TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~ 作:あずももも
「本当に、性別と年齢だけで全部を決めつけてくるような人って、予想以上に居ますから……こはねさんはそういうのがないだけで、本当に……」
「先生、闇が入ってます、先生」
ふぅ、と長いため息を吐く如月先生。
お化粧は薄く、髪の毛も染めたりしないでそのままラフに――内側にくりんっとなる毛質を肩あたりで結って前に垂らしている女性。
普段ならはきはきと理知的な顔つきはどこか疲れを見せ、そういえばおさげもぼさぼさ。
……ああ、優花もこういう風に愚痴を言う時期とか定期的に来るもんなぁ。
しょうがない、普段お世話になっているんだから話を聞くくらいはしないと。
うん、本当に特別扱いなのに治療費とかは普通の病院でちょっと診てもらった程度しか受け取らないんだ、せめてこれくらいはね。
「こはねさんは、確かご自分よりも稼げて頭も良くて年上の女性がタイプなのでしたよね」
「先生、視聴者として知ってしまったことは診察のときは忘れてください」
これくらいはとはいっても、僕の恥部を掘り出して晒すのはやめてほしい……特に、その属性が全部当てはまっている人から直接言われると、それはもうとてつもなく恥ずかしいんだ。
「こはねさんが男性のときに知り合えていたなら、アタックのチャンスはあったのでしょうかね……」
「先生にはもっとふさわしい人が居ますよ」
どうやら先生は、想像以上にへばっているらしい。
まさかの大学中退ニート引きこもり成人男性とかいうだめだめなはずの僕なんかへ目を向けるくらいにつらいできごとがあっただなんて……なんて悲劇的なんだろう。
「お医者さんって病院――お医者さんや医療関係者さんたちの知り合いとかで……って聞きますけど」
「それ以上優しく話を聞いてくれてしまいますと、もれなくこの業界の闇を叩きつけることになってしまいますからやめておきましょう」
「あっはい」
いけない、先生の瞳が光を放っていない。
世の中には聞いてはいけないものが存在するんだ……たとえば、うん……「いざというときのために」って教えられてる、生理のこととか……うん……男としては知りたくなかったいろいろをね。
あとは女子同士の――肉体的には女子だからどうしても発生してしまう、女性同士だからこそ起きる目に見えない永遠の戦いについてとかもね。
それらを実践する日なんて来てほしくないけども――こればっかりは自然の摂理、どうなるかなんて分かりっこないんだ。
「……こはねさんは、確か料理は」
「引きこもりニートを1日でも継続させるために、せめて家事で貢献しようと人並みに。凝った料理はできませんけど」
家族からの作り置きは心が痛んだし、外食――もちろん全部配達だ――は、すぐに飽きたしで、いやでも獲得した技術なんだ。
まぁやってみてそれなりにやれたし嫌いじゃなかったから続けられたってのは、才能といえば才能なのかもね……男料理だけども。
「ということは、掃除と洗濯は」
「掃除は毎週……書き置きで頼まれたりする庭の手入れや届いた組み立て家具の設置、壊れた家電を軽く分解してダメなら予算別に新機種の提案、おふろのカビ取りとか――」
僕が、着の身着のままで放り出されないようにと必死に獲得したそれらを、ひとつずつ挙げていく。
あるいはひとり暮らしでもできたらと思って――まぁ不動産屋に行くのがストレス過ぎて諦めたんだけども。
今どきなんだ、なんでアプリひとつでそういうのができないんだって呪った記憶。
「――良物件過ぎるのに、どうして男性時代に私に会いにきてくれなかったんですか!!」
それらを思い出していたら、先生がなぜか涙ぐんでいる。
これはいけない。
「先生落ち着きましょう、僕がTSしてこの体にならなければ一応は健康な肉体で引きこもりニート生活はあと数年継続なので先生に診てもらう機会はありませんでしたよ。接触の可能性は0%です」
「価値観が合うし、私の方が多少頭が回るからといって煙たがらない、トークは配信を継続できる程度にはできて家事は完璧、しかも年下男子……その上、初心な初物……私は、私は……!」
「如月先生……」
弱り切った先生にとっては、男としては最底辺に近い価値しかなかったミジンコレベルの僕でさえが魅力的に映るほどらしい。
……あと、最後のは聞かなかったことにします。
女の人はみんな経験豊富でリードしてくれる高身長で次男以降で気づかいのできるイケメンが好きだって聞くけども、それすら選択肢に入れないほどに弱っているからなんだ、きっと。
◇
「兄さんがまた、低すぎる自尊心の結果として女性をほだしている気配が……」
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