【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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77話 小さな背中

 訓練場の中央で、カルスが静かに佇んでいる。

 ただ立っているだけだ。

 剣に手を添え、こちらを待っているだけ。

 それなのに、さっきまでとは空気が違って見えた。

 

 食堂の端で控えていた時。

 夜の離れを見回っていた時。

 クラウスの後ろに静かに立っていた時。

 そのどれとも違う。

 

 今のカルスは、完全に剣を持つ人間の顔をしていた。

 必要なら迷わず斬る。

 そんな気配が、静かな立ち姿の奥にある。

 いや、これは立ち合いだ。

 勝ち負けを決める模擬戦ではない。

 カルスも、こちらを傷つけるつもりはないはずだ。

 

 分かっている。

 分かってはいるのだが。

 真剣である。

 

 しかも俺が持っているのは、盾や鉄板すら何の手応えもなく斬ってしまう魔剣だ。

 カルスが持っているガルディオンも、どうやっても傷つかず折れないという魔剣らしいが、あれだけ綺麗に盾や鉄板が斬れた後だと、不安になってくる。

 

 魔剣同士の立ち合いだ。普通に怖い。

 俺は内心で盛大にため息をつきながら、それでも意を決してカルスのもとへ歩いていった。

 距離が近づく。一歩。また一歩。

 剣の間合いに入る少し手前で、カルスが静かに頭を下げた。

 

「アウラ様、魔法や身体強化はなし、あくまで剣のみでの立ち合いで。よろしくお願いいたします」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 俺も慌てて頭を下げる。

 カルスはゆっくりとガルディオンを鞘から抜いた。

 

 無骨な形の剣だった。

 装飾らしい装飾は少なく、派手さはない。

 だが、刃には鈍い光が宿っている。

 見た目は地味なのに、どこか存在感がある。

 

 ガルディオン。

 頑丈さだけならクラウスのコレクションでも一番、という魔剣。

 それをカルスが持つと、妙に様になっていた。

 俺も腰の魔剣に手をかける。

 

 白骨を束ねたような柄。

 鏡のような刀身。

 趣味がいいとは言い難い見た目。

 けれど、手に取ると、不思議なくらい馴染む。

 

 頼むぞ、剣術スキル。

 俺は魔剣を抜き、構えた。

 その瞬間、体の中で何かが切り替わる。

 さっきまでの不安が消えるわけではない。

 怖いものは怖い。真剣で立ち合うなんて、普通に考えれば正気の沙汰ではない。

 だが、剣を構えた途端、呼吸が勝手に整った。

 足の位置、肩の力、腰の向き、刃の角度。

 すべてが、あるべき場所へ収まっていく。

 考えたわけではない。

 体が知っている。

 

 どこに立てばいいのか。

 どこからなら届くのか。

 どこまで踏み込めば危険なのか。

 まるで、誰かに後ろから体を調整されているような感覚だった。

 中身の俺はこんなものを知らないのに、体だけが最適解を知っている。

 カルスはその様子を見て、わずかに目を細めた。

 

「では、始めます」

「はい」

 

 返事をした瞬間、空気が張り詰めた。

 先に動いたのは、俺だった。

 

 大きく踏み込むわけではない。

 あくまで、刃が届くか届かないかの浅い一歩。

 そこから、牽制の一刀を放つ。

 カルスの肩口へ向けた斬撃。

 もちろん、本気で斬るつもりはない。

 いつでも止められるように、細心の注意を払っている。

 

 だが、刃の筋は鋭く通った。

 カルスはそれを受けなかった。

 半歩、体を斜めにずらす。

 ただそれだけで、俺の剣は空を切った。

 無駄がない。大きく避けない。

 必要な分だけ外す。

 そして、そのまま次の動きに繋げられる位置にいる。

 やっぱり、相当できる人だ。

 

 俺はすぐに二撃目を出す。

 今度は角度を変え、横から胴へ。

 カルスはまた受けない。

 足を引き、刃の外側へ抜ける。

 

 三撃目。

 今度は下から斜めに切り上げる。

 カルスの剣がわずかに動いた。

 刃を合わせるのではなく、ガルディオンの腹で軌道を軽くそらす。

 

 ガチン、という音はしない。

 ほんの小さな金属音が鳴っただけだ。

 まともに受けていない。

 剣の向きだけを変えられた。

 その瞬間、カルスが一歩踏み込んでくる。

 

 反撃。

 来るタイミングは読めていた。

 俺は体をひねる。

 カルスの刃が、俺の肩先をかすめるように通り過ぎた。

 

 怖い。

 めちゃくちゃ怖い。

 だが、避けられる。

 

 剣筋が見える。

 どこへ来るのか、どう外せばいいのか、体が分かっている。

 

 カルスの次の一撃は、すぐに来た。

 踏み込みからの突き。

 いや、違う。

 これは誘いだ。

 そのまま避ければ、次の横薙ぎが来る。

 心眼のスキルが、警鐘のように告げてくる。

 俺は反射的に大きく身を引いた。

 その直後、俺がいた場所を、カルスの剣が横に払った。

 やっぱりフェイントだった。

 

「む……」

 

 カルスの表情が、ほんのわずかに動いた。

 驚いた、というほどではない。

 けれど、予想外だったのだろう。

 今のに引っかかっていたら、たぶんガルディオンの腹か柄で軽く打たれていた。

 

 危ない危ない。

 心眼がなかったら、そのまま食らっていたかもしれない。

 訓練場の端で見ていたクラウスが、低く声を漏らした。

 

「ほう……」

 

 その横でリリアが両手を握りしめている。

 

「アウラ、すごいですわ……!」

 

 ユリウス先生も目を細めていた。

 

「身体強化なしで、あの反応ですか……」

 

 聞こえている。

 聞こえているが、返事をしている余裕はない。

 カルスはまだ構えを崩していない。

 こちらを見る目が、少しだけ変わった。

 

 さっきまでは様子見だった。

 今も本気ではないだろうが、俺への警戒度が一段上がった気がする。

 なら、こちらも少しだけ踏み込んでみるか。

 無茶はしない。

 本気で斬るわけでもない。

 ただ、一段だけ速度を上げる。

 

 俺は息を吸って足に力を込める。

 踏み込んで剣を振る。

 

 一撃目は、右からの横薙ぎ。

 カルスは身を沈めて避ける。

 

 二撃目は、そのまま体を回して左から返す。

 独楽のように回転する動き。

 自分でやっているはずなのに、流れに乗った体が勝手に次の動きを選んでいく。

 カルスは一歩下がる。

 

 三撃目。

 回転の勢いを殺さず、上段から斜めに落とす。

 その刃筋が、カルスの肩口へ向かう。

 もちろん、当てるつもりはない。

 寸前で止める。

 そう思った瞬間、カルスの剣が動いた。

 ガルディオンが、俺の魔剣を受けた。

 ガチッ、と金属と金属が噛み合う音が訓練場に響く。

 

 さっき盾を斬った時とは違う。

 何の手応えもなく通り抜けた時とは違う。

 そこに、確かな抵抗があった。

 

 止められた。

 俺はすぐに力を抜き、剣を引く。

 そのまま後ろへ跳び、距離を取った。

 カルスも追ってこない。

 互いに間合いを外し、再び構える。

 一瞬の静寂。

 俺の心臓が、やけに大きく鳴っていた。

 

 怖い。

 だが、少しだけ楽しい。

 そう思ってしまった自分に、少し驚く。

 戦いたいわけではない。

 痛いのも怖いのも嫌だ。

 

 でも、今の動きが通じたこと。

 カルスが一瞬だけ本気で対応したように見えたこと。

 それが、少しだけ嬉しかった。

 

「ふむ、それくらいで良いだろう」

 

 クラウスの声が響いた。

 

「二人とも止まれ」

 

 その声で、カルスはすぐに剣を下ろした。

 俺も慌てて魔剣を引き、構えを解く。

 ほっと息を吐くと、体の力が少し抜けた。

 思った以上に神経を使っていたらしい。

 

 真剣同士の立ち合いなんて、もう二度とやりたくない。

 カルスはガルディオンを納め、こちらへ一礼した。

 

「ありがとうございました」

「あ、ありがとうございました」

 

 俺も慌てて頭を下げる。

 クラウスが近づいてきた。

 

「アウラ、お前なかなかやるじゃないか」

「い、いえ。剣のおかげみたいなところもありますし」

「それだけではないだろう」

 

 クラウスはそう言って、カルスへ視線を向ける。

 

「太刀筋を見るに、かなり完成された動きだったように見えたが……カルス、どうだった?」

 

 カルスは少し考えるように目を伏せた。

 そして、真面目な顔で答える。

 

「アウラ様の剣筋は、非常に洗練されています」

 

 その言葉に、俺は少しだけ背筋を伸ばした。

 

「踏み込み、間合いの取り方、刃筋、回避の判断。どれも高い水準にあります。少なくとも、基礎を知らない者の動きではありません」

「ほう」

 

 クラウスの目が細くなる。

 

「そこまでか」

「はい」

 

 カルスは頷く。

 

「特に、私の誘いに乗らなかった点は見事でした。あのまま半歩踏み込んでいれば、こちらの返しが入っていたと思います」

 

 やっぱり、あれはそういう動きだったのか。

 俺は内心で冷や汗をかく。

 心眼が反応しなければ、たぶん見事に引っかかっていた。

 

「さらに、最後の三連撃も見事でした。回転の勢いを殺さず、次の刃へ自然につなげていた。あれほど淀みなく連撃を繋げる者は、そう多くありません」

「お前ほどの者がそこまで言うとはな」

 

 クラウスは感心したように俺を見る。

 

「アウラ、お前は本当に不思議な娘だな」

「あはは……そ、そうでしょうか」

 

 カルスはさらに続けた。

 

「しかし力と速度には、まだ伸びしろがあるように感じました」

「力と速度、ですか」

「はい」

 

 カルスは淡々と言う。

 

「アウラ様の技は正しい。剣は届くべき筋を通っています。ですが、身体の出力があと一歩足りない」

 

 身体の出力。

 その言葉が、妙に腑に落ちた。

 

「例えば、先ほどの三連撃。動きそのものは美しいものでした。ですが、もし力と速度があと少し乗っていれば、私も最後の一撃を受けるのではなく、距離を取らざるを得なかったでしょう」

「つまり、技は良いが体が追いついていない、ということか」

 

 クラウスが言うと、カルスは頷いた。

 

「そのように見えます。もちろん、今回はお互いに身体強化を使っておりませんし、刃が当たらぬよう細心の注意を払いながらの立ち合いでした。本気でのアウラ様の動きを見たわけではありません。ですので、断言はできませんが」

 

 カルスは俺を見る。

 

「少なくとも、剣術そのものは高い水準にあります。鍛えるべきは、技を支える身体と、動きの出力かと」

 

 淡々と語るカルスの言葉に、俺は感心してしまった。

 あの短い立ち合いで、そこまで分かるものなのか。

 だが、カルスの言葉には心当たりがあった。

 ヴァンの動きや、骸骨仮面の男と戦った時に感じたこと。

 あいつらは、強い。単純に強い。

 剣術だけの問題ではない。

 体の速さ、力、反応、踏み込みの重さ。

 そういう基礎的な部分が、俺より上だった。

 

 魔力による身体強化の有無もあるだろうが、単純なステータスの差も大きい気がする。

 俺は剣術スキルのおかげで、剣術としてはかなり完成された動きができる。

 体が勝手に最適解を選んでくれる。

 けれど、俺自身の筋力や敏捷が足りていなければ、その最適解を十分な速度と力で実行できない。

 

 技はある。

 でも、体が追いつかない。

 剣術スキルを活かしきれていないというか、動きに見えない枷があるようなものなのかもしれない。

 

 ……これ、以前スキル一覧で見た魔力操作を取っていたら、身体強化も使えたのかな。

 スキルポイントが増えたら、魔力操作を取るのもありかもしれない。

 いや、まずはシエルに聞いてみよう。

 もっと良いスキルがあるかもしれないし。

 そんなことを考えていると、リリアがぱっと駆け寄ってきた。

 

「アウラ、すごいですわ!」

 

 リリアは目をきらきらさせていた。

 

「さっきの動き、とても綺麗でしたわ! くるっと回って、剣が光って、まるで舞っているみたいでした!」

「あ、ありがとうございます」

「素敵な鎧だとは思っていましたけれど、動くともっと可愛く見えますわ!」

 

 可愛く……可愛いかなぁ……これ。

 俺は一瞬、言葉を失った。

 

 さっきの立ち合いを見て、出てくる感想がそれなのか。

 いや、リリアらしいと言えばリリアらしい。

 リリアはそのまま勢いよくクラウスへ振り返った。

 

「ねえ、お父様! わたくしも、アウラの鎧みたいなものがほしいですわ!」

「い、いやぁ……」

 

 クラウスの顔が引きつった。

 

「お前にはまだちょっと早いというか……色々と問題があると思うんだ、な」

「問題?」

「問題だらけだ」

 

 クラウスはきっぱり言った。

 俺も内心で頷く。

 問題だらけである。

 リリアはむっと頬を膨らませた。

 

「では、次のお誕生日のプレゼントにしてくださいませ!」

「いや、だからだな……」

「髑髏だとちょっと怖いので、お花を象ってみたらどうかしら? 腰にある骨のチャームも、羽に変更してみたら、もっと可愛いと思うの!」

 

 リリアは目を輝かせたまま、今度は俺を見る。

 

「アウラ、どうかしら!」

「い、いやぁ……どうでしょうか……」

 

 俺は思わずクラウスを見る。

 クラウスは引きつった笑顔で、ゆっくりと首を横に振っていた。

 ですよねー。

 俺もそう思います。

 

「ねえお父様! わたくし、次の春迎えの舞踏会では、これを着てみたいわ!」

「舞踏会?」

「この鎧、とっても格好良くて可愛いもの!」

 

 リリアは完全に本気だった。

 俺は慌てて口を挟む。

 

「えー……っと、これはこんな見た目ですが、一応鎧ですし、舞踏会で着るのは……どうなんでしょうか?」

 

 遠回しに、やめておいた方が良いと伝えたつもりだった。

 だが、リリアは全く聞いていなかった。

 

「これを着て踊ったら、きっと皆びっくりするわ!」

「それは、びっくりすると思います」

「でしょう! だって、こんなに目立って素敵な衣装、見たことないもの!」

 

 目立つ。

 それは間違いない。

 春迎えの舞踏会とやらがどういうものかは知らないが、リリアが花と羽根のハイレグアーマーもどきを着て踊ったら、間違いなく参加者全員の記憶に残るだろう。

 たぶん、別の意味で。

 クラウスは額を押さえた。

 

「お前はまたそういう……そりゃ、皆びっくりはするだろうな……」

 

 深々と息を吐く。

 

「リリア。やめておけ。これは舞踏会に着ていく衣装ではない」

「ええっ、どうしてですの!?」

「どうしても何もない」

 

 クラウスの声は少し強かった。

 ぴしゃりと言われて、リリアの顔がしょんぼりと沈む。

 その変化は、思ったより大きかった。

 さっきまであんなに目を輝かせていたのに、急に肩が落ちる。

 

「……お母様がいらっしゃったら」

 

 リリアは小さく呟いた。

 

「きっと、わたくしらしくて素敵ねって、言ってくださったと思います……」

 

 その場の空気が、一瞬止まった。

 クラウスの表情が、わずかに強張る。

 リリアはそれ以上何も言わず、うつむいたまま屋敷の方へ歩いていった。

 小さな背中だった。

 さっきまで、あんなに明るく笑っていたのに。

 その背中が、急に年相応の子どものものに見えた。

 

「リリア様」

 

 ユリウス先生がすぐに前へ出る。

 そして、クラウスへ視線を向けた。

 

「クラウス様。私がついていきます」

「先生……悪いが頼む」

「ええ、お任せください」

 

 ユリウス先生は一礼すると、リリアの後を追っていった。

 訓練場に、少しだけ気まずい沈黙が残る。

 そういえば、クラウスの奥さんをまだ見ていなかった。

 

 食事の席にもいなかった。

 屋敷の中でも、それらしい人には会っていない。

 何か理由があるのだろうとは思っていたが。

 クラウスはしばらくリリアの背中を見送っていた。

 そして、俺へ向き直る。

 

「すまないな」

「いえ……」

「せっかく良いものを見せてもらったのに、こんな空気にしてしまった」

 

 クラウスは苦笑しようとして、うまく笑えなかったような顔をした。

 それから少し間を置いて、静かに言う。

 

「お前たちには、しばらくこの屋敷で過ごしてもらうことになる。だから、少しだけ話しておく」

「はい」

「妻は、少し前に病で亡くなってな」

 

 やはり、そうだったのか。

 俺は言葉を失った。

 

「リリアも最近は元気になってきたと思っていたんだが、何かあると、ああやって思い出してしまう」

 

 クラウスは小さく息を吐く。

 

「母親に似て、明るくてな。思いついたことをすぐ口にして、周りを振り回すところもそっくりだ」

 

 その声には、懐かしさと痛みが混ざっていた。

 

「だから余計に、時々どう接すればいいのか分からなくなる」

 

 クラウスの大きな手が、わずかに握られる。

 

「親として情けない話だがな」

「そんなことは……」

 

 俺はすぐには言葉を続けられなかった。

 簡単に分かります、なんて言えない。

 慰めの言葉を軽く口にするのも違う気がした。

 

 でも、さっきのリリアの背中は、頭から離れなかった。

 あの歳で母親を亡くす。

 それがどれほど辛いことなのか、俺には本当の意味では分からない。

 だが、リリアが気丈に振る舞っていることだけは分かる。

 

 あんなに明るく笑って、俺たちにも無邪気に話しかけてくれて。

 けれど、その奥には、まだ癒えていない寂しさがあるのだ。

 

「少し気にかけてやってくれると助かる」

 

 クラウスがそう言った。

 俺は姿勢を正す。

 

「はい。もちろんです」

 

 俺に何ができるかは分からない。

 貴族の家の事情に踏み込めるほど、俺はこの世界のことを知らない。

 リリアの寂しさを埋められるとも思わない。

 

 それでも。

 あの子がまた笑えるように、ほんの少しでも力になれるなら。

 それくらいは、したいと思った。

 

 

 

 その後、立ち合いはそこでお開きになった。

 俺は控室へ戻り、ハイレグアーマーを解除して普段着に着替えた。

 ようやく普通の服に戻ると、心の底から安心する。

 やっぱり布地が多い服は良い。

 安心感が違う。

 

 魔剣は返してもらえた。

 ただし、クラウスからは念を押された。

 

「本館内では、くれぐれも召喚するなよ」

「もちろんです」

 

 いや、俺だって好き好んで本館で魔剣を呼び出すつもりはない。

 そう自分に言い聞かせながら、俺は魔剣を腰に下げた。

 

 重さは、相変わらずほとんど感じない。

 けれど、今日見たものと聞いたもののせいで、少しだけその存在が重く感じられた。

 それは、ただの武器の重さではない気がした。

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