Hello New World, Many Heroines 作:秋空星夏
公平はまず、王へ謁見するにあたって最低限の情報を仕入れようと、王宮への道すがらハウトゥーファンタジーを読んでいた。調べるべきはスフィーダ王国を取り巻く環境。兵力、国力、そして何よりも周辺諸国の関係。言い換えると、横の繋がりである。
公平は経済復興による救国を選択した。戦争が終結し、賠償金などの支払いも終わっているのであれば、もう這い上がるしかない。と、なれば外貨を稼ぐ事が最優先事項となる。食料などが安定して生産出来るようになるまでの間、外貨を使い輸入するのだ。
そのためには、この国で使われている通貨は国際通貨ではないようなので、まずは種銭を集める必要がある。つまりは、スフィーダで発行している通貨を一度、周辺諸国に全てばら撒き、食料などを買い漁る。
それによって、国内でのスフィーダの通貨の信用価値を落とし、物々交換を主流とさせ、国内での流通を復活させる。
国力が回復した頃を見計らって他国にそれぞれの需要に適したものを生産する。それらを国際通貨で取り引きし、当面の外貨稼ぎとする。公平は、そこまでを頭の中で導き出していた。問題は、これらの策をどう納得させるか。全てはそこにかかっている。
「どうしたもんかね」
いっその事街に火を放つか? 全てを失った者は何にでも頼る。例えそれが悪魔であろうと頼る。人間、追い詰められればなんでもするものだ。などいう危険思想に傾きつつあった公平は、気がつけば王宮入り口に到着していた。
街の状況が状況だけに、やけに綺麗な王宮はどうしてかしみったれたものに見えた。公平はそうした思いを顔には出さずに、入り口を守る二人の兵士に要件を伝えた。すると、公平はあっさりと王宮へと入る事が出来た。
どうやら、権力と書かれた紙の効果は本物だったようだ。公平は少し、ホーリーに対する好感度が上がりかけたが、冷静に考えると今の状況は全て彼女によって作られたものである事を思い出し、結局好感度が上がる事はなかった。
「やあやあそこの君。悪いんだけど道案内頼める?」
王宮に入る事には成功したが、どこが何の部屋なのかわからなかった公平は、近くを歩いていた兵士に話しかけた。
「は。自分が、でありますか?」
「うん。何か問題でも?」
「いえ。喜んで案内させていただきます」
兵士のあまりに謙遜した態度にどこか違和感を覚えながらも、公平は、陽の光が眩しいほどに入る石畳の廊下を歩いた。そうして5分程歩いた頃だろうか、公平が王宮の広さに感心し始めた頃、兵士はその歩みを止めた。
「こちらです」
「ん。ありがとう。もう言っていいよ」
うやうやしく頭を下げた兵士には目もくれずに、公平はさっさとその大きな扉を開けて謁見の間へと入っていった。
貴族特権なのだろう、謁見の間に入ってすぐに、執事のような格好をした男に個室―といっても一般的な4LDKマンションのリビングの二倍程はあるが―へと公平は案内された。
急に訪れたので、それなりの時間待つ事を覚悟していた公平だったが、意外にも出された紅茶を飲み終わる前に王が来た。ちょうど昼時だったため、昼食をとるついでに、という事なのだろう。王は来て早々に従者に食事をここに運ぶよう命令した。どうやら公平にも食事を与えるつもりのようだった。公平は大して空腹ではなかったが、特段断る理由もなかったので相伴に預かる事にした。
「それで、サトゥナカ卿。急にどうしたのだ。何か私に話があると聞いているが」
公平は食べていた野菜スープを吹き出しそうになったが、なんとかこらえた。
この世界で日本風の名前というの極めて珍しいものなので、ホーリーが公平という存在を貴族としてねじ込んだ際に、つじつま合わせとして強引にこの世界風の名前にしていたのだ。当然、公平はそんな事は一切知らないので、こうなるのも無理はない。
「失礼。ちょっとスープが気管に入ってしまいました。それで、話なんですが、現状この国は敗戦処理に国内流通の回復にと山程の問題が積み重なっていますよね? 実は私、それらをひとまとめに解決する方法を考えたんです」
「なんだと!? 早く申してみろ!」
王は手にしていた銀で出来たスプーンを乱暴にテーブルに起き、前のめりになって言った。彼にしてみれば、公平の発言は渡りに船だった。
「おおっとお。色々と複雑で長くなるので落ち着いて聞いてください」
公平はそう言って王をなだめた後、ここに来るまでに考えていた策をゆっくりと話した。しかし、話が進むに連れて、王の表情は険しいものへと変わっていった。
「どうです? いい話だと思うんですが」
「そなたは一度この国を壊せと言っているのだろう?」
「まあ、見方によってはそうともいえますね。でも、この方法なら問題なくスフィーダは国力を回復させる事が出来ますよ」
「ならん。先祖代々受け継いできた我がスフィーダを一時的とはいえ壊すなどという事は私には出来ん。せっかくだが、この話はなしだ」
「そうですか」
この案がダメとなるともう一つの選択肢戦争しかなくなる訳だが、この様子では民意を煽るのにも時間はかかりそうだな上、勝てる保証もどこにもない。
(となれば身売りだな)
早々に自分の身を他国に売りに出す事に決めた公平は、いかにしてこの国から金目の物を強奪するかの算段をたてていた。
ホーリーはこの国を救えと言っていたが、同時にチュートリアルでもあると言っていた。ならば、チュートリアルを飛ばしてしまっても問題はないはずだ。そう公平は考えた。それに、最終目標はこの世界を救う事なのだ。これは大事の前の小事、そう公平は自分を納得させた。
そうと決まればダラダラと食事をしている場合ではない。公平は王への挨拶もそこそこに王宮を出た。目的は金目のもの。今や公平は、立派な売国奴だった。もっとも、彼がこの国に滞在した時間は4時間にも満たないが。
その時、公平は気づかなかったがハウトゥーファンタジーはひっそりと更新されていた。
『里中公平 ジョブ売国奴 スキル 天使の加護』