TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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113話 如月先生のお家に行った

「こはねさんは法律上は25歳の成人男性ですので、書類上は今日にでも夫婦になれますよ? 婚姻届という書類に、近くの文具店で簡単に手に入るハンコという道具で、ぽんと押してもらうだけで」

 

「い、いえ、それはちょっと……」

 

「大丈夫です、こんなこともあろうかとこはねさんの名字の物をすでにここに」

「先生?」

 

「そしてこちらが私の預金通帳――アプリですが」

 

――すっ。

 

先生がスマホを見せようとしてくる。

 

「先生、そういうのは良くないと思います」

 

「結婚相手に年収と財産を提示するのは、今の婚活市場ではごく自然なことですよ?」

「先生、そういうのは普通男女が逆で――」

 

「――職業欄を医師にしているとですね? マッチングした男性たちの全員が、私のそれらをまず先に知りたがるんです」

 

「あっ……」

 

聞けば、お医者さんとしてはまだ数年目だという――能力と実力と精神力でストレートに素晴らしい職業に就いているはずの女性は、まるで僕たち男のように――現代の病巣であるのは確実な、邪悪極まる市場において「職業・年収・家族構成・顔・身長・将来の子供の予定・貯金と今後のキャリアの見通し」という情報を品定めされる戦場に放り出された、哀れな男たちと同じ目をしていた。

 

……ああ、確かにそれは辛い。

 

できる人だからこそ、婚期を逃す――よく聞く話だ。

できすぎる人は、逆にちょうど良い相手が見つからないんだって。

 

「それなのに、こはねさんはそういうのが一切になくって……うぅ……昨日あんなお話をしても態度も変えず……こんなにいい人なんて、滅多に……」

 

「い、いやまぁ、僕、先生と……そういうお付き合いするとか、身分違いにもほどがありますし」

 

若手の女性医師と、引きこもりニートの男。

誰がどう考えたって釣り合わない。

 

「婚活市場では、女性は若さと顔とバストサイズさえあれば家事手伝いでも問題なく結婚できます。男女逆にすれば……ね?」

 

「僕は学歴も職歴もなしのニートですけど」

 

「うぅ……なんて謙虚な……配信で知っていましたが、あまりにも……!」

「えぇ……」

 

ダメだ。

 

先生が、だめだめになってるときの僕並みにダメになっている。

これはもうレッサーパンダとたいした差のない存在だ。

 

「――そうです!」

 

ずざーっ。

 

廊下をスリッパで器用にスライドしてきた優花。

 

掃除中だったはずの妹が、その妹になってはいても慕ってくれている兄を守ろうと駆けつけて――

 

「ひよりさんが18になってから、まずはひよりさんを正妻にします!」

「優花?」

 

優花は何を言っているんだろう。

 

「そんな! それまで何年かかるんですか!」

 

「ひよりさんは16歳ですので、あと2年と少しですね。法律が前のままならすぐにでも結婚させられたんですが」

「優花?」

 

「その2年……たったの2年だけでも! 今から形だけでも結婚してもらえたら――式も挙げず、同居もなくて結構ですので! それまでの2年間だけ、籍だけ入れてもらってからひよりさんのときに離婚して……私の全財産の半分を、ひよりさんへの結納金という形で渡せます! 合法的に節税をしつつもこはねさんへ課金できます! 慰謝料としてむしり取ってもらえば、もっと! いえ、養育費という形でこれからいくらでも!」

 

「先生?」

 

先生は何を言っているんだろう。

 

「兄さんが逆玉……それはそれで悪くありませんが」

「優花?」

 

「でも、それでは兄さんがバツイチになってしまいます!」

 

「優花??」

 

「良いではありませんか、戸籍情報なんて見られる機会はほとんどありませんし、今どき離婚歴などあってもたいした傷にはなりません」

 

「先生??」

 

「確かに……!」

「優花? おーい」

 

「こんなに女子力の高い男子な心を持ったこはねさん……やはり逃すには惜しいかと! しょ、書類上! 法律上! 一時的な関係……1ヶ月に1回掃除に来てくれて、ごはんを用意してくれるのなら……それだけで私の半分を捧げられます! あわよくば……こほん、そこからは応相談です」

 

「………………………………」

 

「確かに兄さんは主夫として完璧な逸材……兄さんが社会復帰するために必要でしょう数年間を、ただ家族で浪費するのはなるほど、惜しい……ですが、兄さんの今後の可能性を狭めることは……!」

 

「………………………………」

 

すすっ。

 

僕はこっそり2人の隙間を縫って脱出する。

 

「………………………………」

 

埃だらけの廊下を歩きながら、僕は考える。

 

「……なんで僕の周りの女の人って、みんな……ちょっとばかり、変なことを言うんだろうなぁ……」

 

家族に養われている引きこもりヒモニート――しかも今は幼女……ではなく女の子になっている僕なんかを欲しがったりしてさ。

 

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