TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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149話 教授と会った2

「……あ、あの。兄に代わり、まずはお礼を……そして両親から、休学中の学費をと……」

 

どうにか立ち直った優花が、本題を切り出す。

 

休学――退学とは違い、大学に籍という名の席を置いた状態。

それでいるためには、普通に通うよりはずっと少ないもののお金は必要なはずだ。

 

――それを教授が負担してくれていた。

 

「うん、要らない☆ 正直スポンサーからは山ほどもらっているから本当に資金には困っていないし、私は独身だからね」

 

「いえ、でも……」

 

「ねぇお姉さん、考えてもみてくれたまえ」

「あの、私は妹で……」

 

高校生にして教師などの大人と会話するのに慣れているはずの優花でも、やっぱりすぐに圧される教授。

 

……改めて考えると、僕、なりゆきとはいえよくもまあこんな人のところで、すみっことはいえ着いて行けていたなぁ……。

 

「教え子を。……理系と文系の狭間の彼を完全な理系へと半ば無理やりに引きずり込み、1年ほどそれまでの勉学と並行して慣れない分野の知識を無理して詰め込み、挙げ句、人間関係で圧迫しすぎて精神障害を引き起こさせて大学を中退するほどの事態を引き起こさせ、さらには引きこもらせた。――私は、とてつもない大罪人だ。こはね君が私のことをSNSや配信でひとことでもはっきりと告白し断罪すれば、私はすべての立場を失ったはずだ。なのに君は、これまでそうしようとはしなかった。――私は、それに安堵していた愚か者だ。今日という日まで、君の家へ赴くことすら恐れていた」

 

教授は僕たちへ向き直り……おもむろにオフィスチェアの座高をがくんと下げ、びくんとしている僕と同じ高さまで目線を落として、言う。

 

「改めて謝罪しよう、こはね君――直羽君。君の本意でない分野の勉学と人間関係を押しつけてしまい、君がそれに悲鳴を上げるのに気づけなかった私の不手際を。――君が望むのなら、私はこのまま辞表を提出してくるよ」

 

すっ……と白衣の胸元から取り出したのは、白い封筒。

 

「若者の進路を、完全に狂わせてしまった。1人の貴重な青年を、そんな目に遭わせてしまった。それは――大人として、あってはならないこと。ゆえに、私はどんな言葉でも受け入れよう」

 

――この人は、口にした言葉に嘘のない人だ。

 

良くも悪くも――本当に良くも悪くも、裏表がない。

なにしろ自分に自信があって、自信がすべての人だ。

 

「……兄さん」

 

「……顔を上げてください教授。まずは、ありがとうございます」

 

しょっちゅう学会に出ているし、雑誌やWeb記事にも出ているから知っている――だって、付き合うのは大変だけど嫌いじゃない人だから、だからずっと追っていたんだ――そんな人が、僕なんかに下げた頭をゆっくりと上げている。

 

「……大学に入ってからの僕は、もともと無理をしていました」

 

僕は、幼女――なんだよね――になった小さな手を眺めながら、続ける。

 

「ダサい男だと思われないために仮面を被って身の丈以上の服装と髪型をして、身の丈以上の友達を選んで、身の丈以上の大学生活を作ろうとしていました。……その結果が、限界まで僕自身を絞り出して中身が空っぽになり、周囲の圧力に潰されて全部を投げ出して、自分の部屋に引きこもるっていう手段だったんです。仮に教授のゼミでこうならなくとも、就職した先のどこかで――何年後か何十年後かに、こうなっていました。むしろ、大学を放り出して部屋に引きこもった、ただそれだけで済んで軽傷だったくらいです。……教授は、そんな僕へも配慮をしてくれていました。感謝こそすれども、恨んだりすることなんてありません。……しいていえば」

 

「強いて言えば……?」

 

ぱちり。

 

彼または彼女と、視線が合う。

 

――これは、男のときにはできなかった、こと。

 

これは、自信がまるでなかったかつての僕には想像もできなかったこと。

――みんなに励まされて、少しずつだけど元気になってきた僕だからこそのこと。

 

「……確かに、こうして容姿の整った容姿になってみたら、教授たちのナルシストぶりが理解できる……ですかね。今になって、ようやくですけど」

 

美少女――客観的にはそう見られるようになるし、毎日の鏡で見つめる僕自身。

それが見目麗しければ……最初からそういう肉体で生まれたなら、教授たちみたいになるのも、納得が行くから。

 

「……ははははは! そうか、君もこちら側へ来たか! ようこそこはね君――数年越しで、私の研究室へ」

 

教授の顔――普段は絶対的な笑みしか浮かべない存在の顔立ちへ、少しだけ何かが籠もっていた。

 

「……ちなみにだね、実写配信はしないのかね? つまりはVTuberではなく配信者として大々的に売り出すとは。どうせ介護班と一部の視聴者には見られているのだろう?」

 

「どこまで知っているんですか?」

「アーカイブはすべて閲覧し、つい昨日だが介護班とやらに認められた。ああ、歓迎されたよ」

 

「うわぁ……」

 

「……あ、本当ですね。週に数十人加入するリストに、教授の名前が。気づきませんでした……みなさんが認証したものを1度は目を通したはずなのに」

 

優花がスクロールした画面に、確かに教授の顔写真と名前と経歴が載っている。

 

……ていうか優花、そんなものを普通に見られるんだ……。

 

「学長とはツーカーの仲であり、また同時に私の専攻分野の知り合いには顔が利く。なかなかに有用な存在であると自負しているよ」

 

その顔写真も、今目の前で自信ありげに胸を張っている姿も――やっぱり僕が最も苦手で、かつ、最も頼りにした大人の1人だった。

 

 

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