ここだけレグルスがねこと一緒にいて幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線です。よろしくおねがいします。 作:ねえ、おなまえは?
そして"私"は生まれました。
ざわざわと人の声がして、意識が水から浮き上がるように"こちら"へ戻って来ます。
薄く開いた瞼から、ゆるりと瞳だけ動かして、自分の手を見ると小さな手が目に入りました。
どういうことだろう。
"わたし"は、確かにあの時死にました。
それは変えられない、変えたく無い事実です。
私は、どうやら死産でこの世に生まれたみたいです。
ふわふわした思考で、これが噂に聞く、転生だ、でも、死んでいる転生なんて聞いた事がないなぁと、思いながら私はうっすら開いた目でぼうっと見ていました。
私の体は冷えきっていて、心臓も動いていませんでした。
父と母は泣いていて、産婆たちも、どうしようもないといった表情を浮かべていました。
長いこと沈黙が続きましたが、誰かが、奥さん、旦那さん、残念だがもうこの子は駄目だ、諦めよう、と言って本当なら私が浸かる予定だった温かい湯が張られた大きな木桶を外に出て、ざばりとひっくり返して空にしました。
産後で疲れているだろうけれど、すぐに葬儀の準備をするよ、そうした方が、あんたたちにも、この子にとっても良いだろうからね、こういうのは忘れてしまうのが1番だ。さあ、最後に顔を見てあげて、と私を2人の前に差し出しました。
冷め切った体温の無い私の顔に触れて、ごめんね、ごめんね、と悲痛な叫びを繰り返す声がします。
あ、このままだと焼かれるか、土に埋められてしまう、それは嫌だなぁ、と思いました。
だから私は、母が泣いて叫んでいるのを真似しました。横隔膜を下へぐっと移動させて、肺に空気を取り込んで、息を吸って、息を吐き出す時に声帯を震わせてみると、それは赤子が泣く声としてたまたま上手く出来たのでした。
完全に死んでいた赤子が、急に泣き始めた事に周りがざわつきます。
何をやっても、手を尽くしても体が冷たくなってしまっていて、呼吸もしていなくて、心臓も動いていない事をみんなが確認していましたから、驚くのは当然の事です。
私は、驚いた母の手からベッドへ落とされてしまいました。
母が、父が、周りの人たちが悲鳴を上げます。
沢山の人が私を見ます。みんなが畏怖の目で私を見ます。
私も、じっと見つめ返しました。
確かに死んでいたはずだ、何度も確かめた!!!おそろしい、ば、化け物だ、化け物だ……!と誰かが言いました。
酷い事を言います、失礼です、確かにさっきまで生命活動はしていませんでしたが、生きていましたから。
側から見たら死体が動いているのでしょう、でも私は居ます。ここに居ます。
騒然としていた部屋は暫くして、静かになりました。
私の事を落とした母が、私を抱き上げます。私を見つめました。
私も見つめ返しました。
母は、落ち着きを取り戻した様で、私の頭を撫でて、涙を流して、涙の粒が顔に当たります。この子は、生きています、だから、責任を持って育てます。と周りの人たちに言いました。
父も、そうだね、そうだね、と言い、母の背中をさすっていました。
周りの人たちは、とても悍ましいものを見る目をしながら、あんたたちがいいなら、それでいいさ、勝手にする事だねと言い捨てて部屋から出て行きました。
私たちは村の中ではなく、少し森に入った所にある使われなくなった家に住まわせてもらう事になり、それから、私はお外に出てはいけないよ、と言われて家の中だけで生活する事になりました。
死んだ子供が生き返った、という事だけで悪目立ちするのに、それ以上波風をたてたくなかったのでしょう。
小さな村では、村八分に合うと生きづらくなります、ただでさえ、旅の途中で産気づいたからとはいえ、流れ者として何処の誰とも分からない者を一時的に受け入れてもらっている身の両親でしたから、仕方が無かったと思います。
多分、私がある程度大きくなるまで、村に居て良いと言われたのでしょう。
私はそうして、家の中で何年か過ごしました。
読み書きを教えてもらって、父と母と質素な食事を摂って、お話を聴かせてもらって、本を夢中になって読んでいたので、外に出られないなんてあまり気になりませんでした。
いつも通り過ごしていたある日、あっけなく日常が壊れました。
家が身の丈ほどある獣に襲われて、バラバラに壊されて、父と母が死んでしまったのです。
私だけが助かりました。
父と母を噛み砕こうとする獣の姿が、スローモーションの様に見えて、私は必死に両親に手を伸ばして、突き飛ばそうとしました。
絶対に間に合わない事など、分かっていましたが、間に合って、と強く、とても強く願いました。
そうしたら私の腕がちぎれて、飛んで行って、2人をどん、と突き飛ばしたのです。
理解が追いつかない中、それでも、それくらいでは、やっぱりどうにもならなくて、2人とも食い殺されて、死んでしまいました。
腕がちぎれたことなど、何も無かったかの様に腕は再生していて、私は何かおかしいんだなぁと思いましたが、そんな事より両親が亡くなってしまったことに心を裂かれました。
次は私の番か、と思っていると、獣は私の事をまるで恐れる様に低く唸った後、多分、気まぐれで私だけ襲わずに去って行きました。
それを見ていた村の人たちが居ました。
大きな音や、叫び声がしていたから、当然です。
でも、私は目の前で起きた事を整理する事だけでやっとで、それに気付くことなんて出来ませんでした。
家がバラバラに壊されてしまって、両親が亡くなってしまって、私は、手で柔らかい土を掘り返して、浅い穴に幾つかの肉の欠片になってしまった2人を埋めてお花を供えました。
夜、行く場所なんてなくて、家があった場所で木に寄りかかって寝ようとしている私の所へ村の人たちが松明を持って集まってきました。
ゆらゆら揺れる灯りが眩しくて目を細める私に言います。
見たぞ、確かに見た。
お前の腕がちぎれて、それで再生する所を。
親が目の前で殺されても、表情1つ変えなかった。
お前は化け物だ。間違いない。
そもそも生まれた時からおかしかったんだ、あの時処分しておけば良かったんだ。流れ者の厄介な奴らが居なくなったのは良いが、お前がまだ居る。
殺そうとしても、再生して死なないだろう、いや、首を落とせば死ぬのか?
分からない、我々の脅威になるかもしれない。
だから対処する必要がある。
着いて来い、これからお前を新しい家へ連れて行ってやる。
私は、それを伝えに来た村の人たちの言葉をじっと聞いていました。
ロープで後ろ手にぐるぐる巻きにされて、まるで大罪人が連行される様に夜の村を歩かされます。
家々の中から沢山の視線を感じます。
ずいぶん歩いて、村の端の端にある、放置されて長いであろうボロボロの木造の小屋にドンっと突き飛ばされて入れられました。
手が縛られているので受け身も取れずに顔を強かに打ち付け、入り口の方を、村の人たちの方を見る様に床に転びました。
無抵抗で、声1つあげない私を、気味悪がった村の人が見ます。その手には頑丈そうな鎖や、錠の様なものが沢山握られていました。
新しい家を用意してやったこと、殺されずに済んだこと、感謝するんだな、化け物が。忌々しい。
吐き捨てる様に口々に言いたい放題言って、扉を閉めて、ガチャリ、ガチャリと鍵を何重にも出て来られない様に掛けて足音は遠ざかっていきました。
ずりずりと這いずる様にして、体を起こしてみると、本当に小さな小屋で、中央に石造りの井戸がありました。それだけがぽつん、とありました。
井戸を覗くと、深く深く、とても深く暗い中に底が見えました。
水は張っていなくて、枯れ井戸でした。
うっかり身を乗り出しすぎて、井戸の中へ落ちて全身を打ち付けました。
痛いです。
どうしましょう。
こんな高さ、登れないです。
でも、良い事もありました。
落ちた先の壁に鋭い石の欠片が突き出ていたので、そこへ腕を縛っているロープをじょり、じょり、と少しずつ擦り合わせて、ずいぶん時間がかかりましたが、なんとか切ることができて、自由になりました。
いえ、小屋に、監禁というか、ありたいていに言うと"処分"されてしまったので、自由では無いのですが。
まだ幼い子供を、縛って、食べ物も、飲み物も何も無い所へ鍵を掛けて監禁して、それは、もう死ねという事で、自分たちで手を下したわけでは無くても、殺したも同然です。
ロープが強く食い込んでいたので、手首に血が滲んでひりひりしていましたが、すぐに血は止まりました。
そのまま井戸の内壁に寄りかかって座ります。
疲れました。とても、疲れました。
家族も失って、住む所も思い出も、何も無くなって、酷く疲れました。
あぁ、こんな事なら、自由気ままに過ごす、ねこにでもなりたいなぁ、と思って死んだ様に眠りに落ちました。
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SCP-650-JP『人でなし、でく人形』
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SCP-650-JPによる陳述
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