Hello New World, Many Heroines 作:秋空星夏
「結局全然寝れんかった……。まさかラナを意識するとは」
翌朝、肌ツヤの良いラナとは対照に公平の目の下にはクマが出来ていた。ラナが自身の守備範囲外であると高をくくった結果である。
問題ないと思っていた。しかし、いざ同じ毛布に包まるとミルクのような甘い香りがラナから漂ってきたのだ。一度意識してしまうと泥沼だった。公平は、すぐ隣に女が寝ているという異常な事態に緊張してしまい、一向に眠りにつくことが出来なかった。気がつけば、朝日はとっくに昇っていた。
「いやあ、隣に人がいるとあったかいねえ。お陰でよく眠れたよお」
「よかったですね……。さっさと飯食べてドミーナ行こうぜ。これ以上野宿はしたくない。睡眠不足で死んでしまう」
「そうしようかあ。じゃあまずは朝ごはんを作ろうかあ。昨日みたいな失敗はしないように怪しい食材を入れるのはやめようねえ」
「それがいい。普通に野菜スープを作ろう。普通にな。普通だぞ?」
普通の料理を作る。それを念頭に置いて料理作りを始めた二人だったが、やはり出来上がった料理は普通ではなかった。紫色をしていたのだ。
「何これすごい。食欲がどんどん失くなっていく」
「どうしてこんなになるんだろうねえ。今回はおかしな食材は入れなかったはずなんだけどなあ。調味料が悪いのかな?」
ラナの言う通り、今回二人はおかしな食材は入れていない。この世界で一般的に食べれらている野菜と、カサミ鳥という人間に養殖される程に弱い魔物からとった鶏ガラスープを入れただけだ。
「昨日食べたのも見た目に反して美味しかったからねえ。どれどれ、私が先陣を切るよ。……うえぇ。なんだこれはあ、とっても美味しくないよ」
ラナはスープを口に含んですぐに鍋に吐き戻した。吐き出しきれずにダラダラと垂れたスープが彼女の服にシミをつくっていく。
「うわ! ばっちいな。吐くならその辺にしろよ。なんでよりにもよって鍋に吐き出すんだよ」
「ごめんよお。あまりにも美味しくなかったものだから、つい。君も食べてみるといい」
口ではそう言ったが、悪びれる様子のないラナは自身のスプーンでスープをすくって公平の口元まで持っていった。ラナの行動に色々と思うところがあったが、公平は結局、差し出されたスープに口をつけた。
「なんだよ、まずいっていうからどんなもんかと思ったら普通にうまいじゃん」
スープは見た目に反してありふれた野菜スープだった。鶏ガラベースのコンソメスープといったところだろうか。大きめの野菜がたくさん入っているので、体にもよさそうだ。
「ええぇ。それはないよお。どう考えても昨日の方が美味しかったよお。だってこれ鳥くさいよお。それに、しょっぱいじゃないかあ」
「そりゃ鶏ガラ入れましたしおすし。というよりも野菜スープが甘かったらそれはそれで嫌だな。俺牛乳スープとか嫌いなんだよ」
「絶対に甘い方がいいよお。これ美味しくないなあ」
「いいから食べなさい。食べ物を粗末にしてはいけません」
公平に言われ、ラナはいやいやながらもスープを飲み始めた。
○
食事を終えた二人は、再びドミーナを目指し歩みを進めていた。道中ラナが無理して料理を食べたために、リバースするというイベントを起こしながらも順調にドミーナへと近づいていた。しかし、二時間程経った頃だろうか。もうすぐでドミーナに着くというところで二人の前に一台の馬車が立ちはだかった。
「ラナ。俺予想するわ。あの馬車絶対盗賊団かなんかのだ」
「奇遇だねえ。私もそう思っていたところだあ」
「俺ちょっと武器取ってくるわ」
そう言って公平は天幕に覆われている荷台にクロスボウと剣に取りに戻った。
「バンズ盗賊団だ! 死にたくなかったら金目のものと馬を置いて逃げな!」
二人の悪い予想は的中した。目の前の馬車から3人の男が出てきた。
男達の身なりはおよそいい身分のものではなかった。薄汚れたジャケットにボロボロのズボン。腰にさした短刀がこちらを威圧しているような気がした。
「とは言うものの、実際に渡したら殺すつもりだろう? 弱ったなあ。どうしたら見逃してくれる?」
「嬢ちゃん。奴隷になるのと変態に売り飛ばされるの、どっちがいい? 選ばせてやるよ」
「どっちもお断りだあ」
「そうかい。でもな、断るという選択肢はないんだよ!」
盗賊団の一人がラナの手を引っ張り馬車から引きずり下ろし、その身を押さえつけた。そして、首元に短刀を突きつけ動きを封じた。
「もう一人いたな。出てこい! 嬢ちゃんがどうなってもいいのか!」
男が叫んだ瞬間、横に控えていた盗賊団の男の頭にクロスボウの矢が突き刺さった。公平が荷台から放ったものだった。
装填済みのクロスボウを左手に、剣を右手に持った公平が天幕をどけながら荷台から出てきた。
「そいつは困るな。一応俺の連れなんだ。勝手にどうこうされるのは気分が悪い」
「てめえ……よくも仲間を。許さね―」
公平はセリフを言い終わるよりも先に、喋っている男にクロスボウを撃った。放たれた矢は、男の右目に吸い込まれた。一撃だ。
「うわ、エグいな」
「ふざけやがって!」
盗賊団の男はラナを放り投げて短刀片手に公平に突っ込んだ。かたや公平は、男がその行動をとるとわかっていたかのように、撃ち切ったクロスボウを男に投げつけた。そして、たたらを踏んだところを剣で斬りかかった。
剣は男の右肩口から鎖骨を過ぎた辺りまで筋肉をグチャグチャにした。致命傷だ。ゆっくりとくずおれた。もはや男は虫の息だった。これ以上何かをしなくても息絶えるのは明白だったが、哀れに思った公平は心臓に剣を一突きし、男を苦しみから解放した。
「ふう。こいつら弱いな」
剣に付着した血を振り払い、汗を拭いながら公平が言った。
「いや、君が強いんだと思うよ。見てごらん、彼らは筋肉がとても発達している。大した切れ味もないだろうその剣でこれ程までに深い傷を負わせるのは生半可な力じゃ無理だ」
「んなこたーない。見掛け倒しだ。誰でも倒せる。俺にだって出来たんだから」
公平はそう言ったが、バンズ盗賊団は二人に会う前にも一台の馬車を襲い、屈強な農民の男二人を殺していた。
「君、やっぱり普通じゃないよ」
「何度も言うが俺は普通だ。今回はあれだ、たまたま運が良かったんだよ。いや、人殺してもなんとも思ってない辺り普通じゃなかったりして……」
事実、公平は初めて人を殺めたというのに極めて平静だった。いくらFPSなどで人を殺す事に対する抵抗が薄れているといってもゲームと現実は違う。にも関わらずこれだけ平静でいられるのは異常であるといえる。
「強情だなあ。いくら君が普通だと言い張っても、周りはそうは思わないよお」
「さいですか。んな事より、大丈夫か? むさいおっさんに押さえつけられてたけど」
「君のおかげでねえ。せっかくだから、彼らのお宝を頂いていこうか。路銀はたくさんあるに越した事はないしねえ」
「俺もわりとろくでなしだけど、ラナも負けず劣らずだな」
そうして二人は盗賊団のお宝を回収し、再びドミーナに向けて出発した。
ドミーナはもうすぐだ。後一時間程で到着する。その間、公平はガタガタと揺れる馬車の荷台で少しでも足りない睡眠を補おうとした。
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