【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
さて、スキルの話である。
俺はシエルを部屋に招き入れたあと、椅子をベッドの脇へ持ってきた。
「まあ、座ってくれ」
「はい」
シエルは素直に椅子へ腰掛ける。
俺はベッドの端に座って、軽く咳払いをした。
「以前も少し話したけど、まずはスキルについて教えてほしいんだ」
「スキルですか?」
「ああ。前に聞いた時は……その、あんたが酒飲んで酔っ払ってたからな」
「うっ」
シエルが少し気まずそうに視線を逸らした。
「あ、あの時は少し飲みすぎただけです」
「少し?」
「……ちょっと飲みすぎました」
シエルは小さくなった。
まあ、あの時は完全に酔っ払いだった。
愚痴も多かったし、話もあちこち飛んでいた。
だが、シラフの今なら、前よりもちゃんと話が聞けるはずだ。
少なくとも、酔っ払った聖女の愚痴を延々と聞くことはないだろう。
「それで、実際のところ、あんたはどんなスキルを取ってるんだ?」
「えっと、回復魔法が中心なのは本当です。あとは空間魔法とかを中心に便利なのを」
「便利なのって?」
「アイテムボックスとか、ワープとか、便利ですからね」
「ああ、その辺は俺も持ってる。確かに便利だよな」
あれは本当に便利だ。
元の世界に持って帰れたら、引っ越し業者が泣くレベルで便利である。
ワープも使えるなら、移動の手間がかなり減るだろう。
「それから、魔法を使う時のために、魔力増幅や魔力操作も取っています」
「魔力増幅と魔力操作……」
その二つは、俺も気になっていたスキルだ。
特に魔力操作。
もしかすると、魔力をうまく扱えれば、身体強化のようなこともできる気がするんだが、どうだろう。
シエルは指を立てて説明を続ける。
「魔力増幅と魔力操作を取ると、さらに上位の魔力増幅が取れるようになるんです」
「上位?」
「はい。魔力増幅の効果がさらに大きくなる、魔力増幅・大ですね」
何だそれ。
そんなスキル、見た覚えがない。
いや、スキル一覧には膨大な数のスキルが並んでいる。
俺が見逃していた可能性はある。
だが、そんな分かりやすそうな名前なら、見ていれば覚えていそうな気もする。
「俺のスキル一覧には、そんなの無かったと思うんだけど」
「ああ、それはたぶん、まだ条件を満たしていないからですね」
「条件?」
「はい。スキルには、特定のスキルを取ったり、条件を満たしたりすると、新しく取れるようになるものがあるようなんです」
「えぇ……」
何だその隠しスキルみたいな仕様。
ステータス画面とかスキルポイントとか、まるでゲームみたいだと思ったが、そんなところまでゲームみたいにしなくていいのに……。
「じゃあ、取ってみないと分からないスキルもあるってことか?」
「そうなりますね。私も全部を知っているわけではありません。どういう条件で出てくるのか、他にどんなものがあるのかは、実際に取ってみないと分からない部分も多いです」
「攻略サイトが欲しい……」
「こうりゃくさいと?」
「あ、いや、こっちの話」
これはなかなか厄介だ。
子どもの頃、ゲームで好き勝手にスキルを取って、後から「あ、この振り方駄目だったわ」と気づいてやり直したことは何度もある。
だが、これはゲームではない。
取ったスキルが微妙だったとしても、ポイントは戻ってこないかもしれない。
取り返しがつかない可能性がある以上、かなり慎重に選んだ方が良さそうだ。
「上位回復魔法って、普通の回復魔法と何が違うんだ?」
俺が聞くと、シエルは少し考えるように視線を上げた。
「簡単に言うと、普通の回復魔法よりも効率がいいです。少ない魔力で大きく回復できますし、普通の回復魔法では届かないものも治せます」
「届かないもの?」
「古傷の回復や、外傷ではない内部の傷……魔力炉とか魔力回路の破損。それから、呪いや魔法の影響による失われた生命力の回復などでしょうか」
失われた生命力。
その言葉に、俺は少し反応した。
俺のHP最大値が半減した時のことを思い出す。
ディレクティオ・エリアヒールを無理に使ったせいで、魔力が足りず、生命力を削るような形になってしまった。
マルルゥのおかげでかなり回復はしたが、完全には戻っていない。
シエルは続ける。
「あとは……死者の蘇生でしょうか」
「死者の蘇生?」
思わず聞き返した。
「そんなことまでできるのか?」
死んだ人を生き返らせる。
そんなの、もはや回復魔法というより奇跡ではないか。
シエルは少しだけ寂しそうな顔をして、首を横に振った。
「できると言えば、できます。ただ、何でもかんでも生き返らせられるわけではありません」
「制限があるのか?」
「はい。死んでからあまり時間が経っていないこと。他には寿命で亡くなった場合は無理です。あとは本人に生きる意思がない場合も生き返ることができません……そういった条件が必要になります」
「なるほど……」
まあ、そうだろう。
何でも無条件に生き返らせられるなら、世界がとんでもないことになる。
「それでも、凄い魔法には違いないよな」
「ええ。凄いです。凄すぎるんですよ」
シエルの声が少しだけ低くなった。
彼女は何かを思い出すように目を伏せ、ゆっくり息を吸ってから吐く。
「アウラさん、死んだ人が生き返ったら、それは普通ではありませんよね?」
「そりゃ、そうだろ」
「はい。普通ではないんです」
シエルは静かに言った。
「だから、上位回復魔法を取ることは、あまりおすすめしません。もし仮に取ったとしても、蘇生の魔法を使うことは、できる限り避けた方がいいです」
「でも、死んだ人を助けられるなら……」
そう言いかけて、俺は口を閉じた。
シエルの顔が、思ったよりも真剣だったからだ。
「使えば、あっという間に聖女になっちゃいますよ」
シエルは言う。
「周りの見る目も変わります。感謝されるだけではありません。期待されて、求められて、縋られて……そして、できなかった時には恨まれます」
その言葉は、軽くなかった。
実際にそれを経験した者の言葉だった。
「回復魔法って、この世界ではちゃんと使える人がいないんです」
「どういう意味だ?」
俺は眉をひそめる。
「教会の連中は、お前以外にも回復魔法を使えるんだろう?」
「ええ。使えます」
「じゃあ、いるんじゃないのか?」
「私が使えるようにしたんです」
「……ん?」
どういうことだ。
シエルは少しだけ困ったように笑った。
「転写、というスキルをご存知ですか?」
「転写? 知らないけど……」
「自分の持つスキルを、対象の人にも使えるようにするスキルです」
さらっと凄いことを言われた。
自分のスキルを他人にも使えるようにする。
それは、かなりとんでもない能力なのではないか。
「つまり、私が回復魔法を転写して、教会の子たちが回復魔法を使えるようにしていたんです」
「ええ……」
それはつまり。
「元から回復魔法を使える人間は、教会にはいなかったってことか?」
「少なくとも、私が知る限りでは」
「じゃあ、教会が回復魔法を独占してるっていうのは……」
「私が、教会に所属する子たちに与えているからです」
シエルの声は静かだった。
「教会にとって有益な存在。幹部にとって都合の良い子。そういう子に回復魔法を与える。そういう決まりを、教会の上層部が決めました」
「なんてこった……」
思わず声が漏れた。
教会が回復魔法を独占している。
そう聞いた時は、単に教会が技術や魔法を抱え込んでいるのだと思っていた。
だが、違った。
シエルが与えていたのだ。
シエルがいなければ、新しく回復魔法を使える人間を増やせない。
しかも、シエル本人は上位回復魔法や蘇生まで扱える。
そりゃ、教会が血眼になって探すわけだ。
金づるどころの話ではない。
教会の権威そのものに関わる存在だ。
「ただ、転写で与えたスキルは劣化します」
シエルは続ける。
「劣化?」
「はい。多くの場合、レベル一程度の効果になります。回復魔法を与えた子の多くは、簡単な傷を治すくらいの回復魔法しか使えません」
「なるほど」
「中にはレベル二程度まで使える子もいました。逆に、与えたのにあまり使いこなせない子もいます。本人の魔力量や適性によるのだと思いますが、効果は安定しません」
それでも、十分すぎるほど凄い。
回復魔法が存在しない世界なら、レベル一程度の回復でも価値は高いだろう。
「転写って、あんたの持ってるスキルなら何でも与えられるのか?」
「一応は。ただ、先ほども言ったように劣化しますし、相手との相性もあります。強力なスキルほど、うまく定着しないこともあります」
「万能ってわけじゃないんだな」
「はい。便利ではありますけど、万能ではありません」
シエルはそう言ってから、少しだけ寂しそうに笑った。
「そういうわけで、普通ではない魔法を使える私は、教会にとってかなり都合の良い存在だったんです」
「……囚われてたってことか?」
「完全に自由がなかったわけではありません。したいことをさせてもらえる時もありましたし、この世界に来てから今まで生きてこられたのは、教会のおかげでもあります」
シエルは言葉を選ぶように話す。
「でも、最近の教会は本当に酷くて。守銭奴主義と言いますか……色々と駄目になってしまっています」
彼女は困ったように笑った。
「もっと私が強く意見できれば良かったんですけど、性格的に強く言えなくて……流されるまま、ここまで来てしまいました。あはは……」
その笑い方は、明るいようで、どこか痛々しかった。
普段はふわふわしていて、何となく頼りないところもある。
だが、シエルはシエルなりに、長い間ずっと何かを背負ってきたのだろう。
回復魔法に蘇生、それに転写。
どれも凄い力だ。
だが、凄い力だからこそ、持っている本人を自由にしてくれない。
むしろ、縛り付ける鎖になる。
「回復魔法は、できるだけ人目を避けて使った方がいいです」
シエルは真面目な顔で言った。
「特に上位回復魔法と蘇生は、本当に目立ちます。使えばあっという間に祭り上げられます。周りの見る目も、変わってしまいます」
その目は悲しそうだった。
シエルが聖女として祭り上げられた原因の一つは、きっとこの力なのだろう。
死んだ人を生き返らせる。
失われた生命力を戻す。
普通なら助からない傷を治す。
そんなことができる存在を、人は放っておかない。
ありがたがり、縋り、求める。
そして、利用しようとする。
……そりゃ、しんどいわなぁ。
「分かった。上位回復魔法は慎重に考える」
「はい。それがいいと思います」
「ただ、魔力操作とか魔力増幅は取る価値がありそうだな」
「そうですね。魔力操作は、魔法を使うならかなり重要だと思います。魔力の流れを整えることによって効率よく魔法が使えるようになります。純粋に魔力の消費が抑えられるので便利です」
「身体強化にも使えたりしないかな?」
「どうでしょう……私は使ったことがないので何ともいえませんが、難しいんじゃないかなと思います」
そうなのかー。てっきり魔力操作を取れば、身体強化が使えるようになると思ったのになー……。
俺が残念そうな顔をしていると、シエルが慌てて補足してくれる。
「えっと、魔力操作では身体強化が難しいという訳ではなくて、私たちはこっちの世界の魔法とかを覚えられないんじゃないかなって」
「……っていうと?」
そういうと、シエルはうーん、と腕を組んで考え込みながら話してくれる。
「私は長いこと練習もしてみたんですが、全く使えませんでした。魔力はあるのに、です」
えー、じゃあ身体強化覚えられない可能性が高いってことか……?
「これは恐らくなんですけど、私たちのスキルによって覚えられる魔法と、こちらの世界の魔法では根幹が違うんじゃないかなって……何となくそう思いました」
「根幹ねぇ……」
俺たちが別の世界から来ていることとかが関係しているんだろうか。
いずれにせよ、俺たちはスキルポイントを稼いでいくしかないってことか。
「そういや、上位回復魔法で回復できるものに、失われた生命力って言ってたよな」
「はい。言いましたね」
「俺、前に回復魔法で取れたディレクティオ・エリアヒールを使った時に、魔力炉が破損して、最大HPが半減したんだよ」
「えぇっ!?」
シエルが椅子から立ち上がりかけた。
「そ、そんなことしてたんですか!? 今は大丈夫なんですか!?」
「ああ。マルルゥに治してもらって、ほとんど回復してる。魔力炉も元に戻った。ただ、HPだけは全回復してなくてな」
俺は少し肩をすくめる。
「後遺症みたいな感じで、最大HPが戻りきってないんだ。もし回復できるなら、お願いできないかな」
シエルは小さく拳を握った。
「お任せください!」
ふんす、と鼻息を荒くして、力こぶを作るような真似をする。
かわいい。
さっきまで重い話をしていたのに、この切り替わりである。
シエルらしいと言えば、シエルらしい。
「じゃあ、まずは状態を見せてもらいますね」
「ああ、頼む」
シエルは俺へ向かって手をかざした。
その目が、何かを読むように空中を動く。
まるで、俺の体の情報がそこに表示されているかのようだった。
何か診察するスキルでもあるのだろうか。
「うーん……確かに、減っていますね」
シエルが小さく頷く。
「でも、魔力炉はかなり綺麗に修復されています。これを治した方、すごいですね」
「マルルゥだな」
「マルルゥさん、やっぱり凄い方なんですね」
シエルは感心したように言った。
「それにしても、ディレクティオ・エリアヒールでこんな状態になるって……かなりの人数を一度に回復したんですか?」
「あー、まあ、そうだな。正確な人数は覚えてないけど……結構な人数の冒険者を一度に回復したかも」
「無茶しすぎです」
シエルは少し頬を膨らませた。
「大勢を回復させたい場合は、人数効率の良い上位回復魔法の方がいいですよ。ディレクティオは一応複数人回復できますけど、燃費が悪いので」
「そうだったのか……」
あの時は助けるのに夢中だった。
燃費なんて意識する余裕はなかった。
というか、そもそも他の選択肢を知らなかった。
知らないまま無茶をすると、本当に危ないな。
「では、魔法をかけますね」
「お、おう」
シエルは俺の前に膝をつき、そっと腹のあたりへ手を当てた。
その手は温かかった。
「ヴィータ・レストア」
シエルが静かに唱える。
その瞬間。
どくん、と腹の奥で何かが跳ねた。
「おぉ……!?」
熱い塊が、体の中に入ってくるような感覚があった。
痛いわけでも、苦しいわけでもない。
ただ、体の奥にぽかりと灯がともったような感じだ。
その熱は腹から胸へ、胸から手足へ、じんわりと広がっていく。
全身がぽかぽかする。
温泉に入った時のような、体の芯から緩んでいく感覚。
だが、それは長く続かなかった。
すっと、熱が引いていく。
後に残ったのは、不思議な軽さだった。
体の奥に残っていた重さが、少し抜けたような気がする。
「どうでしょうか?」
シエルがこちらを見上げる。
俺はステータスを開いて確認した。
【HP:100/100】
「おぉ、戻ってる!」
思わず声が出た。
ずっと半端に欠けていたものが、ようやく元に戻った。
数字を見て、改めて実感する。
「ありがとう、助かった」
俺がそう言うと、シエルはふわりと笑った。
「いえいえ、これくらい気になさらないでください」
「いや、かなり助かったぞ。何か体も少し軽い気がする」
「失われていた生命力が戻ったので、そう感じるのかもしれませんね」
なるほど。
確かに、ずっと奥に残っていた疲労の芯みたいなものが、すっと抜けたような感覚はある。
欠けていたものが、ようやく満たされた。
そんな感じだ。
「アウラさんには、私の方こそ助けていただいていますから」
シエルは静かに言った。
「こうして匿っていただけているのも、アウラさんのおかげです。それに、色々とご迷惑もおかけしてしまっていますし」
「あー、まあ……気にすんな」
俺は頭をかく。
「こうして匿ってもらえてるし、暫くは安全だろう。とはいえ、色々と情報は集めておきたいんだ」
「情報、ですか?」
「ああ。お前を追ってる教会の連中について。以前ヴェルノという子には会ったんだが、他にもお前を探している連中がいるんだろう?」
教会はシエルを探している。
そして、シエルがいないと新しく回復魔法を使える者を増やせない。
なら、奴らがどう動くのかを知るためにも、教会のことはもっと知っておくべきだ。
「分かりました」
シエルは表情を少し引き締めた。
「私で分かることなら、お話しします」
その顔は、さっきまでのふわふわした雰囲気とは少し違って見えた。
聖女として、教会の中で長く生きてきた者の顔。
普段のシエルからは想像しにくいが、彼女はそれだけの年月を、あの場所で過ごしてきたのだ。
俺は改めて、目の前のシエルを見る。
髪型や服装も違う。
雰囲気も違う。
シエルの方がどこか柔らかく、聖女らしいというか、ふわふわしている。
同じ女神の姿なのだから当然なのかもしれないが、こうして向かい合うと、やっぱり少し落ち着かない。
「あ、あのー……」
シエルが少し身じろぎした。
「そんなに見つめられると、は、恥ずかしいと言いますか……」
「あー、悪い」
俺は慌てて視線を外す。
「いや、本当に同じ顔なんだなって思って、思わずじっくり見てしまった」
「そ、それは……私も同じことを思っています」
シエルは少し照れたように笑った。
「鏡を見ているみたいで、不思議ですよね」
「本当にそれだ」
俺は苦笑する。
妙な話だ。
同じ顔をした二人が、同じ部屋で、これから教会について話を聞こうとしている。
元の世界にいた頃の俺が聞いたら、絶対に信じないだろう。
だが、これが今の現実だ。
「それじゃ、教えてくれ」
「はい」
シエルは小さく頷いた。
「まず、教会の上層部についてですが──」
そうして俺は、シエルから教会について、もう少し詳しく聞くことになった。