TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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138話 ちょっとだけ外に出てみようと思った

「ふしゃーっ……!」

 

僕を抱きしめてきているみなみさんが、何者かを威嚇している。

 

「………………………………」

 

……低めの体温と、優花や如月先生、桁違いのはるなさんとは違って僕の頭を包み込むほどじゃないけども、それでも男とは違って柔らかい胸元が僕の後頭部を優しく保護してくれているんだ。

 

ついでに、ジャージからは最近嗅ぎ慣れた彼女の匂いが。

こういうのって落ち着くよね。

 

「……ごめんね。ぼ――私、相手を選ぶくせして初対面でも距離近づけ過ぎちゃって嫌われるタイプなんだ。それに――」

 

「ぷは」

 

僕はなんとか抜け出した。

 

「……その日のお手軽な出会いに略奪愛は重すぎるからね」

 

「? りゃくだつ……?」

 

後頭部にふんにょりとした感触がしていた状態からも解放されると――目隠れさんの前髪の隙間から、なぜか親近感。

 

人見知り仲間のみなみさんとも、家族の優花とも……ひより先生たちとも違う、何かを感じる。

 

この違いは、なんだろう?

初対面だから?

 

それとも――女の子なのに、僕と同じような雰囲気があるから?

 

「……むぇぇぇぇぇ……」

「あ、ご、ごめんなさい……私、つい睨んじゃって……!」

 

「むぇぇぇぇぇ……!」

「みぃぃぃぃぃ……!」

 

……って思ったら、すぐに僕たちの仲間に戻った。

 

「……ひぃぃぃぃ……」

 

ついでで僕も鳴いて共鳴してみた。

 

そうだよね。

僕たちは『他人から変に思われた』って感じただけでも泣きたくなる存在なんだから。

 

 

 

 

「ぼ――私、実はこういう格好で部屋から……いえ、家から出るのは恥ずかしいんです。ちょっとだけならともかく、女の子女の子した格好で……他人の視線が胸元とか腰にくると泣きたくなってきて……」

 

「分かります……!」

「分かる……!」

 

レイさん。

 

目隠れアキノさんよりも背が高い人。

そんな彼女もまた、僕たちと同じ種族だ。

 

「少し前まで上はただのシャツ、下はズボン――パンツで、こういうスカートみたいな派手な格好は……その、部屋の中でしか着たことがなくって……」

 

「分かります。僕も……ちょっと事情があって、男みたいな格好しかしたことなかったので」

 

正確には正真正銘の男だったわけで、それから正真正銘の女の子になったわけだし。

 

「分かる……ひとりで着てるだけならちょっと嬉しくてどきどきするだけだけど、それが他人の視線が来た瞬間にぞわぞわして……!」

 

「がんばって出てみたら、今度は人の目――特に男の人と、あと、なぜか一部の女の人の視線が怖くて。男の人の中でも苦手なタイプの人が初対面のはずなのに話しかけてきますし……」

 

「分かる。男は敵、女も敵」

「僕たちの周りは、敵だらけ……」

 

「………………………………」

 

「………………………………」

「………………………………」

 

「……な、仲間だ……!」

「仲間です……!」

「仲間……!」

 

ひしっ。

 

みなみさんと僕にレイさんは、熱い握手を交わした。

 

人見知りの中でも、社会でまともに生きるにはまだまだすぎる仲間として。

 

人見知りとは、その場に自分以外が存在しないのなら発動しない性質だ。

 

――ひとりなら平気だけど、他の人が居るとなると違う。

 

それは男時代の僕もそうで、さらに女の子になっていろいろと複雑になりすぎた環境の今の僕もおんなじで。

 

「ダサくてぱっと見て男みたいだと特に注目もされなくって楽なのに、少しでも着飾ったとたんにみんなからじろじろ見られて……」

 

「単純に目立たないって状態が、どれだけ良かったか……」

 

TSする前とその後で、優花でさえ態度が変わるくらいだからね。

人はしょせん見た目なんだ。

 

「ん、だから私たちみたいなのはジャージで外出する。それか野暮ったい服。それなら少なくともチャラチャラしたナンパには遭遇しない。猫背にしてれば女とも分からない貧乳と小さな尻が、ここで役に立つ」

 

「ああ、女の子ならそういう問題も……こほん、じろじろ見られるのって嫌ですよね……」

 

「脚が震える……」

「筋力でも体力でも負けるし、小さいとそのまま抱き上げられて……」

「お持ち帰り……」

 

「みぃぃぃぃぃ……!」

「ひぃぃぃぃぃ……!」

「みゃああああ……!」

 

僕たちは怖いことリストを確認し合い、震え合った。

 

……そうか、男よりも女の子の方が怖いものが多いんだ。

 

だから僕たちはここに集ったんだ。

 

 

 

 

「良い人たち、だったね……」

「はい、優しかったですね」

 

用事があるらしい2人と実に名残惜しいお別れをした僕たちは、お店の隅っこでほんのりしていた。

 

気がつけばずっと握っていたみなみさんとの手も、さっきまでみたいに冷たくってじとっとはしていない。

 

「……こはねちゃんが居てくれなかったら、話もできなかった」

「僕もです。たぶん如月先生へのおみやげを産んでのこのこ帰るところでした」

 

見上げたみなみさんは、まだ顔色は悪いけども家に来ているときみたいなわずかな笑みを浮かべている。

 

「……また、デート、しよ。2人だけで」

「ですね」

 

デート、もとい他人の視線を克服するチャレンジ。

 

僕と同じような彼女となら、何度も続けていればきっといつかは、そこまで人見知りが激しくなかった大学生の最初くらいまでは――

 

「……あ。このサングラス買うとき、店員の人に、顔……」

 

「!!」

 

「「………………………………」」

 

「ぴぃぃぃぃ……」

「ひぃぃぃぃ……」

 

僕たちには――まだまだ、もっとレベルが低いところからの訓練が必要みたいだった。

 

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