レイチェル・ラインゴッドは魔女である。   作:冬月之雪猫

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第八話『ホグワーツ特急①』

「改めて自己紹介するね。わたし、レイチェル・ラインゴッド。いわゆるマグル生まれよ。あなたは?」

「アリス・アシュクロフトよ。わたしの場合、どっちなのかな? 一応、両親は魔法使いと魔女だったみたい。でも、物心つく前に母方の親戚に引き取られて、そこがマグルの家だったのよ。それからすぐにマグルの施設に入れられたから……」

 

 自己紹介の内容が重過ぎて、受け止め切れるか不安になる。

 

「うーん。生まれは魔法族で、育ちはマグル生まれかな?」

「複雑なのね。魔法界の事はどのくらい知っているの? ホグワーツの事は前から知ってた?」

 

 アリスは肩を竦めた。

 

「サッパリよ。なーんにも知らなかったわ。ポモーナが親切にいろいろ教えてくれたから、まったくの無知では無くなったけどね」

「ポモーナって、引率の先生?」

「そうよ。おっとり系の魔女だったわ。わたしって、本当になーんにも知らなかったから彼女を質問責めにしたの。だけど、ちーっとも怒らないですべてに答えてくれたわ。だから、わたしは魔女になるって決めたのよ。彼女のいる所は間違いなく素敵な場所だと思ったからね」

「いい人だったのね」

「うん。すっごく! レイチェルの方は? 引率の先生はどんな感じだったの?」

「ケトルバーンはちょっと胡散臭い雰囲気だったわ。でも、心配性なパパの……、パパの質問にキチンと応えてくれていたわ」

 

 パパがいない子の前でパパの話をするのは躊躇われたけれど、気にしないでと言われたのに気にするのもどうかと思って、とりあえず言い切った。

 

「パパさん、あなたを愛しているのね」

「え?」

「だって、パパさんが心配したのはあなたの事でしょ? 愛しているからこそじゃない。羨ましいわ」

「……うん」

 

 パパはわたしを心の底から愛している。その事に疑いの余地はない。

 アリスの視線にその事を責める感情は一切見当たらないから、わたしは大きく頷いた。

 

「ねえ、ホグワーツには四つの寮があるって聞いたの」

「わたしも聞いたよ。グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンだよね」

「そうそう! 寮にはそれぞれ特色があるんだってさ。グリフィンドールは勇猛果敢な生徒が多く、レイブンクローは頭の良い生徒が多く、スリザリンは誇り高い人が多く、ハッフルパフは誠実な人が多いんだって!」

「そうなの? ケトルバーンはグリフィンドールをやんちゃな者が多くて、レイブンクローは頑固者が多くて、スリザリンは不健康が多くて、ハッフルパフはおっとりしてるって言ってたわよ」

「合わせてみると、グリフィンドールはやんちゃな勇者の寮。レイブンクローは頭のいい頑固者の寮。スリザリンは誇り高き不健康者の寮。ハッフルパフはおっとりしている誠実者の寮って事ね。うん。グリフィンドールかハッフルパフが良さそう」

「うーん、悪戯好きが多い寮とも言っていたからグリフィンドールは微妙かも。わたしはハッフルパフがいいなぁ」

「たしかに、おっとりは悪口として一番マイルドに感じるものね」

 

 たしかに、ケトルバーンは悪口しか言ってない。

 

「ちなみにポモーナはハッフルパフの寮監なんだってさ」

「ハッフルパフ一択だね」

「結論が出てしまったわね」

 

 ケトルバーンも面白い人ではあったけれど、ポモーナの方がお世話になる相手としては魅力的だ。

 

「そう言えば、アルフレッドって、オスなの?」

「うん」

「ほうほう」

 

 アリスはアルフレッドの股の下を見ようとした。アルフレッドはしゃがみ込んで、大事な部分をガードした。

 

「アルフレッドは紳士なのよ」

「ちぇー」

 

 唇を尖らせると、アリスはアベルを見た。

 

「それにしても、ペットが二匹とは豪勢ね。アベルもオス?」

「うん」

「ほうほう」

「ふくろうの股をみても何もないわよ」

「そうなの?」

「そうなのよ」

 

 わたしも確認してみたけれど、フクロウにはないのだ。

 

「ちなみに、レイチェルって女の子?」

「この名前とこの見た目で男の子の可能性ある?」

「それはそれでちょっと興奮するわね」

「ちなみに、アリスは女の子?」

「するどい質問ね。どっちだと思う?」

 

 これが意外と難しい。アリスは男の子の名前でもある。黒のショートヘアも相まって、とんでもない美少年である可能性が生まれてしまった。

 

「あなたはスカートを履いた美少年と見たわ」

「おや、バレてしまったか! いやぁ、こんなに可愛い子と一緒の空間を共有出来るなんて、オレはなんて幸せなんだ!」

 

 芝居がかった風にそう言うアリスと見つめ合い、お互いにお腹を抱えて笑った。

 

「でも、実際にスカートを履いた男の子がいたら興奮するわよね」

「でも、パパがスカートを履いてたら微妙な気分になるから、顔は大事だと思うわ」

「それはそれで興奮するわ」

「アリス。あなたは器が広いのね」

 

 そんな風に話していると、コンパートメントの扉がノックされた。

 

「お嬢さん達、お菓子はいかが? カボチャジュースもあるわよ」

「わお!」

「見せて見せて!」

 

 アリスと一緒にワゴンの中を見せてもらうと、魅力的なお菓子がいっぱい並んでいた。

 

「カエルチョコレート?」

「うわっ、カエルの形なんだって!」

「これください!」

「はーい。飲み物はいるかしら?」

「ミルクで!」

「同じく!」

 

 カエルチョコレートとミルクを買って、席に戻る。

 

「どれどれ」

 

 包みを開くと、いきなりカエルが顔にへばりついた。

 

「……魔法界って、ユニークよね」

「絵が動くんだものね。カエル型のチョコレートだって動くわよね」

 

 お互いにカエルチョコレートを顔に張り付かせたまま、わたし達はしばし寛いだ。

 

「ねえ、ちょっといいかしら!」

 

 すると、いきなり扉が開いた。栗毛色の髪の女の子はわたし達を見てギョッとした表情を浮かべ、視線を逸らすと回れ右をした。

 

「どうしたの?」

「なになに?」

「……なんでもないわ。ごめんなさい。お邪魔したわね。さようなら」

 

 去って行った。わたしとアリスはカエルチョコレートの背中同士を見合わせた。

 

「とりあえず、食べようか」

「そうね。食べたら痛がるかしら?」

「どうかな? 足からいってみようか」

 

 食べ始めると、カエルチョコレートはイヤイヤという感じに体を動かした。

 

「一思いに頭を食べてあげましょう」

「わたしはもうちょっと堪能するわ」

 

 慈悲深いわたしはトドメを差したけれど、アリスは胴体から咀嚼した。

 アルフレッドは目を前足で覆った。アベルは首を傾げている。

 

「あれ? 包みにまだ何か入ってるわね。カードかしら」

「えっと、『有名な魔法使い・魔女のカード』が同梱されていますって書いてあるわね」

 

 わたしはカードの絵柄を見た。

 

「『アーチボルド・アルダートン』。生年1568年、没年1623年。魔法で誕生日ケーキを作っている時にハンプシャーのリトル・ドロッピングという村を吹き飛ばした事で有名……」

「有名な悪党のカードの間違いじゃないの?」

 

 誕生日ケーキをどう作ったら村一つ吹っ飛ばすのか全く見当がつかない。

 

「アリスのは?」

「えーっと、『ウィルフレッド・エルフィック』。生年1112年、没年1199年。エルンペントの角で突き刺された最初の魔法使い」

「有名な犠牲者のカードだったのね」

 

 わたし達はカードをポケットに仕舞いこんだ。それからしばらく、ミルクを飲んでゆったりしていると再び扉が開いた。

 

「あ、あの……」

 

 ポッチャリした男の子だ。雰囲気がパパに似ている。

 

「どうしたの?」

「カ、カエルを見なかったかな?」

「カエル? それなら、もう食べちゃったけど?」

「食べた!?」

 

 男の子は大口を開けたままひっくり返って目を回してしまった。

 

「……果たして、彼はカエルチョコレートの事を言っていたのかしら? 謎は深まるのであった……」

「とりあえず、椅子に寝かせてあげましょう。わたし一人だと持ち上がらないから手伝ってよ」

「はーい」

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