【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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85話 ベローの迷宮古物店

 店内は、本当にいろいろな物で溢れていた。

 何というか、情報量が多い。

 見ているだけでは、何が何なのか全然分からない。

 

 俺はまず、近くの棚に置かれていた短剣を見た。

 刃が淡く赤く光っている。

 見た目だけなら、かなり格好いい。

 

「そっちの短剣は、力を込めて振ると火が出る」

 

 カウンターの奥から、ベローが声をかけてきた。

 

「火が出るんですか?」

「出るぞ。ちゅーても、大した火じゃないがな。魔物を焼くには足りん。攻撃に使うというより、火を起こす時に便利なくらいじゃ」

「便利……かなぁ?」

 

 魔剣というより、着火道具って感じか。

 

「便利じゃぞ。雨の日でも火種を作れる。野営じゃ重宝する」

「ああ、そう言われると確かに」

 

 俺の魔剣や鎧と比べてしまうと地味に見えるが、普通に考えればかなり便利だ。

 冒険者にとって、火を安定して起こせる道具は大事なのかもしれない。

 

 隣には、太めの腕輪が置かれていた。

 黒っぽい金属でできていて、表面には細かな模様が彫られている。

 

「こっちは腕輪ですか?」

「力が上がると言われている腕輪じゃ」

「おお?」

「まあ、実感がないから本当に上がっているのかは疑問じゃが」

「えぇ……」

「ただ、作りは頑丈じゃ。ちょっとやそっとの攻撃では傷もつかん。手にはめて殴るといいぞ。握りやすいし、力も上がる……かもしれん。力が上がるなら、つまり攻撃力アップじゃ」

 

 腕輪とは。

 俺がそう思っていると、ベローは近くの布を指さした。

 

「こっちの布はおすすめじゃ」

 

 白い布に、小さな花の刺繍が入っている。

 確かに可愛い。

 ハンカチのようにも見える。

 

「これは何か効果があるんですか?」

「ない」

「ないんですか」

「わしが作ったんじゃ。可愛かろ?」

 

 ベローは少し誇らしげだった。

 意外すぎる。

 元騎士の老人が、可愛い刺繍入りの布を作っている。

 いや、悪くはない。

 悪くはないが、見た目と趣味の差がすごい。

 ゲオルグを見ると、彼は何も言わずに穏やかに微笑んでいた。

 たぶん、知っていたのだろう。

 

「こっちの乾燥した植物は、白灯の洞窟で採れる野菜じゃな。水で戻してスープにして食うと美味いんじゃぞ。安くて量も多くて、腹も膨れる」

「普通に食材なんですね」

「普通に食材と言うな。食えるものは大事じゃ」

 

 そりゃまあ、そうなんだが……。

 ダンジョン産と聞くと、どうしても魔剣や魔道具のようなものを想像してしまう。

 だが、実際には食材や素材もたくさん取れるらしい。

 冒険者や街の人たちの生活を支えているのは、むしろこういうものなのかもしれない。

 棚を見て回っていると、よく分からない物も多かった。

 

 水を入れると、中身が冷える水差し。

 くるくると回り続ける箱に入った球体。

 箱の中の球体を触ってみるが、結構強い力で回り続けているのに驚くと、ベローが笑いながら言う。

 

「そいつ面白いじゃろう」

「これはどんな効果があるんですか?」

「知らん。じゃが何かに使えそうかと思って買い取った」

「……まぁ、確かに何かに使えそうではありますが」

「飾りとしては面白いぞ」

 

 確かに面白いっちゃ面白いが、何に使うんだこりゃ……。

 結構強い力で回っているから、うまく使えば何かを動かす動力にでもなりそうだがなぁ。

 そんな感じで色々見ていると、だんだん分かってきた。

 ダンジョン産の品といっても、全部がすごいわけではない。

 面白いものは多い。

 便利そうなものもある。

 だが、実用的に強いものは、やはり限られているようだ。

 俺が少し物足りなさを感じ始めた頃、ベローがにやりと笑った。

 

「物足りねぇって顔しとるのう」

「えっ、そんな顔してました?」

「しとるしとる。もっとちゃんとしたもんを見たいなら、こっちじゃ」

 

 ベローはゆっくりと椅子から立ち上がり、店の奥へ向かった。

 足を少し引きずっているが、動きに迷いはない。

 案内されたのは、最初に「触ると危ない」と言われていた一角だった。

 

 そこには、鍵付きの鎖で固定された武器や防具が並んでいた。

 さっきまで見ていた棚の品と違い、置き方が明らかに厳重だ。

 

「今まで見とった品は、白灯の洞窟や街で仕入れたものが多い。面白いもん、売れそうなもんを置いてあるだけじゃ」

 

 ベローは棚の鍵に手をかける。

 

「じゃが、こっちは沈鐘の回廊産じゃ。値も張るし、扱いを間違えると怪我をする」

「沈鐘の回廊……」

「そうじゃ、白灯の洞窟よりも難易度の高いダンジョンじゃな」

 

 ダンジョン産の魔道具や魔剣が多く見つかる、ドゥル=ブルムでも有名なダンジョンらしい。

 ベローは鍵を外し、まず一本の剣を取り出した。

 

 見た目は普通の長剣だ。

 刃に細かな模様が刻まれているが、派手さはない。

 むしろ落ち着いた作りに見える。

 

「持ってみるか?」

「いいんですか?」

「振るなよ。持つだけじゃ」

「はい」

 

 俺は両手で剣を受け取った。

 その瞬間、思わず目を瞬かせる。

 

「……おぉ、軽い」

 

 見た目は普通の長剣なのに、手に持った感覚は木剣に近い。

 いや、こりゃ木剣より軽いぞ。

 

「軽いじゃろ」

「はい。これ、本当に金属なんですか?」

「うむ、何の金属かはわからんがな」

「すごいですね」

「ただし、軽く感じるのは持っている間だけじゃ。斬りつけた時の重さは、ちゃんと剣本来の重さになる」

「それって、かなり便利なんじゃ」

「便利じゃ。持ち運びやすく、振り回しやすい。しかも当たれば重い。だがな、軽すぎるせいで間合いを誤る奴が多い」

 

 ベローは指を一本立てた。

 

「剣に振り回される、という言葉があるが、こいつの場合は軽さに振り回される。慣れていない者が使うと、振り抜きすぎて隙だらけになるんじゃ」

「ああ……なるほど」

 

 確かに、軽すぎる剣というのも扱いが難しそうだ。

 重さの感覚が変わるだけで、剣筋なんて簡単に狂うだろうしな。

 

「かなり良いものなんですか?」

「沈鐘の回廊産の中では実用的な方じゃな。高いぞ」

 

 ベローはにやりと笑った。

 

「なるほど……」

 

 次にベローが取り出したのは、一本の剣と鞘のセットだった。

 

「これは?」

「直る剣じゃ」

「直る剣?」

「刃こぼれや多少の破損なら、専用の鞘に収めて数時間置けば元に戻る」

「えっ、それすごくないですか?」

「すごいぞ。特に長旅をする冒険者にはありがたい品じゃな。砥石や鍛冶屋がなくても、鞘に戻しておけば勝手に直る」

「へぇ、便利ですね」

 

 ベローは鞘を軽く叩いた。

 

「こいつは剣と鞘で一組じゃ。完全に折れた場合は直るまで半日以上かかるし、戦闘中にすぐ直るわけではない。それだけは注意じゃな」

「ああ、そこまで万能ではないんですね」

「万能なもんは、こんな店にはそうそう並ばんよ」

 

 ベローは肩をすくめた。

 本当にとんでもないものなら、そりゃ国や貴族が放っておかないか。

 ベローの店にあるのは、実用的ではあるが、どこか癖のある品が多い。

 次に見せてくれたのは、矢筒だった。

 

 古びた革製で、見た目は普通の矢筒に見える。

 だが、中を覗くと、確かに矢が入っていた。

 

「こいつは無限矢筒じゃ」

「無限?」

「中から矢を取り出しても、しばらくするとまた一本増える」

「めちゃくちゃ便利じゃないですか」

 

 弓使いなら喉から手が出るほど欲しいのではないだろうか。

 

「ただし、取り出した矢は数分で消える」

「消える?」

「そうじゃ。だから矢を売ることはできん。わしも矢だけ量産して売ろうと思ったんじゃが、そこまで万能ではなかった。とはいえ使う分には問題ないじゃろ」

「それは、そうですが」

 

 そりゃまあ、無限に矢が出るなら売り物にしたくなるか。

 にしても弓を使う人には良さそうだな。

 取り出して使う分には数分持てばいいだろうし。

 

「冒険者にはかなり便利そうですね」

「便利じゃ。だから高いぞ~」

 

 ベローはまた、にやりと笑った。

 確かにどれも実用的だ。

 ただ、どれも癖がある。

 俺が興味深く見ていると、ベローは棚の奥を指さした。

 

「他にも、攻撃を受けるたびに鐘みたいな音が鳴る盾や、雨に濡れてもすぐ乾く外套なんかもある」

「音が鳴る盾?」

「魔物の注意を引きたい時には使える。隠密には最悪じゃがな」

「それはそうでしょうね」

「外套は便利じゃぞ。濡れてもすぐ乾く。ただし、汗まで乾くせいで喉が渇きやすい」

「地味に嫌ですね」

 

 どれも面白い。

 面白いが、万能ではない。

 便利だけど、少し困る。

 すごいけど、使いどころを選ぶ。

 何というか、ダンジョン産の品は思ったより現実的だった。

 

 俺の魔剣や鎧が異常なのだろう。

 いや、分かっていたつもりではあるが、こうして普通の魔道具を見ると、改めてそう思う。

 

「もっと強い魔剣はあるんですか?」

 

 俺が聞くと、ベローは頷いた。

 

「あるにはある。じゃが、強いものほどまず市場には出ん。出てもすぐ買い手がつく。貴族、騎士団や盾の会、金持ちの冒険者。欲しがる奴はいくらでもおるからの」

「なるほど」

「沈鐘の回廊産でこの程度じゃ。奈落の品ともなれば、なおさらじゃな」

「奈落……?」

「黒底の奈落。通称、奈落。ドゥル=ブルム周辺で一番危険なダンジョンじゃな」

 

 ベローは先ほどまでより少し低い声で言った。

 

「奈落産の品は、ここには置いていないんですか?」

「置いとらん」

 

 即答だった。

 

「というより、普通の店に並ぶこと自体がまずない。昔は命知らずが挑んで、たまに何かを持ち帰ることもあったがな。最近じゃ、危険すぎて挑む者自体が少ない」

「そんなに危険なんですか」

「地図が役に立たん。道が変わる。来た道が帰りにはなくなっておる。仲間の間に突然壁ができて分断される。魔物も妙なものばかりじゃ」

 

 ベローは腕を組んだ。

 

「おまけに、帰ってこなかった冒険者の方が多い。そんな場所に好き好んで入る奴は、今じゃよほどの馬鹿か、よほどの事情持ちだけじゃ」

「ヤバい場所だな……」

 

 俺は思わず呟いた。

 

「奈落で見つかる品は、沈鐘の回廊産とは比べものにならんと言われておる。じゃが、出回る前に国や貴族が買い上げちまう。持ち帰った者が手放さんこともある。だから、わしのような個人の店に流れてくることはまずない」

「そうなんですね」

「奈落の品を見たいなら、実際に奈落に行くのが一番じゃろうな。帰ってこれるかはしらんが」

「見る前に死んじゃうんじゃ……」

「そうじゃろうな」

 

 ベローは愉快そうに笑った。

 奈落産のアイテムは、レアすぎて店にはない。

 そう聞くと、逆に気になってしまう。

 ただ、気になるから行ってみよう、で済む場所ではなさそうだ。

 

「嬢ちゃんは、なかなか良い目をしとるのう」

 

 ベローが言った。

 

「そうですか?」

 

「品を見る時の目じゃ。珍しいものをただ珍しがるだけじゃない。何に使えるのか、何が危ないのか、そういうものを探っとる」

「いや、そこまで考えているわけでは……」

 

 たぶん、半分くらいは本当にただ珍しがっているだけだ。

 ゲオルグが横で穏やかに微笑んでいる。

 

「アウラ様は、物事をよく観察される方ですから」

「い、いやぁ、そんなことは」

 

 そう言われると少し照れる。

 ベローは楽しそうに笑い、棚に鍵をかけ直した。

 

「まあ、また何か見たけりゃ来るといい。ゲオルグの連れなら、変なものは掴ませんよ」

「ありがとうございます」

 

 俺は頭を下げた。

 思っていたより面白かった。

 すごい魔剣や神器のようなものが並んでいるわけではない。

 だが、実際に冒険者たちが使う道具や、生活の中で役立つダンジョン産の品を見ることができた。

 この世界のダンジョンは、ただの危険な場所ではない。

 街の暮らしや経済にも深く関わっているのだと、少し実感できた気がする。

 




夜にも更新予定です(๑ˊ͈ ꇴ ˋ͈)
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