【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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第78話 おじさんには眩しい

 離れに戻ったあと、俺たちは昼食を取った。

 

 昼食は本館ではなく、離れの食堂に運ばれてきた。

 パンと温かいスープ、焼いた肉と野菜、それに果物。

 昨日の歓迎会ほど豪華ではないが、普通に考えれば十分すぎるくらいきちんとした食事だ。

 

 いや、普通に美味い。

 こんな高待遇で匿ってもらうのって、本当に大丈夫だろうか。

 あとで高額な請求来たりしないよな……?

 小市民な俺は少しだけ不安になってしまう。

 そんなことを考えながら食べていたのだが、食堂にマルルゥの姿はなかった。

 朝方に戻ってきた時の、あの疲れ切ったような顔を思い出す。

 いつものように人をからかう余裕もなく、俺の問いかけにもほとんど答えず、自分の部屋へ入ってしまったマルルゥ。

 

 ……まだ寝ているのだろうか。

 また後で声を掛けてみるかと考え、俺はひとまず昼食を終えた。

 

 それから少しして、カイトと剣の訓練をすることになった。

 朝にカルスと立ち合いをしたせいもある。

 自分の剣術がどういう状態なのか、少しだけ分かった気がしたのだ。

 

 技はある。

 でも、体が追いついていない。

 カルスにそう言われたことが、まだ頭の中に残っている。

 まずは剣を使うことに慣れていくのが良いかもしれないと考えた。

 そういう理由もあったし、カイトも訓練には前向きだった。

 

 俺はゲオルグに声をかけ、訓練に使える場所と木剣、それから簡単な防具を借りられないか相談した。

 するとゲオルグは、にこやかに頷いた。

 

「もちろんでございます。お怪我のないよう、こちらで用意いたしましょう」

 

 その手際は早かった。

 使用人に指示を出し、訓練用の木剣や防具を準備させる。

 さらに、俺たちを今朝使った訓練場へ案内してくれた。

 朝は魔剣同士で向かい合ったせいもあって、空気がやけに張り詰めていた。

 だが、今は違う。

 

 手にしているのは木剣。

 お互いちゃんとした防具も付けている。

 魔剣じゃない。

 それだけで、心の底から安心できた。

 やっぱり訓練はこうでなくては。

 真剣同士の立ち合いなんて、心臓に悪すぎるもんな。

 

「よろしくお願いします、アウラさん!」

 

 カイトは木剣を握り、真剣な顔でこちらを見た。

 昨日から今日にかけて、色々と見て、聞いて、考えているのだろう。

 カイトの強くなりたい気持ちが、こちらにも伝わってくる。

 

「ああ。よろしくな」

 

 俺は軽く木剣を構える。

 

「やぁ!」

 

 カイトが踏み込んでくる。

 俺はその木剣を軽く避けた。

 

 一撃目は大振り。

 力は入っているが、出どころが分かりやすい。

 

 二撃目は横から。

 俺は木剣で受ける。

 カン、と乾いた音が鳴った。

 魔剣同士の重たい音とは違う。

 木剣の軽い音だ。

 

 ああ、安心する。

 これだよ、これ。

 訓練ってこういうものであるべきだと思う。

 

「カイト様」

 

 すぐそばで見ていたゲオルグが、穏やかな声で言った。

 

「はい!」

「踏み込む前に、右肩が少し上がっております」

「肩、ですか?」

「ええ。剣を振ろうとする前に、右肩がわずかに動くのです。相手に次の動きを教えてしまいますよ」

 

 カイトは自分の肩を見る。

 

「そ、そうなんですか?」

「はい。アウラ様ほど反応の良い方であれば、その時点で避けられてしまいます」

 

 ゲオルグはそう言って、俺に視線を向けた。

 

「実際、今の一撃は最初から見えておられたのでは?」

「そうですね」

 

 スキルのおかげで、その辺りは手に取るようにわかる。

 カイトは真剣な顔で頷いた。

 

「右肩……動かさないように……」

「完全に動かさない、というより、動きを小さくする意識ですね。力で振ろうとすると、どうしても肩に出ます。まずは力を抜き、足から動いてみてください」

「はい!」

 

 カイトはもう一度構える。

 先ほどより少し肩の力が抜けている。

 

「いきます!」

 

 カイトが再び踏み込む。

 今度は、確かに右肩の動きが小さくなっていた。

 劇的に変わったわけではない。

 まだ剣筋は素直だし、動きにも隙はある。

 けれど、さっきよりも少しだけ出どころが読みづらい。

 俺はその一撃を木剣で受けた。

 カン、とまた音が鳴る。

 

「お、さっきより良くなったな」

「本当ですか!?」

「ああ。ちょっとだけ分かりにくくなった」

 

 俺がそう言うと、カイトの顔がぱっと明るくなった。

 ゲオルグも静かに微笑む。

 

「その調子です。今の感覚を忘れないようにしましょう」

「はい!」

 

 その後も、俺とカイトはしばらく打ち合った。

 カイトの動きは、まだまだ荒い。

 でも、ゲオルグが指摘するたびに、少しずつ変わっていく。

 

「踏み込んだあと、足が止まっております。打った後の位置を意識してください」

 

「剣を振った後、目線が下がります。相手を見ることを忘れてはいけません」

 

「今の避け方は良かったですね。ただ、その後に反撃へ移るなら、もう半歩だけ体を残しておくとよろしいでしょう」

 

 指摘が的確で分かりやすい。

 厳しく怒鳴るのではなく、どこが良かったのか、どこを直すべきなのかを丁寧に伝えてくれる。

 カイトもそれを真剣に聞いて、スポンジのように吸収していく。

 打ち合っていて面白かった。

 さっきまで避けやすかった一撃が、少しだけ避けにくくなる。

 動きの後にあった大きな隙が、少しだけ小さくなる。

 足運びが乱れていたところが、少しだけ整う。

 本当に少しずつだ。

 でも、確かに良くなっている。

 

 これを見るのは楽しい。

 俺自身も、木剣を振るうことで少しずつ感覚が馴染んでいくのを感じた。

 朝のカルスとの立ち合いとは違う。

 命の危険を感じながらではなく、落ち着いて剣を振れる。

 身体だけではなく、気持ちも少しずつ剣に慣れていく。

 それがわかる。

 

 ゲオルグの教え方がうまいからだろうか。

 それにしても、これだけ剣の指導がうまいということは、ゲオルグ自身も相当な腕前なのではないだろうか。

 

 立ち振る舞いも隙がないし、以前は騎士だったりしたのかもしれない。

 しばらく訓練を続けた後、休憩を取ることになった。

 使用人が持ってきてくれた水を飲み、カイトは借りたタオルで汗を拭っている。

 俺も息を整えながら、ゲオルグの方を見た。

 

「あの、ゲオルグさん」

「はい、何でございましょう」

「ゲオルグさんって、もしかして騎士だったりしたんですか?」

 

 そう聞くと、ゲオルグはにこりと笑った。

 

「ええ。若い頃はそうでしたね」

「やっぱり」

「今はもう、この通り歳を取りましたので、引退しております。若い方々の体力には敵いませんからね」

 

 絶対まだ動けそうな気がする。

 そう思ったが、口には出さない。

 ゲオルグは続けた。

 

「ですが、こうして若い方に剣を教え、伸びていく姿を見るのは、今の楽しみの一つでございます」

 

 そう言うゲオルグの表情は、とても穏やかだった。

 カイトはタオルを握ったまま、勢いよく頭を下げる。

 

「ゲオルグさん! 色々と教えてくれてありがとうございます!」

「いえいえ。少しでもお役に立てたなら何よりです」

「もっと、もっと教えてもらいたいです!」

 

 カイトの声は大きかった。

 訓練場に響くくらい、真っ直ぐな声だった。

 ゲオルグは目を細める。

 

「ええ。私でよろしければ、いくらでも」

「本当ですか!?」

「しかし、カイト様」

「はい!」

「少し厳しい訓練になっても、耐えられそうですか?」

 

 カイトは一瞬だけ息を呑んだ。

 だが、すぐに頷く。

 

「はい! 強くなりたいので!」

 

 いい返事だ。

 ゲオルグも満足そうに頷いた。

 

「その意気は良いですね。では、少し厳しい訓練のメニューを考えておきましょう。明日からでもよろしいですか?」

「お願いします!」

 

 カイトは嬉しそうにまた頭を下げた。

 おぉ、カイト。

 お前、やる気がすごいな。

 俺も様子を見て、参加させてもらおうかな。

 今の俺には必要なことなのかもしれない。

 

 

 

 その後も、俺たちはしばらく訓練を続けた。

 休憩を挟みながら、カイトの打ち込みを受けたり、軽く打ち返したりする。

 木剣とはいえ、動き続ければ普通に汗をかく。

 訓練を終える頃には、お互い汗だくだった。

 

「つ、疲れました……」

 

 カイトが地面に座り込みそうになる。

 

「お疲れさん。だいぶ動けるようになってきたんじゃないか?」

「そう、ですかね」

「ああ。少なくとも、最初よりはかなり良くなってる」

「本当ですか!」

 

 カイトの顔がまた明るくなる。

 この素直さはすごい。

 褒めたらそのまま力になるタイプだ。

 その後、俺たちは離れへ戻り、交代で風呂を借りて汗を流した。

 

 うーむ、やっぱり風呂がある生活って最高だ。

 汗をかいた後の風呂。

 これ以上の贅沢があるだろうか。

 心の底からそう思いながら、俺はさっぱりした体で部屋へ戻った。

 

 さてと、カイトは休むだろうし、ティナとシエルは何をしているんだろう。

 気になった俺はティナの部屋へ向かった。

 扉の前に立ち、軽くノックする。

 

「はーい」

 

 中から聞こえたのは、シエルの声だった。

 あれ、ティナの部屋にいるのか?

 

「アウラだけど、入ってもいいか?」

「どうぞー」

 

 返事を聞いて、俺は扉を開けた。

 部屋の中には、ティナが椅子に座っていた。

 そして、その後ろにシエルが立ち、ティナの髪をブラシで丁寧にとかしている。

 ティナは少し緊張した面持ちだった。

 服も、いつもの冒険者らしい格好とは違う。

 

 あれは、ドゥル=ブルムに来る前に買った可愛らしい服だ。

 カイトとのデートで着たら惚れ直すと思うと言ったら、買っていた服。

 店で見た時にも思ったが、ティナによく似合っている。

 

 普段のティナは動きやすさ重視の冒険者らしい格好が多い。

 もちろん、それはそれで似合っている。

 だが、こうして改めて見ると、とても可愛い。

 

 髪もいつもより丁寧に整えられていて、服の色合いとも合っている。

 少しだけ頬にも色が乗っているように見えた。

 もしかして、薄く化粧もしているのだろうか。

 カイトの奴、ちょっと羨ましいぞおい。

 

「ちょ、ちょっと」

 

 ティナが少し赤くなりながらこちらを見る。

 

「何じっと見てるのよ」

「おぉ、すまんすまん」

 

 俺は慌てて部屋へ入った。

 シエルは慣れた手つきでティナの髪を整えている。

 その動きはかなり自然だった。

 ブラシを通し、髪の流れを見て、少しずつ整える。

 手早いのに乱暴ではない。

 何というか、慣れている。

 

「シャロン、ずいぶん慣れてるな」

 

 シエルはにこりと笑った。

 

「服の組み合わせとかの相談を受けまして、少しアドバイスさせてもらっていたんです」

「相談っていうか、シャロンが勝手に乗り気になっただけじゃない」

 

 ティナが小さく抗議する。

 だが、本気で嫌がっているわけではなさそうだった。

 

「だって、せっかく新しく買われた服ですし、どう着こなすのかも大事ですから」

 

 シエルは楽しそうに言う。

 

「それに、すごくお似合いです。せっかくなので、着てお出かけしてみたらどうかなって」

「えぇ……こ、これで?」

 

 ティナは自分の服を見下ろし、そわそわする。

 その様子がいつもと違って、何だか新鮮だった。

 シエルはさらに畳みかける。

 

「ティナさん、すごく可愛らしいんですもん。カイトさんにお見せして、デートしちゃいましょう!」

「で、デート!?」

 

 ティナの顔が一気に赤くなる。

 

「そ、そんなことないから! それに、誘うのだって急すぎるし、カイトだって用事があるかもしれないし……」

 

 言いながら、ティナの声がどんどん小さくなっていく。

 ごにょごにょしている。

 これは、あれだ。

 行きたいけど自分からは言えないやつだ。

 俺はにっこり笑った。

 

「じゃあ、俺が予定を聞いてきてやるよ」

「えっ」

 

 ティナが固まる。

 

「ちょ、ちょっと待って! アウラ! まだ心の準備が!」

「フハハ、鉄は熱いうちに打つのだ」

「何その悪い笑い!?」

 

 ティナが何か言っていたが、俺は気にせず部屋を出た。

 こういうのは勢いが大事だ。

 下手に時間を置くと、ティナは絶対に逃げる。

 カイトはカイトで、何も気づかず普通に部屋で休んでいそうだ。

 なら、ここは俺が一肌脱ぐしかない。

 そう決めて、カイトの部屋へ向かい、扉をノックした。

 

「はい?」

 

 中からカイトの声がする。

 

「アウラだけど、入っていいか?」

「どうぞ」

 

 扉を開けると、カイトはちょうど荷物を整理しているところだった。

 訓練後に風呂へ入ったせいか、さっぱりした顔をしている。

 

「カイト、今から出かけるけど大丈夫か?」

「え、今からですか?」

 

 カイトは目を瞬かせる。

 

「特に何もないですけど……どこに行くんですか?」

「まあ、それはお楽しみってやつさ」

「お楽しみ?」

「ああ。とりあえず出かけるから、準備してもらっていいか?」

「は、はい」

「あ、できるだけ格好いい感じで整えろよ。いいな」

「格好いい感じ、ですか?」

「そう。格好いい感じ」

 

 俺は念を押す。

 

「準備できたらティナの部屋に来てくれ」

「えぇー、ちょっとアウラさん? どういうことですか!?」

「じゃ、頼んだぞ」

 

 一方的にまくし立てて、俺はカイトの部屋を出た。

 カイトの反応が楽しみだ。

 ティナの可愛い姿を見て、あいつは何と言うだろうか。

 

 げへへ、完全に悪い顔をしていた自覚はある。

 でも仕方ない。こういうのは楽しいのだ。

 ティナの部屋に戻ると、ティナはまだそわそわしていた。

 シエルはそんなティナの髪を最後に軽く整えている。

 

「カイトもすぐ準備して来るってさ」

「アウラ、あんたって……もう……!」

 

 ティナはそう言いながらも、どこか嬉しそうだった。

 口では怒っている。でも目が泳いでいるし、頬は赤い。

 分かりやすい。

 シエルはティナを椅子から立たせると、くるりと周囲を回った。

 

「うんうん。いい感じにできたと思います!」

 

 シエルは満足そうに頷く。

 

「すごく可愛いですよ、ティナさん!」

「だから、そんなこと……」

「いや、可愛いぞ」

 

 俺も思わず言った。

 ティナがこちらを見る。

 俺は改めてティナを上から下まで見た。

 

 服はよく似合っている。

 いつもの活発な雰囲気は残っているのに、今日は少し柔らかく見える。

 髪も整っているし、うっすら化粧もしている。

 それだけで、こんなに印象が変わるのか。

 

「うん。すっごく似合ってる。可愛いぞ、ティナ」

 

 素直にそう言うと、ティナの顔がさらに赤くなった。

 

「あぅ……うぅ……うん。……ありがと」

 

 もじもじしている。

 いつものティナと全然違う。

 ギャップが激しすぎて可愛い。

 スマホがあったら、写真をバシャバシャ撮っておきたいくらいだ。

 そんなことを考えていると、扉がコンコンとノックされた。

 

 あ、来た。

 思ったより早い。

 俺とシエルは外に出ていた方が良かったかもしれない。

 いや、でもカイトの反応は見たい。

 

「はーい」

 

 俺が返事をすると、扉が開いた。

 カイトが入ってくる。

 

「あのー、とりあえず出かけるってことなので、普段の格好にしちゃったんですけど……」

 

 そこにいたのは、いつもの冒険者スタイルのカイトだった。

 動きやすそうな服。

 いつもの装備。

 いつも通りのカイト。

 

 おぉぉい!

 お前、格好よくしろって言っただろ。

 

 いや、もしかしてカイトにとって格好いい格好とは、冒険者としてきちんとしている格好なのかもしれない。

 そう考えると、これはこれで本人なりに真面目に整えてきたのかもしれない。

 

「それで、どこに出かけるんですか?」

 

 カイトがそう言いかけて、部屋の中へ視線を向ける。

 そして、止まった。ティナを見たまま、固まる。

 

「ティナ?」

 

 名前を呼ばれたティナは、いつものようにハキハキとは答えなかった。

 顔を真っ赤にしながら、少しうつむく。

 

「うぅ……あ、あの……へ、変じゃないかしら?」

 

 カイトはしばらく、ぽーっとしたようにティナを見ていた。

 そして、ゆっくり口を開く。

 

「うん。すごく似合ってて、良いと思う」

 

 カイトは少し照れたように笑った。

 

「その……いつもと雰囲気が違ったから、ちょっとびっくりしちゃったよ」

「そ、そう……」

 

 ティナはさらに赤くなる。

 だが、表情は嬉しそうだった。

 

 よし、いいぞカイト。

 お前、そこはちゃんと言えるんだな。

 俺は心の中で大きく頷いた。

 ティナは少しだけ勇気を出すように、両手を握った。

 

「その……良かったら、今から街に出かけない?」

「うん、もちろん。行こうよ」

 

 カイトはすぐに頷いた。

 ティナの顔がぱっと明るくなる。

 

 かーっ、これだよこれ。

 青春だわ。おじさんには眩しいが、こういうのが堪んねえんだ。

 俺は隣でニコニコしているシエルの手首をそっと掴んだ。

 

「ほら、行くぞ」

「え? でも、もう少し見ていた方が」

「いつまでも見てるんじゃないよ。おじゃま虫はさっと出るんだよ」

 

 俺は小声でそう言う。

 

「ああ! 確かに!」

 

 シエルは納得したように頷いた。

 俺たちはそっと部屋を出る。

 扉を閉める直前、ティナとカイトが少しぎこちなく笑い合っているのが見えた。

 ふふ、あとは二人で楽しんでくるんだな。

 

 

 

 俺はシエルを自分の部屋へ連れてきた。

 部屋に入ると、シエルは嬉しそうに両手を合わせる。

 

「いやぁ、ティナさん、とっても可愛かったですね!」

「確かに可愛かった」

 

 俺も頷く。

 

「いつもとのギャップがあると、より可愛く見えるもんだなぁ」

「ですよねぇ」

 

 二人でうんうんと頷く。

 完全に親戚のおばちゃんみたいな気分だった。

 いや、俺はおばちゃんではないんだが。

 

 それはともかく。

 俺はふと、さっきのシエルの手つきを思い出した。

 

「そういや、あんた、やけに髪をとかしたり服を整えたりするのに慣れてそうだったけど、何かやってたのか?」

「教会の子どもたちの面倒を見ていたので、ああいうのは慣れてるんですよー」

「あ~、なるほどな」

 

 説明を聞いて納得する。

 教会で子どもたちの面倒を見ていたなら、髪を整えたり、服を見てやったりする機会も多かったのだろう。

 シエルはにこにこしながら続ける。

 

「ああやって仲良くなって、気づいたら結婚して、子どもが生まれて……」

「うん?」

「それで、その子どもたちもあっという間に大きくなって……」

 

 シエルの声が、少しだけ沈んだ。

 

「置いていかれるんですよ……」

 

 あ、何か、良くない地雷を踏んだかもしれない。

 シエルの顔がずーんと暗くなっていく。

 目が少し潤んでいる気がする。

 

 教会の子どもたち。

 成長していく子どもたち。

 そして、置いていかれる感覚。

 

 シエルが普通の人間ではないことを、俺は知っている。

 だからこそ、この言葉が冗談だけではないと分かってしまう。

 これは深掘りしない方が良いやつだ。

 

「あー……そうそう」

 

 俺はできるだけ自然に話を変えることにした。

 

「ちょっと聞きたいことがあってですね」

 

 シエルがぱちりと瞬きをする。

 

「なんですか?」

「ああいや、その、スキルのこととか色々聞いてみたくてさ」

「スキルですか?」

「そう。おすすめのスキルとか、魔法のこととかさ」

 

 カルスに言われたことを思い出す。

 技はある。

 でも、体が追いついていない。

 今の俺に必要なものが何なのか、ちゃんと考えた方が良い気がした。

 シエルはすぐに、いつものようなにっこり笑顔に戻った。

 

「ええ。もちろん、私でわかる範囲でしたらお答えしますよ」

 

 ふぅ、よかった。

 シエルが元に戻った。

 俺は内心でほっと息を吐く。

 そして、改めてシエルと向き合った。

 

 さて、これからのことを考えるためにも、少し真面目に聞いてみるとしよう。

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