【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
街へ出ると決めたはいいが、まずは準備だ。
俺は一度部屋へ戻ると、普段着の上から地味なローブを羽織った。
飾り気もほとんどない、目立たない作りのものだ。
フードを深めに被れば、目立つ金髪もある程度隠れる。
まあ、顔を見られたら一発で目立つ気はするが、何もしないよりはマシだろう。
問題は魔剣だった。
いつもなら腰に下げているが、あれはあれで目立つ。
ただでさえ不穏な見た目なのに、分かる人間が見ればただの剣ではないと気づかれるかもしれない。
完全に置いていくのも少し不安ではあるが、今日はゲオルグがいる。
それに、魔剣は呼べば来ることがわかった。
俺は少し悩んだ末、魔剣は部屋に置いていくことにした。
目立たない外出をしたいのに、目立つ剣を腰に下げていたら意味がないしな。
「よし」
フードを軽く整え、部屋を出る。
外では、すでにゲオルグが待っていた。
「お待たせしました」
「いえ、よくお似合いです」
「似合ってますかね、これ」
地味なローブが似合うと言われても、反応に困る。
「はい。目立ちにくいという意味では、良い選択かと」
「ああ、そういう意味でしたか」
褒め言葉なのかどうか、少し判断に迷う。
ゲオルグは穏やかに微笑むと、俺を促した。
「では参りましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
俺はゲオルグと共に、ブルム家の門へ向かった。
門の近くには、見張りの騎士が立っていた。
ゲオルグが軽く声をかけると、騎士はすぐに姿勢を正し、門を開けてくれる。
重々しい門が動き、外の景色が広がった。
その瞬間、俺は思わず息を吸い込んだ。
屋敷の外の空気。
それだけで、少し気が晴れるような気がした。
ブルム家の敷地は広い。
庭もあるし、訓練場もある。
離れだって十分すぎるほど快適だ。
だが、いくら広くても、ずっと同じ場所にいると気持ちが詰まってくる。
空が同じでも、壁の外へ出たというだけで、胸の奥が少し軽くなった。
「……やっぱり、外に出るだけでも違いますね」
思わずそう呟くと、ゲオルグがこちらを見て、少しだけ微笑んだ。
「そうでしょう。どれほど快適な場所でも、閉じこもり続ければ気が滅入るものです」
「贅沢な悩みだとは思うんですけどね」
「いいえ。人は空気を入れ替えねば、心まで淀むことがございます」
何か、妙に含蓄のあることを言われた。
過去に何かあったんだろうか。
「さて、ではご案内させていただきます」
ゲオルグは通りの方へ視線を向けた。
「まずは、商店や露店が並ぶ中央通りはいかがでしょうか。異国の品や、旅商人の持ち込んだ珍しいものが多く並んでおります」
「中央通りですか」
「はい。それから、大通りへ出れば、ダンジョン産の品を扱う店が多くございます。そちらもなかなか見応えがありますよ」
「おお……」
さすが、長年ここに住んでいるだけある。
面白そうな場所をいろいろ知っていそうだ。
「では、まずは中央通りから見ても良いでしょうか?」
「ええ、もちろんです。では参りましょう」
ゲオルグの案内で、俺たちは中央通りへ向かった。
中央通りは、思っていた以上に賑やかだった。
人の数は多い。
だが、門前広場のような旅人や冒険者の荒っぽさとは少し違う。
こちらはどちらかというと、ドゥル=ブルムに住む人たちが多いように見えた。
家族連れ。
荷物を抱えた商人。
談笑しながら歩く若い男女。
軽装の冒険者らしき者たち。
あちこちに露店が並び、売り子の声が飛び交っている。
焼いた肉の匂い。
甘い香辛料の香り。
笛の音。
商人の呼び声。
革や布、金属、食べ物、香草。
いろいろなものが混ざり合って、ただ歩いているだけでも妙に楽しい。
「この辺りは露天商が多く、異国の変わったものが手に入ることもあります」
ゲオルグが隣で説明してくれる。
「異国のものですか」
「ええ。ドゥル=ブルムは辺境の要塞都市ではありますが、人の出入りは多い街です。ダンジョンを目当てに冒険者や商人が集まりますから、自然と珍しい品も流れてくるのです」
「へぇ、面白そうですね」
露店を見ながら歩いていると、色鮮やかな絨毯のようなものが目に入った。
赤や青、金色の糸で複雑な模様が織られている。
別の店には、見たことのない形の服が吊るされていた。
袖がやたら長かったり、腰回りに布が何重にも巻かれていたりする。
革細工のポーチや、小さな金属飾り。
安価そうな首飾り。
よく分からない木彫りの置物。
笛を売っている露店では、店主らしき男が実際に演奏をしながら客を呼び込んでいた。
笛の音に合わせて、近くの子どもたちが楽しそうに跳ねている。
おお……何か、外国の観光地に来た感じがする。
いや、そもそもここは異世界なのだが。
それでも、何となくそういう感想が出てしまう。
俺が楽しそうに露店を見ているのをみて、ゲオルグは小さく笑った。
「面白いでしょう」
「はい。見たことのないものばかりです」
「この辺りはいつもこのような雰囲気です。品物を見るだけでも楽しい場所ですよ」
確かに楽しい。
何かを買いたいというより、見ているだけで面白い。
店ごとに色が違い、匂いが違い、人の声が違う。
屋敷の中にいるだけでは分からない街の活気が、そこら中に溢れていた。
俺とゲオルグは、中央通りをゆっくり見て回った。
途中、香ばしい匂いにつられて焼き菓子の露店を覗いたが、今は見るだけにしておいた。
金を持っていないわけではないが、ゲオルグがいる前で買い食いするのもどうなんだろうと思ってしまったからだ。
そんな風に店を眺めていると、近くを歩いていた冒険者らしき男たちの声が耳に入った。
「今日の夜は南通りの娼館で、ぱーっとやっちまうか?」
「昨日の稼ぎがあるからなぁ。つっても、俺はいつもの《月籠り》でいくぜ」
「おうおう、いいじゃねぇか。じゃあ昼は精のつくもんでも食っておこうぜ、ガハハ!」
俺は思わず足を止めそうになった。
《月籠り》。
確か、前にも冒険者たちがそんな名前を話していた気がする。
娼館っぽい店の名前だったはずだ。
南通り、か。
異世界の娼館って、どんな感じなんだろうな。
……気になる。気になるが、この身体で行ってどうにかなるんだろうか?
うーん、そもそも店に入れるのか?
「アウラ様?」
「は、はいっ!?」
ゲオルグに声をかけられて、俺は我に返った。
「どうかなさいましたか?」
「ああ、いえ、別に何でもないです。はい」
慌てて首を振る。
「そろそろ、次の場所へ参りましょうか」
「あ、はい。では、大通りの方へ行っても良いでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
ゲオルグは何事もなかったかのように頷き、歩き出した。
俺は内心で変な汗をかきながら、その後を追った。
しばらく歩くと、さらに人通りの多い道へ出た。
大通りだ。
ドゥル=ブルムに来た時にも人の多さには驚いたが、ここは特にすごい。
冒険者らしき者たちだけでなく、商人、旅人、街の住人、子ども連れの家族までいる。
道の端には、武装した兵士が一定の間隔で立っていた。
人混みを見張り、何かあればすぐに動けるようにしているのだろう。
賑やかだが、完全に無秩序というわけではない。
要塞都市らしい緊張感も少しだけ混じっている。
「すごい人の数ですね」
「ええ。ここはドゥル=ブルムでも一番人の多い通りです」
ゲオルグが答える。
「主に、ダンジョン産の品を見るために、多くの人が集まります。買わずとも、変わった品を見るだけで面白いものですから」
「ダンジョン産の品……」
俺は思わず周囲を見回した。
露店や店先には、確かに変わったものが並んでいる。
武器。
防具。
魔道具らしき小物。
用途の分からない金属片。
瓶詰めされた何か。
奇妙な形の石。
俺の世界の感覚で言うなら、骨董市と武器屋と怪しいフリーマーケットが全部混ざったような感じだ。
「ご興味がおありでしたら、おすすめの店がございます」
ゲオルグが言った。
「おすすめの店ですか?」
「ええ。古い店ですが、扱っている品は悪くありません。店主も信頼できる男です」
「それはぜひ見てみたいです」
「では、こちらへ」
ゲオルグは自然な動きで、俺を人混みから少し外れるように導いてくれた。
その仕草が妙に紳士的で、少し落ち着かない。
人混みでぶつからないようにさりげなく位置を変え、危なそうな荷車が通る時は先に気づいて避けさせてくれる。
ううん。
何というか、扱いが完全に女性に対する紳士って感じだ。
いや、今の俺は女性なんだけども。
そこはまだ慣れない。
大通りを少し進み、脇道に入ったところで、その店は見えてきた。
古い木造の建物だった。
大通り沿いの華やかな店とは違い、少し奥まった場所にある。
看板もかなり年季が入っていて、端の方は欠け、文字も薄くなっていた。
それでも、目を凝らせば何とか読める。
《ベローの迷宮古物店》
かすれた文字で、そう書かれていた。
店名からして、いかにもである。
「ここです」
ゲオルグが扉の前で足を止めた。
「友人の店でして、作りは古いですが、置いてある品は良いものが多いですよ」
「へぇ、ご友人のお店ですか」
「ええ。少し癖のある男ですが、悪い者ではありません」
癖があるのか。
少しだけ不安になる。
ゲオルグは扉を開けた。
「失礼する」
中へ入ると、まず匂いが違った。
古い木材、金属、革、乾燥した薬草のような香り。
それらが混ざり、何とも言えない古物店らしい空気を作っている。
店の中は、思っていた以上に雑然としていた。
壁には剣や槍、斧のようなものが掛けられている。
よく分からない形状の武器らしきものもある。
棚には小瓶、腕輪、布、装飾品、石、植物、金属の部品のようなものが所狭しと置かれていた。
奥の方には部分鎧や兜も積まれている。
何というか、前世の個人がやっている小さな雑貨屋に近い雰囲気がある。
置いてあるものは全然違うが、店主の好きなものを好きなだけ詰め込んだ空気があるのだ。
「らっしゃい。何か欲しいもんがありゃ声をかけな」
奥から、年配の男の声がした。
少しして、店の奥から老人が現れた。
白髪混じりの髪を後ろで束ね、片足を少し引きずっている。
だが、背中は曲がっていない。
顔には皺が刻まれているが、目は妙に鋭かった。
老人はゲオルグを見るなり、にやりと笑った。
「ほほ。誰かと思えばゲオルグかよ。もっと顔を出せや」
「久しいな、ベロー」
ゲオルグも珍しく、少しくだけた調子で言った。
二人は近づくと、手を差し出すのではなく、腕と腕をがしりと合わせた。
昔からの戦友同士の挨拶、という感じだ。
おお、何か旧友って感じがする。
「今日はどうしたんだ? 男爵のところのリリア様……にしちゃ、大きいな」
ベローと呼ばれた老人が、俺を見て首を傾げた。
「こちらは、男爵家の客人としてお迎えしているアウラ様だ」
ゲオルグが紹介してくれる。
「アウラ様。こちらは、私が騎士をしていた頃の同期だったベローです。今はこちらの店を継ぎ、店主として働いております」
「はじめまして。アウラと申します」
俺はフードを少し下げて、軽く頭を下げた。
ベローは俺の顔を見て、目を丸くした。
「ほほう。こりゃまた、べっぴんさんじゃのう」
「あ、ありがとうございます」
最近こういう反応にも少し慣れてきた。
慣れてきた自分が少し怖い。
「わしゃベローじゃ。見ての通り、昔騎士をやっとった頃に足をやっちまってな」
ベローは、自分の足を軽く叩いた。
「それから引退して、この店をやっとる。ダンジョン産の武器防具から、異国の品まで色々置いてあるぞ」
ベローは親指で店内を示した。
「ただし、そこの奥の一角は触ると危ないもんが置いてある。気になるもんがありゃ、勝手に触らず声をかけてくれ」
「分かりました」
俺が頷くと、ベローは満足そうに頷き、カウンターの奥の椅子にどかっと座った。
「じゃあ、少し見させてもらいます」
「おう。好きに見な」
俺はゲオルグに軽く目礼してから、店の中を見て回ることにした。