TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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111話 如月先生はいじわる

「はぁ……婚期……」

 

「良い出会いがありますよ、きっと」

 

美人さんの先生、スタイルも――泣きついたときに顔で感じるほどに良くって20代の医師。

婚活市場って奈落では絶対的な王者のはずの彼女が、ここまで凹むだなんて。

 

「今夜もローテーションしている惣菜かお弁当、それか近所の店のテイクアウトかデリバリー……明日からも飽きた味ばかりの毎日……」

 

「先生、料理とかはしないんですか? 絶対お医者さんになる勉強よりはるかにかんたんな――」

 

「こはねさん」

 

がしっ。

 

先生が僕の両肩をわしづかみにしてくる。

 

「……世の中にはですね、どれだけレシピ通りにしようとも味がなかったりしょっぱすぎたり生だったり炭になったりするしかない呪いが存在するんですよ」

 

えぇ……そんな、僕でもできることが……?

 

いやまぁ、僕だって料理に失敗することはあるけども、そこまで……?

 

「………………………………」

 

30センチ先で光の差さない先生の顔をよく見ていたら肌も荒れているし、唇もかさかさ……栄養面の片寄りが?

 

お医者さんなのに?

栄養学とか知ってそうなのに?

 

………………………………。

 

「じゃあ、作りましょうか?」

 

「ええ、いっそのこと1回の食事で最高額の投げ銭をしてでもお願いしたいくらいで――えっ」

 

こんな僕でもできること――それは、文句を言われない程度の家事くらいだから。

 

如月先生は、僕が家で困っていたときに駆けつけてくれた人。

 

そのあとも――人見知りが激しくって、最近はまだしもその前までは他人がいるだけで吐いたりしていた僕のためにって、受付の人も最小限の時間を作ってくれていた、すごくいい人なんだ。

 

その吐いたげろげろが大好物ってのは……うん、人には誰しも他人に言えない秘密があるから……大丈夫、僕は男だ、男は他人の性癖には寛容だし理解があるんだ。

 

ともかくも、いろんな伝手をたどって僕が男と女のどちらを選択しようとも――家族と離れたかったら養子縁組してまで自分の元にって言ってくれた人。

 

こんなに素晴らしい人は、早々に居ないんだ。

 

僕なんかを診なければそのたびに何人も多くの患者さんを診察できたはずなのに、それでも僕のことを気にかけてくれていて。

 

だから――こんなことで恩返しになるんなら。

 

「好きな料理は?」

「え……えっと……」

 

「健康を考えると野菜とお肉をメインにした方が良いですよね。1食とか1週間の食費の制限とか苦手な食材や料理とか教えてくれたら、数日分まとめていろいろ作れますよ。最初は調味料とかそろえるので少し多めですけど、それからも決められた予算内で作るくらいなら」

 

僕は、普段している料理を――女の子になってからは料理が体力的に、何よりも身長的に大変にはなってるけども、これでも家事手伝いなんだから。

 

……なんで女性は「家事手伝い」になって男は「ニート」とか「ヒモ」とか「穀潰し」になるんだろうね。

 

「作り置きなら、1日2日は生野菜のサラダ、それ以降は蒸した野菜。あとはオーブンとかあればグリルで野菜も肉も同時に作れますし……あ、普通の料理も必要ですよね。ごはんなら炊き込みごはんとかカレー、煮物……パスタのソースなら3種類くらい作って小分けに冷凍すれば1ヶ月分のレパートリー、それに――」

 

ぴっ。

 

「――優花さん。こはねさんを婿にください」

 

「先生!?」

 

先生がスマホを耳に当てている。

 

「あら、駄目? ふふっ……良いのですか? 私、優花さんの秘密もいっぱい……」

「先生、落ち着いてください先生」

 

どうしよう……如月先生が壊れた。

診察中なのに電話を取りだして優花へ僕の身柄を要求している。

 

………………………………。

 

……頭がいい人って、大変だなぁ……優花とかも良く奇行に走るし、きっと考えすぎるから変な方向に突っ走るんだ。

 

「……そうですか、駄目ですか……やはり、ひよりさんとの幼くて初心な関係が尊いと……分かりました……ぐすん……」

 

ぴっ。

 

先生が何事か予想もできないことをつぶやきつつ、電話を切る。

 

「駄目でした……」

「そうですか」

 

「こはねさんが一言、優花さんへ後押ししてくれたなら」

「いえ、僕、そもそもまだ社会復帰もできていませんし」

 

先生がだるだると――多少元気になった彼女が、なぜか今だけは同年代の女性に見える。

 

「こはねさん、考えてみてください」

「何をですか?」

 

「――結婚を考える歳になり、会社で仕事もそれなりに忙しくてめぼしい異性が居ないせいで、出会いを求めれば職場での合コンかマッチングアプリ、高い金額を払う結婚相談所しかなく。初対面以前でおたがいに情報だけでやりとりしてようやく出会う必要のある現代社会――そこへ、働いていなくとも性格が良くて家事ができ、年下の女性が知り合いとして存在する。……こはねさんが私の立場なら、アプローチ、しない手はあるでしょうか?」

 

「………………………………」

「………………………………」

 

先生が、じっと僕を見つめてくる。

美人さんの如月先生が――女性が、僕のことを。

 

「……えっと、その……勘弁してください」

 

「……ふふっ。お耳まで真っ赤にしてくれたなら、脈はありますね♪」

 

ああ。

 

僕は、どんな相手にでもよわよわなんだ。

 

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