レイチェル・ラインゴッドは魔女である。   作:冬月之雪猫

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第二十一話『日常①』

 ホグワーツ魔法魔術学校に入学して、早一か月が経過した。徐々にここでの生活にも慣れてきている。

 

「アリス、プリシラ! そろそろお風呂入っちゃおうよ」

「うん!」

「はいー」

 

 ハッフルパフ寮には広めの大浴場が備え付けられていた。

 四年生のシャノンによると、ホグワーツの創設者の一人であるヘルガ・ハッフルパフは無類のお風呂好きだったらしい。

 彼女のこだわりがたっぷり詰まった大浴場は広々としていて快適そのもの。

 天井にはステンドグラスがはめ込まれていて、淡い光が浴場全体を包み込んでいる。

 壁や柱には植物が根を張っていて、咲き誇る花々からは甘い香りが広がっている。

 

「はぁぁぁぁ、気持ちいい」

「ホグワーツに来て、一番良かったと思える瞬間よね」

「うんうん」

 

 こればかりは実家のそれとは比べ物にならない。

 湯加減も丁度良い。天井を見上げると、ステンドグラスの鳥達が羽ばたいていた。

 

「あっ、シャノン!」

「あら、レイチェルじゃない」

 

 四年生のシャノンがルームメイト達と浴場に入って来た。彼女は毎朝誰よりも早く起きて、談話室で本を読んでいる。

 わたしがフクロウのアベルに会いに行こうとすると、彼女はいつも付き添ってくれた。

 

「シャノン、背中流してあげる!」

「結構よ。お友達と一緒なんだから、お友達の背中を流してあげなさい」

「はーい」

 

 シャノンはいつもわたしに優しくしてくれる。だけど、あんまり恩を返させてくれない。

 それが少し不満だ。

 

「よーし、アリス! プリシラ! 背中を向けなさい!」

「結構です! そんな気合の入った状態で洗われたら背中が無くなっちゃいそうだもの」

「なにおー! じゃあ、プリシラ! プリシラはいいよね!?」

「えー……、わたしもちょっとー……」

「いいよね!?」

「……はいー」

 

 プリシラに十字を切るアリスを無視して、わたしは気合を入れてプリシラを洗った。

 悲鳴が上がるけれど、無視してすみずみまで洗う。ピカピカになったプリシラを見て、わたしは大満足だ。

 

「バタンキュー」

 

 現れる事にくたびれてしまったらしいプリシラを抱えて、わたし達は寝室へ戻った。

 

 ◆

 

 週末は授業がない。かと言って、学外に出掛ける事も出来ない。

 

「シャノンはいいわよねー、ホグズミードだっけ? そこに遊びに行けるんだもの」

「どんな所なのかしらね」

「魔法使いだけの村って、言ってたねー」

「ダイアゴン横丁みたいな感じなのかな?」

「どうなのかしらね? あそこって、村っていうよりマーケットじゃない」

「行ってみたいねー」

 

 上級生達は揃ってホグズミード村に行っている。おかげで談話室はとても静かだ。

 アーニーとジャスティンは中庭でサッカーをやると言っていた。純粋な魔法族の家の子はサッカーを知らないらしく、ジャスティンはサッカーの魅力をホグワーツに広める事が己の使命だと信じている。

 マグル生まれの上級生が賛同してくれて、変身術でゴールポストを作ってくれたと夕食の席で嬉しそうに語っていた。

 わたし達も誘われたのだけど、三人揃ってサッカーはプレイするよりも見る方に魅力を感じるタイプだったので、丁重にお断りした。

 

「それにしても、このケーキは最高ね!」

「うんうん!」

「紅茶も美味しいよー」

 

 談笑しているわたし達の前にはそれぞれフルーツたっぷりのケーキが並んでいる。

 このケーキ、実は大広間から持って来たわけではない。フクロウに運んでもらったわけでもない。

 

「ありゃりゃ、ティーポットが空っぽ」

「また、もらいに行く?」

「行く行くー!」

 

 食器をトレイに乗せて、わたし達は寮を出た。そして、一分も掛からずに目的の場所へ辿り着いた。

 そこには一枚の絵画が飾られている。器にたっぷりとフルーツが飾られた絵だ。その前でわたし達は声を揃えた。

 

「おかわりくださーい!」

 

 すると、トレイの上の食器が綺麗サッパリ消えて、次の瞬間には新しいケーキとホカホカの紅茶で満たされたティーポットが現れた。カップもピカピカに磨かれた物に代わっている。

 シャノンによると、この絵は扉らしい。その先には厨房が広がっているみたい。中では屋敷しもべ妖精という妖精がせっせと働いているという。

 扉の中に入る方法は教えてもらえなかった。あまり大勢に広がると中の屋敷しもべ妖精達に迷惑が掛かるからと。

 わたし達が分別のつく歳になったら教えてくれるらしい。わたし達は十分に分別がつくと主張したけれど、苦笑された。

 

「ありがとうございます!」

 

 お礼を言うと、いつも追加のお菓子をくれる。今回はチョコレート入りのマシュマロだ。

 わたし達は歓声を上げながら寮に戻った。

 

 ◆

 

 わたし達の寝室も一か月で大分様変わりしている。

 主にアリスが原因だ。彼女はポモーナの関心をハーマイオニーから奪い取る為に薬草学の自習に励んでいる。その為にたくさんの鉢植を寝室へ持ち込んでいた。

 毒草だとか、噛みつこうとする植物にはプリシラと一緒にNGを出したから、鉢植に植えられているのは主にハーブや綺麗な花だ。

 薬草学において、もっとも重要な事はなにか? もちろん、知識は重要だ。だけど、それよりもずっと大切な事がある。

 植物の気持ちを理解して、キチンと育てる事だ。アリスはポモーナからそう教わったらしい。魔法的な要素を持つものではなく、普通の植物を立派に育て上げる。それは本を読むだけでは絶対に得られない経験となり、薬草学を真に理解する為の一歩となるそうだ。

 まるで植物園のようだけど、匂いをキツイと感じた事はない。匂いに敏感なアルフレッドも顔を顰めたりせず、快適そうに過ごしている。不思議に思って、シャノンに聞いた所、ハッフルパフ寮には植物の香りを和らげる魔法が掛けられているらしい。廊下や談話室にも至る所に植物があるから、植物の匂いが苦手な生徒を守る為にヘルガ・ハッフルパフが掛けたものらしい。

 

「どうせなら、虫も駆除する魔法を掛けておいて欲しかったわ」

 

 ハーブの葉を食べようとしている芋虫をピンセットでつまみながら、アリスはぼやいた。

 

「ヘルガは優しい人だったみたいだし、虫でも殺生はNGってタイプだったんじゃない?」

「虫さんだって、生きてるんだもんねー」

「わたしは虫嫌いだもーん」

 

 実を言うとわたしも苦手だし、プリシラも苦手そうな素振りを度々見せている。

 シャノンが立ち入り禁止線っていう、かなり高度な魔法を使ってくれたおかげで虫達は鉢植の区画から出て来れないようになっている。

 そうなって居なかったら、アリスには申し訳ないけど鉢植をすべて廊下にほっぽり出していた。

 

「ハーブが育ったら、どうするの? フルーツの絵の所に持って行って、料理に使ってもらう?」

「それ、良いアイディアだわ。パスタに使ってもらって、三人で食べましょう!」

「わーい! 楽しみー」

 

 わたし達のハーブに対する愛情はグッとあがった。立派になーれ、美味しくなーれ!

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