私は今、私を喰べたい人でなしにストーキングされてます。 作:這い寄る影
汐莉にとっては比名子や美胡と過ごす日常は刺激的な物であった。
一日目は鬼さんと対峙、そしてモリゾーとの対峙。
二日目はモドリ様と言う遠い場所から来た神の如きものと対峙し退け
三日目は、遠くから運ばれてきた憑き物との対峙だった。
ヤマノケという一種の女性のみに憑りつき。そこから感染するように女性に憑りつく魔性の物との対峙だった。
されど見えぬ物を相手どる事に秀でている如月流鍼灸術を収めた比名子にとっては敵ではなかった。
女性に憑りつくというが、比名子の稀血に誘き出され。針を打たれた。
後は簡単と言うべきか。
分身体のヤマノケに針を打ち四散させ本体が入っている女性の身体に10本の針を打って試合終了だった。
ヤマノケは体内から引きずり出されただの陰気に変換されて四散したのだった。
そんな三日間があっという間に過ぎて。
汐莉は鬼さんの屋敷の近くのアパートに引っ越すことになったのだが。
「ええか? 呪で資金をどうにかするのもダメや。これはウチのルールじゃなくて夜狩省の決めや、生活する分は自分で稼ぎ」
「ですが、今すぐやれと言われましても・・・」
「三日間で比名子ちゃんについて回って仕事したやろ。当分は困らんはずの額が入っているはずや」
「そうなんですか?」
「ああそや。キッチリ比名子ちゃんが抑えとる。そして貯金通帳やらカードも彼女から預かっとる。ホレこれや」
そう言って鬼さんは貯金通帳とキャッシュカードを手渡す。
汐莉が貯金手帳を見ればかなりの額が入金されていた。
当分は働かなくても良い額だが。
高校生活三年を送るには厳しい額だった。
「幾ら妖怪でも郷に入っては郷に習えや、キッチリ稼ぎぃ」
鬼さんは作った笑顔でそう言う。
「まぁワイもそこまで鬼やない、まぁワイ種族鬼やけどな、ガハハハ、という訳でウチの手伝いするか、商店街でのバイトするか好きなもん選ばせたる」
「比名子のお供をするというのは・・・」
「正直言っておすすめせへぇんで、三日で感じたやろ」
「ええヤマノケ以外はこれ死ぬなと思いましたから」
「そう言う輩がぎょうさんおるのがこの業界で相手どるのが退魔針の仕事や、力だけでは比名子ちゃんの助手は務まらん、最低でも美胡ちゃん程度の知識は身に着けなければならないさかいな」
そうこの裏業界、生易しくはない。
力だけではどうにもならないのだ知識も必要である。
ここには居ない美胡は比名子と共に先代に連れられ外国や日本国内中を回り力と知識を蓄えたのだから。
だから力だけの汐莉には進めないとはっきり言った。
今の彼女は田舎から出てきたお上りさんだ。
都会の常識を知らないとの一緒である。
退魔針はどれだけ最前線で戦っているのかと言う事も含めてだ。
結局汐莉は答えを出せずに一週間が過ぎた。
穏やかだったが閃光の様な一週間だった。
三人で学校の図書室で復習したり、三人でゲーセンに行ったり、何時もの中華屋よったり
山下先生に呼び出し喰らったり、比名子の家でゲーム対戦したり色々あった。
本当に穏やかな閃光のような毎日、楽しくてされど過ぎり失っていく日々だった。
「はぁ」
新築アパートの自室のベットの上で寝転び汐莉は考える。
身の振り方も無論だが、ここに来て自分は比名子を食べたいのかどうか分からなくなっていた。
いや食欲はある、比名子の稀血は退魔業を通してかなり濃色されているからだ。
香りを嗅いだだけで食べたくなる、その血肉如何程に美味いのかという好奇心は抑えられない。
今すぐ食べたい。だがしかし今の汐莉の実力では返り討ちだし心のどこかで食べたくないという自分も居る。
こんなことは初めてだった。
「ああ、明日は夏祭りでしたね」
この町の妖怪も人間に化けて一斉に出る一大イベントだ。
隣町からはモリゾーも来るとの事だった。
この付近の妖怪神魔は比名子に助けられたりもしている。故に彼女の巫女舞を見たいという輩は多いらしい。
鬼さんも組一同的屋兼見回りして総出だ。
「はぁどうしましょうか・・・」
夏祭りのお誘いは比名子に既に断られている。
自分が行く意味もないと思っていた時であった。
「汐莉ぃ!!」
ドンッと音を立てて美胡が汐莉の部屋に入って来た。
「なんですか? 美胡、今は喧嘩する気分でもなくて「これ見ないさいよぉ!!」
突き出される書類
其処には汐莉でさえ認識してない事柄が書いてあった。
「アンタが町集会すっぽかすから・・・」
「いえちょっと。え? そう言うのあるんですか?」
「あるんだよぉ!! プリント来てたでしょ!! 受け取り箱の中凄いことになってたわよアンタの所だけ!!」
妖怪には妖怪の通信網がある、呪で作った特別製だ。
故に一般人では受け取り箱の中に何も入ってなくとも見える人とか妖怪なら会合のプリントくらい見れるのだが。
此処一週間、楽しかったあまり見逃していた。
結果、会合に汐莉は出席せず、美胡とのタッグで祭りの見回りが決定した次第であった。
「何が悲しくてアンタなんかと・・・」
「それには同意見ですねぇ」
「やるか? 半魚人!」
「良いですよ、貧弱妖狐、表に出なさい」
そう言って何時ものやり取りの時だった。
「あのー二人とも」
「「あん?!」」
「そう威嚇しないでやさいよ、鬼さんが怒り気味です、家の近くで妖力発するなって」
このアパートは先述した通り鬼さんのヤクザ屋敷に近い。
故に気がたったので若衆を派遣し事前通告と相成ったのだ。
「あとこれ以上近場で喧嘩するようなら祭りの打ち上げ会で出す寿司はお子様セットにするし比名子さんとの席も離すと」
「鬼さんに伝えてください。すいませんでしたと」
「鬼さんに言って頂戴。ごめんって」
寿司と比名子を両方出されては二人も平謝りだった。
皆が上手い特上握り食っている中で二人だけお子様セット、しかも席は比名子と離されているなんて拷問である。
「その方が良いと思いやす、なにせ今回は比名子さんの晴れ舞台でやすから、屋敷内では未成年でも飲酒許可、無論外部に盛らさないと言う方でやすがね、鮨の阿藤の特上握りでやすから」
「マジで!? 鮨の阿藤の特上握り!!??」
美胡が驚愕する。
「驚くポイントそこですか?」
呆れたように汐莉はため息を吐くが。
「寿司の阿藤っていったら、この町一番いえ四国でも最上位の回らない寿司屋さんよ!! 食べログでも星5で阿藤の鮨を食うために他の都道府県から此処に来る人も多くて予約も半年待ちの凄腕よ!! よく頼めたわね」
「阿藤さんは鬼さんが世話していた時期がありやしてね、その縁で手という奴ですよ」
阿藤は此処が故郷で、鮨職人を目指し上京、専門学校を出てから東京都内の某有名店で修業し、帰って来た。
開店直後はガラガラで誰も来なく、経営も悪化。
だが鬼さんが東京帰りの鮨屋が町に出来たと聞いて赴き実際に阿藤の握る鮨食って感動。
店畳もうかと吐露する阿藤にこの店潰したらあかんと軌道に乗るまで無利子無利息で金を貸した。
後は食通の鬼さんや組員が出入りしているという事や、鬼さんの紹介で良い仲介御者を紹介してもらい。鮨のネタの鮮度も向上。
今では借金も返済し終え、今では四国でも最上位の鮨屋へと変貌した。
「にしても何時もは、其処ら辺の鮨屋だったでしょ?」
「ほら比名子さんが巫女舞披露しやすから、親父気合入ってまして」
「ああ・・・そう言う」
鬼さんは地味に馬鹿だった、まぁ美胡が言えた事ではないのだけれど。
「あとお二人にお伝えすることもありやして」
「なんです」
「今日は絶対に比名子さんの家には近寄らないでください、美胡の姉さんは知っているでしょうが」
「ああ、もうそんな時期なのね」
「はい・・・」
「私は理解してないのですが・・・」
「比名子って稀血でしょ? だから定期的に血抜きする必要あるのよ、匂い殺しは焚いていると思うけど、それでも凄まじいから近づけない」
そう比名子は何度も言う通り稀血だ加えて年々濃くなる上に退魔業のせいで更に濃くなっている。
並の妖怪なら理性を失うほどだ。
故にこの時期は比名子の家に妖怪の誰もが近寄らない。
理性を失って比名子を食べてしまえば確実に殺されるがゆえにだ。
「と言う訳であっしは帰りやす・・・喧嘩したらわかりやすね・・・」
そう言って若衆は去って行った。
「美胡」
「なによ」
「中華でも食べに行きましょうか」
「・・・そうね」
こうして二人は何もすることはないが故柄に何時もの商店街の中華屋に赴くことにした。
一方の比名子は準備をしていた綿を沢山詰めた新品の敷布団を診察ベットの上に引き、大量のお香こと匂い殺しを焚き。
家中の窓と言う窓には札を張り付け。各部屋に盛り塩。特にリビングのは一部そう言う僧が作る魔除けの塩を使った特に強力な物を使用した。
準備が整い一息ついた時である。
家のインターフォンがなった。
「何方様でしょうか?」
『大摩だ。久しぶりだな比名子』
「・・・今開けます」
ドアスコープから扉越しにその存在を確認する。
扉の前に立っていたのは一組の男女、女もナース姿と言う点を除けば絶世の美女だが、黒ずくめで腰まで髪を伸ばした男の方はそれすらも凌駕する美丈夫だった。
人間どころか妖怪でさえ魅了する美貌である。
と言っても比名子は慣れているため何の感慨も浮かばなかった。逆に先代との仕事仲間だったので遠い親戚の叔父さんくらいの感覚だった。
男は大摩と言い四人の内の一人、女は十月と言い大摩の助手の女性だ。
二人を居間に通し、ソファに座らせ珈琲を入れる。
「粗茶ですが」
「すまないな」
珈琲が並々注がれたカップを二人の前に置き比名子は二人の向かい側の席に座る。
「一応聞くが、なぜ私なのかね? 妖に頼むのが筋ではないかな?」
「あの人、料金二倍ですし口も軽い、そう言った意味では信じられません」
比名子からの妖の評かは著しくない、いや腕が悪いとかじゃなくて単純に人間性を信じられないのだ。
今でも鍼灸師協会で語り継がれる恥ずかしい彼の武勇伝のせいでもある、後単純に料金が高い。
だから東日本を活動拠点にしている大摩に今回の仕事を頼んだわけだ。
「匂い殺しでもこの匂いか。確かに自分で抜くのは不可能に近いか」
「はい」
大摩は無表情で感想を述べる。
匂い殺しを焚いているにも拘らず稀血の匂いの方が勝っているのだ。
これは不味いと大摩も思った。
「必要な場所に手が届かないんでもう誰かに血抜きをしてもらう必要がありまして」
「承知した、旅費も報酬金も全て前払いなのだから微力を尽くそう」
大摩としても全ての料金が前払いだし同僚の危機でもある。
受けない通りはなかった。
「では服を脱いでくれ」
「はい」
普通、女子が成人男性に裸を見せるのは痴情心が生まれるがこれは悪魔でも治療なのだ。
故にいちいち恥ずかしがっては居られない。
比名子は立ち上がり衣類を脱ぎ下着も外し全裸になる。
だが美しいとは言えない、両親と兄をなくした事故で受けた火傷傷やら打撲痕やらが首から下と手首から前に克明に刻まれていた。
本当に無事なのは首から上と手だけである
年頃の乙女には残酷な傷の数々が刻まれていたのである。
だが大摩は無表情のままで彼女の身体を触り万が一がない様にツボと脈を取る。
「なるほど分かった。怪我が脈とツボを乱している、流れが常人とは違う、触診しておいて正解だった」
淡々とそう言う。比名子の脈やツボは常人と違っていた。
事故の影響、稀血への覚醒で脈やツボが狂ったのだ。
「ではベットに寝てくれたまえ。ところで瀉血させた血はどう処理するのかね?」
「敷布団が全部吸収してくれますので安心を」
「了解した」
そういやり取りんも内に比名子はベットに横になり。
大摩は針を構える。
「十月、万が一がある、構えたまえ」
「承知しました先生」
魑魅魍魎いがいはこの町の妖怪は穏やかだったが。
万が一と言う場合もあり得る、故に助手の十月に構えるように言っておく。
そして大摩は針を刺した。ピュッと血が出て来る。
「まさかこれ程とは・・・」
大摩も目を見開いた一針刺しただけでこれなのだ。
なるほど比名子自身では手に負えぬと分かるという物。
比名子が普段の様に動脈に針を刺してハイ終わりと言うわけには行かない。
全身に針を突き刺して抜いてやる必要がある。それは比名子が自分自身ではできないことは明らかだった。
「一気には行けない、悪いが時間はかかるぞ」
「そこは信頼してますので」
「重いな」
比名子の信頼しているという言葉に大摩は苦笑しながら血抜き針を打っていく。
針を打った場所からは血が少しずつ出てきてジワリと比名子の肌を伝い滴り落ちる血は敷布団に吸収されていった。
其処から1時間はかけてゆっくりと針を打った。
まるで針が抜かれ比名子は血塗れ人間の様になっている有様だったが次は背面への針打ちだった。
大摩は先ほどと同じく一時間は掛けて針を打ち血を抜いていく。
やっとのことで大摩は針を取り終える。
これで全作業終了だが比名子はもうアレだ全身にマッパで血を浴びた殺人鬼の様相を呈していた。
「大摩さん十月さんありがとうございます、すいませんがちょっとお風呂入ってきます」
「ああ言って来た前、十月、ポカリスエット」
「はい先生」
大摩は額の汗をハンカチで拭いソファに座り込み十月にポカリスエットを要求し。
十月は鞄の中からポカリスエットを取り出して大摩に手渡す。
比名子はシャワーを浴び体を洗って血を落とした後に湯舟につかり全ての穢れを落とす。
そして一応自分の血を流したわけだから排水管に魑魅魍魎共が集まっても不味いので浄鬼水を排水溝に流し込んで置き。
湯舟の湯にも浄鬼水を混ぜ和せて栓を抜いてお湯を抜く。
これで排水管から魑魅魍魎は沸いて来ないだろう。
そして血を吸い込んだ布団は圧縮袋の中に入れて鬼さんの伝手で今日中に処分だ。
そう言う段取りになっている。
「では仕事も終わったので私達はこれで」
「ゆっくりしていけばいいのに」
「君が一等級の旅館を手配してくれたからな、そちらでゆっくりするさ、後明日の夏祭り期待しているよ」
そう言って大摩たちは去って行った。
比名子も家の後かたずけをして。いつも通り両腕の袖の仕込みに針を仕込み。
「焼肉でも食べに行こうかなぁ」
予想以上に血を抜かれたため焼肉でも食って鉄分と血液補充だと思い。
思い切って焼肉屋に行くとにした。
鬼さんとこの若衆が来たので圧縮袋に入った血濡れ布団を手渡し厳重に扱うように言った上で。
家の扉に施錠し商店街へと向かった。
商店街に着くと見覚えのある後姿が。
「あ、汐莉さん、美胡ちゃん」
比名子が声を掛ける。
「あら比名子、今日は・・・アレ? 匂いがかなり薄まりましたね」
「まぁね、同業者呼んで今日は本格的にやってもらったんだ」
汐莉は首を傾げた、かなり比名子から発せられる稀血の匂いが激減していたからである。
比名子は本格的にやってもらったと説明し汐莉は納得したようだった。
「今日は比名子の家に近づくなと言われいたんですが」
「まぁいつもより時間かかったけど、それだけだから。それより二人はこれから御夕飯?」
「まぁね・・・何時もの中華屋さん」
「なら私が奢るから二人とも一緒に食べよ、小楽園さんでさ」
比名子の提案に地味に吹き出しかけた美胡。
汐莉はへぇ美味しそうとしか感想が出てこなかった。
「いやいや比名子、アソコ高いじゃん」
「血が抜けたし散財したい気分だからさいいんだよ」
「この町って結構高級料理屋が多いんでしょうか?」
「いや汐莉さん、そこまでお高い店は無いよ」
小楽園。この町では少し高めの焼肉屋だ。
だがしかし都心の高級焼肉店に比べれば安いくらいである。
それに新鮮で臭みのないレバーを出してくれることでも有名だった。
大摩への治療量と宿泊料出したし一週間と三日前にあったモリゾーの一件ではかなりの浄財が手に入った。
そりゃ財布も緩むという物である。
後、やっぱ血抜いたから比名子的には肉喰いたかった。
それにみんなで食べたほうが楽しいと思っているので、汐莉と美胡も丁度いいところにいたから誘ったのである。
「じゃ行こうか」
そう言って一行は小楽園に向かった。
「うーん、なにっが何だかさっぱり分かりません!!」
「汐莉さん、焼き肉食べたことないの?」
「この町に来る前は長い事海に住んでいたので」
汐莉はちょくちょく陸に上がることはあったが大半は海で過ごしていた。
だって人魚なんだもの。
「うーん、じゃ初心者向けにまずカルビ、牛タン、ハラミの三種の神器で行こうかな、後ご飯どうする?」
「あたしは普通盛りでー」
「じゃ私も美胡ちゃんと同じで、汐莉さんは?」
「無論大盛で」
「わかった。注文良いですか~」
「はいよー」
そして店員を呼び注文、ご飯普通盛り二つ、大盛一つ、カルビ、ハラミ、牛タンを各種三人前。
後はレバーを一人前と烏龍茶を三人前頼んだ。
その後しばらくしてレバー以外の注文の品が運ばれてくる。
雑談しつつカルビから焼き始める。
因みに炭火だ油断はできない。
「比名子、ご飯お代わりよろしいでしょうか?」
「良いけど・・・汐莉さん、まだカルビ一枚だけしか食べてない・・・ってええ?」
汐莉、まさかのカルビ一枚で、ご飯1.5合完食。
茶碗の中にはもうご飯はない。
「どこぞのヤクザゲームの主要人物じゃあるまいし」
美胡も呆れ気味だ。
「すいません~ご飯大盛お代わりでー」
「はいよー」
比名子はそうご飯大盛を注文し気づく。あれこれ・・・汐莉さん連れてきたの間違いではと・・・
だがその判断は遅かった。
この後、そりゃもう集られた。
美胡は小食だから良いが、比名子自身も喰った為、汐莉が食いまくった事もあって財布の中身が寂しくなった。
貯金までには足が出ていないから良いが、それでも大摩への依頼料と宿代で身銭切っている。
決して油断は出来なかった。
「はぁー満腹、満腹」
店を出てお腹を自身でそう言いつつ撫でている汐莉に対し比名子は。
「もう二度と汐莉さんには焼肉奢らないからね」
「なぜ!?」
もう二度と汐莉に焼肉奢らないことを宣誓したのだった。
という訳で祭り当日。
夕日になり逢魔時を過ぎて夜になりつつ在り観光客も増え出店が活性する時間帯。
二人の美少女こと汐莉と美胡が店を見るふりして見回りをしていた。
空気はあまりよろしくない、友人とも犬猿の仲だから空気はよろしくない。
なぜにと言った感じの空気だった。
されど適当な店で食べ物でも勝って手持ち沙汰を解消したいと思った二人はりんご飴を買って。
適当なベンチに座った。
「美胡、聞きたいことがあります」
「なによ」
「比名子のお肉食べたことがありますね?」
「なぜそう思ったの?」
「あの温泉で傷を一度も直視無かったからです。特に右肩の火傷痕を見たときは目を逸らしていましたね? まるでその傷の中にある幼子が肉を齧った痕から目を背けるように」
そうあの温泉の時、比名子の右肩から美胡は一生懸命目を逸らしていた。
他の傷はなんも無いように見ていた美胡がである。右肩の火傷痕だけは必死に目を逸らしていた。
不思議に思った汐莉は気づいたのだ。火傷痕の中に不自然に何かが齧った痕があることに。
美胡はそれから目を逸らしていた。
「・・・あるわ、一度だけ」
「へぇ・・・」
「しょうがなかったのよ、叔父さんは他の吸血鬼相手にしてて比名子はまだ未熟で比名子を守れるのは私しかいなかった。尾を千切ってもグールの軍勢相手でもどうとにでもなると思っていた」
そうあれは吸血鬼の封滅の仕事で海外にいた時だった。
相手は子爵級の吸血鬼、先代も相手どるので手を焼いていた。
迫りくるはグールの群れ。だが尾を引きちぎって弱体化していた美胡でもグールなんぞには後れを取らない。
それに幾ら未熟とはいえ比名子の援護もあった。
時間さえあれば先代が来るであろうことは目に見えていた。
まさか吸血鬼の騎士級が来るとは思っても居なかった。
比名子の稀血に誘われるようにそいつは来た。幸いグールは殲滅済みだったが。
弱った美胡では吸血鬼の騎士級には勝てない。
もうだめかと思った時、比名子が一つの提案をしたのだ。
「自分の肉を食えば力は取り戻せるのかって」
「それで答えは?」
「YESって答えたわよ。比名子も私も死にたくなかったし。打開策はそれしかないって稀血を食って来たアンタにはよくわかっているでっしょうが」
「ええ・・・」
「だから一口だけ肩の肉を食んだ。今でも思い出す、全盛期以上の力が湧いて出た。同時に稀血の美味さに喜んで吐き気がした。友人喰って喜ぶ奴がどうにかしてるってね、そのまま勢いで吸血鬼を半殺しにして親玉を封滅して戻って来た叔父さんに吸血鬼は封滅されたって流れ。」
溜息を吐きながら美胡は告解するように言う。
「ですが不可抗力では?」
「まぁね・・・その後尾を引きちぎったでも比名子の稀血の力はそんな物じゃなかった。五本引きちぎったら三本即座に再生したのよ」
「だから今でも六本と・・・」
「そう言う事、力が凄まじく溜まっているから、定期的に如月流の治療針を打つことで徐々に力を抜くしかないのよ、今でも比名子の血が胃の中で疼いているし」
「そんなに強力なのですか? 比名子の血肉は?」
「鬼さん曰く、今も比名子の血の力は増している、今もしも仮に同じように肩の肉を一口食っただけで数十分は九尾化できるってさ」
「そんなに・・・」
そう魔性の誰もが欲する力になりつつあるのだ。
幾ら血を抜き薄めようが年単位で比名子の血は濃くなっていく。
今回ついに自分では対処できなくなり大摩を呼んだ次第だった。
何時もなら全身を血で濡らすようなことはしない。
精々い腕に針を刺して小瓶に注ぎ込めばそれでいい物だった。
だがもう専門家に対処してもらう他ない。
「本当に情けない、比名子の家族を守れず、比名子も碌に守れないで魔道の道を歩ませている、オマケにふと思った瞬間に比名子を食べたい欲求が一瞬だけでも押さえきれないって・・・本当に私は・・・」
もうそれは慟哭だった。
守ると誓った家族は守れず生き残った比名子は一生物の傷を負い、稀血になんて覚醒してしまった。
お陰で退魔針を継承せざるを得ず、幾ら比名子が未熟な時期だったとはいえその期間を守り通す事こそ美胡の使命だったのに。
守るべき対象に肉を与えられ。比名子が技の全てを教わった後は逆に美胡の方が守られつつつある。
何と情けないというべきか。
「・・・でも比名子は美胡の事を友人と思っていますよ。一度腹を割って話したらどうです?」
この類の自己完結型背負い込みはよろしくない。
最終的にはどう足掻いても爆発する。
「でも聞くのが怖いのよ・・・私は妖怪で比名子は人間だから」
「今更、気にしないと思いますけど・・・」
「なんでそう言い切れるわけ?」
「だって鬼さんとだってモリゾーとだって親し気だったじゃないですか、それにアナタの本性なんて。あの異界の怪物に比べれば可愛い物ですよ」
「そうかな・・・」
「そうですよ」
だから一度腹を割って話せと汐莉は美胡にアドバイスする。
その時、汐莉の心のどこかが傷んだ。
汐莉の脳裏に一週間の間で楽しそうにする比名子が刹那にすれ違ったようで。
そのモヤモヤは汐莉にも分からなかった。
「モー」
「「モリゾー!?」」
後なんか隣町からモリゾーも来たらしく。
突然の事に二人は呆気にとられ、気まずい空気が四散した。
「おう二人ともってモリゾーさんも此処に居ったんかい・・・、比名子ちゃんの巫女舞が始まるから神社の方に集合せい」
其処にごく普通の的屋のにーちゃん染みた格好をした鬼さんも合流し。四人は神社に向かう事になった。
そして比名子の方はと言うと巫女舞の為に準備していた。
神主の他に本格的にやるという事で夜狩省から専門職員も来ていた。
化粧は薄くおしろいを塗り、口紅も薄く塗る。
後は細々とした部分もあるが伝統の巫女舞装束を着て両手にセンスを持つ。
舞の手順は既に習得済みだ。
後は笛、太鼓、鈴、銅拍子の囃子に合わせて歩を踏み舞えばいい。
着替え終えてしばらく正座で待機していると外から鈴の音が聞こえてきた
神職二人が表扉を開ける。比名子はするりするりと表に出た。
広場はライトアップされ、専門職の人たちが笛を吹き出す。
踊る前に見学客の方に目を向けて見れば、汐莉と美胡とモリゾーと鬼さんに町の妖怪の皆がいた。
ついでに大摩も十月もレジャーシートを引き観客として酒を飲みつつ見ている。
知り合いに診られるのは恥ずかしいと思いつつも。
比名子は真剣な表情で反閇を混ぜ合わせた如月流独特の歩法。
如月流・払歩を実践し扇を開き身を回転するかのように舞う。
誰もが見惚れていた。凄まじい物があるとしてだ。
20分は舞っただろうか。そこで音楽も途切れ、比名子はぴしゃりと静止し正規的お辞儀をして社殿へと正しい所作で戻って行く。
そして扉が閉められ。
比名子はため息を吐きつつ両膝を着いた。
巫女服は予想以上に動きずらいし重い、後初めての事なので緊張もした。
「はぁ疲れた」
兎に角緊張した。物すっごい緊張した。
まさかモリゾーまでもが来るとは思っていなかったからである。
兎に角着替えよと比名子は化粧を落とし私服に着替えた。
そして祭りも終わり。
「はぁ美味しい」
鬼さんの屋敷で皆で打ち上げ会をしていた。
比名子は酒を一献飲み吐息を吐く、此処は先述の言う通り一種の治外法権なので酒もOKだ。
何故かモリゾーも参加していた自由な神様である力が半減してでも此処までくるとは。
「比名子、アナタの巫女舞バズってますよ」
汐莉が使い方を覚えたスマフォを見せて来る。
比名子の踊りは早速動画サイトに上げられバズっていた。
古き神社の巫女舞復活かという題目でである。
「うわ~恥ずかしいよ・・・本職さんに比べると劣るし私・・・」
「いえ本職としても見劣りしないものですよ比名子の舞は私が保証します」
ニコリと汐莉が微笑みつつそう褒めたたえる。
それに気恥ずかしそうに照れながら比名子は頬を掻いた。
「うえうえびなごぉ~」
「美胡ちゃん飲みすぎ・・・」
「まぁそう言う日もあります。ですがお鮨美味しいですね本当に、特にイワシが美味しいです」
「そうかな・・・と言うか汐莉さんイワシだけじゃなく他の物も食べようよ」
「ですね、まぁ私が言うのもなんですけど、美胡と腹割って話してあげてください、アナタとの関係について悩んでいるようで」
「え? 私、美胡ちゃんになにかしちゃったかな・・・」
「そう言う訳ではない見たいです、兎にも角にもちゃんと話すと良いですよ、第三者の私から言えるのは此処まです」
そう汐莉が言えるのは此処まで。後は当人たちの問題だからだ。
「あと最近私も精神的に可笑しくなっているようでして・・・診てもらえます?」
「いいけど汐莉さん、なんかストレス・・・まぁ人間社会はどう足掻いても掛かるよね、じゃ後日家に来て診るから」
「ありがとう比名子」
そうしてどんちゃん騒ぎが終わり次の日が来るのだった。
ヤマノケ瞬殺。
見えないものを退治する事に長けている如月流派ですからね。
それに比名子ちゃんも見える体質なんで憑りつく能力が強力なだけな妖怪なんて鴨ですよ。
なお比名子の隣に汐莉と美胡も居たのでヤマノケはどう足掻いても王手詰みでした。
後夏祭り。
汐莉と美胡ちゃんで見回りです。最も巫女舞は見れましたし鬼さん屋敷での打ち上げに参加出来ました。
そして比名子が叔父さんに弟子入りして少し経った後に尾を食いちぎって比名子の守護獣と化した美胡がなぜ尾を残しているのか真相解明回でした。
退魔業を営んでいる為、現状比名子の稀血は凄まじく濃く。
比名子の血肉を全身くまなく食べた場合、上の上レベルでヤバい存在になります。
現にまだ幼少期の稀血に覚醒したばかりの比名子の肉を一口食っただけで八尾になりつつ現代でも尾を千切っても陰気や妖力が抜けない美胡がその凄まじさを物語っている訳ですし。
今の状況なら一口食べただけで数分、九尾レベルにはなれます。
故に今まで自分で定期的に抜いていたのが出来なくなり大摩先生にお願いして血を抜いてもらいました。
町の妖怪の状況。
皆、比名子に真摯に助けられた連中ばっかしですからね、それは人間として生きる比名子を守ろうとしています。
まぁ後に汐莉が盛大にやらかして皆をブちぎれさせるんですが。
外の吸血鬼
騎士級の吸血鬼、と言っても実は公爵級の息子であり等級に合わない強さを発揮。
未熟な比名子と弱体化した美胡に奇襲仕掛けるが比名子の肉を一口食って一時的に八尾になり全盛期以上にパワーアップした美胡に半殺しにされた後。先代の手によって封滅されていたが・・・
金がなくて原作コミックかえないのと次こそFGOたっちゃんの方に集中するので次の更新は長い事無いと思ってください。
と言うか百合描写できるほどの知識量がねぇ!!
誰か本当に百合百合な続き書いてくださいお願いしますお願いします・・・