私は今、私を喰べたい人でなしにストーキングされてます。 作:這い寄る影
退魔針。
現代に入り日本にかつて三人しかいなかった究極の針師。
その四人目として新たな流派を築き上げた人がいた。
「比名子―針刺して―」
「美胡ちゃん・・・針刺しても根本的治療にはならない「いや・・・今度は生物学的に腰やった・・・」美胡ちゃん・・・えぇ」
八百歳比名子はその四人目の二代目である。
両親と兄を失った日に四人目に拾われ。稀血と言う事が判明してからその針の技術を教わった。
その四人目であるもう一人の親から生きる勇気をもらい。今は時々仕事を受けながら、色々奔走しつつごく普通の高校生生活を送っている。
先代四人目にとっても想定外だったのが比名子が稀血だけではなく自分以上に針の才能があった事だった。
今や四人目の退魔針と言えば比名子である。
そして家のベットの上でうつ伏せになっているのは社美胡、比名子の幼少期からの親友にして家の守り神たる妖怪だ。
昔坊主に捕まり説教を受け改心、人社会に馴染むべく妖力の溜めた尾を引きちぎり。
今では青吐息である。
故に力を使った時にはこうして比名子の針治療を受けに来ることがよく合った。
と言っても今回はどうもそうでもなく、人間体の時にギックリ腰やったみたいで比名子を頼って来たらしい。
「整体外科行こうよ・・・美胡ちゃん」
「ええぇ~でもさぁ、やっぱ比名子の腕が一番いいって」
「お灸もプラスするね」
「おおマジ~やった!!」
「反省してない様なら麻酔針なしで上から針さす熱注入の技法だけど覚悟は良い?」
「ごめん! それだけは勘弁して!!」
「なら表のちゃんとした整体外科医の所に行くこと!! 今日はそのための応急処置だから・・・ね・・・?」
「はい・・・」
長細い特殊加工された針を持って絶対零度の目線でうつ伏せになった美胡を絶対零度の視線で見ながらそう言う。
お灸張り、これはお灸の薬効と針がツボを押す事による効率のいい施療なのだが。
神経系とツボに直接熱を入れるため本当に痛いのだ。
大の妖怪でも音を上げるほどである、以前、鬼がクソ真面目に腰を痛め訪ねてきた際。
鬼もプライドがあったのか麻酔針という神経系を一時的に麻痺させる針抜きでやれと言い出し。
案の定地獄を見た施術である。
第一、幾ら裏では認められていても裏稼業は裏稼業だ。
表で胸張ってできるものではない。
故に比名子は表でも自分の看板持てるように鍼灸師の勉強はしている。
彼に生きる意味を教えられ自分から見つけた答えを関する為に。
そうして美胡の患部のツボに針を刺していく、その動きに淀みはなく美胡も全然痛みを感じなかった。
本当に腕がいい流石、四人目の退魔針二代目と内心賞賛する。
噂を聞いた妖怪たちがこぞって来るわけでもある。
「もう動いて良い?」
「だめ、完全に麻酔するのに10分かかる」
「ええ~今でも十分に患部の痛みが抜けてるよぉ」
「今抜いたら一分後くらいにまた痛みがぶり返すけどそれでいいなら」
「・・・サーセン」
美胡も妖怪の身でギックリ腰なんてやるとは思っていなかった。
比名子を守る為、先代、比名子、美胡のチームで世界の各所を回って来た。
時には神に対峙するときすらあった。
力こそ戻っていないが技量は全盛期より上になったという自負が美胡には合った。
それが通りすがりのお婆さんが買い物袋をぶちまけて困っているのを助けたらギックリ腰なんてのは本当に泣けてくる。
「だから私の様なモグリじゃくて、整体外科に行けばいいのに」
「一番信頼できるのは比名子なのぉ~!! 前に人間に化けていった同族が整体外科でごきばきゃとかされたなら怖くて行けないよぉ!!」
妖怪だって人間社会に溶け込んでいるのも居るし、上位の存在でもどうしようもない場合は人間の医療施設を受領している者だっているのだ。
以前、この地域の妖怪の会合の時に整体院に言ってひどい目に合ったという妖怪が居たので。
親友かつ一番信頼できる妖怪専門の鍼灸師である比名子の所にヘロヘロになりながらも駆け込んだのが現状である。
世の中、今はギックリ腰とかヘルニアとか発症した比較的温厚な妖怪とか神様とか人間に化けて薬とかサプリメントとかブロック注射に頼る悲しき時代なのである。
だが正規の整体外科の恐怖を膨張され告げられた美胡には行く勇気はなかった。
親友がモグリとは言え、一流以上且つ妖怪なら無料で診てくれる上にこうしてある意味人体より妖怪の肉体の方が化けていても見抜いてくれるのだから頼るっきゃない訳で。
「それよりも比名子、注意して最近海が荒れている」
「まぁそれは私も感じていたけど・・・」
比名子は追加の針を美胡の背に刺しつつ美胡の言葉に同意する。
海からは様々な物が来る良い物もあれば悪い物まで。
いいや海に古来より悪い物や因果を人々は流して来た。
大概海から来るものに良い物はない。
数年前の夏、まだ先代が生きていた頃だ。
黄泉帰りの儀式、と言う名の水子の召喚の儀式をやった女性の治療を手伝ったことがある。
あの時は悲惨だったなぁと比名子は思った。
「今の私じゃ守り切れない」
美胡が真剣に言う。
だが比名子は。
「大丈夫だよ。こういう時の為に鍛えてきたんだし、妖怪の皆もいるでしょ」
「そうだけどさぁ」
ハッキリ言って今の比名子の腕は先代をも上回っている。
俗にいう天才という奴だった。
中の上くらいの妖怪なんて簡単にあしらえるどころか瞬殺である。
流石は四人目の退魔針、その二代目だと言えるほどの腕を持つのだ。
そして他の交流可能な妖怪や神様とも縁結んでいる、故にこの町の裏には独自のルールが敷かれている。
決して比名子を害さない事。
それが一つ目だ。
比名子は忠を尽くしている故にこの近辺の妖怪や土地神や山神からの信は厚いのだ。
要するにウチのアイドルに手出ししたらフクロなという事である。
外様とて容赦はしない。
だが・・・
「夏祭りも近いし皆動けない」
「・・・」
そう夏祭りは妖怪にとっても山神にとっても土地神にとっても己が力を表す一大イベントだ。
ここ最近の比名子の活動によって信仰心を取り戻して来た代わりにこういう重大イベントの時は動けない。
其処が外様の付け入るスキとなる。
「ごめん」
「美胡ちゃんが謝る事じゃないよ」
そう比名子は稀血の血筋だ。
それはもう飛びっきりの。
ろくでなしなら誰だって欲する程の純度。
それが外様を呼び寄せる。
比名子は優しすぎるのだと美胡は思う。
だから様々な良い物や悪い物を呼び寄せてしまう。
幸いな事に、彼の親戚に先代四人目がいたことで、比名子は家族を失った苦しみから解放されすさまじい技量を手に入れたが。
彼女に救われた妖怪たちとか土地神とか山神たちにとっては彼女に手を汚してほしくない。
「兎に角皆動けない。だからしばらくは針持っておいて」
「うんわかった」
美胡の忠告に比名子は大人しく従うことにした。
何時までも皆に守っていられるようじゃ一人前には成れないし。
どのみち、いつか未来で対峙する問題だった。それがいまだったというだけの話であるから。
「じゃ、美胡ちゃん、針抜くよ」
「うん・・・ってこの感触気持ち悪いわね」
「一時的に痛覚抜いているからね、明日の午前8時ごろには無痛も抜けるから病院行ってね」
今現在の美胡には腰の感覚がない、麻酔みたいに痺れるとかではなく本当にないのだ。
なのに動く真不思議な感覚であった。
「ああ後、モリゾーから伝言、ポテトチップ奉納して欲しいって」
「モリゾーさん、現代に馴染み過ぎじゃないかな・・・山神がポテトチップ欲しいって・・・」
「コンソメが良いみたいよ」
「美胡ちゃん・・・そう簡単にほいほいと隣町に行けないよ三日は待ってって伝えておいて」
「了解~」
そう言って美胡は部屋を出て行く。
それを見送ってから。こっそり改造した制服の袖裏に針を仕込んでおく。
それを終えて夜食に。
今日は塩パスタで良いかと思う。
美胡の治療で気を使ったしという事でそうした。
テレビをつけてスマフォを専用端末に接続、お気に入りの食レポ芸人の動画を見る。
美味そうに焼肉食っていた。
自分も何時かは行ってみたいなーと思いつつズソソソと塩パスタを平らげ。
風呂にゆっかりとつかり。
眠りに入った。
次の日。
比名子は自分の通う高校へと向かって歩いていた。
当たり前だ、裏では二代目四人目の退魔針として認められているが表での立場はタダの高校生である。
正式な襲名は高校を卒業し専門学校を出て鍼灸師の資格を取ってからだ。
だがしかし落ち着き人の話を聞ける妖怪やら山神に治療を施していた影響か裏社会のそう言った妖怪界隈では有名であるし。
緊急時には夜狩省からも収集が掛かる。
だが裏の看板なんて通じるのは裏だけだし、鍼灸師になるという夢は譲れない。
だから今の地位に満足せず夢の為、高校に通って必死に勉強していた。
そんなこんなで通学路の海辺を歩いていると・・・
「・・・」
磯臭い臭い、これは人間性も失った獣の臭い。
近々開催される夏祭りでいつもは守ってくれる人外たちは動けない故に。
その隙を狙って自分を食いに来た妖怪であろう。
右手をくぃっと動かし針と言うか小さな短刀染みた物を取り出す。
馬の治療にも使われる笹針にも似ていることから比名子の収めた流派ではササハリと呼ばれる特殊で特徴的な針だ。
相手は下の下くらいではある、比名子の戦歴に比べれば大した相手ではない。
だが万が一と言う事もある用心に越したことはなかった。
「・・・」
それでも相手は出てこなかった。
何があったかと確かめることはしない。
相手は何かあったから引いたのだと直感していた。
再びササハリを握った右手を動かし仕込みへとササハリを戻す。
「はぁ~」
溜息を吐く、相手が下の下であれど普通の人間なら膾だ。
幾ら退魔針四人目の二代目と言えど人間なのだ。一つミスれば死ぬ。
そう叔父の様に。
彼は油断も慢心もしていなかったそれどころか他の三人も居たのに死んだ。
妖怪とかそういう類に抗うというのはそう言う事である。
自然災害に抗うのと一緒だ。しかも針だけで。
故に退魔針は廃れたとも言える過去多くはいても今は少ないのがそれが原因だ。
多くの流派が過去で負けて廃れ淘汰されたのが原因だ。
「珍しいですね、今時針を使うなんて」
「ッ!?」
背後からの声、そして純度の高い海の香り。
実力は中の下と断定しつつ再び右手をくぃっと動かしササハリを手に取る。
「そう警戒しないでください、今日は挨拶です」
「信じられると思ってます? 確かに純度の高い海の香りです、高名な人魚さんあたりと思いますが・・・同時に磯臭いですよ、アナタ何人の人を食ってきたのですか?」
そう言われ目の前の深海のように美しい瞳を持つ美しい黒髪のロングヘヤー美少女は嗤った。
「そこまでわかるのですか?」
「もっと酷い物を見て嗅いだことがあるんで」
そう比名子は先代や美胡と共にあらゆる怪異に挑んだ。
上の上やら最上の匂いなんて今嗅いでいる香りがリセッシュと錯覚できるほど無機質かあるいは悪臭かのどちらかである。
その両方を兼ね備えている奴もいた。
だからわかる。目の前の少女は無邪気にして邪悪、幾ら海のいい香りがしても人を食ったことによる陰気は隠しきれていないのだと告げる。
「では今日は退散しましょう」
「二度と目の前に現れないでください、次は無しです」
「あらあら怖い怖い」
そう言って美少女は掻き消えた。
再度、比名子はため息を吐きつつ、ササハリを袖の裏に戻し。
「叔父さん、生きるって大変だね」
きっと天国にいるであろう先代に語り掛けるのであった。
「あうあうあー」
そして放課後、後ろの席でそう言う美胡を無視しつつ。
比名子は復習していく。
ハッキリ言って比名子は既に条件さえ満たせば鍼灸師の資格を満点合格できる腕と知識はある。
否、それ以上にある。
だが高校生の勉強の知識は基礎として必要だし、小中ともに通信学習だったが先代にそれでもやって置けと技をならないながら教わった。
美胡にも大分助けてもらった。
「美胡ちゃん・・・どうしたの」
「いや・・・比名子の言う通り病院行ったら予想より酷くてブロック注射確定だからって・・・医者の腕も酷くてさ比名子の様に何も感じさせずに麻酔注射の針打てないし何度もブスブスと!!」
「だったら休もうよ、下半身の感覚ないでしょ?」
「それでも丸一日休んだら山下先生のプリント学習一日分でしょ?」
「まぁね・・・」
「それなら無理してでも午後からの授業に出ないと!!山下の奴、今度ブロック注射レベルが必要になるギックリ腰の呪いをかけてやる・・・」
「美胡ちゃん止めよ、洒落になってないよ」
一日授業した上で放課後まで一日分のプリント授業。
誰だっていやだ、比名子だっていやだもの気持ちは分かるという物だった。
山下先生は気質の古い人間だ。
ブロック注射とかお構いなし、気合でどうにでもなると思っている節がある。
今度、ギックリ腰の呪いを仕掛けてやると美胡は恨み節だった。
なお本物の妖怪がやるとなっていればその呪いは洒落になっていない。
ブロック注射した頃で嫌なタイミングで再発するように設定するはずだ。
狐の恨みとはそれゆえに怖いがゆえに。
「じゃ私、先帰るね、美胡ちゃんも無理しないでね」
「オツー、畜生メェー!!」
パタンと予め予習して色々な事書き込んだノートを比名子は閉じ鞄に入れて。
プリントに悪戦苦闘している美胡を見ながら教室を後にしに。
帰路に付くのだった。
そして、今朝と同じ浜辺を歩く。
濃い磯の臭い。
今朝はあの美少女が何とかしたのだろうが。
今回はそうもいかないらしい。
防波堤の間から左手を伸ばし水面に触れる、ツボを探っているのだ。右足に敵の髪の毛が巻き付いたが望むところ。
比名子はカッと目を見開き今度はササハリではなくいつも使う細長い針を二本ほど右手の仕込みから取り出し水面に打ち込む。
何と針は水面に沈まず流れの脈を取って水面に直立した。此処までは予定通りだ。
本来なら
海の水が不自然に引く、知れはクレーターのようにだ。
五行を元にした現代技術ではあり得ぬ古の技法。
即ち退魔針である。
石畳に足を掛け仕込みからササハリを抜く。
「なぜどうして!?」
「生憎、アナタの様な相手は成れています」
世の中罠を仕掛けるほうが自分が罠にかかっていると気づきにくい。
そう自分自身が罠にかかっているとも知らずにだ。
比名子は自分が稀血であることに気づいている。そして仕掛けるのはここ最近の夏祭りが終わるまでだ。
「なら引きずり込んでやるわ!!」
ぐわんと妖怪の髪の毛が唸る、比名子は宙に飛ばされた。
そのまま海面へと落下するが比名子は冷静に左手袖の仕込みを起動させ、二本の針を取り出すと。
妖怪の額に向けて投擲、真っ直ぐ屋の如く飛ん針は妖怪の額に突き刺さり絶叫を上げさせた。
「ぐが・・・」
「その様子だと、下の下ですね、よくもまぁ格上がうろついているこの町に来ましたね」
髪の毛が足からほどかれ水面に落着し水中戦にとも思う所だろうが。
既に比名子は先ほど別のツボも押さえておいた。故にまるで魔法の様に水面に着地し陸地のように歩いて見せる物の、これは純然とした技術である。
そして下の下のケダモノ如きがよくこの町に来たなと吐き捨てる。
この町には鬼ですら人に化けて過ごしていると言うのに。
「なんなのだ貴様!! 西海道下から来たと言うのに! こんな化け物がいるだなんて「五月蠅いです」ぎゃぁぁああああああああああああああ!!!!??」
相手が苦情を言っている間にササハリを相手の額に突き立てる。
するとそこから妖気と陰気がまるで針で刺された風船が空気が抜けていくような感じで抜けていき。
妖怪の気が完全に抜けていく。
―如月流・空抜―
先代が復興した退魔針の業、ツボをササハリで貫くことによって相手の妖気と陰気を抜き放ち衰弱させるもの。
これにより相手は最早文字通り空気を抜かれたゴム風船だ。
そのように萎んでちっぽけなただの蟹になって海辺に落ちた。
一説では磯女か蟹の化身でもあるというからその通りなんだろう。
比名子は左手の仕込みから糸を取り脱し水面に突き立った二本の針に引っ掛け。そのまま水面を歩き。
防波堤裏へと戻る、そして糸を引いて二本の針を回収する。
針とてタダではない特注品だ。しかも夜狩省御用達の熟練した達人の工芸品である。
失っては比名子の財布が爆裂する、いや日々の業務と先代の遺産と家族の遺産で問題はないのだが。
やはりケチるところはケチって置きたい。
それに昔ならいざ知らず、死体を食ってまた磯女になることはないだろうと思いつつ。
「ベーリング海なら死体食って磯女になりそうですね」
とボヤいたのだった。
生まれた瞬間からなら兎にも角にも。
後天的に何かを食って妖怪になった妖怪は今のご時世発生し得ない。
最も悪名高きベーリング海での蟹漁は死者が多発していると聞いている。
だったらベーリング海では磯女が大量生産されているのかと思いつつもそれはロシア正教の仕事だと切って捨てつつ、回収した針をよくハンカチで拭う。
帰ったらアルコール消毒も必要だなと思いながら。
そうやってから全ての針を右袖と左袖の仕込みに戻す。
その時である。
「退魔針、もう絶滅したと聞いていたのでしたけれど」
また海の香りと磯の臭い。
白いワンピースに身を包んだこの前の美少女がいた。
「正式襲名はまだ出すけど四人目なので・・・それでアナタは?」
「見てのとおりです」
「なら去ってください、私は死ぬ気がないんですから」
「それはまた「えい」はうぁぁぁああああああああああ!?」
ナニカを言おうとしていた美少女の頭頂部に右袖の仕込みからササハリを抜きち。
美少女の頭頂部へと突き刺した。
其処から出る陰気。妖気は出さない方向で行った。
まだ話の分かる相手だと思ったからだ。
相手は長年の人喰らい、それも稀血だけを狙っているグルメで気が狂っているだけなのだと。
そう言う相手の場合、陰気を抜いてやることで妖怪としての格を落とさずに正気に戻してやれる場合があると師匠兼先代が言っていったから。
比名子はそうした。どうしようもないと判断した相手には滅殺に掛かるが、話しができる相手には出来るだけ話しておきたい。
もしかしたら良き友人に成れるかもしれない、騙されたら自己責任だ甘んじて受け入れる覚悟と共に。
ササハリを頭頂部に刺されそこから陰気の漆黒を噴水の如く噴射しながら逃げていく少女を見つつ思う。
「ってそんな事してる場合じゃ!?」
ササハリは針中でも最も値が張る。
早く引き抜いて回収しなければと思ったのだが。
「はうぁぁぁあああああああああああ!!」
「ちょっと待ってぇ!! 針返してぇ!!」
美少女は脱兎のごとく逃げてしまい、ササハリは回収できなかった。
先代の遺品を自分の未熟さ故に無くしてしまったこと故に比名子は夕飯も取らずベットに潜り込み枕を濡らしながら泣いた。
次の日
―こしぃがヤバいから別病院でブロック注射受けて来るわ―
LINEにそんな通信が入った。
担任に伝えると、なんと山下先生もぎっくり腰で休みらしい
(やったのね美胡ちゃん)
マジでやりやがったよという感想しか出てこなかった。
それより、問題はササハリの方だった。
マジで希少なのだ。平安以前から使われる退魔具の一つなのだから。
帰ったら夜狩省に連絡とって懇意にしている職人にも連絡して。新しいのが出来たら各種神職にも連絡。祈祷してもらわねばならない。
普通の針はまぁ鍛冶屋に連絡で済む。先代の伝手という奴だが。ササハリは特殊肯定を立たねばならず。
そう簡単に調達できるものではない。
そんなドヨ~ンとした雰囲気でいてホームルームが始まる。
「ホームルーム始める前に転校生を紹介するぞ~」
担任がそう言いう。
(夏休み前なのに転校生、珍しいなぁ)
なんて比名子が思いていた時だ。
「今日からクラスの一員となる。近江汐莉さんだ皆仲良くしてやってくれよ」
「!?」
鼻腔をくすぐる海の匂い、かつての様な磯臭さはない。
だが目の前の担任の横に立つ美少女は昨日頭頂部にササハリをぶっ刺した美少女だった。
名を近江汐莉というらしい。
「近江汐莉です、今日からよろしくお願いします」
「近江の席は比名子の後ろの席な~、皆よろしく頼むぞ~」
担任はそう暢気に言うが比名子にとっては気が気ではなかった。
選りにもよって自分の後ろの席!? いつ刺されるかたまった物ではないと。
「よろしくね? 八百歳比名子さん」
「ええ、こちらもよろしくお願いします、近江汐莉さん」
「汐莉でいいですよ」
「じゃぁこっちも比名子で言いです、はい」
そう他人行儀のフリをしつつ二人は自己紹介し。
午前中の授業はニコニコする汐莉に気を配り後ろから刺されないようにしつつ気を配って。
授業に勤しむしかなかった比名子であった。
そして昼休憩。
「ハァ・・・」
昨日の夜眠れなかったので弁当を碌に作れず購買部での焼きそばパン争奪競争に羽目になった。
この高校の焼きそばパンの美味さは他県の高校にも知られるほどの美味さだ。
争奪戦が発生する四時限目終了と同時に全学年の焼きそばパンに魅入られた生徒がダッシュするのは何時もの名物だ。
無論、そん所そこいらの生徒風情に負ける身体能力ではない比名子はぶっちぎりで一位を勝ち取り。
二個購入できた。
帰りは商店街の中華屋で五目ラーメンでも啜ろうと思いつつ。
学園内の庭のベンチに腰掛け焼きそばパンをほうばる、うん美味しいと思いながら食べ進んでいると。
「隣いいかしら?」
「良いですよってええ?」
「なにか問題でも?」
「いいえ、何も・・・」
「ああ、それと昨日のこれ」
そう言って汐莉はササハリを差し出してくる。
馬鹿野郎!! こんなところで刃物のやり取りしてたなんてばれたらヤバいだろうがと。
急いで比名子はササハリをひったくるように奪い、右手袖の仕込みに格納する。
「汐莉さん、今のばれてたら私もアナタも退学物だよ・・・」
「あら、そんなに不味いのですか?」
「警察に事情聴取されるよ!? 今のご時世針持ち歩いているだけでも不味いんですから」
「あらそうなんですか?」
「汐莉さんがそういう存在なのは分かってます・・・ですが価値観のアップデートくらいしてください」
「わかったわ」
そう言って比名子は再び焼きそばパンを食み。
汐莉はBIGクリームパンを食む。
比名子は思った如何に妖怪とは言え胃が持たれないのかと。
まぁいい。そこは。
問題はなぜこの高校に転校してきたのかである。
「なんで此処に来たんですか?」
「決まっているでしょう?」
汐莉は微笑みながら右手で比名子の顎を上げながら。
「君を食べ来たんです♪」
(父さん、母さん、兄さん、叔父さん、私の人生に休息の休の字もなくストーキングされるみたいです)
幾ら自分の甘さが招いた事と言えど陰気は抜いたから多少良く放ったと思ったけれど。
どうやら逆に悪化したみたいらしい。
人魚伝説とは何だったのか。
いや彼女の場合、妖怪だから人食いとかセイレーンとかの側面が強いのだろうと。
比名子は深く、そりゃもう深く溜息を吐いたのだった。
八百歳比名子
原作とは違い親戚に四人目の退魔針がいた為、そちらが世話をする形で育てられる。
彼について回ったため生きる意味も見出し原作より前向きに。
それと同時に自衛の為に針技を叩き込まれるが先代より才能があったため現在名実ともに四人目の退魔針として名を連ねている。
美胡の事は既に知っており家の守り神兼親友として接している。
退魔針としては二代目として他の三人にも認められ、鍼灸師として腕もプロを余裕で凌ぐレベルなのだが。
裏稼業の退魔針としては認められていても鍼灸師資格持ってないため表での人間に対する鍼灸師としては活動していない。
だが妖怪界隈では先代の仕事を引き継ぐ形で妖怪に針治療してくれる鍼灸師として有名であり。
ぶっちゃけ妖怪専門の鍼灸師としても活動している、自分を食べようとする輩は速攻で退治しているが食い気の無い奴とか純粋な患者としてきた連中には施術を行っている。
将来の夢もキチンと持っており将来はちゃんとした鍼灸師兼退魔針になるという夢を持つ。
今専門大学に通うため勉強中であるがぶっちゃけ先代に全て教えられている為復習勉強との事
近江 汐莉
当初は比名子を食べるために接近、原作とは違い生きる意志に満ちている比名子を速攻捕食しようとするが。
返り討ちに合い陰気を物理的に抜かれる。
因みに比名子曰く今まで出会った妖怪としては中の下くらいとの事。
陰気を抜かれただけなので実力自体は原作のまま。
叶美胡
比名子の親友にして家の守り神な妖怪。
正体は既に露見しており妖力を使ったさいの疲労に対して常図ね比名子に針治療を申し込んでいる。
毒気を文字通り物理的意味で抜かれた汐莉に対しては今でも食い気の方が勝っているとして敵意剥き出し中である。
最近生物的にギックリ腰をしてしまったらしくそちらの治療も比名子に頼んでいる。
ただ比名子からの助言で正規的診療を受けた方が良いと病院に行った、結果ブロック注射、一件目が藪で二件目が名医だった。
過去に既に尾を二本ほど千切ってはいるのだが叔父さんが生きていた頃の事件の際のトラブルで尾は六本に増えている。
モリゾーさん
モリゾーとそっくりでモーとしか言わないからモリゾーさんと名付けられた。
隣町にある山の山神である、自分領内なら死と腐敗を司る神で非常に強力なレベル。
領内では具体的には上の下と言った感じ。
山を下りてきた際には現在の美胡と変わらない。
比名子が風習を解き明かし夜狩省に神社を作って貰った為信仰が復活し今は作って貰った神社に住処を移動しつつも山を守っている。
見かけに反して好物はポテトチップス、現在はコンソメに嵌っているようだ。
膝をやっているらしく化ける能力も無いため比名子に診て貰っている。
先代
比名子の親戚、比名子曰く顔立ちは整っているがラガーマン見たいなヤクザ染みた外見の事。
四人目の退魔針として流派を復興し比名子の稀血を見抜き、生きる意味を教え、数々の死闘を潜り抜けた。
比名子も尊敬している人物であり恩人。
現在は故人であるらしい、比名子には自分の得た全てを教え切っている。
因みに料理の腕は初期比名子以上に悪く美胡ですら匙を投げ、比名子も叔父さんの料理は人生で二度と食べたくないと評する程の腕前である。
磯女
御存じかませ、比名子を付け狙っていたが修行を重ねた比名子には感づかれて入り。
喰おうとしたところを比名子の針によって滅殺された。
自称叔母。
先代の手によってボコボコにされている。
如月流
失われた退魔針、先代が復興し、現在は比名子に受け継がれている。
ササハリ
比名子の使う針の一種、ぶっちゃけ馬に使うのと一緒のサイズの針。
陰気が溜まった妖怪の陰気を抜くにはこれが一番だとか。
使い方次第ではツボをこれで付くことによりあっという間に妖怪を衰弱死察せることも可能
代わりに平安以前から使われてきた優所正しい退魔具である為再製造には時間と経費が掛かる。
妖怪
一応便宜上そう呼んでいる、作中では上の下以上のレベルは出てこない。
出てきたらヤバいレベルである。
と言うか上のレベルが出てきたら最低でも都市の危機、上の上が出てきたら速攻で処置しないと霊的防御の無い国が消し飛ぶとの事。
最上で神の荒魂とかクトゥルー神話レベルになる
稀血
時折人間に現れる血の事、妖怪やら神が摂取すればそれだけで力を会得できるとの事であるが。
遺伝子遺伝する上に代を連ねて薄めたとしても先祖返りで蘇る一種の遺伝子病染みた者である。
上記の理由もあるがその血は妖怪にとって神代の最上級ワインにも匹敵し得る香しき香りなため。
知能の無い魑魅魍魎や汐莉なグルメに力を欲する妖怪、果てには神の復活をもくろむ教団にまでも狙われる。
最高の触媒である。
因みに比名子の場合は先祖返りタイプらしい。
比名子ちゃん守り隊。
比名子の優しさに触れて護衛隊となった妖怪とか山神とか土地神の連中。
なお夜狩省も害はないからと放置気味。
因みに会員No.1は美胡
自分アニメ派で単行本も買うのも来月になるしFGOたっちゃんの息抜きに書いた物だし。
百合とか書くとなんか女版スクライドになりそうなんで、このSSを見ている人純正百合として誰か続きを書いてください。