夜中に目が覚めた。なんだろう、この胸のざわめきは……
静かにスマホのアラートが鳴った。この着信音は、侵入者だね。
戦う音がする!行こう。来るべき時が来たんだ。
スカジャンをつかんで走りだす!
「チェック……メイトだ……アズサ!はははは!これが「殺意」の力!さあ、帰ろうアズサ。あれからずいぶん状況が良くなったんだ」
「いやだ……!サオリ、あなたはそんなモノじゃなかった。恨みを「習った」だけで、意志まで借り物じゃ……」
会話が聞こえる。胸騒ぎが大きくなる。いや、この感じは……
「これはもう私の力だ!私のものだ!奪わせてなるものか!お前もこの力のすばらしさを知るがいい!」
見えた!跳ぶには遠い……私に今出せる全速の!波動拳を!走りながらだと難しいけど、やる!
紫の光が見える。それはさらに黒く赤く染まっていく。あの力は……
「この『殺意の波動』を!」
背の高い襲撃者がアズサちゃんを釣り上げて、胸にその光……
いや、殺意の波動を押し付けようとしてる!
でも間に合った!私と襲撃者の二つの波動拳がぶつかり合って砕け散る。
「斬空波動拳!」
「仰空豪波動拳!」
同時に私自身も滅茶苦茶になったアズサちゃんの部屋の窓からジャンプしてアズサちゃんが襲撃者を迎え撃った庭に飛び降りる。
着地してさっと見回すと襲撃者は4人。3人は倒れてる。
意識はあるようだからそのうち立ち上がってくるだろう。
アズサちゃん、がんばったね。
「サオリちゃん……かな?」
「聖園ミカか。何だその顔は?私を助けてやりたいとでもいうつもりか?」
「そう思ってた。でも今は……語り合いたい。拳で」
どうやってか解らないけど、サオリちゃんは殺意の波動に目覚めたらしい。
たぶん、私の動画とかを見てアリウスそのものが格闘を習いなおしたんだろうね。
サオリちゃんはひどい顔だ。まさに殺意の波動に憑かれた者らしい狂笑。
「いいだろう、どの道やすやすとは退却させてくれなさそうだ。お前の遊びにつきあってやる」
「……ありがとう。あなたを、折るね」
「やってみせろ!」
持ち上げてたアズサちゃんごと投げてくる!
私はさっと受け取ってそのままアズサちゃんの部屋にアズサちゃんを受け流して投げ入れた。
「逃げて!アズサちゃん!応援を呼んで!」
「……ああ、ここは任せる!」
返事をしている余裕はない。
サオリちゃんがサイコクラッシャーというかスパイラルアローっていうか……
ああいう感じの回転しながら両足でこっちにカッ飛んでくる!
腕と持ち上げた足でガードするけど重い!吹き飛ばされる!
「重い拳だね☆」
「ぬくぬくと地上ですごしていた貴様らには出せない恨みの力だ!」
「受けるよ。その思い。なぜなら私はトリニティの代表、ティーパーティーだから!」
吹き飛んだところに銃撃!そりゃ使ってくるよね!なんでもありだから!
吹き飛ばされながら地面に手をついて飛び起きる。銃撃しながら突っ込んでくる!
銃床を使ったフックから上段蹴り……をパリィして溜めてたフラッシュナックルを叩き込む!
「これが私の思い!」
「こんなものか?存外たいしたことはないな!」
しっかりガードが間に合ってるじゃんね……
上に意識があるうちに膝蹴りを腹に叩き込む!これも怯まない!
さらにアサルトライフルを吊ってる帯をつかんで、背負い投げ!
掴み膝蹴り……ありがとうマスターズ空手。
追撃で!倒れている頭に拳を振り下ろす!
「効かないなぁ!殺意のない拳など腑抜けだ!だからこうなる!」
振り下ろした私の腕をつかんで腕ひしぎを極めてくる!
「まだまだ言いたいことはあるよ!この拳で!」
なら!逆にサオリちゃんを振り回すよ!地面に!叩きつけて!振り払う!
ヌンチャクのように!これがスーパーワシントン条約!
いやむしろこれがティーパーティーの「ドレス」だよ!
あっ、すっぽぬけた。サオリちゃんが。
「軽い!虚しいものだな!相手を倒せない拳など!」
壁を蹴って縦横無尽に飛んでくる!
そしてすれ違いざまに銃床で殴ってくるわ遠くからは銃撃してくるわで……
これデルタレッドアサルトか武神天翔亢竜の類だ!
防戦一方だね……速い、そして立ち回りよりも技の完成度が高い。
「これこそがお前から奪った力だ!命を食らいすべてを破滅させ虚無に返す!それこそが戦いの行きつく果てだ!お前の道の果てだ!」
サオリちゃんの声が四方八方から聞こえる。
奪ったって何?とか殺意の波動はまずいよ、とか思う事は色々あるけど……
「否定はしないよ。でも、戦いはそれだけじゃない。私はそう信じてる」
集中、集中……研ぎ澄ませるんだ。この攻撃の嵐の中で。
「ねじ伏せ、倒し、殺す!それ以外の力があるものか!」
「その答えは戦いの中にあるよ」
私はそう、信じている!
リュウ、あなたの技を借りるね。
「真空……」
「波動拳など当たるものか!」
「竜巻旋風脚!」
全方位から飛び込んでくるなら全方位に当たる技を!手ごたえは……あった!
さらに回転を増して!
「竜巻剛螺旋!」
二階の屋根の上に飛び乗る。そしてそろそろだね。
ジャガッ、ジャキッとそこら中から銃を構える音がする。
「ようこそトリニティへ」
「歓迎しますわ、盛大に!」
その間に向こうの倒れてた3人も起き上がったみたいだね。
サオリちゃんは口を切ったらしく血をペッと吐き出してた。
「チッ……タイムアップか」
「今日はここまでかな……お使い頼めるかな?これをあなたたちの指導者にもっていってくれる?」
いつこうなってもいいようにポケットに入れておいた手紙を投げつける。
花蝶扇のように飛んだ手紙をサオリちゃんがさっと受け取る。
「果たし状、か……トリニティらしいな」
セイアちゃんがごん太の筆で書いてくれたじゃんね。
「そうだよ。それはトリニティからアリウスへの宣戦布告。今日の今からトリニティはアリウスと開戦状態になったよ」
割れんばかりの歓声が夜中に響いた。
「トリニティ!トリニティ!」
「ぶちのめして差し上げますわー!!」
「時は満ちましたわね……今宵の拳は血に飢えていますわ」
このアウェー感の中で、にいっと凄惨な表情で笑うサオリちゃん。
……あなたをその殺意の波動から助けたい。
「いいだろう。まさか伝令の使者を攻撃はしないな?」
「もちろん。逃げ道くらい用意してたんでしょ」
「その通りだ。次は戦場で会おう」
閃光弾!スモークまで!もちろん視界が晴れたときにはいないんだよ。
まあ、あの手紙の中に発信機あるんだけど。
さあ……ここからが忙しくなるね。戦争だよ。