Hello New World, Many Heroines   作:秋空星夏

7 / 7
Guild

ドミーナへと辿り着いた二人は別行動をとる事にした。ラナは件の鍛冶工房へと話をつけに、公平はラナの勧めで冒険者ギルドへと向かっていた。

 冒険者ギルドは、その名の通り冒険者のためのギルドである。冒険者同士での情報交換、相互扶助を目的に設立された施設だ。ギルドを介した傭兵の斡旋、魔物討伐依頼など、およそ冒険者に必要な事は全てここで済ます事が出来る。

 

 ギルドへの登録は非常に簡単で、必要書類を提出するだけで登録が完了するため、冒険者の多くはギルドにその名を登録していた。

 また、ギルドは地域に密着した施設であり、定期的にギルド主催の祭りなどが行われている。それらはギルドフェスタと呼ばれており、街をあげたお祭りとなっている。そのため、どうしても血生臭い印象が付きがちな冒険者ギルドだが、印象に反してその存在に嫌悪感を抱いている人は少なかった。

 

 そんな冒険者ギルドにハウトゥーファンタジーを地図代わりに辿り着いた公平だったが、いつまで経ってもギルドに登録する事が出来ずにいた。

 公平はこの世界に来たばかりであり、必要書類に事項を記載しようにも何も書けなかったのだ。まさか、正式書類に住所不定などと書くわけにもいかない。更に言うと、公平はそもそもこの世界の文字を書くことが出来ない。どういう訳だか読むことは出来ても書くことが出来ないのだ。

 

「どうすれと……」

 

 何も出来ないままに20分が過ぎてしまった。いつまで経っても受付嬢に渡された書類は空白。座っている席には公平一人。まるで知らない土地に一人ポツンといるかのような状況だった。いや、実際にそうだった。

 

 そうして更に5分程経った頃だろうか。公平の座る席に軽装の鎧を着た一人の男が現れ座った。年の頃は公平より5つ程上、二十五、六才だろう。茶色の瞳と金髪が印象的だった。男はコップを二つ持っていた。その内の一つを公平に差し出し、こう言った。

 

「ギルドは初めてか? 俺はロベルト。ロベルト・アルフォンスだ。よろしく」

 

 ロベルトは爽やかな笑みを浮かべながら握手を求めた。公平もまた安心感からくる笑みを浮かべ、その手を握り返した。

 

「助かるよ。どうしていいかわからなくて困ってたんだ。俺は里中公平。よろしく」

 

「大丈夫、簡単さ。いいかい、ここに名前を記入するんだ。そして、ここに出身地を―」

 

「―すまん。俺字書けないんだ。代わりに書いてもらえないか?」

 

「そうだったのか。よし任せろ」

 

 そうして必要事項をロベルトに記載してもらった公平は、ロベルトと共に書類を受付嬢に提出しに行ったのだが、ここでまた一つ問題が発生した。登録料がかかるのだ。この世界に来たばかりの公平は当然金など持っていない。せいぜい持っているものといえばスフィーダから拝借してきた武器と金食器などだが、それも全てラナに預けてきてしまった。公平は今、完全に無一文だった。

 

 そんな公平を見かねたロベルトは、公平の代わりにギルド登録料である5000アルを払った。酒場などで腹一杯食事した時にかかる費用が1000アル程度である事を考えると、決して安くはなかったが、ロベルトは快く出してくれた。

 

「何から何まで悪いな。ありがとう。本当に助かったよ」

 

 ロベルトのおかげで、無事受付嬢から冒険者ギルド登録済みである事を証明する冒険者の紋章を受けとる事が出来た公平が言った。

 

「いいんだ。困った時はお互い様というじゃないか。君が俺と一緒に冒険出来る日を楽しみにしてるよ。じゃあな」

 

 さり気なく自身の金色の冒険者の紋章を見せ、飲み終わったコップを片手にロベルトはギルドを後にした。

 

「冒険者の紋章ねえ」

 

 公平の手にしている紋章は木製だった。ロベルトの持っていた金の紋章に比べると、ずいぶんとみすぼらしいもののように感じられる。

 冒険者には等級があった。登録したての者は特別な理由などがない限り10級から始まる。冒険者は、それぞれの等級に見合った依頼をこなし、受付嬢が頃合いを見計らって昇級依頼を受ける事で級が上がる。

 

 多くの冒険者は5級の壁を超えることが出来ずに、6級のままその冒険人生を終える事が多かった。そうした事を考えると、あの年にして3級冒険者である事を証明する金の紋章を持っているロベルトは非常に才覚に優れた冒険者であるといえるだろう。

 

 ロベルトにもらったジュースを飲みながら、渡された木製の紋章で手遊びをしていた公平の元に、顔にススをつけたラナが現れた。

 

「やあやあ。待たせたねえ。その様子だと、無事にギルドに登録する事が出来たみたいだねえ。よかったよかった」

 

「無事ではないけどな。ロベルトって人に金まで払ってもらったよ。今度会ったら返さないといかん」

 

「ロベルトってロベルト・アルフォンスの事かい?」

 

「そうそう。知り合いか?」

 

「知り合いも何も彼、結構有名だよお。若干25才にして3級の紋章を持つ冒険者。今後の活躍を期待されてる冒険者の一人だねえ」

 

 ロベルトはドミーナ出身の冒険者であり、同時にドミーナ一の冒険者だった。そのため、ドミーナ王の覚えもよく、大々的に宣伝されていた。そのおかげか、依頼もドミーナに限らず他国からも舞い込むという有名ぶりだった。

 

「ほー。あいつそんなすごい人だったんだ。有名人にしてはずいぶんと親切だったな」

 

「それは君だからじゃないかなあ? 彼は才能の無い人物は突き放す事で有名だよお。彼は騎士だけど、多分、君の潜在魔力の大きさを無意識に感じ取ったんじゃないかな?」

 

「まーた潜在魔力か。さっぱりわからん。魔力っていわれても魔法なんてなんも使えんぞ?」

 

「魔力は何も魔法だけに限らないよ。魔力で動いているものは魔導機械っていうんだけどそれを動かすのにも魔力は必要なのさ。大掛かりなものになればなる程必要魔力も高くなっていく。過去にゴーレムを作ろうとしたらしいんだけど、結局動かすために必要な魔力を保有している人がいなくていつの間にか研究は終わってしまったんだあ。私はいつかゴーレムも完成させたいんだあ。もしかしたら君なら出来るかもよ?」

 

「うーむ。ラナだけならともかく、有名人にまでそういう目で見られている可能性があるっていう事はもしかして本当に俺って魔力持ちなのかな?」

 

「魔力を持っているのは間違いないよ。私が保証する。問題はその大きさだ。こればかりは魔法を専門にしている人じゃないと測りきれない」

 

「要する気にしてもしょうがないって事ね。オーケー、鍛冶屋に話しつけてきたんだろ? そこに行こう。いつまでもギルドにいてもしょうがない」

 

 公平はコップの中身を一気に傾けた。二人はギルドを後にし、ラナの知り合いがいるという鍛冶工房へと向かった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。