レイチェル・ラインゴッドは魔女である。   作:冬月之雪猫

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第十七話『セブルス・スネイプ』

 地図を配りながら、分かった事がある。

 スリザリンの生徒とは関わるべきじゃない。全員では無かったけれど、二人に一人は純血主義者だった。

 そうじゃない人からも『あまり目立つべきじゃない』とか、『マルフォイやブリシュウィック、クラッブ、ゴイル、ノットには特に近づくな』と忠告された。

 

「……わたし、スリザリン嫌い」

「わたしもー」

「あの態度を取られて好きでいられる人間なんていないよ」

「鼻で笑われたし……」

「あそこまで嫌味になれるって、ある意味スゲーな」

 

 みんなもスリザリン生の態度にはすっかり嫌気が差していた。

 

「レイブンクローもなんか冷たい感じだったよな」

 

 ジャスティンは唇を尖らせながら言った。

 スリザリンとは比較にならないけど、レイブンクローの生徒にも冷たい態度の子が多かった。

 地図を差し出してるのに見向きもしなかったり、「要らない」とにべもなく去って行ったり、とにかく冷たかった。中には迷惑そうな視線を向ける子までいた。

 

「その点、グリフィンドールはみんなお礼を言ってくれたね」

「うんうん!」

「わたし達、あのハリー・ポッターからもお礼を言ってもらえたんだよ!」

「え? ハリー・ポッターから!?」

「なに? 有名人なの?」

「レイチェル、何を言ってるの!? ハリー・ポッターよ!?」

 

 アリスやプリシラ、ジャスティンはピンと来ていない様子だけど、魔法族の子達はみんなギョッとした表情を浮かべている。

 

「そんなに有名なの?」

「当然よ! 名前を言ってはいけない例のあの人を打ち倒した英雄よ! 『生き残った男の子』を知らないなんて!?」

 

 スーザンに至っては怒りだした。

 名前を言ってはいけない例のあの人とは、魔法界で十年くらい前に暴れ回っていたテロリストの事らしい。

 魔法界全土を恐怖のどん底に陥れた闇の帝王。その暴虐を食い止めたのが、当時赤ん坊だったハリー・ポッターだとスーザンは鼻息を荒くしながら語った。

 

「赤ん坊がそのテロリストを倒したっていうの? それ、本当の話?」

「事実よ! この世で唯一、死の呪文に抗った子。きっと、生まれながらの天才なんだわ! ああ、羨ましい。わたしも話してみたい!」

 

 スーザンは夢見る乙女の表情を浮かべている。

 

「……いや、赤ん坊って」

 

 赤ちゃんに負けた人って言われると、あんまり怖いイメージが湧かない。

 

「っていうか、エロイーズが会ったのなら、あなた達も会ってる筈でしょ!」

「でも、誰の事だか分からないわ。エロイーズはハリーの事を知っていたの?」

「う、うん。あのグリフィンドールの子よ。赤毛の子と一緒にいた眼鏡の子」

「眼鏡……? えーっと……」

 

 思い出せない。なにしろ、配った人数が多すぎる。

 

「きっと、イケメンの筈よ! 覚えてない?」

「うーん……?」

「眼鏡を掛けた美貌の少年……?」

「覚えてないよー」

「エロイーズは覚えてるんでしょ? どうだった!? ハンサムだった!?」

「え、えーっと……、うん。あの、かっこよかった……と、思うよ」

「なんで、そんなに歯切れが悪いの!?」

 

 どうやら、あんまりハンサムなタイプではなかったみたい。

 

「それより、はやく授業に行きましょう! 地図を渡したわたし達が遅刻したら、地図の信用度が落ちちゃうもの」

「今日の授業はなんだっけ?」

「薬草学よ!」

「そう言えば、グリフィンドールとの合同授業って書いてあったわ」

「じゃあ、会えるかもしれないわね! ハリー・ポッターに!」

「どんな子なのかしらね?」

 

 わたし達はハリー・ポッターの話題で盛り上がりながら薬草学の教室である温室へ向かった。

 

 ◆

 

「ポモーナ!」

 

 温室に入るなり、アリスはずんぐりした小柄な魔女に抱き着いた。

 

「アリス! あなたがハッフルパフに入ってくれて嬉しいわ。他のみんなもようこそ、薬草学の授業へ! わたしがポモーナ・スプラウト。あなた達、ハッフルパフ生の寮監です。相談事があったら遠慮なく来てちょうだいね」

 

 ポモーナはアリスが言うように、穏やかでニコニコしていて、とても優しい魔女だった。

 

「グリフィンドールの生徒がまだみたいね。とりあえず、みんなは手袋を嵌めてちょうだい。ドラゴンの皮の手袋よ。間違えて、普通の手袋を持って来ている人はいませんよね? よろしい!」

 

 ドラゴンの皮の手袋はちょっと固めで使い辛い。だけど、使い続けていけば柔らかくなっていくみたい。

 

「ああ、グリフィンドールの子達も来たわね。さあ、みんな植木鉢が置いてあるテーブルの傍に来てちょうだい。グリフィンドールの子達もドラゴンの皮の手袋を着けるように! あなた、それはただの蛇皮じゃないの!?」

 

 誰かがドラゴンと蛇を間違えたみたい。ポモーナは予備の手袋を持って来て、蛇皮の手袋の上につけさせた。

 

「あとで注文用紙を渡すから、フクロウに運ばせるように! さあ、授業を始めますよ」

 

 薬草学の最初の授業は一年生で扱う不思議な植物やキノコの紹介だった。

 

「植物の中には危険な毒を持っていたり、するどい棘を持っているものがあります。ですが、普通の植物は大体が受け身です。人間や動物が触ろうとしなければ無害である事が殆どです。ですが、この薬草学で扱う植物の中には普通ではないものもあります。例えば、この『ピョンピョン球根』は見ての通り、飛び跳ねます。硬い上に、鋭い部分があるので当たり方によってはケガをするでしょう。『牙つきゼラニウム』は噛みついてきます。このように専守防衛ではなく、自ら攻勢に出る植物もあります。授業をよく聞いて、注意するべき事をしっかりと注意すれば大丈夫ですが、それを怠れば命を落とす危険性もあります。その事をよくよく承知しておくように!」

 

 ポモーナもマクゴナガル先生と同じように警告からの授業スタートだった。

 時折、彼女が手伝いを欲すると、アリスは真っ先に手を上げた。グリフィンドール生の栗毛の女の子も同じように手をピンと上げて、必死に手伝いたいとアピールした。ポモーナはクスリと微笑むと、二人に手伝いを頼んだ。

 グリフィンドールの女の子の名前はハーマイオニー・グレンジャー。彼女がとても博識である事をわたし達はすぐに知った。なにしろ、ポモーナが知識を求める質問をすると、すべてに手をピンとあげて、毎回正しい答えを口にしたからだ。

 アリスはそうもいかなくて、ポモーナの称賛を受けるハーマイオニーにすっかりライバル意識を燃やすようになった。

 

「なによ! わたしだって、ちょっと頑張ればあのくらい答えられるようになるわ!」

 

 そう言って、その日の授業が終わった後、彼女は薬草学の自習をするようになった。

 廊下や大広間でハーマイオニーとすれ違うと、敵意を剥き出しにする。わたし達は必死に宥めるのだけど、どうしてもポモーナの一番を奪ったハーマイオニーが許せないみたい。

 わたしとプリシラはアリスより先にハーマイオニーを見つけ出して、アリスの視界に入らないように誘導するようにした。

 

 ◆

 

 金曜日の午前中はレイブンクローの生徒と合同での魔法薬学の授業だった。

 窓一つない地下の教室には独特な雰囲気があって、かなり不気味だ。

 壁にずらりと並んだガラス瓶にはアルコール漬けの動物がプカプカ浮いているし、松明がいくつあっても明かりが十分とは思えなかった。

 担当教師のセブルス・スネイプがこれまた雰囲気抜群の男で、ネットリした喋り方が特徴的だった。

 最初に出席を取ったのだけど、彼に名前を呼ばれると少し寒気がした。わたしは彼の声だけではなく、目も苦手だと思った。

 温かみがまったくない。最悪だと思った『闇の魔術に対する防衛術』のクィレル先生がずっとマシに思えるほど、冷酷な目をしている。

 

「この授業では、魔法薬調剤の微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ」

 

 ボソボソとした喋り方だけど、誰もが身じろぎ一つしないおかげで一言も聞き漏らす事はなかった。

 

「この授業では杖を振り回すようなバカげた事はやらぬ。そこで、これでも魔法なのかと疑問を抱く諸君も多いかもしれぬ。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力。心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力。諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらぬ。我輩が教えるのは名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする。そういう方法である』

 

 そこで一呼吸置き、彼はあざ笑うような微笑みを浮かべた。

 フリットウィック先生やポモーナ、マクゴナガル先生だったら絶対にしないような表情だ。

 

「ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

 

 侮蔑の言葉と表情。それが凄く不快だった。

 この人はどうして先生という職業に就いたのだろう? それが不思議で仕方ない。

 

「さあ、授業を始める。二人一組になり、おできを治す薬を調合するのだ。無論、予習はして来たのであろうな?」

 

 予習はして来た。薬草学の自習をするアリスの横でのんびりしているのは居心地が悪くて、わたしとプリシラも教科書を開いていたのだ。

 だけど、全員が同じように自習をしていたわけではないようだ。

 わたしとプリシラはそれぞれのタッグであるアリスとエロイーズをフォローしながら調合を成功させたけれど、スネイプが一人一人に厭味ったらしい口調で注意して回るせいも相まって、うまく行かない生徒も多かった。

 

「上手く調合したらしい。ならば、何故マクラミンが蛇の牙を砕かずに入れようとするのを止めなかったのかね? 親切心に欠けておる。ハッフルパフは一点減点」

 

 理不尽過ぎて言葉も出なかった。わたし達だけではなく、成功していても失敗していても万遍なく減点された。

 ハッフルパフだけではなく、レイブンクローも同様で、魔法薬学の授業が終わった後は大広間へ向かう道すがら、スネイプの悪口合戦が始まり、昼食の間も延々と終わる事がなかった。

 

「スネイプって、スリザリンの寮監なんだよな」

「スリザリンって、最悪だな」

 

 わたし達はすっかりスリザリンが嫌いになっていた。

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