”と聞いた途端、女性はすっとフレイへ一礼した。
「まぁ、フレイ様。今日は新しい茶葉が入ったばかりですの。あとでお持ちしますね」
「お、そりゃいい。美味しいのを頼むよ」
フレイはひらひらと手を振る。
女性は小さく微笑むと、音も立てずにすっと下がっていった。
……何か、使用人の人まで洗練されているな。
やっぱり領主の館ってそういうもんなのか。
その後、俺たちは二階へ案内された。
階段を上がった奥、いくつか並ぶ扉の一つの前でゲオルグが立ち止まる。
そして、こんこん、と控えめに二度ノックした。
「クラウス様、フレイ殿と、アストルの冒険者ギルド長から書簡をお持ちになったお客様が参られております」
少し間を置いてから、部屋の奥から男の声が返ってきた。
「アストルの冒険者ギルド長……ロドリスか。入ってくれ」
ゲオルグが扉を開き、こちらへ目配せする。
「どうぞ」
中へ入った瞬間、俺は思わず目を見開いた。
武器と防具だ。
壁という壁に、剣、槍、斧、盾、甲冑──様々な武具が並べられている。
どれも綺麗に飾られていて、ただの物置きには見えない。けれど、ただ飾るためだけの品でもないことはすぐに分かった。磨き込まれてはいるが、そこにあるのは使われてきた武具の気配だった。装飾品としての華やかさより、実用品としての重みがある。
部屋の奥には大きな机が一つ。
手前には応接用らしいソファとテーブルのセットが置かれている。
そして、大きな机の向こうに座っていたのが、クラウスだった。
五十代前後だろうか。
少し大柄で、目つきは鋭い。少し褪せた金髪に、整った顔立ち。貴族らしい上等な服を着ているが、ひ弱な感じは全くしない。どちらかといえば、今でも剣を取って前へ出そうな男に見えた。
俺は慌てて、忘れないうちにローブのフードを取る。
──どうする。
頭の中が一気に忙しくなる。
フレイには固くならなくていいとは言われた。
だが、そういう訳にもいかないだろう。なんせ俺は匿ってもらう側で、しかもロドリスの書簡を持って突然押しかけてきた身だ。印象は良いに越したことがない。
映画とかドラマとかで見た、貴族への挨拶の場面を必死で思い出す。
えーと、どうするんだ。膝をつくんだっけ? 頭を下げる? 手はどうする?
よし、やるしかない。
俺はその場で跪き、頭を垂れた。
「此度は突然のご訪問、誠に申し訳ございません。アストルの冒険者ギルド長ロドリス殿より、ブルム男爵閣下宛の書簡を託され、恐れながらお持ちいたしました。無礼を承知のうえでのご拝謁、何卒お許し下さい」
自分で言っていて、ちょっとやりすぎでは? と思った。
でももう止まれない。
「私はアウラと申します。此度の非礼を重ねてお詫び申し上げるとともに、まずはお言葉を賜れますなら幸いに存じます」
それっぽく出来たか?
いや全然分からん。これ合ってるのか? やりすぎてないか? 逆に変じゃないか?
一通り言い切って顔を上げると、目の前に、目を丸くしているクラウスとフレイがいた。
そして、ゲオルグだけが「ほぉ」と興味深そうに目を細めている。
やっぱりなんかおかしかったか?
その空気を切るみたいに、クラウスがごほんと咳払いをした。
「あー……そんなに畏まらなくていい。俺は元々、そういう格式張った挨拶はどうも苦手でな」
そう言って苦笑する。
「何はともあれ、まずはようこそ、ドゥル=ブルムへ。俺はクラウス・ヴァル・ブルム。この街を治めている男爵だ。よろしくな」
思ったよりずっと緩い感じだった。
少しだけ肩の力が抜ける。
「は、はい。よろしくお願いします」
「さて、アストルからわざわざ書簡を持ってきてくれたってことなんで、さっそく確認させてもらおうか」
そう言って、クラウスは俺から受け取った書簡を開いた。
その間、フレイが楽しそうな顔で口を開く。
「お前さん、どこぞの貴族の娘か何かなのかい?」
「い、いえ、別にそういう訳では……」
「ふぅん?」
どう見ても面白いものを見つけた、という顔をしている。
何だその反応。疑ってるのか、それとも単に面白がってるだけなのか。
しばらくして、クラウスは書簡を机に置いた。
「なるほど」
そう言って、俺を見る。
「アウラと言ったか。アストルの冒険者を救い、オーロックの森から攻めてきた魔物の討伐および、魔物を操っていた首謀者を森渡りと共に退けた、とあるが。本当か?」
「はい。その通りです」
そう答えると、クラウスは感心したように頷いた。
「ほぉ、若いのに大したもんだ。何にせよ、ロドリスを助けてくれて礼を言う」
「へぇ。ちょっと前に、オーロックの森から魔物が攻めてきて森渡りが何とかしたって噂は聞いてたが、お前も活躍してたのか」
フレイも面白そうにこちらを見る。
「若いのにやるじゃないか」
褒められるのは悪い気はしない。
「で、髑髏の仮面を付けた男に狙われ、聖女と勘違いされている……か」
クラウスは書簡に目を落としたまま、低く言う。
「まぁ、ロドリスに頼まれちゃ断れねぇな。アウラ、お前をうちで預かろう」
その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなった。
「ありがとうございます」
だが、そこで終わらせる訳にはいかない。
「あの、友人たちも一緒に来ているんですが……その子たちも一緒にお願いできないでしょうか」
そう頼むと、クラウスはあっさりと頷いた。
「構わん構わん」
よし。
と思った次の瞬間、クラウスはにやりと笑った。
「その代わり、と言っちゃなんだが……」
嫌な予感がする。
「ロドリスからの書簡にも書いてあるが、お前の持ってる魔剣と鎧、相当珍しいものだとか。もちろん見せてもらえるんだろうな?」
良い笑顔だった。
それを見て、ゲオルグがやれやれというように肩をすくめる。
フレイは横で面白そうに笑っている。
……魔剣はともかく。
ハイレグアーマーも見せるのか。
一気に気分が沈んだ。
いや、でも逆に言えば、ハイレグアーマーを見せる程度で匿ってもらえるなら破格とも言える。
命に関わる条件じゃないだけまだましだ。たぶん。
俺は気持ちを切り替えて答えた。
「もちろん、お見せできます」
「よし!」
クラウスがちょっと嬉しそうに身を乗り出す。
「じゃあ早速見せてもらいたいんだが、いいだろうか!」
テンション上がってるな、この人。
「魔剣はさっきゲオルグさんに預けてありますし、鎧は今は着ていませんが持っています。着替えてきても良いでしょうか」
「もちろんだとも。部屋を用意させよう」
そうして、俺はゲオルグに案内され、近くの控え室らしい部屋へ通された。
中には姿見の大きな鏡、椅子、小さな棚、衣装掛け、水差しなどがあり、客が身なりを整えるための部屋らしい。寝室ではなく、来客用の控え室といった感じだ。
「お手伝いが必要であれば、使用人を呼びますが、いかがいたしましょう」
「いえ、一人で大丈夫です」
「かしこまりました。お着替えが済みましたら、先程のお部屋へお戻り下さい」
ゲオルグはそう言って一礼し、静かに部屋を出ていった。
一人残された俺は、深く息を吐く。
ハイレグアーマーを見せた時の皆の反応を、どうしても想像してしまう。
笑われたりしないだろうか。
引かれたりしないだろうか。
舐めてんのかって思われたりしないだろうか。
いや、ここまで来たらなるようにしかならない。
とにかく着替えて、見せるしかないんだ。
俺は腹をくくると、服を脱いでハイレグアーマーを装着した。
そして、何となく部屋の隅に置かれた姿見へ目を向ける。
……うん。
改めて全身で見ると、本当に露出が高い。
布面積がどうとかいう話じゃない。明らかに大事なところだけを守って、あとは見せつけるために作りましたみたいな装備だ。
どう考えても普通の鎧じゃない。
なのに、装備そのものの造形は妙に完成度が高い。
無駄に身体の線に合っていて、変に格好いい部分すらあるのが腹立たしい。
しかも、そこに女神ベースのこの顔と体が乗るせいで、余計にひどい。
似合ってしまっている気がするのが最悪だった。
「しかし……どう見ても変態だろ、これ」
鏡の中の自分に向かって小さく呟く。
それに反応するかのように、骨のチャームがチリチリと小さく鳴った。
だが、ここまで来たらもうなるようにしかならない。
やるしかない。
そう意気込んで、俺は先程の部屋へ戻る。
扉の前で一度深呼吸をして、こんこん、とノックする。
「アウラか? 入ってくれ」
クラウスの声が返ってきた。
俺は意を決して扉を開ける。
中にはクラウス、フレイ、ゲオルグ──そして、さっきまではいなかった少年が一人いた。
クラウスが口を開く。
「アウラ、こいつは俺の倅で次男のラルフ──」
そこまで言いかけたところで、ぴたりと止まった。
全員の視線が俺に集まる。
いや、正確には違う。
どう考えても、視線が丸出しの尻に集まっている気がする。
どう見ても変態です。
本当にありがとうございました。