Hello New World, Many Heroines 作:秋空星夏
デコボコの道を歩く事十数分。スフィーダの入り口に到着した。ずいぶんと痩せて見える門兵に、見慣れない服装を怪しまれたが、他国の者である事を告げると、意外にもあっさりと入国する事が出来た。
「お前、ホントに天使なのな」
公平がそう言うのには訳があった。先程門兵は、公平の横に浮いているホーリーの存在に全く気づいていなかったのだ。
「何よ、まだ信じてなかったの?」
公平はその問いに曖昧に答えた。彼の興味は今、スフィーダにあったのだ。
地面は一見すると舗装されているように見えるが、その実踏み固められた土で出来ているだけだった。点在する露店に置かれている食料品以外の商品は、どれも長い事買われていないのか土埃で汚れていた。道行く人々の栄養状態も悪そうだった。
要約すると、この国は疲弊しきっていた。緩やかに死へと向かっていく国。そう公平は解釈した。
「なんだここ。こんなとこ救えってか」
ホーリーの姿が見えない以上、公平は独り言を呟いている形になる。それを理解している公平は、周囲には決して聞こえない程の小声でホーリーに話しかけた。
「そうよ。チュートリアルだと思いなさい。ここを救うのは難しくないわ」
「救うたって、何をすれと」
「なんでも私に頼ろうとしないで、少しは自分で考えたら?」
そう言って、ホーリーはハウトゥーファンタジーを右手から出現させ、公平に手渡した。
ホーリーの冷たい態度にどこか不満を抱きながらも、公平はハウトゥーファンタジーを読むことにした。
内容を要約すると、スフィーダ王国は戦争に負け、土地を失った。それに加えて、十分な備蓄をしないまま開戦してしまったがために、国の流通が滞ってしまっていたのだ。
欲しがりません勝つまでは。そんな言葉を公平は思い出した。スフィーダの状況は敗戦国のお手本のような状況だった。
「ふーん。そういう事ね。便利だな、ハウトゥーファンタジー」
「私特製だもの、当たり前よ。さて、状況を把握したところで、あなたはここからこの国をどう立ち直らせるのかしら? 選ばれた人間の力、見せてちょうだい」
「っつってもなあ……。選択肢は2つだな」
周りを気にせず話すために、公平は人気の少ない裏路地のような場所へ移動した。そして、自身の考えを語り始めた。
「1つ。民意を煽って再び戦争という運びにもっていって、近隣の村やなんかを襲って食料と奴隷を確保する。2つ。敗戦国は敗戦国らしく経済復興に力をいれる。このどちらかだな。ただし、双方にメリット・デメリットが存在する上に、何より俺にある程度の地位がないとどちらも実行に移せないという大きな問題がある」
「ふーん」
「なんだよ、気のない返事だな。せっかく人が考えたというのに」
「あんた意外と適応力高いのね。急に連れて来られたんだから、もうちょっと狼狽してもよさそうなもんだけど。ま、適応力が高いのは良いことよ。サバイバル環境に置かれた時、適応力のない人間は真っ先に死ぬしね」
「今この状況がサバイバルかと言われると疑問が残るが、まあそんな事はどうでもいい。お前、俺にこの国を救えと言ったな、はっきり言って無理だ。この国は終わってる。早急に手を打たないと滅びるのは明白だ。どうしてもと言うなら俺に権力を寄越せ」
全て公平の言う通りだった。スフィーダはひと目見てすぐに国としての機能が停滞しているとわかる程だ、いつ滅んでもおかしくない。そんな国を立て直すには相当の労力が必要だし、力を持った協力者も必要だ。現状、そのどちらも欠けているのだから、公平がそう言うのも無理なかった。
「ふふふ。そんなあなたに天界ガチャガチャ~」
ホーリーはハウトゥーファンタジーを出現させた時と同じように、右の手のひらから光を発した。光が消えると、デパートなどでよく見かけるガチャガチャが出現した。色の濃いカプセルだったので、中に何が入っているかはうかがい知れなかった。
「なんでド○えもん風……。しかも○山のぶ代さんバージョンじゃん、年バレるぞ」
「うっさい。文句ばっかりのあんたにホーリーちゃんからプレゼントよ。回してみなさい。公平の欲しいものが出るように設定したから。ホントはお金を取るんだけど、チュートリアルだからタダにしてあげるわ。だから、むせび泣きなさい。そして、ホーリー様ありがとうございますって感謝しながら回すのよ」
「お断りだ。お前みたいな女に感謝なんてしたくない」
口ではそう言いつつも、公平は天界ガチャガチャを回した。そして、出てきた紫色のカプセルを開くと、中には権力と書かれた一枚の紙が入っていた。
「あら、ラッキーねー。あんたの望んでた権力じゃない。これでこの国救えるわね。よかったじゃない」
「……茶番もいいところだ。お前さっき自分で公平の望むものが出るようにしておいたから~なんて言ってたじゃねえか。しかもなんだよこれ。紙に権力って書いてるだけじゃん」
「はあ……。いい加減私が天使だって事を理解しなさい。天使の出したガチャガチャから出てきたものが、普通な訳ないでしょ」
「さいですか……」
どうにでもなれといった様子の公平を尻目に、ホーリーは説明を始めた。この紙を持っている間はこの国限定で貴族以上の権利を所持しているとみなされる、と。
「あくまでも権利よ。認知度がある訳でも実績がある訳でもないわ。つまりあれよ。か、勘違いしないでよね! あんたの事なんか好きでもなんでもないんだからね! 状態よ」
「いやちょっと何言ってるかわかんないです」
「なんにせよ、これであなたは王に謁見する資格も得たし、一定階層以下の人間を動かす権利も得たわ。チュートリアルはここまで。後は一人で頑張りなさい。じゃあね」
ホーリーはそれだけ言って空へと消えた。残された公平は権力と書かれた一枚の紙を握りしめて呆然としていたが、やがてその足を王宮へと向けた。
差し当たってやることがなくなってしまったので、とりあえず王宮へ行ってこの紙の効果を試すと同時に、自分なりの国を救国開始しようとしたのだ。