私は今、私を喰べたい人でなしにストーキングされてます。   作:這い寄る影

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過去の葬儀場

ズソソソソと音を立てて商店街の中華屋さんの五目ラーメンを比名子は啜っていた。

厄介な相手に手心を加えてしまった物だと。

近江汐莉、比名子の通う高校に来た転校生。

その美貌と立ち振る舞いからあっという間に全校生徒の間で噂になっている。

しかし汐莉自身は比名子に興味があると噂が広がった時に。

全校生徒は一歩引いた目で彼女を見ていた。

比名子も凄まじく美人だ。過去手を出そうとした馬鹿複数人が返り討ちに合ったのは有名な話しである。

裏では四人目の二代目なのだから当たり前である。

武力沙汰にも先代と美胡との旅で身に着けていた。

時折銃撃戦に巻き込まれた事なんかもある。故にこの田舎で複数人つるんでいなきゃ粋られない不良なんて目の数ではないのだ。

しかし。

 

「ここの五目ラーメン美味しいですねぇ」

「なんでついてくるの?」

 

比名子は某竜みたいななんてって表情で隣の詩織を見ていった。

 

「君を食べたい以上に君に興味があるからです」

 

そうニコリと汐莉はほほ笑む。並の者ならその美貌にクラりと寄っていき。

まぁ捕食されるだろうが、生憎、その手の美貌には成れている。

同業者の退魔針、大摩流総裁の大摩なんか彼女の美貌のはるか上を行くのだから耐性が付いていた。

 

「あの後、鬼さんに会いました」

「良く殺されませんでしたね、この町では一番の妖怪ですよ、本人の弁だと四国一とか」

 

鬼さん。

この町でヤクザ稼業をしている人間と思わせて置いて古き鬼である。

鬼は三つほどに分類される。

先ず天然もの、これは説明しなくても分かるだろう発生した時点で鬼だった物。

二つ目は堕ちた者、これは人間が余りの執念によって鬼に変化したものだ。

三つ目は正体不明、異世界から来た鬼だ。こちらも人の執念によって人に取りつき鬼とかす存在なのである。

鬼さんは天然物の古き鬼だった。

今でこそ落ち着いているとはいえ全盛期は日本全国を暴れまわったらしい。

お陰で陰気を抜くのも比名子から如月流を継承する存在があと二代は必要となる程だった。

人間的に生活したいから先代から陰気を抜いてもらっているのに今でも比名子に診てもらっているほっどの陰気濃度。

一応、ルール二つ目、新参者は鬼さんに挨拶すると言う事があるので。

調べて汐莉は鬼さんに挨拶に行ったらしい。

 

「ええその実力身に味わいました、久々に死が実感できましたよ」

 

鬼さんに何言ったんだと比名子は汐莉の言葉を聞いて思う。

良く殺されなかったなとも思った。

ハッキリ言って汐莉の実力では鬼さんには勝てない。

彼は上の中の実力の存在だ。人を食わなくなったからその辺まで弱体化しているとの事だが。

並の妖怪なんて腕の一振りの圧力に耐えられずに死ぬ。

因みに前話で話したお灸張りで根を上げたのは彼の部下の鬼である。

 

「みぃつけたぁ~」

「ピィ!?」

 

汐莉の表情が先ほどの余裕の表情から一転、怯えに染まる。

地獄の底からの声と錯覚する程の声が店の扉が開かれ響いた。

 

「鬼さん?」

「おう、比名子ちゃん下がっとれ、その女ルール守らん気満々やからなぁ」

 

現れたのは作務衣に足には下駄、そして肩には女物の着物を羽織り、白髪で糸目の美青年が立っていった。

所謂鬼さんである。

まさか直々に出て来るとはなにしたんだ此奴と自分をシールドにする汐莉をジト目で見た。

 

「鬼さん。ウチでは乱闘禁止だよ、後店に入ったからには何か頼んでもらわんと」

「・・・すんまへん、じゃ八宝菜定食ご飯大盛で」

「あいよ」

 

だが長年町の食事処として動いてきた店長には敵う筈もなく。

大人しく注文言って、比名子の隣に座る。

比名子は鬼さんと汐莉に挟まれる形だった。

 

「汐莉さん、鬼さんに手を出したとかじゃないよね?」

「あのその~喧嘩吹っ掛けました」

「――――――――」

 

あの鬼さんに喧嘩吹っ掛けた?

ああ普段は妖力殺しで力が無いように見せかけているし。

先代からの治療で陰気も抜いている、あと陰気が他者に迷惑かかるレベルなので夜狩省との交渉で陰気殺しの香油を身に着けているため。

実力を正確に推し量れなかったのだろう。

だからと言って鬼に喧嘩吹っ掛ける人魚とか前代未聞だ。

 

「鬼さん・・・汐莉さんの事私の顔に免じて許してあげてくれないかな?」

「あん? その女、比名子ちゃんを食う言うてたで?」

「それでも助けたの私だから、しっかり町には馴染ませるからこの通りお願いします!!」

 

そうあの日、殺さずに見逃したのは比名子だ。故に責任は比名子にある。

それに見逃したら見逃したらで後味が悪い。

何かあったのか察した鬼さんはため息を吐きつつ。

 

「ええやろ、比名子ちゃんが其処まで言うなら許したる」

「あら意外と「黙れ小娘風情が、比名子ちゃんの顔を立てる言うとるやないか、この場で貴様ら人魚風情、生きたまま紅龍童魚に仕立て上げてもええんやで?」ッッ」

 

鬼さんが妖力を発する。

指向性を持たせたので他の客に影響はなく、喧嘩してるなぁ程度にしか思われていなかった。

当の汐莉は震えがった。なぜにこんな田舎にこんな大妖怪が居るのだと。

 

「鬼さん、乱闘は禁止だ次やったら出禁だよ」

「それは勘弁して~な!! マジで八宝菜はおやっさんの八宝菜以外ワイ食えへんのやから!!」

 

そう言って謝り倒す鬼さん。

何時でも胃袋を握る者は強いのだ。

 

「それでこの町のルールどこまで知っているの汐莉さん」

「全て調べ上げました。比名子には手を出さない事、済むなら美胡さんか鬼さんに挨拶する事、人食いは禁止ってことですね」

「なら良いよ」

 

この三つを守っていれば誰も何も気にしない。

此処は一種の夜狩省認定の中立区だ。

 

「それでも比名子は食べますけどね」

「あの私自身稀血である自覚はあるけど。なんで私?」

「だってあなたほど生き生きした稀血は見たことないから」

「じゃぁ私は食べられない様に汐莉さんを更生させるように頑張るよ」

「出来る物ならやってみてください」

「と言う訳で鬼さん、此処は見逃してください」

「はぁ~ええやろ、でもな嬢ちゃん」

 

溜息吐きつつ鬼さんは汐莉に忠告を出す。

 

「なんです」

「お前さんが比名子ちゃんを食べた瞬間、うち等が袋にするのは分かっておるな」

「ええ」

「そうできたらええな」

「なにを・・・」

「退魔針甘く見過ぎや、比名子ちゃんをストーキングしてれば十中八苦面倒ごとに巻き込まれて死ぬ確立の方が高い」

 

そう退魔針はそれだけ危険だ。その上比名子は稀血と来ている厄ネタに厄ネタが乗っかって倍率ドンだ。

普通なら死んでいてもおかしくはない、極上の餌が修羅場に突っ込むのだから。

それに稀血は良い物を呼び寄せることもあるがほとんどは悪い物だ。

生きているのが不思議なくらいである。

それだけ厄介事は多い。

そしてそれに係る者もまた厄介事に巻き込まれる宿命になるのだ。

 

「気を付けろや、まだ力に酔って粋がっているようじゃ、この界隈、生きていけへんで」

「八宝菜定食ご飯大盛お待ち」

「くぅ~これよこれ・・・まぁそう言う事やからな」

 

そうして比名子も汐莉も無言で五目ラーメンをすすり。

比名子が奢る形で店を出た。

その時ふと思う。

 

「汐莉さん、まさかと思うけど住む場所、マンションとかにしてないよね?」

「ええそれがなにか?」

「呪で偽装戸籍やったんだろうけどさ、それ夜狩省に嗅ぎつかれたら不味いよ」

「え、そうなんですか?」

「町のルールと夜狩省のルールは違うから・・・とりあえず、移住してくる妖怪は鬼さんに喧嘩売らずに住み込みさせてもらって正式に夜狩省から偽装戸籍と住む場所を手続してもらうのが通例なんだよ・・・」

「そ、それはしりませんでした」

 

呪で人間を騙せるがゆえに汐莉は人間の裏社会事情について疎かった。

これじゃいけないと思った比名子は汐莉の住むマンションへと行き呪を解除させ。

 

「兎に角、私の方でも伝手はあるからしばらく私の家に泊まって」

「わかりましたでも良いのですか? もしかしたら」

「私を食べかねないって話ですよね、まぁ家に来てみればわかります」

 

そう比名子に即されるまま汐莉は比名子の家に踏み込み。

 

「これは・・・」

「如月流・動聖針の陣です」

 

大摩流の万針の陣は四方に打ちこんだ四本の守り針で針の幻術を見せて魔性の動きや侵入を封じるものだが。

如月流・動聖針の陣はそのアレンジ、結界内の一定以上の妖力を封じ陰気を拡散させる。

つまり家の四方に打ちこまれた守り針さえ抜かれなければ汐莉クラスの妖怪だとただの人間に結界内で放ってしまう。

下の下にも入らない魑魅魍魎風情なら踏み込んだだけで消滅する。

流石に鬼さんとか領地内のモリゾーさんクラスとなると強引に破られるが。

と言ってもさすがに汐莉にはその原理を教えない、誰が自ら手品の種の種明かしをするというのか。

 

「じゃ上がってください」

「ええお邪魔します」

 

そして汐莉は比名子の家に上がった。

家の中は今は診療所染みていた。

テレビにソファーと机はあるが部屋の隅に診察ベットが置かれている。

あとは生活できればいいだろと言う感じであったのだし診療所としても使っている

 

「比名子」

「なんです?」

「ゲーム機多すぎじゃないですか、あとPCがすごいことに」

 

なぜかゲーム機各種は取り揃えられていた先代の趣味だったのを引き継いだのである。

最新鋭ゲームハードも取り揃えていた。

そしてPCも最新鋭のゲーミングPCだ最もディスクトップの淵にはメモがバシバシと張り付けられておりえらいことになっている。

まぁこのPCはカルテ管理用なので折角のゲーミングPCなのにネットにも繋いでいない。

 

「そうかな普通だと思うよ」

(私が言うのも何ですけど比名子もズレてますね)

 

比名子も大概ズレていると汐莉は思った。

まぁ裏の世界での生活比率が大きい少女だ。

どうしてもズレてしまう。

 

「ちょっと電話してくるから、ゲームでもやっていて、あとPCには触れないでね」

「わかったわ」

 

そう言ってスマフォではなく古い黒電話で夜狩省に連絡する為に比名子は玄関へと向かった。

今時、スマフォで連絡するとハッキングで盗聴されかねないため。夜狩省に連絡する際は黒電話で連絡するのだ。

 

「はい比名子です・・・お久しぶりです、実は人魚さんが町に住みたいと尋ねてきまして、鬼さんはどうしたかですか? 実は彼女、鬼さんと揉めちゃいまして私が代わりに。はい、鬼さんは宥めておきました。名は近江汐莉さん、年齢は私と一緒で、はい細かい手続きはお願いします」

 

そう言いながら比名子はペコペコと頭を下げながら事情を説明し。

夜狩省にお願いした。三日ほどで戸籍を偽装し簡易的な住居は取れるという。

 

「汐莉さん三日後くらいには偽装戸籍とアパートの手配できるって」

「それはありがとうございます」

「あとお腹見せてください」

「なぜ?」

 

三日後くらいには偽装戸籍とアパートが手配できると言いつつ。

汐莉に腹を見せろという。

首を傾げる汐莉だが比名子の目は真剣だった。

そのまま汐莉に近づき左手をそっと汐莉の服の上から腹部に触れる。

 

「ああやっぱり、内臓系痛めてますね、鬼さんに殴られてよくその程度ですんだね」

「バレちゃいましたか」

「治療をするんで寝台に仰向けで寝て、この程度なら10分で直せるから」

「10分でですか?!」

 

流石の汐莉も目をむいて驚く。

鬼さんの程の妖力を込めて殴られた汐莉の人魚としての力を使っても中々に傷は癒えない。

一週間は痛みと付き合いだなと思っていたのが十分で比名子なら治せるという。

それは正しく驚嘆に値する行いだった、上の中の妖怪の妖力の籠った一撃を治せるだなんて思っても居なかったのである。

 

「じゃ服の裾を上げてお腹見せて・・・ああやっぱ鬱血しちゃってるなぁ、まず鬱血部の血を抜きつつ鬱血を直してっと」

 

仰向けに寝台に寝て服の裾を上げさせ腹部を見る。

見事に鬱血していた。

まずそれを直す。

 

「少し痛いけど我慢して」

「大丈夫ですよ痛みには慣れていますんで」

「それは重畳」

 

そういってさわさわと汐莉の腹を撫でつつ脈とツボを計る。

 

「ああこれがああなってアレがああなっている訳か・・・」

 

そう言いつつ白い分厚い布を取り出し鬱血部に当てて裁縫セットの様なものから針を取り出し布の上からストトと10本くらい針を突き刺す。

内臓部分まではまだ退かせない破損した腹筋部分の筋肉繊維を刺激させ出血させ鬱血の血の部分を抜く。

その針を刺す速度は汐莉をしても見切れなかった。

 

「・・・血抜きはOKだね、次は結構痛いと思うから気お付けてね」

 

そう言って一分後くらいに血抜きはOKとして布で血を拭いアルコール消毒する。

次は再び鬱血しない様に筋肉繊維の修復だ。

これは先ほどよりも簡単だった、針を打ちこみ筋肉繊維の回復を促す。

刺されること自体には痛みが無いが、筋肉繊維と神経に触れるため痛みが汐莉の中に走った。

と言っても痛みには慣れているのかいつも通りの笑みは消していない。

二分程達、妖怪の驚異的な再生能力を促進させ鬱血部を完全修復する。

刺した針を全て引き抜き、次は痛めた内臓系だ。

 

「あの・・・」

「なに?」

「比名子、その針は長すぎじゃ・・・」

「はい、体内系とか骨系を刺激する専用の物ですんで、あと戦闘にも使うね」

 

先程刺した針は全部細く短かったけれども今度は地脈や水脈、相手の内臓系を確実に抑えるための戦闘用の針だ。

先日磯女との戦闘でも使っていた奴である。

 

「此処からはすっごく痛いので麻酔張りから打こむね」

「ちょっと待って覚悟が」

「動かないで、ミリ単位での仕事になるから」

「はい」

 

比名子の威圧と言葉に脅され汐莉は大人しく従うことにした。

そして先ほどより本数は少ないが、より深く針を刺す、だが痛みはなかった。

何と言う技量かと汐莉は思い、なるほどあの鬼が顔を立てる訳だと納得する。

 

「―――――――」

 

そしてすぅッと一呼吸する比名子、っそれと同時に手が分裂したかのように残像を残しながら20本の針を撃ち込む。

 

「これで後7分待っていれば治るよ」

「こんな簡単に」

「妖怪の強靭的肉体と再生能力を生かした治療法だから、人間だと二時間はかかるよ」

 

これで治療は終わりとばかりに手拭で手汗をを拭き取り比名子は言う。

針は内臓系を刺激し自己再生能力を高めるのだ。ついでに内臓系にとどまっている鬼さんの妖力を抜く工程も踏んでいる。

見える人が見れば妖力が抜けていくさまが針から立ち上ってくるのが分かる事だろう。

だがこれはあくまで妖怪前程の治療法だ。彼らの強靭的肉体と再生能力を刺激し強制的に回復させる技法である。

人間相手だとそこまで効果が出ず、直すのには二時間ほどは掛かる、最も妖力抜きはそうでもないのだが。

 

「そのまま寝たままで、その間、これでもやって暇をつぶしていて、私お風呂の湯を沸かしてくるから」

 

そう言ってswitchを比名子は汐莉に渡し風呂の湯を沸かしに行ってしまった。

 

「幾らこの場では力が出せないとはいえ、無防備すぎますねぇ比名子は」

 

汐莉はそう思いつつレースゲームをする。

自信の技量に絶対の自信があるのか、あるいは自分は死なないと考えているのかと思い気づく。

 

「う、首と腕だけしか動かせない」

 

体が動かない、比名子は油断もしていない。

一応動かないでとは言ったが自分を食べると宣言している妖怪を野放しにするはずがない。

麻酔針を打つ時ちゃっかり首と腕以外は動けない様にしたのだった。

それから少しして比名子が戻ってくる。

 

「そう言えば比名子」

「なに?」

「比名子って場慣れしていますよね、そんな君がヤバいと思った事件とかありますか?」

「綻び案件は基本不味かったですね」

「綻び?」

「時々聞くと思うけど、ホラースポットの行方不明とかは不味いだよ、どこぞとも知れぬ場所に引き釣り込まれたり、異界からの侵略者が出てきたりとかで」

 

まだ先代が生きていた頃。そう言うのを虱潰しに潰していたからマジで死ぬ目とかにもあった。

 

「あと慰霊の森とか院内銀山に松尾鉱山には叔父さんも連れて行ってくれなかったくらいにはヤバい所みたいだし」

「どうして?」

「一人一人の霊は私でも対処余裕らしいけど・・・物量が凄いんだって。例えるなら拳銃一丁で米国陸軍一個師団相手にするようなものだから、稀血の私が行くとトンデモ無い事になるからって行って連れて行ってもらえなかった。あれは坊さんたちの仕事だったって」

「ならなぜ先代が行ったのです?」

「坊さんたちの護衛だから見たい、他の三人も来ていたみたいだし、それでも払いきれず、予算も下りないから絶賛放置中なんだって」

 

慰霊の森、院内銀山、松尾鉱山ともに極秘裏に祈祷と除霊が行われてきた。

祈祷する坊さんたちの護衛に退魔針四人やら他の退魔師まで引き連れて。

それでも払いきれなかったのだから凄まじい物はある。

 

「あと青木ヶ原も不味い。あそこは異形達の領土が大半を占めているから」

 

無論富士山のふもとに広がる青木ヶ原も最悪だ。

キャンプ地とか国道を外れれば、綻びもすさまじく妖怪、異世界の何かのパラダイスになっている。

 

「そんな所かな、あああと叔父さんが生きてた頃には悪魔の家の解体作業の為に突入して悪魔と取っ組み合いしたのは思い出深いなぁ」

 

そんなことを話している間に時間が過ぎ。

比名子はまた手早く汐莉から針を抜いた。

 

「比名子は」

「はい?」

「そんな息苦しい世界でなぜそう生気に満ち満ちているのです?」

 

そう裏路地一歩踏み込んだけで生命の脅威が襲ってくる。

死は遠くなく隣人で理不尽だ。

未だって汐莉と言う理不尽が目の前にいる。

と言うか理不尽を味わい続けてきた事故で両親と兄が死に、その影響で稀血が覚醒し、その後先代も殉職。

今この町にいる間は良い守ってくれる良識のある妖怪や人間が守ってくれる。

だが稀血と退魔針である以上、一生が終わるまで戦いの流れに漕ぎ出しては行かなくてはならない。

 

「それでも助けてくれた人たちや妖怪さん達なんかも居た」

「・・・」

「楽しい事も辛いこともあった。やりたいこともまだある。そして父さんや母さんに兄さん叔父さんなんかを言い訳にして死んではダメ、だから私はこの理不尽に抗う死ぬ瞬間の最後まで」

 

やれることをやって死に切るんだと比名子は言う。

なるほどそれでと汐莉も納得した。

その時である。

 

家のインターホンが鳴らされた。

 

町内を一台の黒塗りのセダンが爆走する。

法定速度を超えているが今は緊急事態だった。

運転するのは鬼さんの所の若衆の中で運転が一番うまい奴。無論人に化けた鬼が運転していた。

後部座席には制服姿のまま針道具一式を収めたショルダーバッグを脇に置いた比名子。

その隣にはニコニコ顔の汐莉。

助手席には私服姿の美胡がいた。

 

「ねぇ比名子」

「なぁに?」

「その女誰?」

「近江汐莉さん・・・今日から私達の町で暮らす人魚さん」

「・・・そう言って比名子狙い何でしょ」

「うんそうみたい」

「だったら!!」

 

そう言って掴みかかる美胡を若衆が制する。

 

「組長にも喧嘩吹っ掛けたんで式神つかってかんししておりやす、美胡の姉さんが危惧することはおきないかと・・・」

「あら式なんていつの間に・・・」

「組長は鬼道にもたけやす、陰陽師の真似事くらいは出来ますぜ」

 

若衆も比名子に世話になっている、それに鬼さんに不意打ちかましたのだ。

良い感情を持たれていないのは当然の事である。

 

「なら余計に」

「私なら大丈夫だから、それより美胡ちゃん状況は?」

「神主さんの話によると突然苦しみ始めて社の一部吹っ飛ばして例の葬儀場に向かったらしい、付近で山伏たちが半グレとっ捕まえたから多分、原因は死体の不法投棄かあるいは・・・」

「生きたまま人間を崖底に突き落としたかだね?」

「あと自殺者も居たかも。人気ないしモリゾーの信仰はそう言う物だから」

 

夜の緊急事態という奴であった。先日まで平然としていたモリゾーが自分の社の一部を倒壊させ。

古き葬儀場に向かったのだという。

隣町の古き風習だ。死者を崖下に投げ捨て埋葬する、それをモリゾーが魂を捕まえて黄泉の国へと下るとされている。

無論、火葬が基本の今の現在はそう言うの死体の不法投棄になるわけだから行われていない。

今は純粋に悪い物を持って行ってくれる山神さまとして社を立てられ信仰されている。

それが光の部分。光が発生すれば影もまた発生する。

即ち嘗ての古き葬儀場が半グレ共の死体処理場として利用されていた事。

さらに神がいるという事で蜘蛛の巣を探るがごとく自殺の名所として有名になってしまったことが起因する。

それ即ち怨念が発生する、モリゾーはそう言った物を運び続けた結果。

 

「突発性陰乱症候群みたいだね」

 

比名子はそう言いつつ、ショルダーバックから針を取り出し最低限の治療に必要な針を両腕袖の仕込みに格納する。

突発的陰陽の乱れによって荒魂と化したと見える。

元より善玉だ。そう言う陰気には弱く、完全に善神としてまつられたがゆえに弱くなっている。

理屈で言えば昔は普通に過ごしていた人間が、無菌室で薬だけを摂取し逆に免疫力が弱くなるようなものだ。

 

「それで私は力を使うとして、其処の女はどうするのよ? お荷物もって診れる程度の相手じゃないでしょ今回は」

 

美胡は汐莉を指さして言う。

そうモリゾーは山神だ。領域内から出れば全力の汐莉と同程度ではあるが。

領域内だと全盛期の美胡と全力の汐莉であってもケチらされる。

伊達に古き神はやっていないのだ。

 

「私も手伝います、三宿三飯の恩義と傷の手当もして貰った恩があるので」

「比名子お人好しすぎ・・・」

 

人食い人魚を助けたとかお人好しすぎるでしょうと美胡は苦言を呈するが。

 

「それが私の性分だから」

 

そう言って譲りはしなかった。

そしてかっ飛ばした為、10分前後で隣町の神社へと吐く。

周囲には警察だ。そりゃ社の一部が吹き飛んだだからやってくる。

比名子たち三名が階段を上ろうとして警察官に止められるが。

 

「彼女達は関係者です」

 

寺に済む坊主がそう説明し社殿へと通される。

 

「すいません、本来なら我々で対処すべき事柄なのですが、手に負えません、ここは退魔針様の力添えをお借りしがたく」

「構いません、それが役割ですので、所で森像様のかしこく古き葬儀場に遺体を投げ捨てて手いた不届き者達はどうしましたか?」

 

神主の言葉に何時もは無気力風味な比名子はいつもと違い正しく正座をして神主を見て凛とした表情をしている。

そして凛とした言葉で問う。

モリゾー事、森像様の聖域に死体を不法投棄していた連中はどうしたのかと。

 

「偶々、この四国を練り歩き修行し今宵は我が社で休息を取られていた山伏たちの手によって捕えられ警察の手に渡りました」

 

其処は運がよかったと神主も冷や汗を掻いていた。

偶々四国巡礼、高名な山神さまがおられるとやって来た山伏らの手によって半グレ共は全員捕まったとの事である。

しかし。

 

「不届き者めらは森像さまのお怒りに触れて誰もが気をやってしまったようでして」

「なら、ここからは夜狩省の管轄とします、山伏さんの中でも腕利きを数名集めてください」

「御意に」

 

そう言って神主は奥に引っ込む。

それを見て比名子はため息を吐いた。

 

「美胡ちゃん、汐莉さん悪いけど巻き込むね」

 

そして比名子は申し訳なさそうに二人に頭を下げた。

戦力が足りないから協力してくれという事である。

 

「いいよーもう成れたし」

 

美胡はしゃーなしといった表情で協力を口にする

比名子の幼少期から交流をえてそりゃもう先代に大車輪の如くぶん回されてきたのだ今更と言った感じである。

 

「私も協力します、比名子に死んでもらわれては食べれませんもの」

「この食い意地デブ人魚め」

「はぁ? この通りスタイルはそちらよりも抜群ですが? 悲しぃですねぇ妖力を失い、その程度の貧弱ボディにしかなれない妖怪の僻みは」

「なにを~」

「美胡ちゃん、汐莉さん、今町が汚染される間際なんだから真面目にして」

「「はい」」

 

喧嘩し出す二人を絶対零度の目線で止める比名子。

 

(比名子さんって怒るとあれですか? 手が付けられないタイプ?)

(うん、叔父さんも大概の事は笑って許すタイプだけどキレさせたり敵にしたりすると今の比名子と同じような感じになるタイプだったから)

(血筋ですねぇ・・・)

 

そして神社の広場に数名の山伏が完全武装で集められ。

 

「美胡さんは分かりますが、そちらのお嬢さんは?」

「人魚の汐莉さんです、成り行きで協力してくれることになりました」

 

と説明し。皆で一気に山を登る。

修験道者である山伏は山登りには手慣れているとばかりに素早く。

比名子も美胡もこういうシチュエーションは何度も経験しているし美胡に至っては狐の妖怪だ山登りなど児戯に等しい。

逆に汐莉は厳しい。と言うか山伏が先導している時点で可笑しいのだ。

そりゃ昔はそう言う連中はいたが今でもいるのかと汐莉は感嘆する。

そして山の中腹当たりそこに断崖絶壁の谷があり。

 

「モー」

 

そんな間抜け声を上げる何かがいたまるで軍隊のギリースーツにより草を張り合わせたかのような感じで。

ゆるキャラの様な感じの存在。正し体格は6m越え。

正しく巨大なモリゾーと言った感じではあるが

普段なら優しさに満ち溢れている両目も血走っており口からは瘴気を放ち全身から陰気を発している。

具体的には草木が腐ったかのような臭い、死と腐敗の臭い。

これは不味いと汐莉も思った。

 

「モ―――――――――――!!」

 

咆哮、それだけで周囲の草が枯れて腐った。

そして突進してくる、比名子はショルダーバックを下ろしながら口に一本針を加えて右手左手の仕込みを動かし長針を取り出す。

比名子は半ばスライディングするようにモリゾーの股を抜けその交差の刹那。

膝蓋骨を避けて両膝に針を打ちこむ。

これで両足の脈は抑えた。そしてうつ伏せにモリゾーは倒れ。

数人の山伏が金剛杖を振り下ろし手足を封じる。

 

「退魔針どのお早く!! 長くは持ちませぬ」

「ええ・・・ツボは・・・」

 

陰気のツボは此処によって違う汐莉とか鬼さんが分かり易かっただけだ。

こうも濃い陰気を全身から発しているならツボを探る必要性がある。

すぐ様、モリゾーの背に乗って右手でツボを探すが。

 

「モリゾーさんごめん、麻酔無しで行くよ」

 

陰気が詰まっているのは肝臓、腎臓付近、届くかと思いながら口に咥えた長針を持って右手で肝臓に打ちこみ。

仕込みから取り出した長針を腎臓に左右二本ずつ打ちこむ。

すると真っ黒い陰気が噴射。

比名子の服と顔面、右手を濡らす。

同時に暴れ出すモリゾー。

背中から振り落とされてしまう比名子。

 

「まず!?」

 

それに反応する美胡だったが美胡よりも反応した存在がいた。

汐莉である、宙に投げ出された比名子を跳躍して回収。

地面に比名子を立たせる。

 

「大丈夫ですか? 比名子」

「うん大丈夫、でもあれくらいなら受身取れたよ」

「それは重畳・・・」

「悪いだけど、美胡ちゃん、汐莉さん、真の姿でモリゾーさんを取り押さえて」

「元よりそのつもりです、アレは人間の姿でどうこうできる存在じゃないですから」

「汐莉に同意、ありゃ本性表さないと無理だわ、オーダーは? 比名子?」

 

比名子の意見に汐莉と美胡も同意する。

アレは人間体でどうにかできるような相手ではない。

汐莉としても悔しいが真の姿を現しても取り押さえるのがやっとだ。

相手は伊達に山神やっていないのである。

そして比名子的に有利なポジションはと美胡が聞く。

 

「仰向けが最上、時点で直立、次で終わらせる」

 

そう言ってササハリを取り出す比名子。

文字通り次の一手で決めるつもりだろう。

未だに陰気は噴射中だが、ただの長針とかでは抜ききるのに朝までかかるがゆえにだ。

だがササハリなら数分だ。

刺してしまえば、後は山伏たちの縛りでどうにかできる。

 

「じゃ遅れないでよ半魚人」

「人魚です、アナタこそ弱ったからと言い訳しないでくださいね」

 

そう言って二人は変貌を遂げる。

美胡は巨大な六本の尾を持つ狐に変貌し。

汐莉は耳まで裂けた牙だらけの口、右目から珊瑚のような角が生え、腕には夥しい鱗と鋭利な鉤爪、龍のような長大な下半身の異形に変貌し。

二匹がかりでモリゾーを拘束する。

それでもモリゾーは暴れ二匹は異形の顔の上からでもわかる苦悶の表情をするが。

 

「捕えました」

 

既にツボはや脈は探ってあるのだ。

後は刺すだけ。十本ものササハリが直立しているモリゾーのツボや脈に刺される。

 

「今です!!」

「「「「「応」」」」」

 

そこで山伏たちが結界を展開。

即座に二匹は離脱し結界の拘束から逃れる。

それでも結界を突破し稀血を得んとするモリゾーは比名子に向かって暴れ散らすが。

その間にも陰気は抜けていく。

そして数分後。

 

「もう大丈夫です。結界の解除を」

「承知」

 

比名子の言葉に山伏達が結界を解除する。

其処には3mくらいまで縮んだモリゾーがいた。

疲れ切っているのか青吐息で胡坐を掻いて座り込んでいる。

 

「モリゾーさん大丈夫?」

「モー」

「それはよかったぁ・・・」

 

モリゾーだって比名子にとっては大事な友人の様なものだ。

無事であることに涙するのは当たり前の事だった。

 

「あー疲れた・・・」

「あらあの程度で疲れて」

「肘打ち喰らって悶絶しそうになっていた奴に言われたかないわ」

 

人間体に戻った二人の間でメンチの火花が散る。

ああこれ人間関係の縺れだ。妖怪とか関係ないなと山伏達は見逃す度量はあった。

二人がそうしている間にモリゾーから針を抜いていく。

 

「モリゾーさんしばらく仕事は厳禁だよ」

「モー」

 

モリゾーは肩を落とした。

彼山神ではあるけど仕事人間的気質がある。

また無理にやって暴走されたら堪ったものではない。

 

「にしても酷いですわね」

 

汐莉が崖下を覗き込みながら右手で鼻を覆い顔を顰めつつ言う。

そう古い葬儀場からは相当数の無念や怨念が漂っていた風に乗って汐莉が顔を顰めるくらいにだ。

 

「うえ、どんだけ捨てたのよアイツラ、後どんだけ自殺したのかしら」

 

美胡もウンザリ気味だ。

こうも短期間に死体投棄に自殺されればそりゃモリゾーのキャパを超える。

 

「後はお坊さんと警察の仕事だよ、帰ろ美胡ちゃん、汐莉さん、美胡ちゃんも私の家に泊まって良いから」

「マジかうぇーい!!」

「なぜ、妖怪狐も泊めるんですか? 比名子?」

「祝勝会、何かに勝った後は美味しい物を食べて飲んで穢れを流す、叔父さんの教えだよ、ピザ屋さんなら今の時間帯でもやってるだろうし」

 

そう物事に勝った後は美味しい物や美味しい飲み物を飲んで穢れと悲しみを流す。

如月流の一種の儀式だった。

 

「モー」

「モリゾー どっかしたの?」

 

そしてモリゾーが申し訳なさそうに声を上げてそれに美胡が反応する。

モリゾーは右膝を指さす。

それに比名子反応しモリゾーの右膝を診る。

 

「あこれ完全にやっちゃってる」

 

モリゾー完全に右膝をやっていた。

兎に角麻酔針を刺し。皆でモリゾーを支えつつ下山。

社に放り込んで本格的治療に入った。

急に陰気が出入りしたせいか、体中にもガタが来ていた。

それも治療して一時間、帰りはゆっくりだったので20分。

もうヤケクソになった比名子、美胡、汐莉は深夜テンションでピザを頼み近くのコンビニでジュースを勝った後。

寝落ちしてしまい、次の日遅刻確定になるのだった。

 




前半は汐莉さん、よりにもよって鬼に喧嘩売って返り討ち。
そして地上に置いて都会の裏ルールを知るの巻き。
なんか現代日本で本格的に生活したこと無さそうだからね汐莉さん。
そう言う退魔組織とか妖怪の縄張りのも疎おそうだし。
格上と戦ったこともなさそうだしで腹パンされました。
まぁ傷は比名子ちゃんによって癒されましたけど。


後半戦はモリゾーさん事、森像様の治療。
死と腐敗を司る神な上、本人が仕事神な製で頑張ちゃって人が天へと昇れるように嫌な物を山に捨てに往復してたもんだから。
反転しかけていました。
あと生物学的にガチで右膝やった。
ぶっちゃけ暴走の原因は死体投棄していた半グレ連中とここで自殺すれば天国に行けるという噂を信じて身投げした連中のせいで過労になったのが原因です。

鬼さん。
人に化けて地元でヤクザの組長やっている鬼。
人食いの悪鬼で古来より名をとどろかせたというが。
本人が本名名乗らない為、詳細は不明。
少なくとも汐莉や美胡を若造呼ばわり出来るくらいにはヤバい存在。
溜まった陰気も尋常ではなく、ずっと刺している前程で10年くらい頭にササハリ刺してないと抜けきらないというほどの量
それでも今は人も食わずのんびり人間社会で暮らしたいからと言う理由で組長をやっている存在である。
ただしぎっくり腰が再発しやすい体質らしく、肝心な時で腰言わすとか。
陰気を抜いてもらう施術を先代から受け継いだ比名子が継続して陰気を抜いている。
陰気を抜けきるにはあと二代の治療が必要だとか。


陰気
人食いの妖怪にとっては妖力に次ぐステータス。
所謂、人間を喰らいその淀みを貯め込んだ負の淀みである。
それは悪臭となって現れるとの事。
人間食べれるのをやめれば陰気も自然消滅するが。
長く生きた妖怪や大量に人間を食べた妖怪の場合、針で抜いてやらない事には抜けないとの事。
そして陰気自体は、妖怪や土地神、山神の陰陽を崩し暴走させる為、妖怪のとっても必ずしも良い物ではない。
寧ろ大量に人間を食って人間性を保っている汐莉や美胡、鬼さんがすごい存在との表れである。
ただし汐莉はグルメであるがゆえに陰気自体は少なく、現在は抜けきっている。
美胡も高名な僧の説法を受け妖力を貯めた尾を切除した結果陰気が抜けたんじゃないかとの事。
鬼さんは正規治療だと後に比名子の後継がいるのなら二代ほど必要であら治療ならササハリを頭頂部に刺したまま10年くらいはかけないと抜けきらないらしい。


もうさァッ無理だよぉ!! 百合の書き方わかんないだからさぁ!! という訳で誰か続き書いて!!

自分が書くとバトル物になっちゃうから誰か百合百合な続き書いて!!!
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