「改めて自己紹介するね。わたし、レイチェル・ラインゴッド。いわゆるマグル生まれよ。あなたは?」
「アリス・アシュクロフトよ。わたしの場合、どっちなのかな? 一応、両親は魔法使いと魔女だったみたい。でも、物心つく前に母方の親戚に引き取られて、そこがマグルの家だったのよ。それからすぐにマグルの施設に入れられたから……」
自己紹介の内容が重過ぎて、受け止め切れるか不安になる。
「うーん。生まれは魔法族で、育ちはマグル生まれかな?」
「複雑なのね。魔法界の事はどのくらい知っているの? ホグワーツの事は前から知ってた?」
アリスは肩を竦めた。
「サッパリよ。なーんにも知らなかったわ。ポモーナが親切にいろいろ教えてくれたから、まったくの無知では無くなったけどね」
「ポモーナって、引率の先生?」
「そうよ。おっとり系の魔女だったわ。わたしって、本当になーんにも知らなかったから彼女を質問責めにしたの。だけど、ちーっとも怒らないですべてに答えてくれたわ。だから、わたしは魔女になるって決めたのよ。彼女のいる所は間違いなく素敵な場所だと思ったからね」
「いい人だったのね」
「うん。すっごく! レイチェルの方は? 引率の先生はどんな感じだったの?」
「ケトルバーンはちょっと胡散臭い雰囲気だったわ。でも、心配性なパパの……、パパの質問にキチンと応えてくれていたわ」
パパがいない子の前でパパの話をするのは躊躇われたけれど、気にしないでと言われたのに気にするのもどうかと思って、とりあえず言い切った。
「パパさん、あなたを愛しているのね」
「え?」
「だって、パパさんが心配したのはあなたの事でしょ? 愛しているからこそじゃない。羨ましいわ」
「……うん」
パパはわたしを心の底から愛している。その事に疑いの余地はない。
アリスの視線にその事を責める感情は一切見当たらないから、わたしは大きく頷いた。
「ねえ、ホグワーツには四つの寮があるって聞いたの」
「わたしも聞いたよ。グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンだよね」
「そうそう! 寮にはそれぞれ特色があるんだってさ。グリフィンドールは勇猛果敢な生徒が多く、レイブンクローは頭の良い生徒が多く、スリザリンは誇り高い人が多く、ハッフルパフは誠実な人が多いんだって!」
「そうなの? ケトルバーンはグリフィンドールをやんちゃな者が多くて、レイブンクローは頑固者が多くて、スリザリンは不健康が多くて、ハッフルパフはおっとりしてるって言ってたわよ」
「合わせてみると、グリフィンドールはやんちゃな勇者の寮。レイブンクローは頭のいい頑固者の寮。スリザリンは誇り高き不健康者の寮。ハッフルパフはおっとりしている誠実者の寮って事ね。うん。グリフィンドールかハッフルパフが良さそう」
「うーん、悪戯好きが多い寮とも言っていたからグリフィンドールは微妙かも。わたしはハッフルパフがいいなぁ」
「たしかに、おっとりは悪口として一番マイルドに感じるものね」
たしかに、ケトルバーンは悪口しか言ってない。
「ちなみにポモーナはハッフルパフの寮監なんだってさ」
「ハッフルパフ一択だね」
「結論が出てしまったわね」
ケトルバーンも面白い人ではあったけれど、ポモーナの方がお世話になる相手としては魅力的だ。
「そう言えば、アルフレッドって、オスなの?」
「うん」
「ほうほう」
アリスはアルフレッドの股の下を見ようとした。アルフレッドはしゃがみ込んで、大事な部分をガードした。
「アルフレッドは紳士なのよ」
「ちぇー」
唇を尖らせると、アリスはアベルを見た。
「それにしても、ペットが二匹とは豪勢ね。アベルもオス?」
「うん」
「ほうほう」
「ふくろうの股をみても何もないわよ」
「そうなの?」
「そうなのよ」
わたしも確認してみたけれど、フクロウにはないのだ。
「ちなみに、レイチェルって女の子?」
「この名前とこの見た目で男の子の可能性ある?」
「それはそれでちょっと興奮するわね」
「ちなみに、アリスは女の子?」
「するどい質問ね。どっちだと思う?」
これが意外と難しい。アリスは男の子の名前でもある。黒のショートヘアも相まって、とんでもない美少年である可能性が生まれてしまった。
「あなたはスカートを履いた美少年と見たわ」
「おや、バレてしまったか! いやぁ、こんなに可愛い子と一緒の空間を共有出来るなんて、オレはなんて幸せなんだ!」
芝居がかった風にそう言うアリスと見つめ合い、お互いにお腹を抱えて笑った。
「でも、実際にスカートを履いた男の子がいたら興奮するわよね」
「でも、パパがスカートを履いてたら微妙な気分になるから、顔は大事だと思うわ」
「それはそれで興奮するわ」
「アリス。あなたは器が広いのね」
そんな風に話していると、コンパートメントの扉がノックされた。
「お嬢さん達、お菓子はいかが? カボチャジュースもあるわよ」
「わお!」
「見せて見せて!」
アリスと一緒にワゴンの中を見せてもらうと、魅力的なお菓子がいっぱい並んでいた。
「カエルチョコレート?」
「うわっ、カエルの形なんだって!」
「これください!」
「はーい。飲み物はいるかしら?」
「ミルクで!」
「同じく!」
カエルチョコレートとミルクを買って、席に戻る。
「どれどれ」
包みを開くと、いきなりカエルが顔にへばりついた。
「……魔法界って、ユニークよね」
「絵が動くんだものね。カエル型のチョコレートだって動くわよね」
お互いにカエルチョコレートを顔に張り付かせたまま、わたし達はしばし寛いだ。
「ねえ、ちょっといいかしら!」
すると、いきなり扉が開いた。栗毛色の髪の女の子はわたし達を見てギョッとした表情を浮かべ、視線を逸らすと回れ右をした。
「どうしたの?」
「なになに?」
「……なんでもないわ。ごめんなさい。お邪魔したわね。さようなら」
去って行った。わたしとアリスはカエルチョコレートの背中同士を見合わせた。
「とりあえず、食べようか」
「そうね。食べたら痛がるかしら?」
「どうかな? 足からいってみようか」
食べ始めると、カエルチョコレートはイヤイヤという感じに体を動かした。
「一思いに頭を食べてあげましょう」
「わたしはもうちょっと堪能するわ」
慈悲深いわたしはトドメを差したけれど、アリスは胴体から咀嚼した。
アルフレッドは目を前足で覆った。アベルは首を傾げている。
「あれ? 包みにまだ何か入ってるわね。カードかしら」
「えっと、『有名な魔法使い・魔女のカード』が同梱されていますって書いてあるわね」
わたしはカードの絵柄を見た。
「『アーチボルド・アルダートン』。生年1568年、没年1623年。魔法で誕生日ケーキを作っている時にハンプシャーのリトル・ドロッピングという村を吹き飛ばした事で有名……」
「有名な悪党のカードの間違いじゃないの?」
誕生日ケーキをどう作ったら村一つ吹っ飛ばすのか全く見当がつかない。
「アリスのは?」
「えーっと、『ウィルフレッド・エルフィック』。生年1112年、没年1199年。エルンペントの角で突き刺された最初の魔法使い」
「有名な犠牲者のカードだったのね」
わたし達はカードをポケットに仕舞いこんだ。それからしばらく、ミルクを飲んでゆったりしていると再び扉が開いた。
「あ、あの……」
ポッチャリした男の子だ。雰囲気がパパに似ている。
「どうしたの?」
「カ、カエルを見なかったかな?」
「カエル? それなら、もう食べちゃったけど?」
「食べた!?」
男の子は大口を開けたままひっくり返って目を回してしまった。
「……果たして、彼はカエルチョコレートの事を言っていたのかしら? 謎は深まるのであった……」
「とりあえず、椅子に寝かせてあげましょう。わたし一人だと持ち上がらないから手伝ってよ」
「はーい」