TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~ 作:あずももも
オンラインゲームの実況プレイ配信――つまりは特定のゲームの特定の時間帯の特定のランク・強さと自機の組み合わせが分かり、さらにはマッチング開始時刻が秒単位で分かるという致命的なバグを抱えている遊びには、たまーに悪い人が悪ノリをする。
ゲーム全体のマップを隠すとゲームの流れが分からないから――中級者以上にとってはとたんにつまらなくなるから、僕は基本的に味方の動きや観測した敵の動きを映す戦略マップは、隠していない。
けども――だからこそ、僕の配信を見ていれば。
味方として戦うのならまだしも、敵としてマッチングした場合には――僕の、つまりは「彼」にとっての敵の大まかな動きと一緒に、僕の動きや口にした思考が、完全に把握できるんだ。
配信だから数秒のラグはあるにしても、ゲーム全体からすればささいな差であって、接近戦とかでもなければそこまでの影響はない。
単純に索敵情報が全部だだ漏れなだけで、勝ちにつなげる方法はいくらでもある。
そういうマッチング合わせの行為は、仮に配信中で配信主とは敵にスポーンしたら、推しであっても配信画面と声を試合終了まで見ないで戦う――そういうマナーを、大半の人が守る。
けども……単純に1試合でも多く勝ちたかったり、ただ邪魔をしたりしたいっていたずらっ子、何が何でも負けたくない人は、一定数――すごく少ないけども居るっていうのは、知識で知っていた。
悲しいけども安心できることに僕は需要の少ない配信をしていたから、そういうのとは無縁だったんだ。
今回は、けども、そうじゃない。
ただでさえTSしてからのいろいろなやらかしが積み重なったせいで、僕がどんなつまらないことをしていてもかなりの数の人が観に来るんだ。
その上で、一般的にはマイナーなゲームでも全戦全勝を数時間――深夜帯に差し掛かる直前のこのタイミングは、このゲームでなくとも界隈が最も活発的で目をつけられるもの。
「視」れば、SNSと各種掲示板で――なによりもムーチューブのおすすめ欄に、僕の、この画面が表示されている。
だからこそ、こういう人も現れる。
――これが、有名になることのデメリット。
なのに、吐き気も起きていない。
………………………………。
やっぱ……なぁにこれぇ……?
知らない人たちに観られてるし悪意も向けられてるのに、それが分かってるのに全然気持ち悪くならない……それが気持ち悪い。
――きゅぽんっ……こきゅっ。
「ふぅ」
意識を切り替えると、今、「彼」のしようとしていることが分かる。
分かってしまう。
それは――「彼」が僕を見てやっているのとおんなじこと。
「彼」は配信をズル見するチートで、僕はよく分からないチートで。
「……たぶん、エイムアシストとオート射撃。動きがあまりにも機械的なときがある――確か運営が定期的にBANしてるツール、それを使ってるね」
ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。
逃げた先で――「あえて」自機の一部をチラ見せすると、「人間では不可能な反応速度」で撃ってくる「彼」。
僕の手元を配信で見ていて、プラスでオートエイム射撃。
この場面の「彼」の勝率は100%だろうね。
――普通なら。
【ふぁっ!?】
【えっ】
【確かに今のは経験則からのグミ撃ちにしても……】
【ありえないタイミングとエイム……だよな……?】
【あっ……敵のネームタグがこはねちゃんさんの画面に】
【あの……映ってたユーザー、煽りの常習犯で常にトップランカーの、悪名高い海外ユーザー……確かにツール悪用疑惑があるっぽい】
【え? てことは……】
【海外勢の配信で情報収集中 「あの特徴的なネーミング、まーたあいつだよ」って叩かれてる】
【内偵助かる】
【あー、有名人なのね】
【荒らしって居るからなぁ】
【ゲーム自体が有名なら荒らしも多いもんだけど、このゲームは】
【※ちょい古めのゲームなので海外勢の方が人気です】
【あー】
かちかちかち。
かたかたかた。
僕は両手の指先――から「マウスのボタンとキーボードのキーの沈み込むところからスイッチに接触し、押す動作がPCに伝達されるまで」を認識しながら、まるでドのつく初心者かやけくそになった人みたいに、自機を完全なランダムで動かし始める。
「ゲームはね、ルールを守っているから楽しいんだ。ルールを守っているからこそ彼我の経験値や戦闘数、その日の体調、膠着状態になったときの読み合いとにらみ合い――そして勝ち負けが決まったときの爽快感と悔しさがあるんだ。スポーツとか……あとはテストと同じだよね。自分の実力を出せるから楽しいんだ」
【わかる】
【すごく良く分かる】
【オフゲーでも、公式から出されたりする難易度調整とかツールを使ったチートモードとかって、最初は楽しいけどすぐに飽きるんだよな】
【そりゃあ連戦連勝、どれだけつえー敵でも一太刀でばっさばっさは楽しいんだよな】
【まぁ時短目的ならそれで良いんだよな】
【ちょっと楽しむだけならな】
【でも】
【すぐに飽きて、そのゲームに触ることすらなくなるんだよな】
【楽しかったはずのゲームが、なんだか見るのも嫌になるんだよな】
【昔、カンニングして成績上げてバレました でも、バレたからほっとしました】
【「そんなことして楽しいの?」って聞かれて泣いて止めました】
【お前ら……】
【誰だって大小軽重あっても、なにかしらズルしたこと、あるよな】
【それでなんとも思わずに満喫する人も居はするだろうけど】
【たったの1回、あるいはちょっとで止めて大事にならない人も多いだろうけど】
【俺は、それに耐えられなかったんだ】
【見つかって、先生に叱ってもらえて良かったの】
「うん。人はみんな、間違いをする。……僕だって、ちょっとした対人関係のストレスから全部を投げ出して情けなく泣きわめいて、引きこもって――それから何年も、部屋の中に閉じこもってきたから」
そうだ。
後悔という1点において、僕はみんなよりもずっと造詣が深いんだ。
だから、僕は――「彼」にも、チートなんてつまんないんだよって教えてあげたいんだ。
◇
コメント欄のみんなの後悔が、僕の中に流れ込んでくる。
「――けどさ」
僕はセオリーから外れた動きをしながら、自機を移動させていく。
その目的が分からないようにして。
――ちゅんっ、ちゅんっ。
「本来なら僕が移動していたはずの座標」へ、寸分違わずに敵弾が空打ちされていく。
【あっ……ツールでのオート射撃……】
【確かにこれ、全部こはねちゃんの配信見てたら分かるし、一瞬でも物陰から飛び出そうとしたらツールが探知できるところに……】
【てかこはねちゃんの動きやべー】
【相手のツール使用は確定だな】
【すでに通報もされてるだろうけど、この映像を添付して運営に送ればすぐにBANされるよな】
【ちょっと通報してくる】
【助かる】
【けど、こはねちゃんさん、全段回避してる】
【マップ見てみろ 味方の半数以上が、動き止めてる】
【このゲーム、プレイしてる別の配信者も同時視聴してるんだけど ……敵も、コメント欄経由とかでこはねちゃんの話聞いて……】
【敵味方に1チームずつパーティー組んでるやつらがこの話を聞いて、全体チャットでお互いに情報を伝えてるな】
【あー、画面の隅のチャットがやけに騒がしいと思ったら】
【そうだよな チートは許さない真面目な人の方が多いよな】
【特に高ランクの戦いだしな】
【だけど……】
【うん……】
【あ……チャットで事情を知った敵味方、全員が……】
【足を、止めて……】
【完全に、こはねちゃんさんと相手の戦いを見てる……】
【マッチングしたみんなが……こはねちゃんと対面のチーターの戦いを……】
【なんて試合なんだ、これは……】
【これはバズる】
【すでにバズってるが】
【ゲームが終了しても語り継がれるレベルじゃね? これ……】
【こはねちゃんさんが、とうとうゲームの腕でも伝説へ……】
静かになった戦場。
全力で戦おうとして動きを止めた人、戸惑ってる人――彼らの感情が、流れ込んできている。
「――君も、引きこもってた僕みたいに情けなく泣きじゃくって、許しを望んで。潔く身を引いて、ゼロからやり直せば――――」
僕は――「彼」の、「僕の配信を見て聞きながら戸惑いながらも動かす二手先」を「視」て――――
――――ぱんっ。
【あっ】
【え】
【?】
【急に通常攻撃】
【一体何が】
『critical hit!』
「見えないのに理解できた」座標へした、通常攻撃。
――それは、「彼」の操作機の「コア」――ピンポイントで当たれば確率で爆発四散するよう設定されている防郭へ命中し。
【え?】
【えっ】
【ふぁっ!?】
【倒した!?】
【えぇ……】
【なぁにこれぇ……】
「……これは、『君』が僕を見てツールに頼っていたからこそ命中した攻撃。『ズル』をする人って、ある意味でわかりやすいから。だって、『確実に始末できる動き』をしてくれるわけでさ。『正確な未来』が分かっていれば、そこを狙うだけだから」
【おおおおお】
【おおおおお】
【\50000】
【\50000】
【\50000】
【\50000】
【ここが投げ銭の投げ時だな!】
【今回ばかりは文句言わせないぞ、こはねちゃん!】
これで敵は、初心者さんと強すぎる猛者の2人をロスト。
――この試合は僕の味方にとって、順調すぎる滑り出しになった。
【速報・こはねちゃんさん、チーター&マナー違反相手に対し、プレイヤースキルと裏読みで逆手に取った戦いで撃破】
【しゅごい】
【すげぇ】
【なんだ今の動き……】
【ぅゎょぅι゛ょっょぃ】
【これは強い幼女】
【幼女怖い……】
【※これで自称25歳成人男性です もう信じらんないわこんなん……なんだよもう、しゃべり方はどう聞いても俺と同世代の男で合間のトークもあるある懐かしネタとかちょいちょいあるのに、くっそかわいいロリっ子で、ジュース飲んだときの声とかも妙にエロいし、こんなんもう性癖が……破壊されて再構築される……】
【草】
【草】
【あーあ、まーたこはねちゃんに情緒を破壊されてる】
【いつものことでは?】
【それはそう】
【こはねちゃん……なんて悪女なの……】
【けど……え、こはねちゃんさんやばくね? この動きとか全部】
【これは「こはねちゃんさん」だわ……】
【これからは「さん」を着けろ介護班にもなれなかったクズ共が】
【そうまで言う!?】
【草】
【覚醒こはねちゃんって、もしかしてプロゲーマーになれる?】
【普通になれるだろ、こんなん……】
「……いや、なれない……かな」
その後の戦闘は――礼儀として手抜きをせずに勝利に導き、無事に勝ちを得て。
全体チャットでも、ここの画面みたいな賞賛の嵐を外国語で受け取って。
待機画面に戻ったら戻ったで、彼らから個別チャットでさらに褒め称えられて。
「――じゃ、ここまでかな」
あと数試合でトップに君臨できるというところで――僕は、ゲームからログアウトした。
【あああああ】
【あああああ】
【え?】
【なぁんでぇ……?】
【もったいなさすぎる】
【幼女でも成人男性でも頭おかしい(褒め言葉)動きだよなぁ】
「僕自身はツールとかは使っていないけども……うん」
僕は、これまで慣れ親しんだゲームのアイコンを見ながら、静かにため息をつく。
「相手のすることが全部分かっちゃうって、ズルっこには変わりないもん。調子が良すぎるのもそれはそれで……うん。このゲームも、しばらくは封印かな。最低でもランクが完全にリセットされるまでは」
――ゲームは、勝ちすぎたら楽しくはない。
むしろ、全然勝てないからってあがいてるくらいがいちばん楽しいんだから。