【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
星蜜焼きを食べ終えた後も、ゲオルグに案内されて、いくつかの店を見て回った。
香辛料を扱う店。
旅商人が持ち込んだという異国の布を並べた露店。
小さな魔道具を扱う雑貨屋。
路地裏にひっそりとある茶葉の店。
どこも面白かった。
買うかどうかは別として、見ているだけで楽しい。
やはり街はいい。
人の声があって、匂いがあって、歩くたびに知らないものが目に入る。
ブルム家の離れは快適だ。
食事も美味いし、寝床も最高だし、風呂まである。
だが、こうして外を歩くと、自分が思っていた以上に息が詰まっていたのだと分かった。
しばらく街を見て回った後、俺たちはブルム家へ戻ることにした。
「今日はありがとうございました。とても充実した一日でした」
門をくぐり、屋敷の敷地へ戻ったところで、俺はゲオルグに礼を言った。
ゲオルグはいつもの穏やかな笑みを浮かべる。
「楽しんでいただけたのでしたら、何よりでございます」
「はい。かなり気分転換になりました」
「また出かけたくなりましたら、いつでもお声がけください。可能な限り、お供いたします」
「ありがとうございます」
いい人すぎる。
ゲオルグが若くて、俺が女だったら惚れていたかもしれんなぁ。
実際、今の俺は女なんだが……。
そんなことを思いながら、俺は離れへ戻った。
その後は、いつも通りだった。
風呂に入って汗と街の埃を落とし、夕食の時間になれば食堂へ向かい、皆と一緒に食事を取る。
ティナとカイトは、今日の訓練でかなり疲れていたらしく、食事中も少し眠そうだった。
マルルゥは相変わらずずっと喋っていて、シエルはしんどそうな二人を心配そうに見ては、マルルゥの話に相槌を打っている。
ユリウス先生は普段通り。
俺は普通に相槌を打ち、普通に食べ、普通に笑った。
だが、頭の片隅ではずっと別のことを考えていた。
南通り。
いや、別にやましい意味ではない。
この世界の文化を知るためだ。
異世界の街を理解するには、表通りだけではなく、夜の顔も知る必要がある。
そう、これは社会見学。
れっきとした調査である。
夕食を食べ終えると、俺は少し大きめに欠伸をしてみせた。
「今日は少し歩き疲れたので、早めに休みます」
「そうですか。ゆっくりお休みください」
ユリウス先生がそう言い、シエルも心配そうにこちらを見る。
「アウラさん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫。久しぶりに街を歩いたから、少し疲れただけだよ」
「無理はしないでくださいね」
「分かってる」
俺はできるだけ自然に答え、足早で自室へ戻った。
扉を閉める。
耳を澄ませる。
廊下に人の気配はない。
よし。
「ふふふ……南通りだ」
小さく呟くと、妙に胸が高鳴った。
まずは準備だ。
俺は昼間と同じ地味なローブを羽織った。
フードを深く被れば、目立つ金髪もある程度隠れる。
鏡の前に立ち、一応身だしなみを確認する。
……まあ、目立たないための地味なローブを羽織って顔を隠している時点で、身だしなみも何もない気はする。
だが、変にだらしなく見えるよりはいいだろう。
手持ちの金は、念のためすべてアイテムボックスに入れておく。
万が一、財布を落としたり盗まれたりしたら困る。
こういうところは慎重にいきたい。
それから、俺は自室の床を見下ろした。
「忘れずに、ここも登録しておかないとな」
昼間、街の道をワープの登録地点にした。
そして、自室も登録しておけば、街と部屋を行き来できる。
何かあった際に逃げ道にもなるし、便利である。
俺は意識を集中し、自室をワープの移動先として登録する。
「よし」
これで準備は整った。
俺は小さく息を吸い、昼間に登録した道端を思い浮かべる。
意識を向ける。視界がぐにゃりと歪む。
次の瞬間。
──ぽんっ。
身体が軽く弾き飛ばされるような感覚とともに、目の前の景色が切り替わった。
「……よし、問題なさそうだな」
小さく呟き、周囲を見回す。
人影はない。
昼間に登録した場所と同じ、道の端だ。
昼間とは違い、周囲は薄暗く人の通りもない。
だが、少し先の大通りの方からは、明かりと人の声が漏れてきている。
夜の街は、まだまだこれからって感じだな。
「南通りは……どっちだろうな」
流石にゲオルグに南通りの場所までは聞いていない。
とりあえず、大通りへ出て場所を確認することにした。
大通りへ出ると、昼間とはまるで雰囲気が違っていた。
人は多い。
だが、昼間の家族連れや商人たちの姿はほとんど見えない。
代わりに目立つのは、冒険者らしき者たちだ。
依頼を終えて懐が温かいのだろうか。
酒場へ吸い込まれていく者。
すでに出来上がって、大声で笑っている者。
肩を組んで歌っている者。
道端で店の女に声をかけられ、まんざらでもなさそうにしている者。
少し離れた場所では、吟遊詩人らしき男が見たことのない楽器を鳴らしていた。
その周囲には人だかりができ、酒の入った客が楽しそうに拍手している。
昼間とは違う意味で賑やかだ。
「おお……夜の街って感じだな」
元の世界にいた頃、仕事帰りに飲みに行った時のことを思い出す。
疲れた体に酒と焼き鳥。
適当な愚痴や、翌日の仕事のことを考えて少し憂鬱になりながらも、何だかんだで楽しかった。
この身体になってから、酒を飲みたいと思う気持ちはあまりなかった。
だが、こういう雰囲気を見ていると、少し飲みたくなるというか、店の雰囲気を楽しみたくなる。
が、今日は違う。
今日は娼館へ行くのだ。
初志貫徹。ここで酒場に吸い込まれたら、何をしに来たのか分からなくなる。
俺はフードを少し深く被り直し、周囲を見回した。
南通りの場所を探す。
しかし、いまいちどっちの方向なのかわからない。
どうしたものかと思っていると、ちょうど近くで冒険者らしき男たちが大声で話していた。
「よーし、今日は俺、夜蜜亭に行くわー」
「お前、金あるのかよ」
「もうあんまり残ってねえ! けど明日、ダンジョンで一山当てりゃセーフだろ」
「そもそも予約してねぇなら入れねえだろ。それに人気の子は空いてねえよ」
「分かってるって。空いてたら運がいいってことで!」
夜蜜亭。
以前にも聞いた店の名前だ。
たしか、人気の子がいるとか何とか。
あいつらについて行けば、少なくとも娼館のあるエリアまでは行けるはずだ。
俺は少し距離を取り、冒険者たちの後をついて行くことにした。
冒険者たちは酒場の前で別の仲間と合流し、笑いながら道の先へ歩いていく。
俺もその後を追った。
通りを進むにつれ、街の雰囲気はさらに変わっていった。
音楽の音が増える。
酒の匂いが濃くなる。
店の外に立つ女たちの服装も、昼間に見たものよりずっと華やかだ。
道の端では、兵士たちが数人で見回りをしていた。
昼間のように一定間隔で立っているというより、夜の通りを巡回しているようだ。
なるほど。
完全に放置されているわけではないらしい。
それでも、この辺りには昼間とは違う緊張感があった。
楽しげで、騒がしくて、少し危うい。
何だか、足を踏み入れてはいけない場所に入っていくような感覚がある。
そう思いながら歩いていると、冒険者たちが角を曲がった。
俺も少し遅れて曲がる。
その瞬間、空気が変わった。
「こ、これは……」
思わず声が漏れる。
通りの両側に並ぶ建物は、どれも明かりが柔らかく、看板も妙に艶っぽい。
入り口には綺麗に着飾った女性が立ち、通りを歩く男たちに声をかけている。
店によって雰囲気は違うが、どこも昼間の商店とは明らかに違った。
店の前で店員と話し込む冒険者。
貼り出された紙を真剣に見つめる男。
華やかな服の女性と腕を組んで歩く客。
なるほど、ここがそういう通りか。
予想していたはずなのに、実際に目の前にすると、心臓が少し速くなる。
まずはシステムを知りたい。
何も知らずに店へ入るのは怖いからな。
俺は通りを歩きながら、店の前に貼られている紙をちらちらと確認することにした。
紙には、今日いるらしい女性の名前や、簡単な紹介、料金のようなものが書かれている。
隣で真剣に悩んでいる男がいるので、あまりじろじろ見るのは避ける。
邪魔してはいけない。
あの顔は真剣勝負の顔だ。
次の店。
また次の店。
店によって料金が結構違うようだ。
店の前に女の子が立って、客引きしているような所もちらほら見えるが、店によって立っている女の子の雰囲気が結構違う。
「うーん……どこがいいのか全然分からん」
小さく呟きながら、俺は通りを進んでいった。
気づけば、少し坂になった道の奥へ来ていた。
そこに並ぶ店は、今まで見てきたものより建物が大きく、入口も落ち着いた作りをしている。
店の前には用心棒らしき男も立っていた。
明らかに高そうだ。
「こっちは高級店って感じか……?」
俺は一軒の店の前で足を止める。
看板には、流れるような文字でこう書かれていた。
《夜蜜亭》
「あ、ここか」
冒険者たちが話していた店だ。
貼り出された紙を見てみる。
……高い。
思っていたより高い。
今まで見た店より、明らかに一段上の値段だった。
だが、払えない金額ではない。
アイテムボックスには、それなりの金が入っている。
使おうと思えば使える。
でももし、追加料金とかあったらどうしよう……。
いや、しかし。
最初から高級店はどうなんだ?
安い店で経験を積んでから高級店に行くべきでは?
いやいや、初めてだからこそ安心できる高級店の方がいいのでは?
でも高級店は高級店で、作法とか分からないと恥をかく可能性が……。
俺は店の前で腕を組み、真剣に悩んだ。
まずは様子見だけでも。
いや、様子見で入れるのか?
見学だけとかできるのだろうか。
高級店なら初心者向けの説明とかあるかもしれない。
いや、そんな親切なサービスあるのか?
そんなことを考えていた、その時だった。
「なになに~。緊張しちゃってる感じ?」
ふわりと、甘い香りがした。
次の瞬間、腕に柔らかい感触が絡む。
「ふぇっ!?」
思わず変な声が出た。
振り向くと、すぐ近くに女の子がいた。
赤い長い髪を、可愛らしいリボンでまとめている。
フリルの多い華やかなドレス。
整った顔立ちに、明るい笑顔。
近づいた瞬間にふわりと香る、甘くて少し大人っぽい匂い。
近い、いい匂い、腕が組まれている。
顔が近い。
そして、かわいい。
頭の処理が追いつかない。
「はじめての子は、みんなそんな感じだよ~。大丈夫大丈夫。私がちゃんと教えてあげるから」
「あ、いや、その、俺は」
「まずは雰囲気に慣れるところからね。ほら、おいで」
「は、はい……!」
反射的に返事をしてしまった。
女の子に腕を引かれ、そのまま店の中へ連れて行かれる。
っていうか、この子、めちゃくちゃ可愛い。
というか、向こうから声をかけてきたということは、案内してくれる人なのだろうか。
高級店すごいな。
初心者に優しいじゃないか。
店の中は、外から見た印象通り落ち着いた雰囲気だった。
薄暗いが、暗すぎない。
甘い香の匂いが漂い、柔らかな灯りが壁を照らしている。
入口近くには受付のような場所があり、強面の男が座っていた。
女の子はその男へ軽く手を振る。
「この子、初めてみたいだから、私が見てあげるわね。衣装室借りるわよ~」
「え、ネリィさん。その子は……」
「大丈夫大丈夫。こういうのは最初が肝心なのよ」
「ですが、今からご予約が……」
「だから大丈夫なの。レーちゃんなら、むしろ喜ぶでしょ?」
「……ネリィさんがそうおっしゃるなら」
強面の男は少し困った顔をしたが、最後には頷いた。
どうやら、この女の子はネリィというらしい。
ネリィ。
確か、以前冒険者たちが話していた人気の子じゃなかったか?
おいおい、いきなり当たりを引いたのでは?
幸先が良すぎる。
これでハマってしまったらどうしよう。
俺の財布は大丈夫なのか。
そんなことを考えている間にも、ネリィは俺の腕を引いて、奥へ進んでいく。
「こっちこっち。まずは準備しないとね」
「準備?」
「そう。初めてなら、なおさらちゃんとしないと」
なるほど。
高級店には準備があるらしい。
そういうものなのだろう。
郷に入れば郷に従えと言うし、ここは流れに任せてみるか。
そう自分に言い聞かせながら、ネリィに連れられて入った部屋は、衣装部屋のような場所だった。
壁際には、色とりどりの服が並んでいる。
可愛らしいもの。
大人っぽいもの。
ひらひらしたもの。
布面積が心配になるもの。
何に使うのかよく分からない小物まである。
なにここ。
服屋か?
「はい、ここに座ってね」
「は、はい」
俺は言われるままに椅子へ座る。
正面には大きな鏡があった。
ネリィは俺のフードをそっと外す。
「……わぁ」
ネリィが目を丸くした。
「あなた、すごく可愛いじゃない!」
「あ、ありがとうございます……?」
容姿を褒められるのは、いまだに少し慣れない。
ネリィは俺の顔をじっと見て、それからにっこり笑った。
「ローブで隠すなんてもったいないわよ~。うーん、あなたなら……可愛い系かな。いや、綺麗系もいけるけど、今日は初めてだし、やっぱり柔らかめがいいわね」
「えっと、何の話ですか?」
「衣装の話」
即答された。
ネリィは手際よく何着かの服を取り出し、俺の肩に当てていく。
「こっちは少し大人っぽすぎるかな。これは色が強い。んー……あ、これ。これがいい」
「あの、俺の服って変えないと駄目ですか?」
「もちろん。雰囲気って大事なのよ?」
雰囲気。
そう言われると、そうなのかもしれない。
高級店の演出というやつだろうか。
ネリィの服も可愛いし、お互い可愛い服を着て、雰囲気を盛り上げるとか……そういう感じかな。
俺が戸惑っている間に、ネリィはとんでもない手際で俺を着替えさせていった。
気づいた時には、俺はフリルの多い、淡い色の可愛らしい衣装を着せられていた。
……早い。
何が起きた?
鏡を見る。
そこには、ローブ姿とはまるで違う自分がいた。
ふわりとしたスカート。
胸元や袖に控えめなレース。
派手すぎないが、明らかに可愛い方向に全力で寄せた服だ。
いや、似合っている。
似合っているのが困る。
「うんうん、やっぱり似合う。じゃあ、次はお化粧ね」
「えっ、化粧まで?」
「当然でしょ。大丈夫、私こう見えても化粧は得意なんだから」
ネリィは大きな箱を開けた。
中には、化粧道具らしきものがびっしり詰まっている。
そして慣れた手つきで、俺の顔に触れていく。
「動かないでね~」
「は、はい」
筆のようなものが頬を撫でる。
目元に少しだけ色が乗る。
唇に薄く艶が足される。
ネリィの手つきは本当に慣れていた。
迷いがない。
まるで絵を描くように、少しずつ俺の顔を整えていく。
「小さい頃から練習してたのよ。お店の子にもよくやってあげるんだ」
「へぇ……」
「顔って、少し変えるだけで印象が全然違うからね。あなたは元がすごくいいから、やりすぎない方がいいわね」
そう言いながら、ネリィは最後に俺の髪を軽く整えた。
「はい、完成」
鏡を見る。
「……おぉ」
思わず声が漏れた。
自分なのに、自分ではないみたいだった。
以前、リリアに言われて使用人たちに化粧をしてもらった時は、お嬢様っぽい雰囲気で上品な感じだったが、今回の化粧は違う。
可愛い。
とにかく可愛い。
柔らかくて、愛嬌があって、守ってあげたくなるような雰囲気がある。
こんな子がいたら、普通に惚れるかもしれない。
いや、自分なんだけど。
「うーん、我ながらいい仕事してる~」
「すごいですね……」
「でしょ?」
ネリィは満足そうに笑う。
俺も何だか少し楽しくなってきた。
さすが高級店、奥が深いな。
俺がそんな妙な納得をしていると、ネリィは俺の手を取った。
「じゃあ、部屋に行きましょ。今日は見てるだけでいいから、安心してね」
「見てるだけ……ですか?」
「そうそう。全部私がやるから、あなたはそのまま見ててくれたらいいわ」
……ごくり、と喉がなった。
ぜ、全部おまかせでやって頂けるって事ですか……高級店、親切すぎる。
俺は半ば感心しながら、ネリィに手を引かれて廊下へ出た。
階段を上がり、二階へ。
廊下は静かだった。
柔らかい灯りが足元を照らし、壁には花の模様が入った布が掛けられている。
ネリィは一番奥の扉の前で足を止めた。
「ここの部屋はね、特別なお客様用なの」
「特別……」
「今日は何もしなくていいから、私に全部任せてね」
「は、はい」
いやぁ、いきなり特別なお客様になってしまった。
っていうか、全部任せるって……いいんですか。
そんなことまでしてもらって。
いや、落ち着け。
何を想像しているんだ俺は。
ネリィは扉を軽く叩いた。
「失礼します」
中へ声をかけ、扉を開ける。
俺はネリィの後ろから、そっと部屋の中を覗いた。
薄暗い部屋だった。
中央には、大きな寝台が置かれている。
柔らかそうな布と、いくつものクッション。
壁際には小さな灯りが揺れていた。
そして、その寝台の上に、一人の金髪の青年がいた。
目隠しをされている。
手足は軽く固定されているようで、身動きは取れないらしい。
だが、乱暴な感じではない。
むしろ、丁寧に整えられているというか、妙に上品な雰囲気すらあった。
「え、なにこれ?」
思わず素の声が出た。
ネリィはくすくす笑う。
「ふふ。今晩のお客様はね、こういう雰囲気が好きな方なの」
「こ、こういう雰囲気……って」
どういう雰囲気?
理解が追いつかない。
「新人の子は、まずいろんなお客様がいるって知っておいた方がいいと思うの。大丈夫、この方は優しいから」
「新人って……?」
「あなたの事よ。今日から来るって言ってた子でしょ?」
衣装。
化粧。
見てるだけ。
初めての子。
今まで聞き流していた言葉が、頭の中で一気に繋がった。
おあああああああ、何か超絶勘違いされている!?
ど、どどど、どうしよう。いや、今日は何もしなくていいって言われてるしセーフか!?
こ、こんな所で男と……なんて絶対嫌だぞ俺は!
ネリィがこちらを振り向いた。
「あ、そういえば、あなたの名前って何だっけ?」
ちょ、ちょっと待って!
誰かー! 助けてー!