紅魔館の地下にある、一角の部屋に、私は幽閉されている。
「お姉様、もう外に出ても良い?」
「だめよ。あと少し、待っててね。」
「......はーい。」
私の話し相手は、何時になっても現れず、毎日が退屈でたまらない。
最初こそ楽しかった人形遊びも、読書も、今となっては絶望を生むだけ。
「...暇。」
嗚呼、一度で良いから、外の景色を見てみたいものだ。
そう思い呟いた言葉に、知らない声が返ってきた。
「何だ、お前。暇なら、部屋から出てきたら良いじゃないか。」
「無理よ。...出られない決まりなの。」
「決まり?そんなのは、破るためにあるだろ。」
「何を言っているの...?」
「取り敢えず、出てこいよ。私が案内してやるぜ。」
頑丈な筈の鉄格子に掛けられた錠が、一瞬のうちに解けていく。
「怒られちゃうよ。」
「そん時はそれで、また考えようぜ。ほら、ついて来いよ。」
声と共に、差し伸べられた手を取り、進む。
不安が拭えない。
…が、何処か期待してしまっていた自分が居た。
「今日は丁度良いぐらいの涼しさだな。」
心地よい風が、肌に当たる。
今まで、私を幽閉してきた館の屋上だとしても、胸の高鳴りが抑えられない。
この瞬間だけは自由になれた気がした。
初めて見る夜空には、本で見たままの幻想が広がっていた。
「綺麗ね。」
「だろ?今夜は星がよく見えるな。」
「星って何?」
「ん、お前、星を知らないのか。」
「うん。分かんない。」
「そうか。なら、気が済むまで教えてやるよ。」
その言葉がやけに優しく、美しく私の頭上を舞う。
「あれが、オリオン座。紅く見えるのがベテルギウスで、青白く光っているのが、リゲルだ。どちらも一等星で、光が強く見えるだろ?」
「詳しいのね。」
「星は好きなんだ。偶に、こうやって天体を観測しているんだぜ。」
見上げるだけで、一面に散らばっている光。
どれも、一所懸命に輝いているけど、すぐにでも消えてしまいそうで、私が見惚れるには十分な程だった。
「お前、名前は?」
「フランドール・スカーレット。気軽にフランでいいわ。」
「フランか、宜しく。私は霧雨魔理沙だ。」
「宜しくね。」
あれから時々、魔理沙が私を連れ出してくれる様になった。
夜になると、彼女が待ち遠しくなって、人影を待つ。
「今日は、何をするの?」
「そうだな、少し手軽な遊びでもしようか。」
魔理沙が教えてくれることは、常にとても興味深くて、新鮮に感じた。
そして、彼女はいつしか私の憧れへと変わり、尊敬する対象となっていた。
「ずっとこの時間が続けばなぁ...」
つい、願望を口に出してしまう。が、
それでも、魔理沙は受け止めてくれる。
「嗚呼、そうだな。」
思わず、笑みが零れた。
「...暇。」
パチュリーの図書館から、本を借りた帰りに、その言葉が聞こえてきた。
「何だ、お前。暇なら、部屋から出てきたら良いじゃないか。」
純粋な疑問をぶつける。
「無理よ。...出られない決まりなの。」
その声の正体は、噂に聞く幽閉された幻想少女だった。
突然、昔の自分とその姿が重なる。
マジックアイテムを取り扱ってくれず、不満を積もらせて逃げ出した私。
「決まり?そんなのは、破るためにあるだろ。」
口をついて、言葉が出ていた。
一度でもいいから、外を見せてあげたい。
その一心で、手を差し伸べ、連れ出す。
新たな世界を知り、燥ぐ彼女を見ていると、こちらにまで嬉の感情が押し寄せてくるように感じた。
…いつしか、定期的に少女の元へと、足を運ぶようになっていた。
自分の憧れ。
魔法を自在に扱えるフランは、私の目標であり、抱いている幻想そのものだった。
「なあ、フラン。」
「ん、どうしたの?」
「お前はさ、この空が綺麗だと思うか?」
「...唐突ね。」
「悪いな。」
「いや、いいのよ。綺麗だと思うわ。私を地獄から救い出してくれた光だもの。」
「地獄、か...」
「だから、魔理沙には感謝しているの。貴女がいなければ、私は、病んでいたままだったかもしれない。こうして楽しく笑っていられることも、魔理沙が関わってくれなければ、実現しなかったわ。」
「何だか、照れるな。」
彼女の笑顔が、私の行動源の一つとも成り得てしまう程、生きる価値を見出していた。
所謂、幸せというものを感じていた。
…あんなことになるまでは。
マリフラですね。
物語はもう少し続きます...