ここだけレグルスがねこと一緒にいて幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線です。よろしくおねがいします。   作:ねえ、おなまえは?

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8話 クソみたいな話

 

レグルスは初めて亜人という者を見た。

それは、全身純白の人で、暴行を加えられて赤い血が飛び散る様は、その人と美しい花畑にはまったく似つかわしくないクソみたいな光景だった。

 

生きているというだけで、差別して、見下し、人間未満の扱いをする馬鹿どもが赦せなかった。化け物はお前らの方だろうが。

 

だから割って入った。

 

彼女も同じ気持ちだった。

 

そこからは嘘みたいな、現実味の無い事が次々に起こった。

低俗な反応を返す事しか出来ない奴らが、急に呆けた様な、ぼうっとした表情になり、瞬きをする間に1人、また1人と消えていったのだ。

それを彼女がやったのは一目瞭然だった。

 

 

 

彼女は、血まみれのまま体を起こして、自己紹介と感謝の言葉を消え入りそうな小さな声で伝えた。

こんな状態になっても、律儀にそうする彼女に一種の美徳と畏怖すら覚えた。

 

 

見た事の無い物が彼女の近くに現れて、ぎゅるんと回る。

 

彼女が何か呟くと、だくだくと流れていた血が止まり、アザが引いていった。

回復魔法を使えるのかと思ったら、魔法がある事すら知らないと言う。

 

嘘をついている様子ではなく、魔法がある事が信じられないといった様子だった。

 

 

 

信じられない。

 

 

本当に何十年も閉じ込められていて、人間扱いすらされずにいる者が居たなんて。

 

村の馬鹿どもは、とくに彼女を監禁したであろう年寄りどもはこんな非人道的行為を平然とやっていたのか。

 

彼女が村人に憎悪を抱くのは当然の権利だ。

 

それなのに、彼女は恨み言1つ言わずに、自分の事など忘れて帰る様に、と、何も気にしていない様子で僕たちを帰してくれた。

 

 

その後も、彼女の事が気になって、2人で様子を見に行って、そこから交流が始まった。

 

 

 

物静かな人だった。

見たこともない様な菓子や美味しい飲み物をくれて、一緒に飲んだり、美しい景色や不思議な物を沢山見せてくれた。

 

背は高くて、大人びているのに、僕や彼女が頭を撫でると喜んでいる様で、まるで子供みたいだな、と思った。

 

優しい人だった。

優しくされるなんて、自己満足の塊で、上から目線でしかなく、弱者にやってあげている自分に酔う行為だと思っている。

 

でも、彼女は違った。

ぼくたちに関心があるのか、無関心なのか分からない様子でぼんやりしていて、それでいて気まぐれに、何も考えずに自然に優しくしてくれた。

それが、他者から優しくされて見下されるあの感覚が無くて、不思議と心地良かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頻繁に森の奥へ入っていく2人を心配した大人の人が、2人の後をこっそりとつけていたのだそうです。

 

そうして2人と居るねこの姿を見ました。

 

ねこも、2人も、気が付きませんでした。

 

大人の人は慌てて、村中の男の人たちを集めて、ぼろぼろの小屋へ向かいました。

当然、ねこは居ません。

そして、ねこがあの時の化け物であると決定付けた様です。

 

そうですね、たしかに、当たっています。

 

 

 

2人が帰った後のまだ少し明るい夕暮れ、ねこは花畑の真ん中で寝転んでいました。

耳がぴくりと動きます。

 

ざわざわと大勢の人の声と、足音がします。

嫌な予感がしました、そしてそれはすぐに現実になりました。

ねこの周りを囲う様に松明と、鎌や鍬なんかを持った大人の人が沢山取り囲みました。

 

子供を誑かして、逃げ出した化け物だ、顔を覚えているぞ、間違いない、こいつだ、あの時の化け物だと煩い声で騒ぎます。

 

ねこはあっという間に取り押さえられて、ろーぷで縛り上げられて、村の広場に連れて来られました。村の人たちがみんな集まって来ました。

ねこを上から押さえつけて、みじろぎひとつ出来ません。

 

村長の人が言います。

 

「こいつは何十年も前から我が村を脅やかしてきた恐ろしい怪物だ。顔色一つ変えずに魔獣をけしかけて襲わせて両親を殺して、ちぎれた腕も戻る様な脅威的な再生能力がある。だからこそ我々に危害を加える前に封じたのだ!だが封じていた小屋から逃げ出して、子供たちを誑かしていたのを見つけた。今まで人死が出ていなかった事は奇跡に近い。だが、もう化け物に怯える必要は無い!話の通じない化け物は死んで当然だ、首を落とせば流石の化け物も死ぬだろう!昔は恩情をかけて止めておいてやったが、外に出たとなるともはや処刑しなければいけない。皆のもの!安心して欲しい。今ここで我々が処刑を行う!」

 

 

魔獣をけしかけて両親を殺してなんていません。どうして嘘を言うのですか。

 

村を脅やかしてなんていません。勝手にあなたたちが恐れただけです。

 

子供たちを誑かしてなんていません。れぐるすたちとの時間は何にも変え難いとても幸せな時間でした。

 

 

 

そうやって勝手に決めつけて、ねこを居ないものにしようとするなんて赦せません。

 

がりがりと地面を削る音がしました。

 

見ると、大きな剣を持った大人の人がこっちに向かって来ています。

 

あ、ねこ、ねこを、ねこの事を殺す気ですか、そうですか。

 

 

 

 

 

 

 

ねこは、ねこは。

 

 

あの不死身の怪物のとかげや、あべるの力を借りて暴れなくてはいけないのかなと思いました。

ほーむらん量産法で頭をふっとばす、とか、相手を喰み続ける緋色の鳥も思い浮かびます。

大人たちを砂ねずみに変えてしまおうか、とも考えました。

 

殺されるのは困ります、だから、正当防衛です。

自分が死んでしまう事と、彼らが死んでしまう事と、天秤にかけて殺すのは、殺される覚悟のある奴だけですそう言い聞かせます。

 

ですが、そうは、頭で思えても、実際には心がついていけませんでした。

前の相手は子供だったから、とか、今回は大人だから、とか、そんな事は関係ありません。

 

 

 

だって、見てしまいましたから。

あの2人が、殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!と騒ぐ大人たちに紛れて、こちらを驚愕した表情で見ているのを。

 

ねこは見ました。

2人もねこを見ていました。

 

 

 

昔にした約束を思い出しました。

ねこの、ねこたちの力は2人の為に使う。

 

そんな2人の前で、誰かを殺してしまうなんて、ねこには、出来ないなぁ、と思いました。

子供たちに殺されかけて、あの2人に会っていなければもしかしたら、やってしまっていたかもしれません。

 

 

 

ねこは、"私"の力を使えば、首を切られても、どうにかなることを祈って、それで、目を伏せました。

 

大人の人たちの声に混じって、大きな声が聞こえます。

 

あぁ、れぐるすの声です。

 

「あのさぁ!待てって何回言ったら分かるんだ!?そいつが何をしたって言うんだよ!僕も彼女も何もされていない!ただ普通に過ごしていただけだ、それを勝手に侵害してきたのはお前たちの方だろ!?あんな小屋に何十年も閉じ込めて、そいつはいつでも出ようと思えば出て来れたしお前たちを恨んで憎んで殺そうと思えばいつでも殺せたんだ、でもそんなことしなかった、恨んでもいなければ憎んでもいない、ずっと人間未満の扱いをされてきたっていうのに、お前たちに何も思っていなかったんだ、馬鹿な奴らがそいつをボコボコに殴って、殺そうとした時だって、反撃の1つすらしなかったんだぞ!?それを何?村を何十年も脅やかしてきた?だから殺す?そもそも元から話が違うじゃないか、魔獣をけしかけて親を殺しただとか、普通に考えてみなよ!そうする理由も無ければ、そんな力も無いし、そもそもそんな事を考える様な人じゃない!まったく馬鹿みたいな話だ、だったら今この瞬間だって魔獣を呼んでここに居る奴らを皆んな殺させるだろう、破綻しているよ!話にならない、とにかく止めるんだ!お前らも、それを見過ごせる奴らも、あり得ない、彼女が普通に、穏やかに暮らすという最低限の権利すら奪い去るって言うのか!?」

 

「そうです、その人は、私たちに何もしていません、私たちの意思で一緒に居たんです。化け物だなんて言葉を使わないで!穏やかで優しい人なの、だからどうか止めてください!話し合いが出来るのだから、そうした方が良いとどうして皆んなそう思わないんですか!?」

 

彼女も、聴いた事がない悲痛で大きな声をあげています。

 

 

 

「ほらみろ!こうやって無害を装って誑かしていたんだ!醜い人間未満の化け物が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、れぐるすも、彼女も、優しいなぁ。

 

 

ねこは、ねこは。

 

 

……それでもやっぱりねこには出来ませんでした。

それをやったら本当の意味で、身も心も化け物になってしまうと、思ってしまったのです。

 

心までSCPらしく、相手のことなんて何にも気にしない風に改変されていれば良かったのにな、と思いました。

 

でも、そうしたらあの2人との素敵な時間は過ごせなかっただろうからなぁ。

 

すぐ近くまで、ねこを殺す剣を持った大人の人が来ていました。

もし上手くいかなくても、ねこの命は9つあるから、巡って、また2人に会えたら良いな、とぼんやり考えました。

 

 

 

 

 

 

そこへ、急に別の大人の人の声がしました。

 

「これは一体何の騒ぎですかな?」

 

ざわりと村の人たちがそちらを見て、左右に分かれて道が開きます。

ふくよかな体型の、仕立てのいい服を着た男の人でした。

 

「どうも。私は国から周って来た行商人です。皆さん集まって、どうされましたか?おや、その子は……?」

 

その人がねこを見つめます。

 

村長の人が言いました。

 

「これは、これは。お見受けするに、貴族にお仕えの方と存じます。お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ございません。この者は、この村を何十年も死の脅威に晒してきた化け物でございます。親を魔獣に襲わせて殺し、怪我をしても再生する力を持ち、人を誑かし、取り入り、生き延びてきた化け物なのです。此度、取り押さえる事が出来ましたので、人死が出る前に処分しようとしていた所でございます」

 

行商人の人はねこを上から下まで舐める様にじっと見つめます。

ねこも見つめ返します。

 

「なるほど、それは大変な思いをされましたな。しかし、もしよろしければその娘を私に譲ってはくれませんか?私が仕える、国の1番大きな屋敷住む貴族に、その様な珍しい娘を欲しがる方がおりまして。使用人として側に置きたがるのです。暴れる様子もありませんし、諦めた様な目をしています。あれこれ仕込むにはちょうどいいでしょう。そちらが処分されるなら、主人へのよい土産になりますから、ぜひ私にお譲りください」

 

これで足りますかな?と、村長の人に、ずっしりとした重そうな小さな袋を手渡します。

 

中身を見て、驚いた様子の村長の人が、これは、と呟いて、こんな化け物でよければ、ぜひともお譲りします、とねこに繋がれているろーぷを引っ張ってそのまま行商人の人に受け渡しました。

 

こうして、ねこは処分される事なく、国へと連れていかれる事になりました。

 

最後に、竜車へ乗せられた後、振り返るとれぐるすはとても怒った顔をしていて、幼馴染の彼女は顔を手で覆っていました。

 

ねこは、縛られていたので手を振る事も出来ず、そのまま竜車に揺られていきました。

 

 

 

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