TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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12話 声バレを華麗に回避した

【てか泣きやんだから聞きたいけどさ  このかよわくてかわいいいきもの、なんでこんなかわいいのに男のフリしてた?】

 

【草】

【またギャン泣きするからやめろ!!】

【第4幕はお控えください】

【草】

 

【だからこうして群がられるの嫌がったんだろうって】

【あー】

【予見できてたのはかしこい】

【かしこいね】

 

【そりゃあ俺たちみたいなのが群がったら嫌だろうなぁ  ギャン泣きするくらいに身の毛もよだつよね】

 

【ヴッ……】

【自爆魔法はやめよう……?】

【草】

【それはそう】

 

【申し訳ない気持ちは全員が抱いたから……】

【本能的な危機感をね】

【ああ、家族に限らず、生物として同じ集団に属する子供に対するそれをな……】

【草】

 

【こはねちゃん、無理して反応しなくて良いからね】

 

【そうだよ】

 

【泣きやんだだけで俺たち感動してるからさ】

 

【泣きやんでくれただけで立派だよこはねちゃん】

 

【草】

【草】

【うん、まぁそうねぇ……】

【とりまギャン泣きする年齢の幼女って確証得られたし】

 

「……すんっ……僕は男なので帰ってください……男です、本当です……大人です……子供じゃないです……」

 

あと、女の子じゃないです。

少なくとも、この前までは。

 

あと、気持ちの上では、まだ。

 

【んー?】

【えっと……】

【うん……】

 

【そうだと言い張るメンタル  いつものこはねさんだ……!】

 

【感動した】

【草】

【そっかー、違ったかー(棒】

【だまされちゃったなー(棒】

 

ふぅ、と大きくひと息。

 

よし、もう大丈夫だ。

 

けど、この「(棒」ってのはなんだろう……まぁいいや。

 

「えっと、ごめんなさい。じつは……こっそりボイチェンで女の子の声を楽しんでたんですけど、昨日切り忘れてて。泣いてたのは……えっと。そうだ、対人コミュニケーション障害でパニック起こしたからで。大人の男でもあんなになっちゃうから引きこもってるわけで」

 

苦しいかな?

一応事実は言ってるけども。

 

【そっかー】

【かわいいねー】

【ごめんね、でも……】

 

【お鼻ずびずび音とちーんってしてたので分かっちゃうから……ボイチェンって、全部の音を変換するわけで……】

 

【お前!】

【今、騙されたフリしようって!】

【草】

【あーあ】

【意思の統率とか無理だわな】

 

「え? ……み゛ゃあ゛っ!?」

 

そうだった……!

 

ボイチェンなら「マイクに乗った音が全部変換される」――やばいやばい、全部バレてる……!

 

あとびっくりしすぎて変な声出た……!

 

けども――今の僕は、思考能力が皆無だ。

 

だって今の状況ってば、大勢の初対面の人たちに囲まれてるも同然で――だから激しい動悸とめまい、吐き気、頭痛、勝手に流れる分の涙が止まらないんだから。

 

【草】

【どっから出したその声】

【かわいい】

【おもしれーロリで草】

【こういうのでいいんだよ】

【わかる】

 

【かわいそすぎるのはNG】

【ほどほどにかわいそうなのがGOOD】

【草】

 

【こはねちゃんこはねちゃん、とりま配信ストップしよ?】

 

【あと今回のアーカイブも消さないと……もう無許可の切り抜きがSNSで拡散されてるから手遅れだけど……】

 

ふと、前から見てくれてた人たちのコメントらしきものが目に入る。

 

「そ、そうだった……!」

 

【えー】

【まぁしゃあない】

 

【けど、ここで配信切ったら正体が女の子って確定しちゃうんじゃ……ほら、必死になって止めようとするほど拡散されるのがネットって魔境なわけで……】

 

【あっ】

【草】

【「疑惑」って、証明できないとね……】

【今の時代は燃やそうとするやつらばっかりだからなぁ】

 

【これでもまだ、時間帯が昼間だからマシなレベルだし……】

【暇人の多い夕方とか夜とかじゃなくて良かったけどさぁ……】

【でも……】

【どっちにしろおしまいで草】

【始まりでは?】

 

そうだ。

 

既に、この配信の情報は――無許可で無遠慮で不躾にもほどがあるけども、ネットっていう良くも悪くも拡散される性質のせいで、もう手遅れなくらいに広がっているはずだ。

 

つまり、たとえ今配信を止めても――今後、僕がアカウントを新しくしない限り「こいつ、本当は女の子なんだよな……」とか思われちゃうってことだ。

 

優しい視聴者たちのコメントだけを許可したって、僕が見えないところで一定数は観続けるだろうし、それが――いずれは飽きるにしても、それまでは拡散と再生産が止まらないだろう。

 

「――ふぅ」

 

大きく、息を吐き出す。

 

――僕が見た目通りの高校生――高校生だ、決して中学生でも小学生でもなく、高校生――じゃなくて幸いだった。

 

対人関係が壊滅してる現役JKがこんな炎上したら、きっと耐えられなかっただろうから。

 

かちかち。

 

「………………………………」

 

僕は手のひらの汗をパーカーで拭いながら、慎重にボイチェンソフトを――フリーズしてるそれを停止、再起動。

 

「……あ、あー。てなわけで弱小個人VTuberってのを逆手に取ったドッキリに引っかかって来た人たちはごめんね? 僕、この通りの声な成人男性でさ、25っておっさんだからさ。おっさんがパニック起こして泣いてた演技してたの。分かる?」

 

冷静に――ボイチェンソフトを通して聞こえてくる、前の僕の声で安心しながら言う。

 

ドッキリ。

 

企画。

 

そうだ、年に何回かそういう企画が盛り上がっておすすめ欄に出てくるのを見てきたじゃないか。

 

うん、そうだ、きっとそれで信じてくれる。

珍しくもないことだもん、うん、きっとそう。

 

【ふぁっ!?】

【野郎の声に】

【SNSで流れてきた声だ】

【なんだドッキリか】

【そうか、ドッキリかー(棒】

 

【え、どっち?】

【マジでどっちだ……?】

【わからん……】

【んにゃぴ……?】

【あっちこっち? どっちどっち?】

【あり? なし? なし? あり?】

【草】

 

【視聴者たちが完全に疑心暗鬼になっている】

【さっきのギャン泣きと今の話し方のギャップで混乱するわこんなん】

【ギャン泣き幼女から落ち着いた男に】

【25とか言うけど声からして若いし、これはこれで】

【わかる】

【草】

 

【やべぇ……マジでわからん】

【ギャン泣き……落ち着いた話し方……】

【ふぇぇ……?】

 

【脳が……分裂する……】

 

【大丈夫? 脳梁ちぎれちゃった?】

【右脳と左脳が独立し出したか……】

【右と左で別々に認識すれば……これだ】

【プラナリアかな?】

【草】

【草】

 

【えっと……その前になんだけど  25が……おっさん……?】

 

【      】

【      】

【      】

 

【どうしてそんなこというの!!!】

【俺はまだおじさんじゃない……俺はまだおじさんじゃない……】

【草】

【盛大に流れ弾で草】

【ひでぇことしやがる……】

 

【いや、でも、さっきの……】

 

【いいか? こはねちゃんはメンタルが弱いんだぞ】

 

【コミュ障こじらせて引きこもりニートなんだぞ】

 

【そんなけなげな子が、もう配信してくれなくなったら?】

 

【信じてたら救われるんだぞ?】

 

【良いか、相手は言い切っているんだ  ここは……な?】

 

【分かるな?】

 

【俺が言ってること  読み取れるよな?】

 

【……そうだな! なんだ男か!】

【そっかー、まじかー】

【残念だけど引っかかった俺たちが悪いな!】

【ドッキリ企画大成功おめ】

【おめ】

 

【え? こんなので騙されるのとか、それもう――】

 

【しーっ】

【草】

【大丈夫、疑心暗鬼で完全に真っ二つになってるから半分は信じてる】

【あるいは信じてほしいらしいから信じてあげてるだけ】

【草】

 

【どっちでも良いわ、おもしろかったし】

 

【ひやひやしたの間違いでは?】

【そうとも言うな!】

【草】

 

【授業サボって聞いてた甲斐あったわ】

 

【↑勉強しろ】

 

【笑ったり冷や汗かいたり泣いたりしてバレないか心配だったわ】

 

【草】

【それ絶対バレてるって】

 

【大丈夫大丈夫  他にも何人か蠢いてたから】

 

【草】

【蠢く言うな草】

【草】

 

【まぁギャン泣きの方が授業よりおもしろいよな!】

 

【おもしろいか……? おもしろいな……】

【うん……他では体験できない体験をしたのだけは確かだね……】

【しかもリアルタイムでな】

【草】

【ここでさらに加速してて草】

 

良かった。

 

まだときどき目が潤んでよく見えないけども、どうやら「ドッキリ」って言い訳が通用したみたい。

 

「……ふー……、良かったぁ。うん、そういうわけだから……あ、できたら登録はそのままにしてくれると嬉しいかな。今どきじゃないけど、ちょい古いゲームとか実況してるニートの暇つぶしだけど、今来てくれた人の10人に1人でもこのゲームとか布教したいし」

 

あー、喉が枯れてるー。

ボイチェン越しでも枯れた男の声になってるー。

 

……普段だったら、こんなにたくさんの初対面を前に、こんなに落ちついて話せはしない。

 

けども――コメント欄の流れから、無事に「ボイチェンフリーズでの声バレ事故」って企画だと信じてもらえたようだし……さっきまでのに比べたらね。

 

あと、やっぱ泣くのってすっきりするからさ。

 

そう、普段みたいにお酒とかで忘れるのよりも手早く、かつ効果的にね。

そういうのが分かるくらい、今の僕は落ち着いているんだ。

 

もう酸欠とか疲労で、ろくに考えられないんだ。

 

ここは直感に従うんだ。

 

「あ、でも新規の人は書き込まないで。僕が気持ち悪くなるので。そうだなぁ、見てくれるならありがたいけど、できたら数ヶ月は見るだけにしてほしいかな……それならなんとか配信中に吐かなくて済みそう。同接の数を見なければなんとか」

 

たくさん泣いてすっきりはしたけど、たくさんの見知らぬ人間が見てるって思うと気持ち悪くなるのは変わらない。

 

……同接とか、絶対に見ないようにしよっと……泣きすぎて疲れたのに、ここから吐きそうになったら絶対我慢できずにげろげろしちゃうし。

 

【草】

【草】

【注文が多くて草】

【立ち直ったとたんにふてぶてしくて草】

【ある意味強靱なメンタルだな】

 

【ああ……ギャン泣きをなかったことにできるのは、たしかにしぶとい】

 

【草】

【おもしれー女】

【男らしいぞ!】

 

【数ヶ月経たないとコメントすらダメなのここ!?】

 

【ごめんな? こはねちゃん、マジでさっきみたいなパニック発作起こしちゃうのよ、メンタルやっちゃってて】

 

【あー】

【なるほど】

【こんなんなるんならまずいな……】

【ああ……】

 

【普段は自制してたか……あんなギャン泣きをしたい気持ちを……!】

 

【草】

【そっかー】

【それは大変だなー(棒】

 

【視聴者の意思疎通が浸透している】

【なにしろ数十分の苦楽を共にした戦友だからな!】

【草】

 

 

 

 

「あと、勝手に切り抜いて拡散した人。居るでしょ」

 

【ギクッ】

 

【なぜバレた!?】

 

【草】

【まぁ複数居るわな】

 

「あ、居たんだ……いや、女の子バレした僕が泣きじゃくる姿とか絶対おいしいから待機してると思ってた。あ、違う違う、そういうドッキリにね」

 

え?

 

コミュ障?

 

――僕だって、怒りを覚えてる相手にくらいは普通にしゃべれるよ?

 

泣いてすっきりしてるし、結構疲れてるからね。

相手がヤンキーとか陽キャとか群れてる相手じゃなきゃ大丈夫大丈夫。

 

「もう拡散されたのとかはどうしようもないってのは知ってる。それ狙いだったし……ほら、泣く演技にハマっちゃったから」

 

【草】

【ギャン泣きをそう主張するのか……】

【し、しーっ!】

【そうだったな……演技上手だなー(棒】

 

「そうそう、だからバズったのとか、全部僕に送ってね? そうだなぁ……『バ美肉ボイチェンで野郎どもを釣ってみたら大漁だった』とかなタイトルで僕のチャンネルの広告塔になってもらうから。あとSNSでもリポストして、少しでも僕の得になるようにしてやるから。ドッキリに釣られちゃったんだからしょうがないよね」

 

ひとしきり――子供のときぶりに盛大に泣いた僕に怖いものなんて無い。

 

ここは強気に出て「本当にそういう企画だったんだな」って信憑性を高めるのに使わせてもらう。

 

え?

 

登録者とか収益?

 

そんなの要らないし……女の子と思って釣られてきた野郎どもが住み着いてもやだし、そもそも怒りが静まったら人見知り発動するから怖いし……。

 

【草】

【つよい】

【したたかな幼女】

【だから25歳の男だって】

【そうだったなー(棒】

 

【え? マジで企画?】

【そんなぁ】

【あー、炎上したのを逆手に取るか】

【うまい】

【大混乱で草】

 

【でもずびずび音とか……】

 

【し、しーっ!】

【だからダメだって!】

 

【あー、やられたわー  そういうのも、事前準備ありならボイチェン使って用意できるわーマジできるわー  ……できるよな?】

 

【できな……そうだな、できるな(棒】

【あー、できますできます(棒】

【あっ……(察し】

【マジかー(棒】

【えー(棒】

 

【お前ら釣られてやんの】

【お前だって】

【そうだけど……】

【草】

 

【分かりました……ついでについさっきの鼻かみ音まで編集したの、DMで送ります……ムイッター用とミックミック用とミューチュームショートと通常版で編集して……うぅ……ぐや゛じい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛……】

 

【草】

【草】

【手厚すぎて草】

【まぁ釣られたわけだしな】

【こはねちゃんさんの方が何枚も上手だったからな】

 

【潔くて草】

【完璧な釣りだったからな】

【え? どっかの事務所の企画?】

【でも個人勢だって】

【箱に移籍するとか】

 

「いやいや、そんなのないです。ただの思いつきがびっくりするくらいにハマっただけで」

 

ふぅ。

 

……なんだ、ネットの向こうだったら案外普通に話せるじゃんか。

 

良かった、やらかしちゃったけどなんとかなって。

 

 

 

 

【お、懐かしいな、これ】

【学生時代にやったわ】

【すげー、まだ続いてたんだ】

【昔は流行ってたよなぁ】

【当時のグラまんまだけど微妙に良くなってる】

 

「そうだよ。一時期はサーバーが落ちるくらい人気だったんだから。10年近く経って……干支がひとまわりした結果、かつての僕たちとおんなじ層が流入してきてるから持ち直してるらしいけど」

 

【あ、俺のアカウント、スマホ変えてログインできないわ】

【そもそもメールアドレス、yモードとかいうとっくに終わったやつだったわ……】

【あるある】

 

それから――意外とみんな素直に「逆ドッキリ」に納得してくれたらしく、特に荒れることもなく――荒れていたら僕はトラウマを発症して配信をブチ切りしてネットの世界からも引きこもっていたはずだ――かといって配信からさっさと退出することもなく、なぜか和気あいあいと昔語りしていた。

 

……大漁の文字列が怖いけど、まだおかしくなってるテンションは上がったままだから大丈夫……なはず。

 

【10年……12年……干支……うっ……】

 

【つらい】

【俺はまだおじさんじゃない俺はまだおじさんじゃない】

【お姉さんなの私はまだお姉ちゃんお姉さんお姉ちゃんお姉さん】

 

【ひぇっ】

【こわいよー】

【この配信、こはねちゃんの被害を受ける属性が多すぎる】

 

「うん、つらいよね。でもしょうがないよ、僕だって引きこもって1日1日を過ごしてたらもう25だもん。好きで年取ったんじゃないもんね」

 

よし、もう大丈夫。

みんな、誰も声バレ疑惑のことなんて覚えていない。

 

そうだ、人間ってのは基本おバカなんだ。

今みたいな雑な言い訳でも、ころっと信じ込んじゃうんだから……あー、安心した。

 

増えた――いや、男だって判明したらかなり減ったけども、前から居た雰囲気の視聴者たちに近い人たちが残ってくれたのか、かなり初対面の人たち――新規さんを前にしても、僕のコミュ障は発動していない。

 

まぁ、たぶんアドレナリンとかいろいろなのがどばどば出てるからなんだろうし。

あと、アルコールでかなり緩和してるからってのもあるし。

 

……これ、終わったあとが地獄だなぁ……。

 

ほら、今の体、本当に喜怒哀楽激しくて特にちょっとした刺激で泣いちゃうし……。

 

「時間だけは平等って言うけど、やっぱ充実したリアル過ごした人たちの方が絶対的に時間の密度は高いんだ。だから僕みたいなのはこうして青春から干支が見える歳になると落ち込むんだ。無駄に過ごした時間でさ」

 

【草】

【草】

【わかりみが深い】

【こいつ……できる……!】

 

【え、なんでこんなトークできる人が今まで埋もれて……ああ、ゲームのチョイスぅ……】

 

【あとは普通の男ボイス】

【声は別に気にならないんだけど】

【VTuberな見た目から入ってくるからミスマッチ起こしとる】

【それな】

【悪いけど、同接とか再生数少ないのは見ないもんね……】

【普通は物好きとかファンしか見ないからなぁ、数字が取れてないと】

 

【サムネもタイトルも凝ってないせいでムーチューブ的に失敗しとるな】

【聞いてたらおもしろいんだけどなぁ】

【まぁでも実際、普段の実況だと穏やかすぎるし】

【ほんと、チョイスがね……】

【悲しいなぁ】

 

【あと、かわいいことはかわいいけど正直立ち絵もクオリティー低いし】

 

【あっ】

【それは】

【待て、早く謝れ】

 

【え?】

 

「……1回目は許す。2回目はBANね。僕、お釈迦様にはほど遠いから」

 

【ひぇっ】

【え、なんで】

【急にガチトーンになってる】

【こわいよー】

 

【ヒント:こはねちゃんさんはこの立ち絵のイラストレーターさんが最推し】

 

【こはねちゃんさんが唯一キレるのがひよりママの悪口だからなぁ】

 

【ひより「いえ、やっぱり下手ですし……」】

 

「良いですか、先生。あと新規の人たち」

 

すぅ、と、僕は息を吸う。

 

【ひより「はい……」】

 

【はい……】

【はい……(おい、いつものだぞ)】

【はい……(正座して聞け)】

【はい……(なんだこれ)】

 

【草】

【なぜか先生が怒られる展開で草】

【すでに叱られる準備できてて草】

【おもしれーやつらで草】

 

「芸術ってのには基準なんてないんです。美大とか出たみたいなすごい作品よりも友達とか……は僕には居ないので、家族……とも仲が悪いので。………………………………。ふぅ……特に良いたとえとかできませんけど……ふぐっ……」

 

僕は空を仰ぐ。

 

「ぐすっ……泣かない、泣かない……今はひより先生……」

 

ああ、僕は今日もずいぶんとしゃべっている。

カーテン越しだから空なんて見えやしないけど。

 

【草】

【草】

【胸が苦しい】

【この気持ちは……まさか、恋……?】

【変だよ】

【草】

 

【男の声で泣くのはやめて……せめてボイチェンにして……】

【まさか男声で第4ラウンドを!?】

【少し興味があります】

【ひぇっ】

【草】

 

「ふぅ……で、説得力はないですけど、たとえ技巧が今の段階では稚拙だったとしても、先生の絵からは他の誰にも真似できない味がにじみ出ているんです。少なくとも僕にとってはかけがえのない存在です。それが芸術っていうものでしょう? 先生にしか、今の先生にしか創造できない絵柄なんです。そんな先生の、今の姿が好きなんです。今できる技量で、今表現したいもの……それを見られるだけで、ファンは幸せなんです」

 

【分かる】

【分かる】

【すごくよく分かる】

【感動した】

 

みんな、マンガなら分かってくれるんだけどなぁ……ほら、最初の方の巻の絵柄が好きだとかって。

それがイラストになると、とたんに厳しくなるんだから。

 

【ひより「……え、それって……/////」】

 

ん?

 

何か変な反応?

 

【????】

【言いたいことは分かるが】

【まさかの全世界公開告白!?】

【草】

 

【女の子の身バレ配信かと思ってきてみたら予想外におもしろくて、かと思ったらいきなり告ってて草】

【これはこれで】

 

………………………………?

 

……あー、先生もみんなもそっちで捕らえたか……すぅっ。

 

「いやいや、ありえないので。片や駆け出しリアルも創作も充実してる学生のひより先生と、僕みたいにコミュ障で大学を中退して引きこもってるニートとなんて。ありえないので、くれぐれも変な噂立ててひより先生のキャリアを台無しにすることだけはやめてね、みんな。さすがにそれだけは法的措置も辞さないから。僕は家族にお金をせびって開示請求とかできるタイプのニートなんだぞ? 本気で家族に土下座してでも捻出して、先生への誹謗中傷ってことで開示して対面――は無理だから弁護士の先生に謝ってもらうからな? あーあ、僕が本当にさっきの声の通りの肉体だったら変な噂は立たないんだけど、残念ながらこの通りの男だからなぁ」

 

まったく。

 

男も女もどいつもこいつも、男と女――かもしれない組み合わせが、ちょっとばかし親しいからっていってすぐにこれだ。

悲しいかな、僕を含めて大多数の人間ってのは小学生低学年からろくに進化できないらしい。

 

ほら、小学校であるあれだよ、「うわ、男女で手ぇ繋いでる! 夫婦だ!」って、あれ。

 

――そもそも僕は女の子になってるのにね……ってのをきっぱり否定したからこそなんだろうけども。

 

ああいや、このあまりにも自由すぎる時代なもんだから、男同士でも女の子同士でもそれはそれではやし立てるのか……やっぱ精神年齢10歳から成長しないんだな、みんな。

 

「――失うものがなにひとつないからこそ、たとえどんな目に遭ってでも、先生が被害を受けた分は償わせることができるって――覚えといてね? 僕が生きてる限りは、どんなことしてでも追い詰めるから」

 

可能な限りのすごみを聞かせて――マイクぎりぎりで、言う。

 

もっとも、ボイチェンの通用しない現実では、ただ小さい女の子がかわいくすごもうとしてるだけにしか聞こえてないけども。

 

【ひぇっ】

【ひぇっ】

【めっちゃ怖くて草】

【こわいよー】

 

【草】

【しかし話が滑らかすぎる】

【これでなんでニートしてるんだ草】

【これ、絶対普通に就職できるって】

 

【うちの会社の潤滑油で良いから……どう?】

【まて、うちに】

 

「ニートをなめるなよ? 詳しくは過去のアーカイブ参照。ひより先生も良いですね?」

 

【ひより「    」】

 

【し、死んでる……!】

【草】

【そらそうよ……】

【どう聞いても熱烈な告白だったからなぁ】

 

【でも悲しいかな、こはねちゃんは引きこもりニートだからひよりママとは会えないのよね  たとえ男でも女の子でもTSっ子だったとしても……いや、最大の原因はさっきのギャン泣きまで起こり得るパニックか……】

 

【ぶわっ】

【それなんて悲劇?】

【今の時代を象徴する哲学だな!】

 

感情がマイナスに吹っ切れた反動からか、やけにハイテンションで――普段に比べたらお酒もたいして入っていないのに、その後の配信はやけにコメント欄が盛り上がっていた。

 

 

 

 

「うぷっ……ひん……おろろろろろ」

 

で、そのあと冷静になった僕はその反動の反動で――とびきりの美少女になったのにゲロを吐いた。

 

「うぇぇ……やだぁ、こわいぃ……ひと、こわいぃ……ふぇぇぇぇぇ゛……!」

 

「おろろろろろ……ぐす……」

 

で。

 

げろげろしてたって報告だけしといたら、ぶら下がったリプライにその音とか映像とか上げてほしかったっていうのが――それなりに大量に来てて、もっかい吐いた。

 

やっぱ人間って……怖い。

 

 

 

 

――ガタッ!

 

「綾瀬さん!?」

「綾瀬様、どうかしましたか!?」

 

――とある高校、3年の教室。

 

「……ぃ、いえ……何でも……」

 

2時間かけての試験が終わり、気が緩んだ休み時間。

 

それでもまだ静かな中、普段は「お淑やか」なはずの彼女がいきなり立ち上がり、あやうくイスを倒しかけたのに驚く同級生たち。

 

顔を真っ赤にしながら座り直した綾瀬優花は――頭を抱えた。

 

――こっそり、なんとなく、本当に気まぐれで見てしまったスマホのSNSで『声バレ幼女こはねちゃんのギャン泣き配信』という文字列を見てしまったから。

 

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