ここだけレグルスがねこと一緒にいて幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線です。よろしくおねがいします。   作:ねえ、おなまえは?

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こたつで丸くなりたい季節ですね、お身体に気をつけてください。ねこより。かしこ。


17話 ねこねこねこ!

 

婚姻の儀がめちゃくちゃになった教会にエミリアが戻ると"旦那様"の命令がない為、妻たちはただずっと、変わらずに立ち尽くしていた。

 

 

そんな妻たちと、真摯に向き合い、あなたたちの力を貸してください、あなたたちと、今、戦っている人を助けさせてくださいと頭を下げてお願いした。

 

 

そして、エミリアはひどく驚いた。

 

出てきたのは、レグルスに対するとめどない罵倒だった。

 

 

 

 

最初の一言は「……嫌い」というシンプルなものだった。

 

これまでされてきたことへの思いが、憎しみが、嫌悪感がどんどん伝播していく。

 

「私も、嫌い」「嫌いだった」「ずっと嫌だった」「嫌い、本当に嫌い」「どうかしてる」「頭がおかしい」「誰が好きになるの」「自分が好きなだけ」「頭の中で何回も拒んだ」「泣きたかった」「でもダメだった」「嫌い」「死ねばいいのに」「大っ嫌い」「嫌だ嫌だ嫌だ、本当に嫌」「目つきが嫌」「喋り方が嫌」「歩き方が嫌」「性格が嫌」「人間性が愛せない」「昨日より嫌い」「明日の方が嫌い」「気持ち悪い」「変態」「頭が子ども」「子ども以下」「地竜の方がマシ」「比較対象がない」「生理的に無理」「嫌い嫌い嫌い」「いつも吐き気がしてた」「殴って死んで、って何回も思った」「最悪」「最低すぎる」「一緒にいると反吐が出る」「触られると腐りそう」「心が死んでいく」「家族の仇」「無理やり連れ出されてどうして好きになるの?」「無自覚な悪意が信じられない」「苦しんで死んでほしい」「話が長くて回りくどい。一文字余計に喋るたびに死んでほしい」「腸が腐ればいいのに」「私の恋人を返して」「帰りたい、帰りたい……」「助けなんていいから、あいつを殺して」「ゲス野郎」「もう嫌、永遠に嫌!」「あれを好きになる女なんていないでしょ?」「男でもいないわよ」「あれを愛せる人間なんていない」

 

積み重なった思いを口々に、罵詈雑言を放つ。

 

最後に、シルフィがすっきりした様に言う。

 

「あんな男、大嫌いでした」「私たちにも協力させてください」

 

 

 

みんな耐えて、心を殺して、殺されない様にずっと我慢していたんだ。

許せない。と、心の底から湧き出る怒りをを感じて手に力を込める。

 

一刻も早く、彼女たちの為に、何とかしてあげたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、しん、と静寂を取り戻した中で、小さな呟きがこぼれ落ちる。

 

 

 

「……妹様。あの、優しい妹様は……ねこちゃんだけは、あのゲス野郎を大切にしていたわ」「そう、そうだった。あんなやつにすら、慈愛を持って接していたの」「あいつなんかにそんな事する必要なんて、そんな価値なんて無いのに」「あいつにはそんな事をしてもらう権利なんて無いのに」「ねこちゃんは私たちの話を聴いて、全部覚えていてくれた」「番号じゃなくて」「いつも名前で呼んでくれたの」「誕生日には私の好きな料理を作ってくれた」「外面だけ見て勝手に評価するクズとは違う。静かに話を聴いてくれて、私の内面を、すべてを受け止めて褒めてくれた」「旅先で食べた美味しい物を持って帰ってきてくれて」「みんなで食べたわね」「数少ない幸せな時間だった」「甘い、見たことの無い、好みにぴったりのお菓子を出してくれたわ。まるで魔法みたいに」「穏やかに、静かに、ねこちゃんが淹れてくれた紅茶を飲んで、みんなで一緒に食べるあの時間で何度救われた事か」「表情があまり変わらないけれど、でも嬉しい事があった時には微笑んで、尻尾がゆらゆら揺れていて」「そう、あいつの家族とは思えないほどねこちゃんの笑顔はとてもかわいらしかった」「世話係になる事が嬉しかった」「朝早く起きて料理の下準備をしてくださって」「大変な時にすぐに来てくれて、さっと解決してくれたわ」「どれだけ助けられたか分からないわ」「髪の毛をとくと気持ちよさそうな顔をされていて、耳がぱたぱたと動くの」「かわいい。私だって見たかった、うらやましい」「いつも花の甘い香りがして」「抱きしめて吸うと、気分が晴れるのよね」「みんなねこちゃんのこと吸っていたわね」「さりげない心遣いが癒しだった」「ねこちゃんって呼ぶと少し嬉しそうにされていて」「頭を撫でられると、気持ちよさそうにしていてとてもかわいらしくて」「ちょっとぼんやりしていらっしゃって、気まぐれな性格で」「そこがまた中身と見た目の違いがあって好きだったわ」「身長が高くて大人っぽいのに、ちょっと抜けている所がかわいらしくて」「誕生日を覚えていてくださって、いつも贈り物をくださった」「そう!不器用ながら、かならずお褒めの言葉が書いてあった」「いつも私たちの事をあの大きな目で見つめていてくれたのよ」「優しい手で、頭をなでてくれたわ」「何それ、うらやましい」「ケガをしてしまった時に治癒魔法とは違う、不思議な方法で治してくださった」「わたしが躓いたときに、優しく抱きかかえてくれて」「なにそれ私だって抱きしめられたい、抱きしめたい」「疲れた時にねこちゃんを吸うと花の甘くて落ち着く優しい香りがしました」「私だっていつでも吸いたい」「安心する香りなのよね」「純白なのよ、身も心も本当に」「クズの気持ちも尊重していたけれど、私たちの気持ちもいつだって考えてくれて」「あのクズが機嫌が悪くなった時にすぐに気が付いて機嫌をとってくださって」「それにみんな何度助けていただいた事か」「素敵な魔法を見せてくれました」「そう、かわいらしくて、誰も見た事のないふわふわした夢みたいな魔法を」「みんなの好きな物も苦手な物全部覚えてくださっていて」「旅から帰られた後は、みんなでお土産のお菓子や料理を食べました」「おいしいかったわ、ねこちゃんにもどうぞってすると、手からあむ、って食べてくれて」「かわいすぎる」「みんなの舌に合うか分からないけれどって少しそわそわする姿がかわいくて」「ねこちゃんから貰える物なんて何でも嬉しくて」「姿を見るたびに尊すぎて死ぬかと思いました」「優雅な動作で美しかった」「あのクズを愛していて、頭を撫でてもらってふにゃりとした顔をしていて」「私たちが撫でたいのよ、クズが、厚かましい」「旅先であった事を、知った事を、ぽつぽつと聞かせてくれた」「ねこちゃんが居る時だけ私たちは人間でいる事が出来た」「私たちらしくいていいのだと、そう言ってくれた」「仕草の一つ一つが洗練されていて素敵だった」「おとなしい方で、よく部屋で本を読まれていた」「何でも知りたがって、表情は変わらなくても尻尾をゆるゆると振っていて」「かわいい」「本当に静かで、穏やかな方だった」「小さく呟く綺麗な声で、話しかけてくれた」「あのゲス野郎の家族だなんて考えられない」「烏滸がましい」「その通りよ」「あの小さくて無機質だけれど優しさが、慈愛が含まれた声が好きでした」「思わず涙が出てしまった時に柔らかく包み込んでくれた」「身も心も温かくて、優しかった」「よりによってなんであのクズの家族なんだろう」「私の妹でいてくれたらいいのに」「ずるいわ、私だってねこちゃんが妹に欲しい」「私だっていつも思っていたわ」「甘やかして、かわいがってさしあげたかった」「私たちにそうしてくれた」「あのクズが家族だなんて、私なら死んだほうがマシ」「それなのにねこちゃんはあいつにすら愛を持って接していた」「あのクズが見せつける様にねこちゃんの頭、撫でているのを見たことがある?」「は?クズ、ねこちゃんに触るな」「ねこちゃんの体がお前の手が触れたところから腐り落ちるかもしれないだろうが」「不潔」「清めなくちゃ」「穢れる」「私たちで上書きしないと」「私たちの方が優しく、沢山撫でていたわよ」「そうね」「ねこちゃん、嬉しそうだった」「あんなクソ野郎なのに、とてもよく懐いていて」「あいつ、私たちに自慢する様に妹様と関わっていたわ」「私たちを機嫌一つで殺すから、祈ってくれるのはねこちゃんだけだった」「あのクズ、ねこちゃんが断れないって分かっていて事もあろうか死んでしまった子の処理を頼んでいるのを聞いた事があるわ」「クズは人の心が欠如しているのよ」「他の子たちが死んでいってしまった事に悲しんで、丁寧に祈ってくださった事を知っている」「ねこちゃんの隣に居るべきなのは私たちなのに」「私たちのねこちゃんなのに!」「私たちだけに特別優しくしてくれたのよ!!!」「ねこちゃんが、居てくれたから、あぁ生きているって安心させてくれた」「でも、でもねこちゃんは本当にいい子だから」「クズ野郎が死んでも、私たちが死んでしまっても、きっと悲しむわ」「あの大きな瞳から涙が出る所を想像したく無い」「どうしよう、私たちはねこちゃんが悲しむ所を見たくない」

 

 

 

エミリアはすごく、すごーく困惑した。

 

妻たちから溢れてくる突然のねこちゃん、さん?に対するすさまじい感情の波、深い愛情を感じた。

 

 

 

えっと、妹様って言っていたし、その、ねこちゃんって子はレグルスの家族って事よね?

みんなは、あのレグルスの妹さんの事をこんなに愛しんで、かけがえのない存在だって、そう思っているの?

 

私には、分からなかった。

 

レグルスは彼女たちを妻にする時に何の罪のない村人や家族の命をも簡単に奪ったと言っていた。

それは決して赦せない残忍極まりない最低な行為。

 

 

けれど、私が今からする事は、相手がいくらあの常識がまるで通じない自分勝手で傲慢なレグルスであったとしても、レグルスを殺してしまう事は、その、優しいと愛されている妹さんの家族の命を、奪う事になってしまう。

 

 

 

 

エミリアは自分の判断が、これで正しのか、もっとよい方法があるのではないか分からなかった。

 

 

 

スバルならもっともっといい方法を思いつくのではないだろうか。

 

スバルならきっと、スバルが居てくれたら…でも、スバルは私を信頼して託してくれたのだから、自分で考えないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、レグルスの妹さんが、大切に思っている家族が殺されてしまったと知った時、私は、私は彼女にどんな顔をすればいいのだろう……何と声を掛けたらいいんだろう。

 

レグルスの事を考えて、花嫁さんたちを思って、妹さんを思って、でもやっぱり花嫁さんたちはレグルスから、その呪縛から解放されるべきで、レグルスは赦せなくて……と思考が纏まらず、終わりなく循環する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び静まり返った教会内に、また、1つの声が小さく響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも」

 

 

 

「あいつのせいで、ねこちゃんが嫌な思いをするかもしれないって思うととても苦しい」「あいつが生きているって事実だけでほんの少しでも辛い思いをするかもしれないと思うと胸が痛む」「あぁ、本当に辛い」「そうよね」「そんな仕打ち酷すぎる」「そもそもねこちゃんを家族っていうだけで自分勝手に縛り付けていたんじゃない?」「そんな事、考えるだけで反吐が出る」「自由を奪う事を自分の家族にもやっているなんて」「まずあいつとねこちゃんが家族だっていう事自体、おかしいのよ」「そんな事実は無かった事になって欲しい」「あのクズ、妹さまにこんなに懐かれていますよって、1番大切にされて、誰よりも尊敬されていて、頼りにされているのは僕なんだって自分勝手に想像して振る舞って本当に馬鹿みたい!」「私たちに向けて自慢げな顔をしてねこちゃんと接している所を見せつけてきて」「ねこちゃんが優しくて、それを利用しただけじゃない」「人間性が根底から穢らわしいのよ」「ねこちゃんにご飯やお菓子を食べさせてもらう時のあのクズ顔、思い出すだけで癪に触るわ」「こんなにしてもらえるのは自分だけの特権で、幸福でたまらない、っていう態度。クズが、腹が立つ」「本当に頭が幼稚なのよ、馬鹿らしい」「ねこちゃんに余計な負担をかけるな」「妹様に関わるな」「大切にされているんだって、それしか能が無いかのように見せつけてきて」「ねこちゃんの事を1番分かっているのは私たちの方なのに」「ねこちゃんが1番分かってくれているのは私たちの方なのに」「どこまでも恥晒しな事しか言えないし出来ないクズが」「度し難いわ」「アレの頭が絶望的にお花畑なのは確実ね」「ねこちゃんの本当の優しさを受けていたのは私たちの方なのに」「ねこちゃんだってあの男が居ない方が、きっと自由に生きられるわ」「あのクズが居ない方がいいに決まっているのよ」「アレの家族だっていう枷から解放されて、今よりもっと笑顔になる事が出来る」「そうよ、可哀想!」「そうよね」「そうに決まっている!」「そうに違いないわ」「だからこれでいいのよ」「そう、これがみんなの幸せなのよ」

 

次々に妻たちから大きな声があがる。

 

 

 

そう、なのだろうか。

 

 

 

でも、レグルスによる彼女たちの自由を奪う、罰、死の恐怖を乗り越えようと勇気を出して、本心を吐き出せる様になった彼女たちがそこまで、そう、そんな風に言えるのなら、きっと、本当にそう思っている事なのだろう。

 

それが、妹さんにも、彼女たちにとってもいい事、なのだろう。

 

 

 

 

 

花嫁たちの手にガラス片があった。

 

各々の手に握られたステンドグラスの、キラキラと反射する色が彼女たちの覚悟を、これから行うレグルスへの精一杯の反抗を反映する様に輝きを強める。

 

 

 

 

シルフィが、妻たちが全員ガラス片で首を突き刺そうとするのを、エミリアが制する。

 

 

「私が、あなたたちの鼓動を止めるわ。――そんなもので喉を突いても簡単に楽にはなれないから」

 

 

 

エミリアの周りに、教会内に、青い雪が静かに降り積もっていく。

 

それは、凍える様な冷たさを伴って、白い結晶へと変わっていく。

 

 

「―――ごめんなさい、こんな方法しかなくて」

 

スバルならもっと良い案を思いついたのかな。

 

 

 

最善を尽くせているのか、今この瞬間にも悩んで、苦しい表情を浮かべたエミリアに、安心した顔の妻たちは口を揃えて最後に言った。

 

 

「謝らないで。ありがとう」

 

「最期にねこちゃんの事、撫でたかったなぁ」

 

彼女たちは、笑顔だった。

 

そして、教会は一瞬の後、燦然と光る氷に包まれた。

 

 

 

 

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