ここだけレグルスがねこと一緒にいて幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線です。よろしくおねがいします。 作:ねえ、おなまえは?
考える間もなく派手に吹っ飛ばされる。
痛みと衝撃に耐えながら、考える。
なんで、なんでなんでなんで……!
こんな奴らが、どうやって"強欲"の権能を!
僕の権利を!
なめぷ、とか何とか、ナツキ・スバルが何を言っているのか意味が分からなかったが、馬鹿にされている事は理解できた。
人様の事をこけにしやがって。
クソ、と思う間もなくエミリアの蹴りが腹に直撃する。
「最初の花嫁さんたちの分、ちゃんと当たってあげて」
「ふざ……けるな!!!」
言い終わる直前にエミリアがレグルスの顔面を殴打し始める。
うりゃ、うりゃ!というかわいい声とは比較にならない、花嫁たちの重い思いをのせた強烈な打撃が一発、また一発と繰り返される。
顔がアザだらけになり、パンパンに腫れ、元の顔が見る影も無くなっていく。
殴打を続けながら言う。
「貴方、全然愛されていなかったわよ。貴方のお嫁さんたち、ひどく怒っていたもの」
「貴方の妹さんが聞いたらきっと悲しむでしょうね」
痛みの中聞こえた言葉に思考が停止する。
は……?妹……?
はぁああぁああぁあ!!!???
「この浮気女ごときが!!!僕の大切な家族の事を!妹の事を!!喋るな!!!!人の妹の事を勝手に考えるんじゃない!その空っぽの頭で考えるな!お前にはその権利がない!!!やめろ!!そうやって妹の事を何もかも決めつけるな!!穢らわしいこのクソ浮気女がぁ!!お前ごときが僕たち事を分かる訳がないのに、分かっていないくせに!さも妹の事を理解した風に口を―――」
ペラペラとよく喋る口を黙らせる様にまた一発、顔に拳を打ち込む。
「言ったわよね、私すごーく怒ってるって。妹さんは貴方と違ってお嫁さんたちからとても大切に思われていたわ。優しかったって。貴方とは似ても似つかない様な、心優しい穏やかな慈悲深い人だったのでしょうね」
53発。
綺麗に、残った花嫁分の殴打を打ち込み終えたエミリアがレグルスに軽蔑した目を向ける。
状況は、誰がどう見ても逆転している。
レグルスは焦っていた。権能があったから、これまでの人生でここまで追い詰められた経験なんて無かった。
「あ、あのさぁ……!卑怯だと思わないのかなぁ!?」
「2人がかりで1人をいたぶるような真似して心が痛まないわけ?それって人として大事な部分がどうかしちゃってるんじゃないの?そんな自分達に疑問とかないのかなぁ。あって当然だよねぇ!?」と惨めに叫ぶ。
騎士が戦うのが道理だ、と主張し、話に乗ってきたスバルを心の中で嘲笑う。
まずはこいつから殺して――
スバルは信頼した声で、言い放つ。
「だから――またになっちまうが、最後は任せる」
レグルスはスバルが言っている事が理解出来なかった。
任せるもなにも、お前の他に誰も居ないじゃないか。
スバルの言葉は彼に向けられたものではない。
『彼』に向けたものだ。
「ああ、わかったよ。――挑まれた一騎打ち、騎士として受けよう」
空の彼方から地上に舞い戻る。
烈火の中から剣聖、ラインハルトが余裕の表情で現れる。
投げ飛ばしたはずの空から、帰って来たのだ。
「バカな、空のかなたまで……ど……どうやって……」
レグルスは驚愕の表情を浮かべる。
ありえない。
そんなこと、だって、ありえない。
ありえるはずがないんだから。
「確かに、あれには困らされたよ。ただ、君は1つだけ間違えたね」
「僕を月に向かって投げるべきじゃなかった」
意味が分からない。
月から戻って来たっていうのか!?思考が、追いつかない。
ラインハルトが名乗りをあげているが、そんな事、気に留める暇もなかった。
こんな理不尽な事が、あるはずがない、あっていい訳がない!!
ま、待て、待て、待て!こんなのおかしいだろ!と叫ぶがその願いは聞き届けられない。
ラインハルトの強烈な一撃によって上空へと打ち上げられる瞬間、とっさに獅子の心臓を使うが、安心する間なんて無い。
吹っ飛ばされた衝撃で視界が回る。
痛い、痛い、痛い、身体中が痛みによって悲鳴をあげている。
どうなっている、混乱と痛みが相まって息がうまくできない。
ありえない、ありえない、ありえない。
何で僕がこんな目に遭わなきゃならないんだよ!
僕は魔女教大罪司教"強欲"担当、レグルス ・コルニアスだ!!!この世で最も満たされていて最も個として完成された心身ともに揺らぐ余地のない存在!僕は悪く無い!何も悪く無い!お前らが悪いんだ!!!お前らが僕を哀れんでかわいそうがって……笑い声が聞こえる。僕を見ているだろう!僕を見て笑ったんだろう!!僕の何がおかしい!?僕の何を見て笑った!?ヘラヘラと笑うな!
僕の最初の妻はそんな事をしなかった。
僕の妻は綺麗な顔をして、僕に、僕とねこに微笑んでくれた!
馬鹿な言葉しか吐けない妻の家族を殺して、見下してきて、憐れんで、ずっと馬鹿にしてきた家族を、村人を殺して、町を、国を落とした時も、あの国でねこを見つけた時も、妻に言い寄る馬鹿どもをみんな殺して、それで、3人でお茶を飲みながら話をしたり、ねこの作った美味しい物を食べたり、出掛けたり、どんなに些細な事でも、どんなに辛い時でも、彼女は3人で過ごせる事が幸せなのと、嬉しそうに笑ってくれた。
他の妻は笑わなくていい。
笑う必要がない。
笑う価値がない。
笑わなくていいんだ。
だがなんで、彼女以外の他の奴らは、どうして最期の瞬間にだけ僕を哀れな様に、嬉しそうに"嗤う"んだ!
彼女の、あの最期の、覚悟を秘めた明るい声と、僕たちへの愛を込めた、また逢える事を本心から願う、純粋無垢な、満足して、満たされて逝った、心からの最高の"笑顔"とは似ても似つかない顔で!
自分が死ぬ事で、死ぬ事によって僕が、僕だけが独りだけ残されて、僕が独りきりになるのを自業自得だと、嘲る様に、一等嬉しそうに、いい気味だなんて、やっと解放されたかの様に嗤うんだ!
ふざけるな!!!
僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない……!
とてつもない勢いで空へ落ち続けていくその背中にズシリと重さを感じる。
「本来の決闘であれば、戦う意志をなくした時点で僕も剣を引くところだけどね」
ラインハルトが、レグルスの背に立って、悠然と語る。
「バ、ケモノめ……」
「そうだね。僕は化け物を狩る化け物。君も運命を受け入れるときだ」
死ぬ。
死が、確実な死が来る。
いや、そんなはずない、僕は完璧で完全で満たされているんだ、死ぬはずがない、違う、嫌だ、死にたくない、死が来る、死が怖い、死ぬなんて、死が、これから来る死を避けられるはずがない、どうしてこんな事に!!!
助けを求め、死を恐れ、ぎゅっと縮こまった手が無意識に首元の銀のベルに触れた。
そうだ、そうだった、ねこ、ねこなら、僕を、助けてくれる、頼む、助けて、
ぎゅうっと握りしめたベルから、空に、優しい鐘が鳴る音が響き渡る。
精神の限界まで死の脅威に迫られたレグルスは、痛みに呻きながら、死を恐れながら、悲痛な声で、救いを求める祈りを込めて、無様に空に向かって叫んだ。
「ねこ!!!僕に、手を貸せ!!!!」
忙しいこの時期、ねこの手を借りたくなる時も、ありますよね。