TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~ 作:あずももも
「ひぃぃぃぃ……」
「んぁぁぁぁ……」
僕たちは鳴いている。
僕たちは鳴くしかないんだ。
「みなみちゃん、メン限配信用のコスプレ衣装ならクローゼット2部屋分あるのになー。普通に着こなせてお化粧できるしかわいいし……なのに今はすっぴんでジャージ……しかも髪の毛に手櫛すら通してない……うぅ、もったいない……!」
「め、目立ちますから……みなみさんの素顔を着飾ってしまいますと……素顔を見られたくないからこそVTuberをやっているわけですし……」
外は明るく、空気もさぞや気持ちいいんだろう。
けれども僕たちは、それを味わうことはないんだ。
「本当に無理なら、引き返す。そう言って説得してのおでかけだけど、今のところはときどき振り返って保護欲かき立てる目で見つめてくるけど、まだ大丈夫そう……みなみちゃん、こはねちゃんが居るから少しはがんばっているみたい」
「ええ、せめて今日の訓練で、少しは改善したら……ですね。みなみさんも、こはねさんも。大丈夫です、今日の介護班は100人体制ですし、なによりも先日の反省を活かして配信はしていませんから」
「ひぃぃぃぃ……」
「んぁぁぁぁ……」
回れ右をして走れば、すぐに泣きつける保護者が居るのは理解してる。
けども、怖いものは怖いんだ。
泣くものは泣くし、鳴くものは鳴くんだ。
僕たちは生まれたてのレッサーパンダのごとくに脚を震わせ、手と手を握りしめ合い、今にも如月先生へのおみやげを産出しそうになるのを我慢しながら1歩、また1歩と前へと進む。
数年来の引きこもり&ニートでも、2人寄り添えば――あとはこの周囲にたくさん居るらしい、いざとなったら泣きつける保護者が居る場面ならなんとかなるはずなんだ。
え?
羞恥心とか自尊心?
ないよ、そんなの。
誰かに顔見せできないとかいう動機でのプライドなんてのが1ミリでもあったら、今ごろ僕らは引きこもりなんてしていないんだから。
そんなプライド、実の妹に泣きついて胸元にすがり付いておしっこ引っかけた時点で吹き飛んでるもん。
◇
「みぃぃぃぃ……」
「ひぃぃぃぃ……」
「むぇぇぇぇ……」
「ひゃあぁぁ……」
僕たちは、この町が貴重な税金を投入して育て上げた大樹の下のベンチ――その中でも特にわさわさとした枝葉で外からの視線を遮ることができるセーフエリアで隠れている。
その姿は、まるで……そう、ハムスター。
僕たちは怯える小動物なんだ。
震えながら身を寄せ合うことで、今日まで生き延びてきた被捕食者なんだ。
怯え逃げ惑う僕たちを見つけて安心感を求めて合流してきたのは、野良の女の子たち。
ひとりは制服を着ていて目元まで隠れる前髪で怯えようの上、僕たちひとりひとりをしっかりと抱きしめてからようやく震えが収まるほど凶悪な存在から逃げてきたらしく。
もうひとりは、なにやら胸元と肩が露出したニットの服を――必死に隠すようにしていることから、きっと邪悪な存在に無理矢理着せられたんだろう、ちょっと動くとその下が見えちゃいそうなほどのミニスカート姿。
そんな彼女たちを――もちろん僕たちは受け入れたんだ。
みなみさんと同世代くらい、僕よりは――肉体的にはひとまわり上の彼女たちは、一瞬で同化した。
「みぃぃぃぃ……」
「ひぃぃぃぃ……」
「むぇぇぇぇ……」
「ひゃあぁぁ……」
非捕食者であっても、数が集まれば強く――はならなくても、安心感は醸し出される。
僕たちは、日陰と葉っぱに隠れながらお互いに振動し合って安らぎを得るんだ。
ぷるぷるぷるぷる。
ぶるぶるぶるぶる。
すりすりはあはあ。
ぶるぶるぶるぶる。
……ん?
誰か今、変なときの優花みたいなことしてなかった?
「増えましたね……」
「増えたねぇ……」
「小動物が……」
「か、かわいらしいですよ……?」
「これ、配信で実況してたら大変なことに……」
「あ……介護班さんたちが、次々と脱落を……」
「かわいいもんねぇ……」
「かわいいですからね……」
優花とはるなさんは、こんな僕たちを遠くで見守るだけ。
まるで公園で遊ぶ子供をママ友会議しているようだね。
もうちょっとだけ近づいてくれても良いのにね。
僕たちは繊細な距離感を求めているんだよ?
「……ですが、あれはやはり、こはねさんの……ええと、惹きつける何かで……?」
「みなみちゃんも、めんどくさ――メンヘ――崇拝仲――おんなじような子とは一瞬で仲良くなるからね。まぁこはねさ――ちゃんの魅力は顔が隠れてても分かるってのは、声だけで配信してた男の子時代から知ってるし」
「みぃぃぃぃ……」
「ひぃぃぃぃ……」
「むぇぇぇぇ……」
「ひゃあぁぁ……」
今日は、人見知り克服作戦withみなみさん。
……でも、もう少しこうやって安らぎを得ていても……良いよね?
だって、外は怖いもん。