Hello New World, Many Heroines 作:秋空星夏
口をついて出たのは疑問ばかり。なぜ、どうして、なんだここは。里中公平は先程から口をポカンと開けたまま事態を把握しかねていた。それもそのはず、部屋の扉を開けると、ポツポツと背の高い木々が生えていたのだから。これは、例えるならば森の中だろうか。
どう考えてもおかしい。公平の部屋は玄関扉を開けて、通路を右に曲がったところにある。つまり、部屋の扉を開けてまず最初に目に映るのは白い壁なはずなのだ。
「なんだってんだ……」
とりあえず公平は落ち着くために部屋の扉を閉め、慣れ親しんだ自室へと戻り、ベッドに腰掛けた。そして、記憶の糸を一から辿る事にした。
確か、昨日は日曜日。両親が仕事でいないので、いつものように一人寂しくコンビニで一日分の食料を調達してゲームををやりながら食べていたはずだ。そうして日がな一日ダラダラと過ごした後、これまたいつものようにベッドの中で異世界の妄想をしながら眠りについた。
「まさか……俺の妄想がリアルに!?」
そうは言ったが、すぐにそれはないかと自分を納得させ、公平は状況の把握に勤しむ事にした。
とりあえず、先程見た光景が夢だったという可能性を考慮して、公平は再び部屋の扉を開ける事にした。
「はあい。ずいぶんと楽しそうね」
公平はすぐにガチャンバタン! と、大きな音がなる程乱暴に扉を閉めた。
扉の先に女がいた。しかも、背中に天使の羽が見えた気がする。
「いや、それは流石にないだろう、俺」
先程のは見間違いだ。そう思い、公平は再び扉を開けた。
「ちょっと、次はないわよ」
バタン!
「おかしいおかしいおかしい」
夢であってくれ、公平はそう思わずにはいられなかった。確かに学校に行って家に帰り、コンビニ弁当で腹を満たし、ゲームをして眠るという繰り返される日常は退屈に思っていたし、苦痛でもあった。しかし、だからといってこんなにも急に前触れ無く日常が壊れると混乱する。
不意に、アニメやエロゲの主人公ってこういう状況でも全く焦らないで「ふむ、またか」とか言っているよな、などという考えが公平の頭をよぎった。
「私、次はないって言ったわよね?」
うんうんと部屋のど真ん中で頭を抱えて唸っている公平に、自身の部屋だと言わんばかりに堂々と部屋に侵入して来た女はそう言った。
「知らんがな。ていうかあんた誰だよ。俺の部屋はどうなっちまったんだよ」
「チッ。これだからバカは……」
「てめえ、初対面の人間にバカってなんだ。お前の方がバカだ。大体なんだよその羽。コスプレかよ!」
「言うに事欠いてこの私にバカですって? バカって言う方がバカなのよバーカ! しかもコスプレじゃないしー。私本物の天使だしー」
「自分で天使とか言ってる奴を誰が信じると? バカは黙ってお帰りください」
「あんた最低ね。せっかくあんたの身に何が起きてるか説明してあげようと思ってたのに、説明する気失せちゃった♪」
「お前マジでなんなんだ……」
なんなんだ、こいつは。公平は先程とは別の意味で頭を抱えざるをえなかった。部屋に我が物顔で不法侵入してきたかと思えば、今度はバカ呼ばわりだ。これ程までの理不尽が存在するだろうか。
公平の頭を悩ませている当の本人は、頭を抱えて何も言わなくなった公平を、宙にふわふわと浮かび、笑顔で見下ろしていた。
「あん!? 浮いてる!?」
頭上から聞こえた声に反応し、視線を上げた公平は驚愕した。そして、驚愕ついでに、その姿を凝視した。
あどけなさの残る顔にある、生意気げに少し釣り上がった瞳が印象的だった。美人というよりも、可愛らしいといった表現の方がしくりとくる。
服装はいかにも天使然とした、少しダボつきのある白いドレスを身にまとっていた。ダボつきがある服装からでも、その豊満なわがままボディが見て取れた。胸も尻も平均よりも大きい。思春期の男の子的には非常に悩ましいスタイルをしていた。しかし、そのスタイルからは想像出来ない程に肩や手首は少女的だった。強く握れば折れてしまう。そんな言葉が似合いそうだった。
「言ったでしょ、私は天使よ。これくらい出来て当たり前。でね、もうあんたとじゃれるのにも飽きたからあんたの身に何が起きてるのか説明するわね」
思わず見惚れてしまっていた公平をよそに、自身を天使と名乗る女は説明を始めた。
「簡単に言うと、私の住む天界の方で色々とゴタゴタがあって、この世界を救う人を求めてたの。何人か候補がいたんだけど、その中からあんたは選ばれた。光栄に思いなさい。あんたは英雄になる権利を得たの」
「ちょっと何言ってるかわかんない」
「つまり、簡単に言うとヒロインを育てて世界を救えって事」
「ちょっと更に何言ってるかわかんない」
「大丈夫。私も色々とアシストしてあげるから、心配しないで。ヒロインの斡旋もやってあげるわ。ちょっとしたチートアイテムもあげるし」
「いやだからね? 会話が噛み合っていないと思うんだ、俺は」
「あ、まだ自己紹介してなかったわね。私の名前はホーリー。これから長い付き合いになるんだから、呼び間違えたりしたら許さないわよ。さ、ある程度説明も終わったし、チュートリアル行きましょう。小国を救いに行くわよ。さっさと服着替えなさい。私も手伝ってあげるから」
「いや、だから会話が……」
公平の願い虚しく最後まで二人の会話は成立しなかった。それどころか、公平は服を着替える事を強要され、ろくな準備もしないままホーリーに連れられて部屋を出た。