【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
あれよあれよという間に、俺は赤いドレスへ着替えさせられていた。
いや、着替えさせられていた、という表現で本当に合っている。
自分の意思で袖を通した感じがまるでない。気づいた時には使用人の女性たちが左右から手際よく布を扱い、気づけば服が脱がされ、別の服が身体に当てられていた。
「え、いや、あの……」
声を掛ける。
だが、すぐに明るい声が返ってきた。
「大丈夫ですよ、すぐ終わりますので」
「少々お静かにして頂けると助かります」
全然聞いてくれない。
使用人の二人はにこやかな顔を崩さぬまま、背中側で紐を締めていく。
きゅっと腰が締まり、思わず背筋が伸びた。
「うぉっ……」
息が少し詰まる。
ドレスというものは、着るだけで姿勢が変わるらしい。
胸元から腰にかけての線が妙に意識されるし、裾はふわりと広がって足にまとわりつく感覚がある。普段の動きやすい服と違って、ちょっと歩くだけでも「今いつもと違うものを着てますよ」という主張が強い。
しかも使用人たちはそこからさらに容赦がない。
「こちら、少し詰めますね」
「裾はこのくらいで良さそうです」
「もう少しだけウエストを合わせましょう」
紐を締め、裾を留め、布の流れを整え、肩や背中の位置を微調整していく。
まるで最初からそう決まっていたみたいな手つきで、どんどん俺の身体にドレスを馴染ませていった。
しばらくしてから、「では、こちらへ」と言われ、部屋にあった椅子へ座らされる。
次は髪だった。
普段はティナにツインテールにしてもらってる髪がほどかれ、肩から背中へさらりと落ちる。
そのまま櫛で丁寧に梳かれていくたびに、頭皮の感覚まで違って感じるから不思議だ。
長い金髪を何度も梳き、毛先を整え、顔まわりを少し残して、左右の髪を後ろでまとめていく。
いつものツインテールよりもずっと大人っぽい。けれど、きっちりしすぎている訳でもなく、頬のあたりに柔らかく髪が残るせいで、可愛らしさもちゃんとある。
後ろはゆるく束ねられ、まとめた位置から長い髪がそのまま背へ流れる形になった。毛先には少しだけ内側への丸みがつけられていて、動くたびにふわりと揺れる。
……何か、すごくちゃんとしてる。
鏡を見なくても、いつもの自分じゃないのが分かる。
次に、頬や目元へと指先が伸びてくる。
「あ、あの」
「少しだけですので」
少しだけ、と言いながら、全然少しだけではない。
頬に柔らかな色が乗せられ、目元には薄く影が足され、唇にも自然な艶が重ねられていく。
派手ではない。だが、明らかに顔立ちが整って見える。
全部終わったあと、使用人の一人が満足そうに頷いた。
「はい、終わりましたよ」
そう言われて、机の上に置かれた鏡を見る。
そこに映っていたのは、ものすごく可愛い少女だった。
いや、いつも可愛いのは知っている。
知っているが、髪と化粧とドレスで全部整えられた自分の姿は、普段のそれとは別物みたいだった。
「わぁ……!」
思わず口から漏れた。
いやいや、落ち着け。
自分自身の姿だということは分かっている。分かってるんだが──
可愛すぎるだろ、これ。
赤いドレスは腰の線をきれいに見せつつ、裾はふわりと広がっていて、俺の金髪にも妙によく映えていた。
普段みたいに元気でやんちゃっぽい可愛さではなく、ちゃんと“お嬢様っぽい”可愛さになっているのがまた困る。
鏡の中の自分に、ちょっと見惚れる。
いや、だってこれは……自分の姿でなかったら、普通に惚れてるだろ。
そんな風に自分の姿へ感心していると、正面へ回ってきたリリアが、上から下までじっくり眺めて、嬉しそうな声を上げた。
「ほら、やっぱり!」
ぱっと笑顔になる。
「あなたってば、元がすっごく可愛いんだから、ちゃんとしないともったいないわ! 我ながら、とっても良いドレスを選んだわね!」
ものすごく満足そうだった。
自分が選んだ玩具──いや違うな。自分が見立てた人形が思い通りに可愛く仕上がった、みたいな顔をしている。
それから何かを思い出したように、ぱっと振り向いた。
「他の子たちもそろそろ終わる頃かしら。見てくるわ!」
そう言って部屋を飛び出していく。
使用人の二人も「では、お夕食の時間までしばしお待ちください」と頭を下げ、その後を追って去っていった。
嵐のように現れ、嵐のように去っていく三人を見送る。
部屋に残された俺は、ぽつんと一人きりになった。
改めて鏡を見る。
やっぱり、凄く可愛い。
にしても、可愛すぎるだろ……。
そう呟いたあとで、胸の奥が妙にざわついていることに気づく。
自分自身の姿なのに、ドキドキしてしまう。
それは単に可愛いからだけじゃない。
今まであまり意識しないようにしていた、自分自身の性が女だということを、こうして改めて突きつけられた感じがしたのだ。
しかも、化粧やドレスで可愛く着飾られることに、ほんの少しでも嬉しさみたいなものを感じてしまった気がして──
「だ、だめだ……!」
思わず頭を抱える。
「俺は……心までそっちに行くわけには……!」
ぶんぶん首を振っていると、こんこん、と控えめに扉が叩かれた。
「ど、どうぞ!」
返事をすると、ティナとシエルが入ってくる。
二人とも、ドレスを着ていた。
シエルの顔はいつも通りなるべく隠すように整えられているが、ぼさぼさだった髪はきれいに整えられ、それだけで印象がだいぶ違う。
ティナの方は、ふんわりした淡い色合いの可愛らしいドレスで、普段の元気な雰囲気とはまた違う、年相応の少女らしさがぐっと前に出ていた。
シエルが苦笑いを浮かべる。
「急にドレスに着替えさせられたりして、びっくりしましたよ……。髪も直されそうになったので、何とか抵抗してこんな感じにしてもらいましたけど」
シエルの髪はきちんと整っているが、顔があまり露わにならないよう調整されていた。
これはこれで似合っている。
ティナは少しもじもじしながら、裾をつまんだ。
「きゅ、急に来たから、戸惑ってる内にドレスに着替えさせられて、化粧までしてもらったけど……へ、変じゃないかしら?」
不安げに俺とシエルを見る。
シエルはにっこり笑った。
「ええ、とっても綺麗ですよ」
俺も大きく頷く。
「ああ、本当本当。凄く似合ってるよ。きっとカイトも惚れ直すぜ」
そう言った瞬間、ティナは顔を真っ赤にした。
「ちょ、ちょっと! や、やめてよ……もう」
口ではそう言うが、まんざらでもなさそうだ。
ふとシエルと目が合う。
シエルは、ティナの反応を見て、嬉しそうな顔をしていた。
……お、これはシエルも、ティナがカイトのこと好きなのわかってるやつっぽいな。
そうと決まれば、カイトにこの可愛い姿をしっかり見せてやらねばなるまい。
そう思っていると、シエルが今度は俺に目を向けた。
「アウラさんも、凄く似合ってますよ。とっても可愛いです」
ティナも、うんうんと勢いよく頷く。
「本当にね。あんた、素がものすごく可愛いんだから、ドレス着て化粧したら反則よ反則。可愛すぎるもの。その体型に顔……ちょっと羨ましいわ」
い、いやぁ……。
そう言われても、元々男だった自分が何と答えればいいのやら分からない。
そんな風に戸惑っていると、再び扉がノックされた。
「どうぞ」
返事をすると、今度はカイトが入ってきた。
カイトも服を借りたらしく、白いシャツに深緑色のベスト、細身のズボンを履いている上に髪もセットしてある為、別人みたいに見える。
「あぁ~、みんなここに居たんですね……着替えをもらって、こんないい服を借りたんですけど……変じゃないですかね……」
そんなことを言いながら部屋へ入ってきたカイトは、俺たち三人の姿を見た瞬間、その場で固まった。
ぴたりと止まる。
口も半開きのまま動かない。
シエルが、すっとティナの方へ寄った。
「じゃーん。どうですか、ティナさんのドレス姿! とっても似合ってて可愛いですよね?」
いきなり真正面から振られたカイトは、壊れた人形みたいにこくこくと頷いた。
「は、はい……す、すごく似合ってて……」
シエルがにっこり笑う。
「似合ってて?」
追撃だった。
カイトは耳まで赤くしながら、何とか絞り出す。
「か、可愛いと思います……」
その瞬間、ティナが真っ赤になった。
「あぅ……あ、あの……ありがとう……」
少し俯きながら、でも勇気を出したように続ける。
「あの……カイトも、凄くかっこいい……よ」
おお。
おおお。
俺とシエルは後方で、うーん、何か青春してていいですねぇ、という感じで見守っていた。
これが後方腕組という奴だろうか。
ふと見てみると、半分開いていた扉の隙間から、にまにましたリリアの顔が覗く。
「うんうん、みんなとっても似合ってていいわ!」
完全に覗き見していた顔だった。
「ティナとカイト、だったかしら。二人ともとってもお似合いよ」
うふふ、と楽しそうに笑う。
ティナは慌てた。
「い、いやいや別にそういう訳では……!」
言い訳しようとするが、リリアは大きく頷くだけだった。
「言わなくても大丈夫よ! わかってるもの!」
何もわかってない顔である。
そして、ぱんと手を叩く。
「それじゃあ、もうしばらくしたら歓迎会ですし、一緒にあっちの食堂に行きましょう!」
使用人たちも後ろでにこにこしていて、完全に流れが決まっていた。
俺たちはそのまま、リリアたちに促される形で本館の食堂へ移動することになった。
歩き出してすぐ、俺は内心で呻く。
うぅ……ドレスって、違和感すごいな。
腰回りはきゅっと締められているし、胸元もちゃんと整えられているせいで、背筋を曲げると妙に気になる。
裾はふわっと広がっていて、足を大きく動かすと布が遅れてついてくる。普段の感覚で歩くと引っかけそうで怖いし、何よりスカート部分の存在感が強くて落ち着かない。
しかも、少し急いで歩きたくてもそういう歩き方に向いていない。
上品に、ゆっくり、綺麗に歩けと言われているような服だ。
ティナもやや歩きにくそうにしていた。
カイトは借りた上等な服が落ち着かないのか、肩や袖を気にしてそわそわしている。
シエルだけはこういう服に慣れているのか、違和感が少なそうだった。
本館の食堂は、一階の奥にあった。
中へ入ると、思わず「おお……」と声が漏れそうになる。
そこは家族の普段の食事にも、客を交えた晩餐にも使われる食堂らしく、十人から十五人ほどが無理なく座れそうな広さだった。中央には長い木製の食卓が置かれ、よく手入れされた椅子が整然と並んでいる。壁にはブルム家の紋章をあしらった簡素な装飾とタペストリーが掛けられ、暖炉の火と燭台の明かりが部屋全体に温かみを与えていた。
豪奢すぎるわけではない。
だが、辺境領主家らしい重厚さと落ち着きがあって、アストルの食堂なんかとはやはり空気が違う。
食堂の中には、すでにクラウスとラルフ、ユリウスが座っていた。
クラウスの近くには、いつものようにゲオルグが控えている。
入った瞬間、リリアが「お父様!」と駆け寄り、そのままクラウスへ抱きついた。
「おいおい」
クラウスは困ったような顔をしつつも、本気で引き剥がす気はないらしい。
客人の前だからほどほどにな、と苦笑しているあたり、結局甘いのだろう。
ゲオルグはにこりとしたまま椅子を引いた。
「さあ、リリア様。こちらへ」
クラウスは俺たちを見ると、少し肩をすくめた。
「リリアに付き合ってもらってすまんな。どうもリリアは、ドレスや化粧をさせるのが好きみたいでな」
それから少しだけ居住まいを正す。
「改めて、ようこそドゥル=ブルムへ。俺はクラウス・ヴァル・ブルム。この街を治めている男爵だ」
俺は軽く頭を下げ、続けて皆を紹介した。
「こちらが友人のティナ、カイト、シャロンです。それと、エルフのマルルゥという魔法使いもいるのですが、外へ出かけているのか姿が見えなくて……」
それを聞いて、ゲオルグが穏やかに答える。
「マルルゥ様でしたら、門番より出かけたと報告を受けております。まだお戻りではないようですね」
どこに出かけてるんだあいつ。変な事してなきゃ良いんだが……。
ティナとカイトは、がちがちに緊張したまま頭を下げた。
「よ、よろしくお願いいたします……」
「よ、よろしくお願いします!」
シエルは一歩前へ出ると、流れるような所作で軽く膝を折り、丁寧に一礼する。
「シャロンと申します。本日はこのようなお席にお招き頂き、ありがとうございます」
……さすが、慣れてるな。
クラウスも自然に頷いた。
そこで、クラウスがラルフの方へ視線を向ける。
「ラルフ、お前も挨拶を──」
だが、ラルフは動かない。
視線は完全に俺に向いていた。
しかも、さっき以上に真っ赤である。
「ラルフ」
クラウスがもう一度呼ぶ。
「……あ、ああっ!」
ようやく我に返ったらしい。
ラルフは慌てて立ち上がり、ぎこちない動作で頭を下げた。
「ラ、ラルフ・ヴァル・ブルムだ。よ、よろしく……頼む」
その声もどこか上ずっている。
さっきのハイレグアーマーの印象も残ってるんだろうが、今の姿も相当効いている気がする。
まあ、俺自身が見惚れたくらいだ。気持ちはわかるぞ。
クラウスはそんな息子を見て、軽くため息をついたが、それ以上は何も言わなかった。
続いて、リリアが椅子から立ち上がる。
昼間と同じく、年齢に似合わぬ綺麗な挨拶だった。
「改めまして、リリア・ヴァル・ブルムでございますわ。皆様とご一緒できて、とても嬉しいです」
そしてユリウスも穏やかに一礼する。
「リリア様の家庭教師をしております、ユリウスです。どうぞよろしくお願いいたします」
一通り紹介が済むと、クラウスが席へ着くよう促した。
「ささやかながら、歓迎の食事を用意した。楽しんでいってくれ」
その言葉を合図に、使用人たちが料理を運び始める。
俺たちもそれぞれ椅子へ腰を下ろした。
席についてからも、ラルフは俺の方をチラチラと見てくる。
しかも、たまに俺と目が合うたびに目を逸らし、また顔が赤くなる。
……大丈夫か、こいつ。
俺が「よろしくお願いしますね」と小さく声を掛けると、ラルフは肩を跳ねさせた。
「あっ、いや……ああ! こちらこそ……!」
やっぱり駄目そうだった。