【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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87話 これは社会見学です

 星蜜焼きを食べ終えた後も、ゲオルグに案内されて、いくつかの店を見て回った。

 香辛料を扱う店。

 旅商人が持ち込んだという異国の布を並べた露店。

 小さな魔道具を扱う雑貨屋。

 路地裏にひっそりとある茶葉の店。

 

 どこも面白かった。

 買うかどうかは別として、見ているだけで楽しい。

 やはり街はいい。

 人の声があって、匂いがあって、歩くたびに知らないものが目に入る。

 

 ブルム家の離れは快適だ。

 食事も美味いし、寝床も最高だし、風呂まである。

 だが、こうして外を歩くと、自分が思っていた以上に息が詰まっていたのだと分かった。

 しばらく街を見て回った後、俺たちはブルム家へ戻ることにした。

 

「今日はありがとうございました。とても充実した一日でした」

 

 門をくぐり、屋敷の敷地へ戻ったところで、俺はゲオルグに礼を言った。

 ゲオルグはいつもの穏やかな笑みを浮かべる。

 

「楽しんでいただけたのでしたら、何よりでございます」

「はい。かなり気分転換になりました」

「また出かけたくなりましたら、いつでもお声がけください。可能な限り、お供いたします」

「ありがとうございます」

 

 いい人すぎる。

 ゲオルグが若くて、俺が女だったら惚れていたかもしれんなぁ。

 実際、今の俺は女なんだが……。

 そんなことを思いながら、俺は離れへ戻った。

 

 その後は、いつも通りだった。

 風呂に入って汗と街の埃を落とし、夕食の時間になれば食堂へ向かい、皆と一緒に食事を取る。

 

 ティナとカイトは、今日の訓練でかなり疲れていたらしく、食事中も少し眠そうだった。

 マルルゥは相変わらずずっと喋っていて、シエルはしんどそうな二人を心配そうに見ては、マルルゥの話に相槌を打っている。

 ユリウス先生は普段通り。

 

 俺は普通に相槌を打ち、普通に食べ、普通に笑った。

 だが、頭の片隅ではずっと別のことを考えていた。

 

 南通り。

 

 いや、別にやましい意味ではない。

 この世界の文化を知るためだ。

 異世界の街を理解するには、表通りだけではなく、夜の顔も知る必要がある。

 そう、これは社会見学。

 れっきとした調査である。

 夕食を食べ終えると、俺は少し大きめに欠伸をしてみせた。

 

「今日は少し歩き疲れたので、早めに休みます」

「そうですか。ゆっくりお休みください」

 

 ユリウス先生がそう言い、シエルも心配そうにこちらを見る。

 

「アウラさん、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫。久しぶりに街を歩いたから、少し疲れただけだよ」

「無理はしないでくださいね」

「分かってる」

 

 俺はできるだけ自然に答え、足早で自室へ戻った。

 扉を閉める。

 耳を澄ませる。

 廊下に人の気配はない。

 よし。

 

「ふふふ……南通りだ」

 

 小さく呟くと、妙に胸が高鳴った。

 まずは準備だ。

 俺は昼間と同じ地味なローブを羽織った。

 フードを深く被れば、目立つ金髪もある程度隠れる。

 鏡の前に立ち、一応身だしなみを確認する。

 ……まあ、目立たないための地味なローブを羽織って顔を隠している時点で、身だしなみも何もない気はする。

 だが、変にだらしなく見えるよりはいいだろう。

 

 手持ちの金は、念のためすべてアイテムボックスに入れておく。

 万が一、財布を落としたり盗まれたりしたら困る。

 こういうところは慎重にいきたい。

 それから、俺は自室の床を見下ろした。

 

「忘れずに、ここも登録しておかないとな」

 

 昼間、街の道をワープの登録地点にした。

 そして、自室も登録しておけば、街と部屋を行き来できる。

 何かあった際に逃げ道にもなるし、便利である。

 俺は意識を集中し、自室をワープの移動先として登録する。

 

「よし」

 

 これで準備は整った。

 俺は小さく息を吸い、昼間に登録した道端を思い浮かべる。

 意識を向ける。視界がぐにゃりと歪む。

 次の瞬間。

 

 ──ぽんっ。

 

 身体が軽く弾き飛ばされるような感覚とともに、目の前の景色が切り替わった。

 

「……よし、問題なさそうだな」

 

 小さく呟き、周囲を見回す。

 人影はない。

 昼間に登録した場所と同じ、道の端だ。

 

 昼間とは違い、周囲は薄暗く人の通りもない。

 だが、少し先の大通りの方からは、明かりと人の声が漏れてきている。

 夜の街は、まだまだこれからって感じだな。

 

「南通りは……どっちだろうな」

 

 流石にゲオルグに南通りの場所までは聞いていない。

 とりあえず、大通りへ出て場所を確認することにした。

 大通りへ出ると、昼間とはまるで雰囲気が違っていた。

 

 人は多い。

 だが、昼間の家族連れや商人たちの姿はほとんど見えない。

 代わりに目立つのは、冒険者らしき者たちだ。

 

 依頼を終えて懐が温かいのだろうか。

 酒場へ吸い込まれていく者。

 すでに出来上がって、大声で笑っている者。

 肩を組んで歌っている者。

 道端で店の女に声をかけられ、まんざらでもなさそうにしている者。

 

 少し離れた場所では、吟遊詩人らしき男が見たことのない楽器を鳴らしていた。

 その周囲には人だかりができ、酒の入った客が楽しそうに拍手している。

 昼間とは違う意味で賑やかだ。

 

「おお……夜の街って感じだな」

 

 元の世界にいた頃、仕事帰りに飲みに行った時のことを思い出す。

 疲れた体に酒と焼き鳥。

 適当な愚痴や、翌日の仕事のことを考えて少し憂鬱になりながらも、何だかんだで楽しかった。

 この身体になってから、酒を飲みたいと思う気持ちはあまりなかった。

 だが、こういう雰囲気を見ていると、少し飲みたくなるというか、店の雰囲気を楽しみたくなる。

 

 が、今日は違う。

 今日は娼館へ行くのだ。

 初志貫徹。ここで酒場に吸い込まれたら、何をしに来たのか分からなくなる。

 

 俺はフードを少し深く被り直し、周囲を見回した。

 南通りの場所を探す。

 しかし、いまいちどっちの方向なのかわからない。

 どうしたものかと思っていると、ちょうど近くで冒険者らしき男たちが大声で話していた。

 

「よーし、今日は俺、夜蜜亭に行くわー」

「お前、金あるのかよ」

「もうあんまり残ってねえ! けど明日、ダンジョンで一山当てりゃセーフだろ」

「そもそも予約してねぇなら入れねえだろ。それに人気の子は空いてねえよ」

「分かってるって。空いてたら運がいいってことで!」

 

 夜蜜亭。

 以前にも聞いた店の名前だ。

 たしか、人気の子がいるとか何とか。

 あいつらについて行けば、少なくとも娼館のあるエリアまでは行けるはずだ。

 俺は少し距離を取り、冒険者たちの後をついて行くことにした。

 

 冒険者たちは酒場の前で別の仲間と合流し、笑いながら道の先へ歩いていく。

 俺もその後を追った。

 

 通りを進むにつれ、街の雰囲気はさらに変わっていった。

 音楽の音が増える。

 酒の匂いが濃くなる。

 店の外に立つ女たちの服装も、昼間に見たものよりずっと華やかだ。

 

 道の端では、兵士たちが数人で見回りをしていた。

 昼間のように一定間隔で立っているというより、夜の通りを巡回しているようだ。

 なるほど。

 完全に放置されているわけではないらしい。

 

 それでも、この辺りには昼間とは違う緊張感があった。

 楽しげで、騒がしくて、少し危うい。

 何だか、足を踏み入れてはいけない場所に入っていくような感覚がある。

 そう思いながら歩いていると、冒険者たちが角を曲がった。

 俺も少し遅れて曲がる。

 その瞬間、空気が変わった。

 

「こ、これは……」

 

 思わず声が漏れる。

 

 通りの両側に並ぶ建物は、どれも明かりが柔らかく、看板も妙に艶っぽい。

 入り口には綺麗に着飾った女性が立ち、通りを歩く男たちに声をかけている。

 店によって雰囲気は違うが、どこも昼間の商店とは明らかに違った。

 

 店の前で店員と話し込む冒険者。

 貼り出された紙を真剣に見つめる男。

 華やかな服の女性と腕を組んで歩く客。

 

 なるほど、ここがそういう通りか。

 予想していたはずなのに、実際に目の前にすると、心臓が少し速くなる。

 

 まずはシステムを知りたい。

 何も知らずに店へ入るのは怖いからな。

 俺は通りを歩きながら、店の前に貼られている紙をちらちらと確認することにした。

 

 紙には、今日いるらしい女性の名前や、簡単な紹介、料金のようなものが書かれている。

 隣で真剣に悩んでいる男がいるので、あまりじろじろ見るのは避ける。

 邪魔してはいけない。

 あの顔は真剣勝負の顔だ。

 

 次の店。

 また次の店。

 店によって料金が結構違うようだ。

 店の前に女の子が立って、客引きしているような所もちらほら見えるが、店によって立っている女の子の雰囲気が結構違う。

 

「うーん……どこがいいのか全然分からん」

 

 小さく呟きながら、俺は通りを進んでいった。

 気づけば、少し坂になった道の奥へ来ていた。

 そこに並ぶ店は、今まで見てきたものより建物が大きく、入口も落ち着いた作りをしている。

 店の前には用心棒らしき男も立っていた。

 

 明らかに高そうだ。

 

「こっちは高級店って感じか……?」

 

 俺は一軒の店の前で足を止める。

 看板には、流れるような文字でこう書かれていた。

 

《夜蜜亭》

 

「あ、ここか」

 

 冒険者たちが話していた店だ。

 貼り出された紙を見てみる。

 

 ……高い。

 思っていたより高い。

 今まで見た店より、明らかに一段上の値段だった。

 

 だが、払えない金額ではない。

 アイテムボックスには、それなりの金が入っている。

 使おうと思えば使える。

 でももし、追加料金とかあったらどうしよう……。

 

 いや、しかし。

 最初から高級店はどうなんだ?

 安い店で経験を積んでから高級店に行くべきでは?

 いやいや、初めてだからこそ安心できる高級店の方がいいのでは?

 でも高級店は高級店で、作法とか分からないと恥をかく可能性が……。

 俺は店の前で腕を組み、真剣に悩んだ。

 

 まずは様子見だけでも。

 いや、様子見で入れるのか?

 見学だけとかできるのだろうか。

 高級店なら初心者向けの説明とかあるかもしれない。

 いや、そんな親切なサービスあるのか?

 そんなことを考えていた、その時だった。

 

「なになに~。緊張しちゃってる感じ?」

 

 ふわりと、甘い香りがした。

 次の瞬間、腕に柔らかい感触が絡む。

 

「ふぇっ!?」

 

 思わず変な声が出た。

 振り向くと、すぐ近くに女の子がいた。

 

 赤い長い髪を、可愛らしいリボンでまとめている。

 フリルの多い華やかなドレス。

 整った顔立ちに、明るい笑顔。

 近づいた瞬間にふわりと香る、甘くて少し大人っぽい匂い。

 

 近い、いい匂い、腕が組まれている。

 顔が近い。

 そして、かわいい。

 頭の処理が追いつかない。

 

「はじめての子は、みんなそんな感じだよ~。大丈夫大丈夫。私がちゃんと教えてあげるから」

「あ、いや、その、俺は」

「まずは雰囲気に慣れるところからね。ほら、おいで」

「は、はい……!」

 

 反射的に返事をしてしまった。

 女の子に腕を引かれ、そのまま店の中へ連れて行かれる。

 っていうか、この子、めちゃくちゃ可愛い。

 というか、向こうから声をかけてきたということは、案内してくれる人なのだろうか。

 高級店すごいな。

 初心者に優しいじゃないか。

 

 店の中は、外から見た印象通り落ち着いた雰囲気だった。

 薄暗いが、暗すぎない。

 甘い香の匂いが漂い、柔らかな灯りが壁を照らしている。

 入口近くには受付のような場所があり、強面の男が座っていた。

 女の子はその男へ軽く手を振る。

 

「この子、初めてみたいだから、私が見てあげるわね。衣装室借りるわよ~」

「え、ネリィさん。その子は……」

「大丈夫大丈夫。こういうのは最初が肝心なのよ」

「ですが、今からご予約が……」

「だから大丈夫なの。レーちゃんなら、むしろ喜ぶでしょ?」

「……ネリィさんがそうおっしゃるなら」

 

 強面の男は少し困った顔をしたが、最後には頷いた。

 どうやら、この女の子はネリィというらしい。

 

 ネリィ。

 確か、以前冒険者たちが話していた人気の子じゃなかったか?

 おいおい、いきなり当たりを引いたのでは?

 幸先が良すぎる。

 これでハマってしまったらどうしよう。

 俺の財布は大丈夫なのか。

 そんなことを考えている間にも、ネリィは俺の腕を引いて、奥へ進んでいく。

 

「こっちこっち。まずは準備しないとね」

「準備?」

「そう。初めてなら、なおさらちゃんとしないと」

 

 なるほど。

 高級店には準備があるらしい。

 そういうものなのだろう。

 郷に入れば郷に従えと言うし、ここは流れに任せてみるか。

 そう自分に言い聞かせながら、ネリィに連れられて入った部屋は、衣装部屋のような場所だった。

 

 壁際には、色とりどりの服が並んでいる。

 可愛らしいもの。

 大人っぽいもの。

 ひらひらしたもの。

 布面積が心配になるもの。

 何に使うのかよく分からない小物まである。

 

 なにここ。

 服屋か?

 

「はい、ここに座ってね」

「は、はい」

 

 俺は言われるままに椅子へ座る。

 正面には大きな鏡があった。

 ネリィは俺のフードをそっと外す。

 

「……わぁ」

 

 ネリィが目を丸くした。

 

「あなた、すごく可愛いじゃない!」

「あ、ありがとうございます……?」

 

 容姿を褒められるのは、いまだに少し慣れない。

 ネリィは俺の顔をじっと見て、それからにっこり笑った。

 

「ローブで隠すなんてもったいないわよ~。うーん、あなたなら……可愛い系かな。いや、綺麗系もいけるけど、今日は初めてだし、やっぱり柔らかめがいいわね」

「えっと、何の話ですか?」

「衣装の話」

 

 即答された。

 ネリィは手際よく何着かの服を取り出し、俺の肩に当てていく。

 

「こっちは少し大人っぽすぎるかな。これは色が強い。んー……あ、これ。これがいい」

「あの、俺の服って変えないと駄目ですか?」

「もちろん。雰囲気って大事なのよ?」

 

 雰囲気。

 そう言われると、そうなのかもしれない。

 高級店の演出というやつだろうか。

 ネリィの服も可愛いし、お互い可愛い服を着て、雰囲気を盛り上げるとか……そういう感じかな。

 俺が戸惑っている間に、ネリィはとんでもない手際で俺を着替えさせていった。

 気づいた時には、俺はフリルの多い、淡い色の可愛らしい衣装を着せられていた。

 

 ……早い。

 何が起きた?

 鏡を見る。

 そこには、ローブ姿とはまるで違う自分がいた。

 

 ふわりとしたスカート。

 胸元や袖に控えめなレース。

 派手すぎないが、明らかに可愛い方向に全力で寄せた服だ。

 

 いや、似合っている。

 似合っているのが困る。

 

「うんうん、やっぱり似合う。じゃあ、次はお化粧ね」

「えっ、化粧まで?」

「当然でしょ。大丈夫、私こう見えても化粧は得意なんだから」

 

 ネリィは大きな箱を開けた。

 中には、化粧道具らしきものがびっしり詰まっている。

 そして慣れた手つきで、俺の顔に触れていく。

 

「動かないでね~」

「は、はい」

 

 筆のようなものが頬を撫でる。

 目元に少しだけ色が乗る。

 唇に薄く艶が足される。

 

 ネリィの手つきは本当に慣れていた。

 迷いがない。

 まるで絵を描くように、少しずつ俺の顔を整えていく。

 

「小さい頃から練習してたのよ。お店の子にもよくやってあげるんだ」

「へぇ……」

「顔って、少し変えるだけで印象が全然違うからね。あなたは元がすごくいいから、やりすぎない方がいいわね」

 

 そう言いながら、ネリィは最後に俺の髪を軽く整えた。

 

「はい、完成」

 

 鏡を見る。

 

「……おぉ」

 

 思わず声が漏れた。

 自分なのに、自分ではないみたいだった。

 以前、リリアに言われて使用人たちに化粧をしてもらった時は、お嬢様っぽい雰囲気で上品な感じだったが、今回の化粧は違う。

 

 可愛い。

 とにかく可愛い。

 柔らかくて、愛嬌があって、守ってあげたくなるような雰囲気がある。

 こんな子がいたら、普通に惚れるかもしれない。

 いや、自分なんだけど。

 

「うーん、我ながらいい仕事してる~」

「すごいですね……」

「でしょ?」

 

 ネリィは満足そうに笑う。

 俺も何だか少し楽しくなってきた。

 さすが高級店、奥が深いな。

 俺がそんな妙な納得をしていると、ネリィは俺の手を取った。

 

「じゃあ、部屋に行きましょ。今日は見てるだけでいいから、安心してね」

「見てるだけ……ですか?」

「そうそう。全部私がやるから、あなたはそのまま見ててくれたらいいわ」

 

 ……ごくり、と喉がなった。

 ぜ、全部おまかせでやって頂けるって事ですか……高級店、親切すぎる。

 

 俺は半ば感心しながら、ネリィに手を引かれて廊下へ出た。

 階段を上がり、二階へ。

 廊下は静かだった。

 柔らかい灯りが足元を照らし、壁には花の模様が入った布が掛けられている。

 ネリィは一番奥の扉の前で足を止めた。

 

「ここの部屋はね、特別なお客様用なの」

「特別……」

「今日は何もしなくていいから、私に全部任せてね」

「は、はい」

 

 いやぁ、いきなり特別なお客様になってしまった。

 っていうか、全部任せるって……いいんですか。

 そんなことまでしてもらって。

 

 いや、落ち着け。

 何を想像しているんだ俺は。

 ネリィは扉を軽く叩いた。

 

「失礼します」

 

 中へ声をかけ、扉を開ける。

 俺はネリィの後ろから、そっと部屋の中を覗いた。

 

 薄暗い部屋だった。

 中央には、大きな寝台が置かれている。

 柔らかそうな布と、いくつものクッション。

 壁際には小さな灯りが揺れていた。

 

 そして、その寝台の上に、一人の金髪の青年がいた。

 

 目隠しをされている。

 手足は軽く固定されているようで、身動きは取れないらしい。

 だが、乱暴な感じではない。

 むしろ、丁寧に整えられているというか、妙に上品な雰囲気すらあった。

 

「え、なにこれ?」

 

 思わず素の声が出た。

 ネリィはくすくす笑う。

 

「ふふ。今晩のお客様はね、こういう雰囲気が好きな方なの」

「こ、こういう雰囲気……って」

 

 どういう雰囲気?

 理解が追いつかない。

 

「新人の子は、まずいろんなお客様がいるって知っておいた方がいいと思うの。大丈夫、この方は優しいから」

「新人って……?」

「あなたの事よ。今日から来るって言ってた子でしょ?」

 

 衣装。

 化粧。

 見てるだけ。

 初めての子。

 今まで聞き流していた言葉が、頭の中で一気に繋がった。

 

 おあああああああ、何か超絶勘違いされている!?

 ど、どどど、どうしよう。いや、今日は何もしなくていいって言われてるしセーフか!?

 こ、こんな所で男と……なんて絶対嫌だぞ俺は!

 ネリィがこちらを振り向いた。

 

「あ、そういえば、あなたの名前って何だっけ?」

 

 ちょ、ちょっと待って!

 誰かー! 助けてー!

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