レイチェル・ラインゴッドは魔女である。   作:冬月之雪猫

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第二十話『恐怖』

 飛行訓練を終え、午後のお昼寝タイムこと魔法史の授業を終えたわたし達は大広間で食事を取っていた。

 すると、グリフィンドールの席にスリザリンの生徒が近付いていくのが見えた。

 

「また、トラブル起こそうとしてるのかな?」

 

 アーニーはウンザリした様子でスリザリンの男の子を見ている。

 

「あの子って、セドリックがマルフォイって呼んでた子だよね?」

「そう。ドラコ・マルフォイ。君達は近づかない方がいいよ」

「違うわ、アーニー」

「え?」

 

 スーザンは親の仇を見るような視線をマルフォイに向けていた。

 

「近づかない方がいい? 違うわ。絶対に近づいちゃダメ」

「ス、スーザン?」

「どうしたの?」

「アイツの親は死喰い人よ。よく、うちに来る闇祓いの人が言ってるの。ルシウス・マルフォイは最低のロクデナシだってね」

「ちょ、ちょっと、スーザン! それは単なる噂よ! 迂闊な事を言うべきじゃないわ!」

 

 ハンナが慌てた様子で窘めた。彼女は挙動不審になり、辺りを見回している。

 

「闇の魔法使いは全員敵よ。いつか必ず、全員をアズカバンに送ってやるわ」

 

 その瞳には暗い炎が燃えていた。単なる正義感ではない、もっと底知れない感情からの言葉に聞こえる。

 

「……なにか、あったの?」

「わたしの親戚の多くは例のあの人に殺されたのよ。まだ、三歳だった従妹までね」

「さ、三歳って……」

「……それ、本当なの?」

 

 わたし達が言葉を失っていると、スーザンは苦々しい表情を浮かべて言った。

 

「ハリー・ポッターは死の呪いを克服した唯一の男の子よ。それってつまり、赤ん坊だった頃の彼に死の呪いを放ったって事じゃない。最低限の倫理観すら持ってない殺人鬼。そんなロクデナシの信奉者がマルフォイなのよ。絶対に隙を見せちゃダメよ」

 

 その瞳に宿る感情の正体が分かった。

 憎悪だ。彼女にとって、闇の魔法使いは許す事の出来ない怨敵という事だ。

 

「……スーザン、どうか落ち着いてよ」

 

 ハンナは泣きそうな顔でスーザンを抱き締めた。すると、スーザンの瞳の炎が薄らいだ。

 

「ごめん、ハンナ。ちょっと興奮し過ぎたわ。そろそろ寮に戻りましょう」

「うん」

 

 わたし達も寮に戻る事にした。大広間を出る間際、マルフォイを見る。

 絶対に近づいてはいけない存在。

 スーザンの怨敵にして、わたし達マグル生まれにとっての天敵。

 

 ◆

 

 寮のベッドでアルフレッドを抱き締める。

 自分の中で渦巻いている感情がよく分からず、とても不安定な気分に陥っているからだ。

 

「クゥン……」

 

 心配そうに鳴くアルフレッドにキスをしながら考える。

 わたしの心を支配している不安の正体、それはなんだろう?

 

「名前を言ってはいけない例のあの人」

 

 アリスが隣のベッドで天井を見上げながら呟いた。

 特定の人物を指す呼び名としては、あまりにも長過ぎる文章だ。

 

「どんな人だったのかな?」

「……スーザンは最低限の倫理観すら持ってない殺人鬼って言ってたね」

 

 三歳の子供や赤ん坊を殺す。

 欠片たりとも理解が出来ない行動だ。だけど、それを善しとした人間がいる。

 死喰い人。スーザンは例のあの人の信奉者達の呼び名だと言っていた。

 

「怖いわ……」

 

 わたしはアルフレッドを強く抱きしめた。そうしなければ、耐えられないと思った。

 無垢な命を奪い去る。そんな事がどうして出来るの? 命を何だと思っているの?

 これが小説や映画に登場するような悪人ならば、フィクションだからと納得も出来る、けれど、彼は現実に存在した。そして、その信奉者の子が同じ学び舎の中にいる。

 

「わたし、何も知らずにここへ来ちゃった……」

 

 アリスの声は震えていた。

 

「……怖いよー」

 

 プリシラは泣きじゃくっていた。

 スーザンが見せた憎悪。そして、それに値する悪の存在。

 やっと、自分の中で渦巻いているものの正体を悟る事が出来た。

 

「敵対者」

 

 いじめっ子だとか、恋のライバルとかではない。

 わたしの命に向けて、矛先を向ける敵対者が現れた。

 普通に生きていれば、出会う事の方が稀な存在と遭遇してしまった。

 命が脅かされる恐怖。それが正体だ。

 

「怖いわ……、アルフレッド。助けて……」

「ワン!」

 

 縋りつくわたしを鼓舞するように、アルフレッドは吠えた。

 わたしの腕の中から飛び出して、部屋の中央で高らかに吠える。

 その勇ましい姿に見惚れたのはわたしだけではなかった。

 

「ねぇ、わたしもアルフレッドの傍で寝てもいい?」

「わたしもー」

「うん!」

 

 わたし達は床にシーツを敷いた。そして、アルフレッドに見守られながら瞼を閉じた。

 勇ましく、かっこいいアルフレッドに見守られていると、恐怖が和らいだ。

 いつしか、わたしは夢の中へ旅立った。

 

 ◆

 

 翌日、大広間へ向かうと再びグリフィンドールの席にマルフォイの姿があった。

 絡まれているのは眼鏡の男の子と赤毛の男の子。

 

「また、ハリー・ポッターに絡んでいるわ」

 

 スーザンは嫌悪感を隠さずに呟いた。

 

「あれって、何かな? 細長くて……、まさか!」

 

 アーニーはハリーが持っている長細い包みに興味を引かれたらしく、ノコノコとグリフィンドールの席へ向かって行った。

 

「お、おい、アーニー!」

「ダメよ、ジャスティン。あなたはダメ!」

 

 追い掛けようとするジャスティンをスーザンが止めた。

 

「アーニーの事は放っておきましょう。それより、朝ごはんをしっかり食べなきゃね。体は資本よ」

 

 アーニーは純血の魔法使いだから大丈夫だろうという判断なのだろう。

 彼女はまるでマルフォイからわたし達を隠すように立ち回り、わたし達をハッフルパフの席に座らせた。

 その姿はまるで弱き者を守る騎士様のようだ。ついつい、ハンナのようにウットリした視線を彼女に向けてしまう。

 

「ワゥ……」

 

 すると、アルフレッドに袖を引っ張られた。

 騎士は自分だと主張しているようだ。

 わたしはちゃんと分かっていると伝える為に頬の辺りをワシャワシャと撫でた。

 

「すっごいぞ! ニンバス2000だ! 最新の箒だ! ハリーの奴、グリフィンドールのクィディッチチームの選手に選ばれたらしいぞ!」

「ええっ!? でも、一年生は箒を持てない筈よ。そうでしょ?」

「特例らしい。いいなぁ! ボクもハッフルパフのクィディッチチームに入りたいよ!」

 

 興奮したアーニーは熱心にクィディッチの話を始めた。ジャスティンは彼の話をうんうんと聞いてあげている。

 わたしも彼の話をBGMとして聞きながら食事を口に運んだ。

 相変わらず、ホグワーツの料理は絶品だ。

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