TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~ 作:あずももも
「お、こはねちゃんも分かってるぅー! だよねー、この少女漫画みが良いのよー……そう、汚れを知らないピュアな小学生が読むような、絵本に近い感じの少女漫画。今どきは……いや、私のときからすでに雑誌のカラーによってはお色気少年マンガなんか目じゃない昼ドラ展開を、これで良く小学生女子に売れるなぁって思うレベルのが跋扈してる少女漫画とか、突如として男同士の薔薇色が展開される作品とか、SNSで流れてくるえっちなのとかさぁ……そういうのに汚れてないのが良いのよ……」
あ、はるなさんが悲しい目をしている。
きっと、読んでみたらえぐかったってのがかつてあったんだろう。
分かるよ。
僕もそういう経験あるから……ほのぼの系だと思って読んでたらいきなりグロ展開とかハード展開とかで、それからしばらく事あるごとにフラッシュバックしてくる系の……。
「………………………………」
「………………………………」
僕たちは、ふと視線が交錯する。
「………………………………」
「………………………………」
僕たちは、視線で理解し合った。
そうだ、僕たちは同世代……こういうトラウマに近い経験を、ともすれば同じ作品で分かち合った仲間なんだ。
「?」
「ひより先生は知らなくて良いことです」
「そうそう、知らなくて良いのよーひよりちゃんせんせー」
「むー、そう言われるとなんだか子供扱いされてる気がしますー」
今日も子供っぽく頭に乗せているカチューシャの周りをなでりなでりされて、ほっぺを膨らませてむくれている先生。
ああ、ひより先生はひより先生だ。
「あ、そういやこはねちゃーん」
「はい?」
「今度コラボ配信しない?」
「は――――――いえ、その」
「ちっ……ひよりちゃん先生でほだされてる今がチャンスかと思ったのに」
「隙あらば突っ込んできますね……しませんって」
はるなさんが悪い顔をしている。
……正面から誘っても絶対断ると学習されたか。
このやりとり、最近しょっちゅうだからなぁ……。
「わぁっ、コラボですかぁ!」
「! そうなのよー! ね、こはねちゃん!」
「しませんよ?」
しないって。
ひより先生を喜ばせてからがっかりさせまいと僕がうなずくのを期待されても困る。
しないものはしないんだ。
「今までは渋い顔されてたんだけど、こはねちゃんが『少なくとも肉体は女の子』ってのが浸透してバ美肉――中身は成人男性疑惑が雲散霧消したし」
「本当なんですけどねぇ、それ」
「こはねちゃんさんはかわいい女の子です!」
「少なくとも元に戻るまでは正真正銘の女の子よねぇ」
「「ねー」」
「………………………………」
……うん、そういうところは2人とも女の子だね。
僕みたいな肉体だけなんちゃってミニマム女子じゃマネできない芸当だよ。
「こはねちゃんの登録者は……ほとんどあの事件で稼いだけど、なんだかんだほとんど登録も剥がされないままで、すでに個人の枠を超えてる数字だし。いや、ほんと、マジで個人で、しかもこはねちゃんが女の子ってバレてからの加速度としてはギネス級の跳ね方した子だしで、ぜひにって」
「いやいや、あれは一過性で」
「いやいやいや、数週間持続してるんならそれはもう本物よ?」
「こはねちゃんさんっ! こはねちゃんさんっ!」
「いえ、僕はやっぱりそういうのはちょっと……」
「うーん……やっぱそういう反応になるかぁー……ひよりちゃん先生とダブルアタックしてもダメかぁ」
わざとらしくしょげておいおいとしているはるなさんを見捨て、僕へ抱きついてきて揺すりながらコラボさせようとしてきている小さな生き物のひより先生を感じながら、僕は首を振り続ける。
僕の個人的な感情を置いておくにしても、やっぱり僕ははるなさんを初めとして真っ当で真贋のはっきりしている女子とのコラボは難しい。
なにしろ僕は、あくまで「男配信者がバ美肉VTuberしてる」→「声バレで女の子?」→「迷惑配信者の配信に映って女の子だ!」→「炎上系に絡まれてるかわいそうな小動物が居るらしい」って流れで有名になっただけで、僕の感覚としてはTS前からそこまで変わってない同接10人程度の感覚なんだから。
だいたい僕は――心は男だぞ?
そんなのが生粋の女子、しかも箱って呼ばれる企業所属の配信者と一緒に出てみろ、ぼろぼろのぼろっぼろで見るも無惨な結果になることは間違いないんだから。
「こはねちゃんが出てくれるんならひよりちゃん先生がサムネOKしてくれるかなーって思ってたのに」
「こはねちゃんさんっこはねちゃんさんっこはねちゃんさんっ!」
「卑怯ですよはるなさん。落ち着きましょう先生」
ちらちらと見てくるはるなさんと、僕を揺すっても効果が薄いと理解したのか、目の前に来てぴょんぴょんとしている先生。
あざとい。
2人ともあざとい。
……女子って、こういうとき一致団結するよね。
やっぱり僕たち男とは別の種族なんだって、こういうときにも実感するんだ。