【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
廊下へ出ると、俺はまずゲオルグへ向き直った。
「あの……着替えてきてもいいですか」
流石にこのままハイレグアーマー姿で外を歩き回るのはつらい。
いや、つらいどころではない。精神的に死ぬ。
ゲオルグは、まるで最初からそう言われるのが分かっていたかのように穏やかに頷いた。
「もちろんでございます。では、先ほどのお部屋へ」
そう言って、また控え室へ案内してくれる。
部屋に戻って大急ぎで着替え、いつもの服装に戻ると、ようやく人心地ついた。
いや本当に助かった。ハイレグアーマーは性能はともかく、精神衛生にはあまりにも悪い。
再び廊下へ出ると、ゲオルグは何も言わずに一礼し、そのまま出口の方へ歩き出した。
その道すがら、廊下の向こうから使用人らしき女性がやって来る。
先ほど玄関で会った女性とは別の人物だった。
三十代半ばくらいだろうか。こちらも落ち着いた色味のワンピースに白いエプロンを重ね、髪を綺麗にまとめている。派手さはないが、身のこなしの一つ一つに無駄がなく、洗練されて見えた。
女性は俺たちを見つけると、すぐに足を止めて、きれいに一礼した。
「ゲオルグ様」
ゲオルグは穏やかに応じる。
「ええ。こちらは今日からしばらくの間、クラウス様が客人としてお迎えするアウラ様です。アウラ様のご友人方も、同じく客人として迎えることになりました」
そして、俺の方へ向き直る。
「アウラ様、ご友人は何名になりますか?」
「えっと……男性が二人、女性が二人です。自分を入れて五人になります」
そう答えると、女性は少し目を丸くしたあと、柔らかく微笑んだ。
「まあ、お泊まりのお客様はお久しぶりですわ。どうぞよろしくお願いいたします、アウラ様」
「は、はい。よろしくお願いします」
何かこう、こっちまで背筋を伸ばしたくなるような丁寧さだ。
ゲオルグは女性へ向き直る。
「では、離れにお泊まり頂きますので、五名分のお部屋のご用意をお願いいたします。私どもは今から、アウラ様のご友人方をお迎えに参りますので」
「かしこまりました」
女性はもう一度一礼すると、静かにその場を下がっていった。
やっぱりこの館、使用人の人たちまで隙がない。
いや、隙がないというか……きっちりしてる、という言い方の方が近いか。
「では、参りましょうか」
ゲオルグに促され、俺は館の外へ向かった。
門へ向かうと、先ほど門番をしていた騎士がこちらに気づき、姿勢を正した。
「おや、お出かけですか?」
「ええ」
ゲオルグが穏やかに応じる。
「こちらのお客様──アウラ様を、我が家の客人としてお迎えすることになりましてな。一緒に滞在されるご友人方を、お迎えに上がるところです」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
門番の騎士は、こちらにも丁寧に一礼した。
門を出たところで、ゲオルグがふと思い出したように口を開く。
「ブルム家の騎士は、家紋を身につけておりますので、すぐに見分けがつきます。何かあれば、家紋を付けた騎士を頼って下さい」
そう言われて、先ほどの門番を思い出す。
たしかに、鎧の上に羽織っていた外套には紋章があった。
濃紺の盾形の中に、銀の双塔門。
門は閉ざされ、その中央に小さな盾が重ねられていた。
武骨なのに妙に格好いい紋章だな、と思う。
ふと気になって、俺はゲオルグに尋ねた。
「騎士と兵士って、何が違うんですか?」
ゲオルグは少しだけ目を細め、穏やかに答える。
「そう難しい話ではございません。兵士は、門や城壁、巡回など、日々の守りを担う者たちです。騎士はその中でも、家の名を背負い、指揮や重い務めを任される者が多いのです」
「じゃあ、強い兵士が騎士になることもあるということですか?」
「ええ。家柄の良い者が多いのは確かですが、それだけでは務まりませぬ」
ゲオルグは前を向いたまま続ける。
「このような辺境では特に、剣が立たねば話になりません。ブルム家の騎士は、名だけではなく、実際に守る力を持つことを求められます」
なるほど。
ただ偉い家の人間だから騎士、という訳でもないのか。
「アウラ様たちのことは、屋敷の騎士たちにも伝えておきます。何かお困りのことがあれば、どうぞ遠慮なく申し付けて下さい」
「ありがとうございます」
いや、それにしても。
騎士の鎧って格好いいよな……。
ああいうちゃんとした鎧、憧れる。俺が着るとしたら本当はああいうのが良かった。
何でハイレグなんだ。何で尻を強調する設計なんだ。
心の中で女神を恨むと、脳裏に「可愛いでしょ~!」と笑顔で親指を立てるあの女の顔が浮かんだ。
……考えるのはやめよう。精神に悪い。
来た道を引き返し、俺たちは冒険者ギルドまで戻った。
すると、入口の近くでティナとシエルが待っていてくれた。
馬車の中では、二人がそんなに打ち解けている雰囲気はなかったはずだ。
だが今は、さっきまで何か話し込んでいたらしく、どこか楽しそうな空気が残っている。
……あれ?
何だか仲良くなってる?
こちらに気づいたティナとシエルが、同時に顔を上げた。
「おかえり」
「おかえりなさい」
並んでそう言われると、何だか少し新鮮だ。
「何か仲良さそうな感じになってるけど、何かあったのか?」
そう聞くと、ティナが少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「べ、別に大したことじゃないわよ。ただ……ちょっとシャロンさんに相談に乗ってもらって、それで色々話してるうちに、まあ、少し」
珍しく歯切れが悪い。
シエルはそんなティナを見て、くすっと笑った。
「大丈夫ですよ。きっとうまくいきます」
「ちょ、ちょっと、シャロンさん!」
ティナが慌てて止める。
シエルは口元に手を当てて、「秘密です」とでも言いたげに笑うだけだった。
……何の話だ?
気にはなる。
めちゃくちゃ気にはなるが、今ここで突っ込んだらティナが余計に拗れそうなので、ひとまず黙っておくことにした。
とはいえ、仲良くなってくれたならそれはそれで良かった。
シエルはシエルで一人で抱え込みがちだし、ティナも意外と相談相手が少なそうだからな。
そこで、ティナが俺の後ろにいるゲオルグに気づく。
「そちらの方は?」
俺が紹介しようと口を開くより早く、ゲオルグが一歩進み出て一礼した。
「申し遅れました。私はブルム家に仕えております、ゲオルグと申します。アウラ様のご友人方をお迎えに上がりましたが……あとお二人、いらっしゃるのですよね?」
ティナは少しだけ緊張した様子で頷く。
「は、はい。えっと、今二人はその辺を散歩に行っていて……すぐ戻ってくると思います」
ちょうどその時だった。
通りの向こうから、両手いっぱいに袋を抱えたカイトと、その横で妙にご機嫌なマルルゥが戻ってくるのが見えた。
マルルゥは俺を見つけると、ひらひらと手を振る。
「あれ、戻ってきてたんだ。おかえりー」
カイトも荷物を抱えたまま、少し息を弾ませつつ声を掛ける。
「お、おかえりなさい……」
「お前ら、何してたんだ?」
聞くと、マルルゥが胸を張った。
「服だよ服! ボクの新しい服を色々買っておこうと思ってさー。可愛いボクをもっと引き立てるような良い服が、なかなかなくてね。とりあえず似合いそうなのを片っ端から買ってみたんだよ」
……いや、買いすぎだろ。
両手いっぱいの袋を見ていると、どう考えても「色々」どころではない。
カイトはというと、両腕に荷物を抱えて肩を落としていた。
「ぼ、僕はその……荷物持ちで手伝いに……」
「っていうか、お前買いすぎなんだよ。カイトが可哀想だろ」
俺が呆れて言うと、マルルゥはけろりとして答える。
「えー、これくらい普通だよ~。それに一応、弟子なんだから師匠の言うことは絶対、ってやつさ。ほらほら、重いものを持てば体も鍛えられるでしょ?」
「は、はい! 頑張ります!」
さっきより少し元気になっているあたり、カイトもカイトで前向きすぎる。
……大丈夫だろうか。
そんな二人を、ゲオルグはどこか微笑ましそうに眺めていた。
だが、マルルゥへ向けた視線だけはほんの一瞬だけ細くなった気がした。気のせいかもしれないが、何かを量るみたいな目だった。
すぐにいつもの穏やかな表情に戻ると、ゲオルグはマルルゥとカイトにも丁寧に挨拶した。
「はじめまして。ブルム家に仕えております、ゲオルグと申します。本日より、皆様を客人としてお迎えすることになりました。どうぞよろしくお願いいたします」
「へぇー、ちゃんとした人だねぇ」
マルルゥがいつもの調子で言う。
カイトは慌てて頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします!」
そうして、俺たちは全員揃って、再びクラウスの館へ向かうことになった。
カイトに荷物を持つのを手伝おうかと声を掛けたが、
「い、いえ! 鍛えられるので大丈夫です!」
と妙にはっきりした返事が返ってきた。
良いように使われてる気がするんだが、本人が納得してるならいいのか……?
坂を上っていく途中、ふと思い出してゲオルグに尋ねる。
「そういえば、さっき挨拶したラルフさんが次男って言ってましたけど、ご兄弟がいるんですか?」
「ええ、いらっしゃいます」
ゲオルグは頷いた。
「ラルフ様の上に長男のレオン様、そして下に妹君のリリア様がおられます。レオン様は現在、縁談のためヴァルケン伯爵家へ赴いておられますので、お戻りになるまでにはもう少し時間がかかるでしょう」
「へぇ……」
「リリア様の方は、家庭教師の授業が終わり次第、お会いになることもあるかと存じます」
レオンに、リリアか。
何となくだが、ラルフは真面目そうだったし、兄や妹もそういう感じなんだろうか。
話が合うといいんだけどな。
そんなことを考えながら、俺たちは再びブルム家の館へ続く坂を登っていった。