【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
店内は、本当にいろいろな物で溢れていた。
何というか、情報量が多い。
見ているだけでは、何が何なのか全然分からない。
俺はまず、近くの棚に置かれていた短剣を見た。
刃が淡く赤く光っている。
見た目だけなら、かなり格好いい。
「そっちの短剣は、力を込めて振ると火が出る」
カウンターの奥から、ベローが声をかけてきた。
「火が出るんですか?」
「出るぞ。ちゅーても、大した火じゃないがな。魔物を焼くには足りん。攻撃に使うというより、火を起こす時に便利なくらいじゃ」
「便利……かなぁ?」
魔剣というより、着火道具って感じか。
「便利じゃぞ。雨の日でも火種を作れる。野営じゃ重宝する」
「ああ、そう言われると確かに」
俺の魔剣や鎧と比べてしまうと地味に見えるが、普通に考えればかなり便利だ。
冒険者にとって、火を安定して起こせる道具は大事なのかもしれない。
隣には、太めの腕輪が置かれていた。
黒っぽい金属でできていて、表面には細かな模様が彫られている。
「こっちは腕輪ですか?」
「力が上がると言われている腕輪じゃ」
「おお?」
「まあ、実感がないから本当に上がっているのかは疑問じゃが」
「えぇ……」
「ただ、作りは頑丈じゃ。ちょっとやそっとの攻撃では傷もつかん。手にはめて殴るといいぞ。握りやすいし、力も上がる……かもしれん。力が上がるなら、つまり攻撃力アップじゃ」
腕輪とは。
俺がそう思っていると、ベローは近くの布を指さした。
「こっちの布はおすすめじゃ」
白い布に、小さな花の刺繍が入っている。
確かに可愛い。
ハンカチのようにも見える。
「これは何か効果があるんですか?」
「ない」
「ないんですか」
「わしが作ったんじゃ。可愛かろ?」
ベローは少し誇らしげだった。
意外すぎる。
元騎士の老人が、可愛い刺繍入りの布を作っている。
いや、悪くはない。
悪くはないが、見た目と趣味の差がすごい。
ゲオルグを見ると、彼は何も言わずに穏やかに微笑んでいた。
たぶん、知っていたのだろう。
「こっちの乾燥した植物は、白灯の洞窟で採れる野菜じゃな。水で戻してスープにして食うと美味いんじゃぞ。安くて量も多くて、腹も膨れる」
「普通に食材なんですね」
「普通に食材と言うな。食えるものは大事じゃ」
そりゃまあ、そうなんだが……。
ダンジョン産と聞くと、どうしても魔剣や魔道具のようなものを想像してしまう。
だが、実際には食材や素材もたくさん取れるらしい。
冒険者や街の人たちの生活を支えているのは、むしろこういうものなのかもしれない。
棚を見て回っていると、よく分からない物も多かった。
水を入れると、中身が冷える水差し。
くるくると回り続ける箱に入った球体。
箱の中の球体を触ってみるが、結構強い力で回り続けているのに驚くと、ベローが笑いながら言う。
「そいつ面白いじゃろう」
「これはどんな効果があるんですか?」
「知らん。じゃが何かに使えそうかと思って買い取った」
「……まぁ、確かに何かに使えそうではありますが」
「飾りとしては面白いぞ」
確かに面白いっちゃ面白いが、何に使うんだこりゃ……。
結構強い力で回っているから、うまく使えば何かを動かす動力にでもなりそうだがなぁ。
そんな感じで色々見ていると、だんだん分かってきた。
ダンジョン産の品といっても、全部がすごいわけではない。
面白いものは多い。
便利そうなものもある。
だが、実用的に強いものは、やはり限られているようだ。
俺が少し物足りなさを感じ始めた頃、ベローがにやりと笑った。
「物足りねぇって顔しとるのう」
「えっ、そんな顔してました?」
「しとるしとる。もっとちゃんとしたもんを見たいなら、こっちじゃ」
ベローはゆっくりと椅子から立ち上がり、店の奥へ向かった。
足を少し引きずっているが、動きに迷いはない。
案内されたのは、最初に「触ると危ない」と言われていた一角だった。
そこには、鍵付きの鎖で固定された武器や防具が並んでいた。
さっきまで見ていた棚の品と違い、置き方が明らかに厳重だ。
「今まで見とった品は、白灯の洞窟や街で仕入れたものが多い。面白いもん、売れそうなもんを置いてあるだけじゃ」
ベローは棚の鍵に手をかける。
「じゃが、こっちは沈鐘の回廊産じゃ。値も張るし、扱いを間違えると怪我をする」
「沈鐘の回廊……」
「そうじゃ、白灯の洞窟よりも難易度の高いダンジョンじゃな」
ダンジョン産の魔道具や魔剣が多く見つかる、ドゥル=ブルムでも有名なダンジョンらしい。
ベローは鍵を外し、まず一本の剣を取り出した。
見た目は普通の長剣だ。
刃に細かな模様が刻まれているが、派手さはない。
むしろ落ち着いた作りに見える。
「持ってみるか?」
「いいんですか?」
「振るなよ。持つだけじゃ」
「はい」
俺は両手で剣を受け取った。
その瞬間、思わず目を瞬かせる。
「……おぉ、軽い」
見た目は普通の長剣なのに、手に持った感覚は木剣に近い。
いや、こりゃ木剣より軽いぞ。
「軽いじゃろ」
「はい。これ、本当に金属なんですか?」
「うむ、何の金属かはわからんがな」
「すごいですね」
「ただし、軽く感じるのは持っている間だけじゃ。斬りつけた時の重さは、ちゃんと剣本来の重さになる」
「それって、かなり便利なんじゃ」
「便利じゃ。持ち運びやすく、振り回しやすい。しかも当たれば重い。だがな、軽すぎるせいで間合いを誤る奴が多い」
ベローは指を一本立てた。
「剣に振り回される、という言葉があるが、こいつの場合は軽さに振り回される。慣れていない者が使うと、振り抜きすぎて隙だらけになるんじゃ」
「ああ……なるほど」
確かに、軽すぎる剣というのも扱いが難しそうだ。
重さの感覚が変わるだけで、剣筋なんて簡単に狂うだろうしな。
「かなり良いものなんですか?」
「沈鐘の回廊産の中では実用的な方じゃな。高いぞ」
ベローはにやりと笑った。
「なるほど……」
次にベローが取り出したのは、一本の剣と鞘のセットだった。
「これは?」
「直る剣じゃ」
「直る剣?」
「刃こぼれや多少の破損なら、専用の鞘に収めて数時間置けば元に戻る」
「えっ、それすごくないですか?」
「すごいぞ。特に長旅をする冒険者にはありがたい品じゃな。砥石や鍛冶屋がなくても、鞘に戻しておけば勝手に直る」
「へぇ、便利ですね」
ベローは鞘を軽く叩いた。
「こいつは剣と鞘で一組じゃ。完全に折れた場合は直るまで半日以上かかるし、戦闘中にすぐ直るわけではない。それだけは注意じゃな」
「ああ、そこまで万能ではないんですね」
「万能なもんは、こんな店にはそうそう並ばんよ」
ベローは肩をすくめた。
本当にとんでもないものなら、そりゃ国や貴族が放っておかないか。
ベローの店にあるのは、実用的ではあるが、どこか癖のある品が多い。
次に見せてくれたのは、矢筒だった。
古びた革製で、見た目は普通の矢筒に見える。
だが、中を覗くと、確かに矢が入っていた。
「こいつは無限矢筒じゃ」
「無限?」
「中から矢を取り出しても、しばらくするとまた一本増える」
「めちゃくちゃ便利じゃないですか」
弓使いなら喉から手が出るほど欲しいのではないだろうか。
「ただし、取り出した矢は数分で消える」
「消える?」
「そうじゃ。だから矢を売ることはできん。わしも矢だけ量産して売ろうと思ったんじゃが、そこまで万能ではなかった。とはいえ使う分には問題ないじゃろ」
「それは、そうですが」
そりゃまあ、無限に矢が出るなら売り物にしたくなるか。
にしても弓を使う人には良さそうだな。
取り出して使う分には数分持てばいいだろうし。
「冒険者にはかなり便利そうですね」
「便利じゃ。だから高いぞ~」
ベローはまた、にやりと笑った。
確かにどれも実用的だ。
ただ、どれも癖がある。
俺が興味深く見ていると、ベローは棚の奥を指さした。
「他にも、攻撃を受けるたびに鐘みたいな音が鳴る盾や、雨に濡れてもすぐ乾く外套なんかもある」
「音が鳴る盾?」
「魔物の注意を引きたい時には使える。隠密には最悪じゃがな」
「それはそうでしょうね」
「外套は便利じゃぞ。濡れてもすぐ乾く。ただし、汗まで乾くせいで喉が渇きやすい」
「地味に嫌ですね」
どれも面白い。
面白いが、万能ではない。
便利だけど、少し困る。
すごいけど、使いどころを選ぶ。
何というか、ダンジョン産の品は思ったより現実的だった。
俺の魔剣や鎧が異常なのだろう。
いや、分かっていたつもりではあるが、こうして普通の魔道具を見ると、改めてそう思う。
「もっと強い魔剣はあるんですか?」
俺が聞くと、ベローは頷いた。
「あるにはある。じゃが、強いものほどまず市場には出ん。出てもすぐ買い手がつく。貴族、騎士団や盾の会、金持ちの冒険者。欲しがる奴はいくらでもおるからの」
「なるほど」
「沈鐘の回廊産でこの程度じゃ。奈落の品ともなれば、なおさらじゃな」
「奈落……?」
「黒底の奈落。通称、奈落。ドゥル=ブルム周辺で一番危険なダンジョンじゃな」
ベローは先ほどまでより少し低い声で言った。
「奈落産の品は、ここには置いていないんですか?」
「置いとらん」
即答だった。
「というより、普通の店に並ぶこと自体がまずない。昔は命知らずが挑んで、たまに何かを持ち帰ることもあったがな。最近じゃ、危険すぎて挑む者自体が少ない」
「そんなに危険なんですか」
「地図が役に立たん。道が変わる。来た道が帰りにはなくなっておる。仲間の間に突然壁ができて分断される。魔物も妙なものばかりじゃ」
ベローは腕を組んだ。
「おまけに、帰ってこなかった冒険者の方が多い。そんな場所に好き好んで入る奴は、今じゃよほどの馬鹿か、よほどの事情持ちだけじゃ」
「ヤバい場所だな……」
俺は思わず呟いた。
「奈落で見つかる品は、沈鐘の回廊産とは比べものにならんと言われておる。じゃが、出回る前に国や貴族が買い上げちまう。持ち帰った者が手放さんこともある。だから、わしのような個人の店に流れてくることはまずない」
「そうなんですね」
「奈落の品を見たいなら、実際に奈落に行くのが一番じゃろうな。帰ってこれるかはしらんが」
「見る前に死んじゃうんじゃ……」
「そうじゃろうな」
ベローは愉快そうに笑った。
奈落産のアイテムは、レアすぎて店にはない。
そう聞くと、逆に気になってしまう。
ただ、気になるから行ってみよう、で済む場所ではなさそうだ。
「嬢ちゃんは、なかなか良い目をしとるのう」
ベローが言った。
「そうですか?」
「品を見る時の目じゃ。珍しいものをただ珍しがるだけじゃない。何に使えるのか、何が危ないのか、そういうものを探っとる」
「いや、そこまで考えているわけでは……」
たぶん、半分くらいは本当にただ珍しがっているだけだ。
ゲオルグが横で穏やかに微笑んでいる。
「アウラ様は、物事をよく観察される方ですから」
「い、いやぁ、そんなことは」
そう言われると少し照れる。
ベローは楽しそうに笑い、棚に鍵をかけ直した。
「まあ、また何か見たけりゃ来るといい。ゲオルグの連れなら、変なものは掴ませんよ」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
思っていたより面白かった。
すごい魔剣や神器のようなものが並んでいるわけではない。
だが、実際に冒険者たちが使う道具や、生活の中で役立つダンジョン産の品を見ることができた。
この世界のダンジョンは、ただの危険な場所ではない。
街の暮らしや経済にも深く関わっているのだと、少し実感できた気がする。
夜にも更新予定です(๑ˊ͈ ꇴ ˋ͈)